フェイトスピナー 一章

 目の前に置かれたマグカップに注がれたミルクから、暖かな湯気が立ち上っている。
 おそるおそる両手で触れてみると、暖かな感触が伝わってきた。

「くぅぅん」

 鼻腔をくすぐる甘いホットミルクの香りに、私は空腹を思い出した。

ぴちゃ…

 おいしい…
 じんわりと、暖かさがおなかの奥から広がっていく。
「んく、んく」
 はしたないと思いながらも、無心でそれを飲み下していく。腹が満たされていく事によって、自分が今までどれだけ空腹だったのか、それがわかった。
「ふう…」
 カップの中身を飲み干して、やっと私は一息ついた。
 ひとここちついて、自分が置かれた状況を確認する。
 何の変哲もない、だけど不思議と温かみのあるダイニング。この部屋の主を知っているからかもしれないけれども、そんな感じがする。落ち着いた色合いのテーブルにちょっとしみのついたテーブルクロス。それに使い込まれた食器棚が、生活感をかもし出していた。
(いい…なぁ…)
 それは幸せな生活の匂いだった。
 ここで毎日ヒトの営みが行われている。朝起きて、食事をして、出かけて…そしてまた戻ってくる。
 そんな当たり前の事が行われている雰囲気が、ひどくまぶしく私の胸を締め付ける。
 この感情はきっと憧れというものなんだろう。
 ここには私の手には入らなくて、それでも私が望んでいるものが多すぎた。

「人心地ついたか?」

 秋俊っ。
 ぴくんと肩が震えた。
 秋俊の声。秋俊の優しい声が私にかけられる。その度に胸がきゅっと締め付けられて、涙がこぼれそうになる。

「風呂を沸かしといたぞ」
「きゅぅ〜ん?」
「ほら、入っている間に、マユちゃんに連絡してあげるから」

 そう言って頭を撫でてくれる秋俊の腕に、もう少しですがりつきそうになる。
 秋俊の声はとても優しい。私がまだ魔法戦士だった時のように。秋俊の恋人だったときのように。

「わ、わんっ」

 その優しさに耐え切れず、私は逃げるようにしてバスルームに駆け込んだ。



 マユ様に捨てられて、行き倒れた私を拾ってくれたのは秋俊だった。
 秋俊は私を自分の部屋に入れてくれ、体をタオルで拭き、あたたかい飲み物を飲ませてくれた。そして今度はこうしてお風呂まで用意してくれている。

「きゅぅぅん」

 心にちくりと、痛みが走る。
 秋俊は何も変わっていない。私と出会った頃のまま。何の見返りも求めず、孤独な女の子に手を貸していたあの頃のように、哀れなステイヌを助けてくれた。
 記憶をいじられてはいても、秋俊は秋俊だった。私が好きになった時のままの秋俊だった。

 だけど、私は……

 秋俊に愛してもらった魔法戦士の加賀野アイはもういない。ここにいるのはただのメスイヌのアイだ。
 あさましく肉欲を求めて腰を振る生き物。そして……

くちゅ……

 そんな惨めな思いで濡れてしまうようなマゾ。
 指を自分の割れ目に持っていくと、思った通りにぬるぬると愛液がまとわりつく。気持ちいい。
 こんな所を見つかったら、軽蔑されるよね。でも、指が止まらない。秋俊の失望した顔を思い浮かべて、精神がどんどん昂ぶっていく。

「きゅぅん………あっ」

 やだよ……秋俊。そんな目で見ないで。これは違うの。違うの。私、わたし……

「ひぃんっ」

 ぁぁ……
 止まらないよ…
 こんな姿を見たら、きっと秋俊は私のことをヘンタイだって思う。きっと幻滅する。
 もし、嫌われたら?
 マユ様に捨てられただけでなく、秋俊にまで嫌われたら。

「っ……」

 子宮がぞくんっとうずいた。
 マユ様に捨てられ、秋俊に蔑まれ、見捨てられた惨めな自分の姿を想像するだけで、目の前が真っ白になる。

「ふわぁっ」

 イってしまった。
 秋俊の侮蔑の視線を想像して。



 最低の女だ。
 湯船に浸かりながら、自己嫌悪に陥る。
 体の奥では、まだオナニーの余熱がくすぶっている。それが目に見えぬ烙印となって、私に自分が「メスイヌ」だという現実を突きつける。
 それは、洗っても洗っても取れない汚れだった。だって体ではなく、心にこびりついた汚れだから。
 そして私がどうしようもなく、堕ちてしまった証。汚れてしまった自分を嫌悪しながらも、同じくらい悦びを感じている。
 無理ないよね。マユ様に捨てられるのも。捨てられたばかりなのに、もう別の人を思って一人でさかっているんだもの。きっと、秋俊も呆れるだろうな……



「マユちゃんも、そんな我が侭言わないで」
「だって〜」
 バスルームを出ると、そんな会話が聞こえてきた。
「わん?」
 慌ててダイニングに戻る。
 マユ様……?
 マユ様がいる。マユ様が迎えに来てくれたんだっ。
 心の中でちらっと秋俊に感謝しながら、私はマユ様に駆け寄る。

「わんっ、わんっ」

 マユ様は本当に私を捨てたんじゃなかった。やっぱりそういうプレイだったんだ。
 そうですよね?マユ様。

「えいっ」

ぱしぃっ

 その瞬間。視界がくるっと回った。
 気がつくと、無様に床に転がっている。
 今のは……マユ様の触手に足を払われた?

「マユちゃん」
 非難するような秋俊の声。
「だって、もうこの娘には飽きちゃったんだもん」
 マユ様の突き放したような声。
 どう言う事なの?マユ様は私を迎えに来たんじゃないの?
「駄目だよ。マユちゃん。一度飼った生き物はちゃんと面倒見ないと」
「だって、つまらないんだもん」
 ウソ。私、あんなにマユ様のために尽くしたのに。
「そんなに心配なら、お兄ちゃんが世話すればいいじゃない」
「そんな無責任な」
「じゃっ。私、もう帰るね」
 身を翻して出て行くマユ様。パタンとドアの閉められる音がする。
 捨てられたんだ。今度こそ完全に。
 わずかな希望さえも打ち砕かれた。
「あぅ……」
 寒い。
 背筋が凍りついたよう。
 震えが……止まらない。

「わぅっうわぁぁぁぁぁっっっっっ」
 捨てられた。捨てられた。マユ様に捨てられたんだ。
 気がつくと、秋俊にすがり付いていた。
「おいっおいっ」
「ぁぁっっっ……うあ゛っっっ」
 寒いよ。心が痛いよ。
 胸の奥から湧き上がってくる氷の塊を吐き出すように嗚咽する。
「ううっ…ぇっぇっ」
「よしよし……」
 秋俊?
 なぐさめて………くれるの?
「うぅっ……」
 秋俊は本当に優しいね。私には優しくされる資格なんてないのに。
 あなたを裏切って、一人でメスイヌに堕ちたんだよ。
 なのに……
「くぅぅんんっ」
「落ち着いたか?」
 秋俊の腕の中で私は安らいでしまっている。
 優しさに甘えてしまっている。
 惨めだ。秋俊に比べて私はなんて惨めなんだろう。
「きゅぅんっ」
「なあ」
 だけど、あまりにも心地よい。温かい。
「きゅう?」
 頭を撫でられてるのが気持ちいい。
「帰る所がないのなら、うちの子になるか?」
 え……?
「わ、わんっ?」
 うちの子にって、それって。
「そう。俺が新しいご主人様になってやるよ」
 秋俊のメスイヌになるって事?

 ぞくり……

 先程とは異なる悪寒が走る。
 酷いよ……秋俊。いくら覚えていないからって、一度は恋人だった人のメスイヌになれだなんて。
「きゅぅぅぅ」
 秋俊が私の背中に手を回す。その仕草も、そして私を見る目もメスイヌに対するそれだ。私がまだ戦士だった頃に向けられたものとはまったく違う。
 心の中に大事にとっておいた宝物が汚された。まさにそんな痛みだった。
 秋俊のメスイヌになったら、毎日こんな思いをするの?
 そんなの惨め過ぎる。
 あまりにも惨め過ぎて……

くちゅっ
「ぁっ」
「どうした?」
 だめぇ。こんな時に。
「濡れてるのか」
 秋俊の手が確認するように、私の割れ目にのばされた。

ちゅぷっ

 秋俊の指が、私のいやらしい割れ目をかきまわす。

「ひゃんっ」
 体に力が入らない。秋俊の愛撫に、心も体も蕩けていく……
「ほらっやっぱり濡れてた」
 そう言って秋俊は、私の目の前でその指をひらひらと振った。
「ぁぁっ」
 秋俊の瞳に、すっかり淫乱なメスイヌと化した私が映っている。その恥辱に、間違いなく体が火照っていくのを感じた。
 彼のメスイヌになれば、毎日こんな恥辱と惨めさが味わえる。それはどれほどの快楽になるのだろう。
 気がつくと私は、自分のいやらしい液にまみれた秋俊の指にしゃぶりついていた。
「おっ」
「ふむっ、ぺろっ、ちゅっ……」
 心をこめて丹念に舐める。開いているほうの秋俊の手が、私を撫でてくれた。
「それは、オレのメスイヌになると言う事かな?」
「わんっ」
 なる。なります。私、秋俊のメスイヌになる。
「きゅううんっ」
「ははっ、よしよし」
 淫乱だと思われたかも知れない。軽いと思われているかもしれない。
 マユ様に捨てられたばかりなのに、もう別の人に色目を使っているって……
 でも、
「欲しいのか?」
「くぅぅぅん」
 秋俊がペニスを露出させる。
 久しぶりに見る愛しい人のペニスに、私の頭は占領されてしまった。
「わん?」
 秋俊の前に跪く。
 舐めていい?ねえ、秋俊のペニス、舐めていい?
「くわえたいのか?」
「わんっ」
 秋俊はそれだけで私の気持ちをわかってくれた。
「いいぞ、アイの好きにしろ」
「わぅ」

あむ……

「ぴちゃ……はむ…じゅるっ……」
 美味しい。久しぶりに味わう秋俊のペニスは、固くて熱くて、そして濃厚な男の臭いがした。味覚と嗅覚が容赦なく犯される。それだけでイってしまいそうな快楽に、全身が震える。
 ぽんと、手のひらが頭に乗せられた。
「きゅぅぅぅ?」
 上目遣いに見ると、秋俊が満足気な表情をしていた。
 それが少しだけ誇らしい。
「はむっ……びちゅ……じゅ……ふわぁっ……」
 秋俊のペニスはどんどん大きくなっていく。それを口いっぱいに頬張る。しゃぶる。
「おっ」
 そして先っぽから出てきた汁をすする。
 久しぶりの奉仕する喜びに、くらくらしそうなほど私は酔いしれた。
 気持ちいい?気持ちいいですか、秋俊。
「そろそろ、いいな」
「きゃん」
 秋俊はそう言って、ダイニングの床に私を転がす。
 フローリングの床が冷たい。ああ、これから犯されるんだ。
 抱かれるのではなく、愛されるのでもなく、犯される。
 それはぞっとするような悪寒と、子宮の奥が燃えるような喜びとをもたらす。
「きゅうん」
 はしたないメスイヌらしく、私は床に転がったままお尻だけをいやらしく持ち上げて見せた。
「よしよし。いい子だ」
 ああ……秋俊のペニスがあてがわれる。もう二度と挿入される事は無いと諦めていたのに……
「ぐしょぐしょじゃないか、これなら愛撫する必要はないか」
 そうだよ、秋俊。私は秋俊のメスイヌなんだから、いつだって秋俊を受け入れられる。だから…早くっ…

ずちゅ

「ふぁぁ」
 秋俊のペニスが膣内に侵入した。これ……この感触。
 それはもっとも幸せなセックスの記憶と結びついて、信じられない快楽をもたらしてくれた。
「もうイったのか?
 アイはずいぶんと感じやすいんだな」
「くぅぅん」
 そうなの。私、感じやすいの。メスイヌだから。卑しいメスイヌだから。
 秋俊のペニスを突っ込まれただけでイクの。だから気にしないで。秋俊は好きに動いて。
「じゃあ、これは使わないほうが良いかな?」
「わ……ん?」
 目の前に、秋俊のペニスがあった。

ずちゅ、ぬちゅちゅ

「はぁんっ、はぉっ、わんっっ」
 でも、秋俊のペニスは変わらずに私の膣内を犯している。
「ふぐっ、ひぐぅっっ」
 どう言う事なの、と思う間にぺニスが一本、二本、三本と増えていく……
「じゃあ、手でヤってもらおうか」
 そのうちの2本を握らされて、唐突に理解した。
 これはペニスじゃない。触手だ。

ヌチュッ、ジュプっジュプ

 同時に強い責めが再開された。両手の二本の触手と、あそこのペニスが私から快楽を絞り取っていく。
「はふぅっ、ひぃんっ………くぅぅんっ」
 快楽に思考がどんどん押し流されていく。
「くっ、いいぞ。アイ、いい締め付けだ」
「きゅ……ぅぅん」
 秋俊の触手がいたわるように、私の体を支える。
 そうなんだ秋俊、ゆらぎに、ううん、妖獣になっちゃったんだ。
「おっ」
 はははっ。
 なんだ…
 そうだったんだ。
 秋俊の触手はにゅるにゅるしていて、あたたかくて、触っているだけでじんわりと気持ち良いのが流れ込んでくる。
 まるで皮膚から犯されてるみたい。
 こんなのは初めて。
 これ、くわえたらどうなるのかな……
「あむ」
 粘液でてかっているそれを、自分の口に導く。
 たちまち、秋俊の臭いで口腔が満たされる。
「……!?」
「ふむぅっぴちゃっ」
 いいよ、秋俊。秋俊が堕ちるのなら、私も一緒に行くよ。秋俊と一緒なら、どこまで堕ちても怖くない……

ぬちゃ、ジュプッ、ヌチョ、ヌジョッヌジョッ

 私の思いが秋俊にも通じたんだろう。
 全ての触手が、私を犯し尽くす為に襲い掛かってきた。
 三穴がまず埋め尽くされる。膣こそ一本だけだけど、口には3本、お尻にも2本いっぺんに侵入してくる。みちみちという音がして、お尻に激痛が走った。
 でも、それは一瞬のこと。すぐに気持ちいいだけになる。痛みがなくなったわけじゃない。でも、痛みすらも気持ちいい。
 ごりごりと音を立てて大腸の内部を押し広げる感触に、目の前が真っ白になる。
 きっと、私のお腹は秋俊の触手を詰め込まれて、醜く変形しているだろう。でも、どんな姿になっても、秋俊が欲情するのならば……

 口腔で暴れている触手は、特に濃い粘液を分泌している。
 むせ返るようなその臭気が、気道を通り肺の奥深くに染み込んでくる。きっとこの臭いは取れないだろう。
 これから私が吐く息は、全て秋俊のザーメン臭がするに違いない。
 なんて素敵なんだろう。本当に秋俊専用のメスイヌに改造されるんだ。

 口と膣と尻穴だけじゃない。それにあぶれた触手が私を犯し尽くそうと、全身に群がる。
 胸を絞り上げられ、髪の毛に絡みつかれ、手のひらも、膝裏もフトモモにも秋俊の触手が絡み付いてくる。
 秋俊の触手にまみれるなんて、まるで夢のよう。
 いつの間にか秋俊の触手は、操り人形の糸のように絡み付いて私の体を持ち上げていた。
 足が宙に浮く。これでどんなに気持ちよくなっても、踏ん張る事が出来ない。後は堕ちていくだけ。秋俊と一緒に……
「むぅっ…ふむぅっっっっ」
 秋俊の触手は、力強く、私の全てを支配するかのように快楽を送り込んでくる。ぐちゅぐちゅと音を立てて触手が蠢くたびに、イってしまう。もう何回イカされたのか。
 秋俊の触手もまた、私の体に何度も欲望を吐き出していた。全身がザーメンでまみれ、そして、その上をまた触手が這いまわる。
 まるで肌にザーメンを塗り込むように。
 もしかして、私をザーメン臭くしようとしているの?
 素敵……

ドクッドクッ

 快楽一色に染まった思考の片隅で、熱いのが注がれる音が聞こえた。熱くて、とっても臭い、秋俊のザーメンが。
 全身にくまなく振りかけられる。
 外だけじゃない。
 胃袋にも、腸内にも。
 そして何より、膣内に。子宮が熱くて濃いのを浴びせられて、歓喜に震えるのがわかる。
 体の内も外も、秋俊のザーメンに犯されないところはなかった。
「きゅぅぅんん」
 そんな幸せな感覚と共に、私の意識は急速に闇へと落ちていった。



 目が覚めたら、首輪をはめられていた。
 もちろん、秋俊がどこからか用意してくれたもの。
「くぅぅぅん」
 なったんだ。本当に秋俊のメスイヌに。
 夢じゃない。望外の幸福に涙が出そうになる。
 秋俊と一緒に暮らせるなんて。
「きゅう?」
 そうと決まったら、寝るところを探さなきゃ。
 今日はまだ、犬小屋の用意はないだろうから……
 フローリングは冷たいだろうな。玄関のコンクリートなら、あったかいかな。
 いらない毛布くらいなら、おねだりしても良いだろうか。
「何やってんだ?」
「きゃう?」
 秋俊?どうしたの。もう寝るんじゃないの?
「そんな所にいると、風邪をひくぞ」
 言って、私を手首を掴んでベッドに行く。
「きゅうん」
 もしかして。
「それじゃ」
 秋俊はそのまま、ベッドにもぐりこんで、私を引き寄せる。
「くーん」
 あったかい。秋俊に抱きしめられて、彼のぬくもりが伝わってくる。
「おやすみ」
「わん……」
 電気が消される。


 闇の中。
 秋俊の腕の中で。
 今度こそ本当に信じられないほど、望外の幸福をかみ締めて、ゆっくりと眠りに落ちていく。

 ありがとう、マユ様。
 こんな幸せを感じられるのも、マユ様がメスイヌにして下さったおかげ。

 そして、秋俊。
 ありがとう。こんなメスイヌを飼ってくれて。
 迷惑かもしれない。こんなメスイヌなんかに思われて。
 でも……秋俊のこと好きだよ。

 すごく、すごく、好きだよ……




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