プロローグ
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静まり返ったオフィスの一室。 時は深夜。わずかに漏れる月明かりだけを頼りに進む2つの黒い影。 「ココが資料室だ」 影の片方・・・ケンが小さく囁く。 「分かったわ、後は任せて。フォロー、よろしくっ!」 ケンに応えるもう一つの影・・・彼女こそがクライムメモライザー・ミオナ。 クライムメモライザーは通常、先導を担当する連邦警察係官と2人1組で行動する。 ミオナのパートナーはケンが務めていた。 (ちょっとおっちょこちょいなトコロはあるけれど、年が近いから気が楽なのよね〜) コレがミオナのケン評。 無理もない、連邦警察局でもエリートに属する犯罪記録特別捜査局に ケンやミオナほどに若い人材は本当に少ない。実戦や訓練を積んだ、熟練者が 担当することがやはり多いのだ。彼女たちの存在は異例、いや、それほど 図抜けた才能をミオナは秘めており、上層部もソレを評価したため常識では 考えられない抜擢となっていた。年が若い、というコトで犯罪組織への 潜入が容易になる等も勿論考えられたに違いないが、先ずは彼女の能力に 対する確かな評価があったればこそ、だ。 ドアのノブ近くに備えられたカードスリットに、ケンがICカードを通す。 「アンショウバンゴウ ヲ ニュウリョク シテ クダサイ」 コンピューターの合成音が聞こえる。ケンが素早く手元の携帯端末を見ながら テンキーに調べておいた暗証番号を入力する。 ガチャン、と重々しい音とともにドアが開く。 (よしっ!) 2人が顔を見合わせる。 「それじゃ、俺は出口を見張る。ミオナ、大丈夫か?」 「データの入った金庫の位置も分かってるし、後はまかせて」 「もしヤバくなったら、すぐに脱出するんだぞ」 2人が背負っているナップザックには、小型のエスケープ用エアグライダー が積まれている。いざとなったらコレで脱出するためだ。 パワープラグを使用することで一瞬にして翼が広がる頼れる相棒だ。 「分かってるって。それじゃ、また後でね」 ドアからスルッと身体も室内に潜り込ませるミオナ。 彼女を入るのを見届けてから、ケンは出口に向かった。 「コレは・・・」 金庫の中のデータを見ながらミオナは声を失った。 「まさか、こんな大物まで幹部として名を連ねているなんて・・・」 ドラッグから人身売買まで扱う非合法組織の内偵を進めていた連邦警察局は、 決定的な証拠を手に入れるため、クライムメモライザー・ミオナを派遣、 彼女と相棒のケンは組織の資料室に忍び込み物証を・・・裁判で確実に 勝てるだけの証拠を探していた。 「上院議員に国防省のお役人までいるじゃないの・・・」 文字が並べられたテキスト文書を目でサーッと追いながら、ミオナは その文字列全てを記憶していく。常人には考えられない記憶能力だ。 記憶したモノは、彼女の脳波を通して両耳に備えられた記憶定着装置に 記録されていく。この装置の内容が裁判に提出されることになるのだ。 資料全てに目を通したミオナは、書類を元通りに戻していく。 (コレはマスコミが大騒ぎね〜) 後は連邦警察局に戻ってこの記録を元に逮捕状を請求、名簿を 元に一網打尽にすればこの組織は壊滅だ。 「よし、と」 ミオナが逃げようと立ち上がったその時。 パッ、と部屋の明かりが点いた。 「シンニュウシャ ハッケン、シンニュウシャ ハッケン」 「ホカク セヨ、ホカク セヨ」 警邏ロボットが彼女を取り囲む。 「くっ、しまった!」 彼女が腰のポーチから小型のプラスチック爆弾を取り出す。 「ケンは何してるの?」 取り出した指の先ほどのその爆弾を、ロボットに向けて投げつけて床に伏せる。 ズ、ズズーン・・・ ロボット数体が倒れこむ。しかし、後から後から新しいロボットが ドアから入り込んでくる。 「コレじゃあキリがないわ」 ミオナは振り返ると、ガラスに近づく。 「やっぱり防弾ガラスね」 スーッ、とガラスを指先で撫でると、そのままその手をポーチに持っていき 中から赤いパチンコ球ほどの小さなボールをいくつか取り出した。 それを手早く窓枠に沿って並べると、素早く身体を伏せる。 カッ、と赤い閃光が窓を包み、続けて大きな爆発音が響く。 窓ガラスは木っ端微塵に吹き飛んでいた。部屋中に警告音が鳴り響く。 窓際に立った彼女に向かって、ロボットたちが殺到する。 「それじゃさようなら、ロボットさんたち」 背中に手を回し、グライダー用のパワープラグを引き抜くミオナ。 「あ、あれ?」 パワープラグが・・・作動しない。パワー容量が少な過ぎて、グライダーの 翼が広がらないのだ。 「この前の任務の後、パワープラグのチェックはケンにまかせて・・・ あんの野郎〜!」 歯噛みするミオナ。最悪のパターンでケンのうっかりが暴発してしまった。 窓から下を見下ろすミオナ。タワービルの最上階。 いくら鍛えられた身体とはいえ、この高さから飛び降りるコトは出来ない。 「くっ!」 迫るロボットにキック、パンチで応戦する。何体かのロボットが彼女の前に 崩れ落ちる。しかし、数が多すぎた。 「うっ」 ミオナの背中から迫ったロボットの手から首筋に電流が流され、 彼女は失神してしまった。 (う・・・こ、ここは?) 次第に視界がハッキリとしてくる。暗い部屋の中だ。密室。 先ほどまでの状況を思い出し、咄嗟に身構えようとするミオナ。 しかし、手の自由が利かない。動かそうとするとジャリン、と鈍い金属音がする。 (そうだ、私はロボットに捕まったんだ・・・) 目を覚ましたミオナが周囲の様子を窺おうと目を凝らしたその時、 部屋のスピーカーから声が聞こえてきた。 「お目覚めかね、美少女クライムメモライザーくん?」 聞き覚えのある声・・・そうだ、とミオナは気付いた。 「その声は・・・上院議長のマグナマラ?」 「さすがよくお分かりだ」 「あなたの組織の記憶はすべて記録させて頂いたわ。こんなコトしても 意味がないと思うけど?」 勝ち誇ったようにミオナが話す。 「早く私を解放しなさい。そして大人しく法の裁きを受けるのよ!」 「クック、ソレは困ったなぁ・・・私にはまだしなくてはならないことが たんとあるのでねぇ」 「残念ながらタイム・アップ、よ」 「果たしてそうかな・・・キミのその耳にある記憶定着装置の記録がトンで しまったら・・・どうなるかな?」 「何をバカな・・・」 「私は知っているのだよ。クライムメモライザーの記憶定着装置は、 ある種の衝撃に弱いコトを」 「!」 「定着された記録がバックアップされていない場合、 記憶した人物が性的快感で絶頂に達した場合だけ直前に記録した内容が 「何故ソレを・・・」 「クック、国家機密事項だが私の立場を利用すれば知り得ない情報などないのだよ、 美少女クライムメモライザーくん」 「私を離せっ!」懸命に身体を揺するミオナ。しかし、朱色の手錠はビクともしない。 「あの短時間にバックアップしたとは思えない・・・記録、消させてもらうよ。 たっぷりとイッてもらってね、クックック」 「くっ、この変態!」 「何とでも言うが良い。先ずはその服を破らせてもらうか」 拘束されたミオナは成す術もなくマグナマラのオモチャにされてしまう・・・。 |