フェイトスピナー プロローグ

 寒い。
 夜半から降り出した雨は、容赦なく私の体から体温を奪って行った。
 体の芯まで凍え、声を出す気力ももう無い。

 もっとも、声を出せたとしても、助けを呼ぶつもりにはなれなかっただろう。
 だって、私は捨てられたのだから。

……ぞくり

 悪寒が背筋を駆け上る。
 そう。私は捨てられたんだ。
 三日もこんな所に放置されて、やっとその事を理解した。

 マユ様……どうして?
 一生懸命おつかえしてきたのに。
 マユ様がイヌにはいらないよね、って言うからヒトの言葉も捨てたのに。

 それなのにマユ様は、私を捨てられた。

「この娘、飽きちゃった」

 マユ様の最後の言葉が思い出され、胸を刺す。
 あれは冗談だと思っていた。いつもの言葉責めだと。
 だから、何の疑問もなくマユ様の用意したダンボールに入ったのに。

 じわじわと、寒気と共に絶望が私を侵食してくる。
 三日間野晒しで、雨に打たれた私は、空腹と寒さとで体力が尽きかけていた。それに加えて、捨てられたと言う認識が、気力をごっそりと削っていた。
 いっそ、このまま死んだほうがいいのかな。
 ご主人様に捨てられたメスイヌは生きていたって仕方が無いもの。

くちゅ

 イヤラシイ…
 そんな自分の惨めな死に様を想像しただけで、私のアソコは濡れてしまう。心の底まで染みこんだマゾの気質が、こんな惨めさも快感に受け取っている。
 本物のヘンタイだね。
 恥知らずな私の体は、そんな自虐にすら反応して火照り始める。
 こんな、イヤラシイメスイヌは、このままのたれ死ぬのが相応しいのかもしれない…

「…ん?」

 あ…
 人の声?
 誰か来たんだ。
 見られちゃう。こんな惨めなところを。寒くて震えて、それなのにサカっているメスイヌの姿を。
 いやだ。こんな所見つかったら、きっとおもちゃにされちゃう。
 それとも、ヘンタイだって、蔑みの眼で見られるのだろうか。
 ああ、それなのに体が熱い。
 辱められる事を想像するだけで、私の体は被虐の快感にふるえる。
 来て欲しくない。けども、来て欲しい…

「こんなところにステイヌか?」

 不安と期待に震える私の耳に、もう一度声が届く。
 その声に聞き覚えがあった。
 まさか。いや、でも間違いが無い。

「おーい。生きているか?」

 秋俊。
 秋俊の声だ。
 かつて愛した、ううん。今でも心の底から愛している人の声。
 そんな大事な人の声を聞き間違えるわけが無い。
「きゅぅん」
 もう、そんな力は無いと思っていたのに。
 喉の奥から鳴き声が出てくる。

「生きているのか」

 ああっ。秋俊が近付いてくる。
 こんな、こんな惨めな姿を秋俊に見られるなんて…

「きゅぅん。きゅぅん」

 ぞくぞくと、快感に背筋がふるえる。
 考えられる限り、もっとも見られたくない相手。
 私のこんな姿を見たら、秋俊はなんて思うのだろう。
 恥知らずな痴女?
 快楽に溺れたセックス中毒者?
 それとも…
 なんて思われても仕方が無い。だって、それは本当の事だもの。
 今の私は、人間以下のメスイヌ。苛められるのが大好きなヘンタイなんだ。

くちゅっ、くちゅっ、

 ああ、いやらしい音を立ててるよ。
 私のあそこ、秋俊に見られることを想像しただけで、こんなに濡れている……
 秋俊ぃっ。秋俊っ。

「っ……!!」

 秋俊の驚いた声が聞こえる。
 見られたんだ。
 本当に見られちゃったんだ。
 こんな恥かしいところを。きっと…軽蔑された。
 しばらくぶりに見る秋俊の顔は、呆れたような表情を浮かべていた。

「きゅぅぅぅんっ」

ぷしゅう

 股間で何かが漏れる音が聞こえる。
 秋俊の眼差しに、甘美な羞恥と悔悟を感じながら、私はマゾヒスティックな快感に意識を沈ませていった…




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