「何しやがるっ!」
太腿の上にまたがられて寝返りが打てず、首だけひねってシェンを睨みつける。
「おまえに言い訳を与えてやろうというんだ」
「言い訳って……なんだよ?」
「おまえ自身に対する言い訳だ」
言いながら枕カバーを外したシェンは、それでユアンに猿ぐつわをかませた。
「こうやって拘束されてしまえばされるままになっているしかないからな。恥ずかしい声もあげずに済む」
太腿にかかっていた重みが退いたと思ったら、下着ごとズボンを剥ぎ取られる。一応抵抗は試みたが、多少シェンを手間取らせただけ。ほっそりした見かけによらずシェンの力は強い。ユアン一人くらい片手で軽々と持ちあげてしまう。ひょっとしたらそういう所にも魔法が働いているのかもしれない。シェンの魔法は舌を噛みそうなややこしくて長ったらしい呪文や大袈裟な身振りとは無縁なようだから。
「あまり暴れるな。酷くしたくなるだろう?」
「ううう?」
「フフッ……痛みの向こうにある快楽を知りたくはないか? めくるめく快感……狂気の縁に漂う淫楽を?」
片手でユアンの動きを封じながら尻をなでるシェンの眼が遠い。黒耀と話している時とは違う。口元は酷薄そうに歪んでいるのに、とろりと熱を帯びた淫靡な表情。ゾッとする程に淫猥。
「うううっ! うーっ、ううーっ……」
今まで感じた事のない種類の恐怖がユアンに取り憑いた。怖くてままならない体をのたうたせ、言葉にする事を許されない叫びをあげ続ける。
「そう怯えなくてもいい」
またシェンの雰囲気が変わった。やさしく穏やかにさえ感じられるように。
なだめるように背中をさすられてユアンが少し落ち着きを取り戻すとぐいっと両脚を開かれて、そのまま潰れたカエルのような恰好にさせられた。腹の下にふたつも枕をあてがわれて尻が高くあがる。
「うっ……!」
ぺろりと舐めあげられた双丘の谷間。尻たぶを左右に割り開かれて空気に触れた肌からスーッと体温が逃げる。
「おとなしくしていればそれ程ひどい事はしない」
(それ程って……)
おとなしくしていても酷い目にあうのか? おとなしくしなければどうなるのか? れろれろと蕾の周りを舐められながら、ユアンの不安はいや増した。なのに、そんな心境でさえ体が昂ってくるのを感じて泣きたくなる。
「んっふっ!」
たっぷりの唾液といっしょに舌が侵入してきた。違和感といっしょに気持ち良さがユアンを犯す。舌で解され、指を挿れられ、体の内部
知らぬ間に腰が揺れていた。腹につきそうなほど勃ちあがっているのに触れて貰えぬ昂りを枕にこすりつけようとして。
「行儀が悪いな」
シェンはユアンの ―― 無意識の ―― 意図を察して、その欲望の証をきつく握りしめる。
痛みが、ユアンの爪先までを駆けた。
「そんなにここをいじって欲しかったのか?」
やわやわと蠢く指とあたたかい掌に一瞬で縮こまってしまった欲を扱かれて、抜けきらない痛みの中に心地良い疼きが拡がっていく。はしたないほど簡単に屹立し蜜をこぼし始めたユアンに指をからめたまま、蕾から指を抜き出したシェンは自身の長くしなやかな黒髪を一本抜いた。ユアンの根元に何重にも髪を巻き付けると口の中で何かを呟きながら中指と人差し指で黒い帯をなぞる。
輝いた黒い光はシェンの指から出たものか、この世の物ならざる物質に変換された髪が発したのか。
光が消えた時、ユアンのものには髪ではなく黒い幅広のリングがはまっていた。見た目の質感は金属と石の中間。熱さと冷たさを合わせ持った不可思議な感触がユアンの体の中心から這いあがってくる。気が遠くなるような、おぞましさと快感が。
「うっ、あっ……!」
巧みな手に翻弄されながら、生物のように縮んだリングにキュッと根元を締めあげられてユアンが身を震わせた。
「嫌だと言いながら男に抱かれてイクような恥ずかしい真似はしたくないだろう?」
(だからって……)
こんな事をされるいわれはない。けれどどんなに力を入れて動かしても縛られた腕は自由にならず、痛みを覚えながらも愛撫に応えて体はどんどん追いつめられていく。
しばらく胸の飾りをいじっていた指が離れていったと思ったら、三本まとめてぐっと蕾に突き入れられた。同時に鈴口を爪で抉
「痛いか?」
尋ねられて、涙目で苦痛にうめきながら頷く。
「だが、それだけじゃないだろう? おまえは感じている。棹を勃てて、いやらしい汁をこぼして……」
蕾の中で曲げられた指先が、既に熟知されているユアンの悦
「あうっ……ううう……んあっ……」
「後ろに咥えた指を奥に誘うように淫らに腰を振って……口を自由にしてやったらどんな声が響くだろうな? 今あげているのは痛いだけの声じゃないだろう?」
言葉がユアンを犯してゆく。普段の無口さが嘘のように、時折ユアンの名を囁く程度だったこれまでの情事が夢のように、シェンは言葉を紡いだ。
「おまえは感じてるんだ、ユアン。痛みを与えられて。自分がどんなに恥ずかしい恰好をしているかさえ忘れる程」
恥ずかしい恰好 ―― 。次々と襲ってくる驚きと恐怖と何やかやで考えもしていなかった。服を着たままのシェンの前で、全裸で尻を高くあげて這いつくばっている自分がどれほど惨めで恥ずかしいか。
「ううう……!」
「違わないさ」
ユアンのうめきの意味がわかったかのようにシェンが応える。僅かに曲げられたままの指が内部の肉を巻き込むようにして入り口近くまでズルリと抜かれた。快楽に染められた体がガクガクと震えて、逃げていく指にすがるように襞がまとわりつく。
「ほら、俺の指を放すまいとこんなに締め付けて」
変わらず欲を苛まれながらも、少し奥へと戻された指をぐにぐに曲げ伸ばしされてユアンはもうどうにかなってしまいそうだった。根元を締め付けているリングまでもが、痛みだけでなく快感をも与えるように熱く、冷たく、蠕動しているのだ。
最後に蕾を開かせるようにグリッと指を回して、ユアンの体からシェンが離れる。
「うあっ……」
ユアンの体がビクンと跳ねた。
「嫌? 俺に触って貰えなくなって寂しいのか? もっと苛めて欲しいんだろう?」
押さえつける力から解放されてゴロリと仰向けになったユアンが激しく左右に首を振る。
「ううう! うんあうう、うっうあう!」
非難するようにシェンを睨みつける琥珀の瞳から、本人の気づかぬうちにポロポロとこぼれる大粒の涙。
だがシェンはすかさずユアンの両方の膝裏をつかむと膝がユアンの肩に着く程に体を折り曲げてしまい、腰の下に枕を突っ込んだ。柔軟な体は不自然なその体勢を苦もなく受け入れ、シェンの指が蕾の周囲をなぞる。
「いやらしいな、後ろの口が物欲しそうにヒクヒクしているぞ。欲しいんだろう? ここに。おまえを貫くモノが」
シェンに貫かれるイメージがユアンの思考を犯す。シェンの科白にそんな事はないと心で叫び返しながらも、この数日に何度も打ち込まれた楔の感触を思い出してどういう訳か興奮してしまう。自分を埋めてくれる質量と熱の不在を意識してしまう。
五本の指がユアンの入り口をかすめ、軽快なリズムを刻んで肌を叩く。
もどかしいような刺激にユアンの尻が揺れ、早く花を咲かせたいとでもいうように蕾が疼く。
「ここを突いて……」
まるで実際に楔を打ち込まれたかのように短く悲鳴をあげたユアンの頭がのけ反った。
「抉って……」
架空の男根を締めあげようと蕾がすぼまる。
「掻き回して欲しいんだろう?」
円を描くようにゆらめく腰。
固く目を閉じて嫌々をするように首を振り続けるユアンはすっかりシェンの言葉に囚われてしまっていた。
「中にも前にも触っていないのに言葉だけで感じてるのか? 淫乱だな」
ユアンの羞恥心が違うと叫ぶけれど、恥ずかしいと思えば思うほど余計に感じてしまって張りつめた物からだらだらと蜜が溢れる。
「恥ずかしい思いをしなくていいように縛めてやっているのに、こんなに涎を垂らして……本当にはしたない奴だ」
辱める言葉とは裏腹にシェンはひどくやさしい手つきでユアンの屹立をなでさすり、最も敏感な部分に唇でそっと触れる。
手で睾丸を揉み込まれ、踊るように閃く舌に蜜を舐め取られて、段々と間隔が狭まってきたユアンのうめき声の調子があがっていく。
<イかせて……>シェンにはユアンがそう訴えているのがわかっていた。実際に口にするとすれば<さっさとこの変な物を外せ!>といったところだろうが。
リングのせいで堰き止められた欲望が出口を求めて沸き立ち、ユアンを苦しめている。快感を感じれば感じるほど苦痛が増す。
「言いたい事があるなら口を自由にしてやるぞ?」
追いつめられていたユアンはシェンの申し出に即座に頷きかけた。が、続けられた科白はユアンを打ちのめす。
「どうする、俺にお願いしてみるか? イかせてください、と。貴方に抱かれたくないなんて嘘です。どうか貴方のを挿れて、淫乱なオレを満足させてください、と」
(そんなコト……!)
言える訳がない。激しく全身を震わせ、苦しげに息を喘がせながらもきっぱりと首を横に振る。
リングとシェンによって休まず与えられる愛撫=責め、加えて媚薬の残留効果。普通ならプライドだの意地だのといったものはとっくに放棄しているはずだが、ユアンは強情だった。
『こうでなくては面白くない』
黒耀の思惟にシェンも思考で同意を示す。
「言えないか? もう何度も俺を受け入れてイっているんだ。今更恥ずかしがる事もないだろうに」
シェンは蕾に両手の指を二本ずつ挿し入れながら意地悪く笑った。僅かばかりの抵抗の後、熱い襞が御馳走を頬ばるようにうねり、シェンの指にまといつく。四角に押し広げた蕾に唇を寄せ、口内に貯めていた唾液をチュッと送り込んでから指を抜いた。
『もう終わらせるつもりか?』
『いきなり無理をさせて体調を崩されると面倒だからな』
『相変わらず微温
『……それが俺だ。そうだろう?』
ズボンの前を寛げたシェンに向かって鼻先で笑うような思惟が投げられる。下着をずらして取り出された雄は既に充分役立つ状態だった。それでも少し自分で扱いて唾液といっしょに先走りを全体に塗り込める。シェン自身の先端を蕾にあてがい、ユアンの太腿をつかんで一気に貫いた。
いきなり奥まで受け入れさせられた体積に圧倒されてユアンが悲鳴をあげる。下半身で疼いているモノと同じように出口をふさがれて一部が漏れるだけの悲鳴を。
「あ……うっ、うっ……ううう」
今ユアンが自由に出す事を許されているのは涙だけ。いくらユアンがそんなものは出したくないと思っていても、きらめく雫は止め処なく流れ落ちる。
その涙を幾筋か舌ですくい取って、シェンはユアンの口を解放した。
「な……んで?」
「おまえの声が聞きたくなった」
「オレは……あんなコト……」
「無理に言う必要はない。ただ……」
シェンはゆっくりと腰を使い始めた。限界まで張りつめたユアンの物が腹の間で擦れるように。内部の快感のツボを確実に刺激するように。
「ふ、あっ、んっ……あんっ……」
堪らずにユアンが甘い声をあげ始める。
「お願いできないならずっとこのままだぞ?」
「ひっ、やだっ! あっ……んんっ、バカっ! ……そ、んな……あっ、ああっ……」
「そんないやらしい声で啼きながらじゃ、悪態も可愛いだけだ。だが、そうだな。<イかせてください>今回はひと言そう言えば許してやる。簡単だろう?」
ユアンに突き入れながら余裕綽々
「んあっ、にが……バカやろ……てめっ……に、ゆるっ……コトなん……ない、はっ、はあァっ」
「まだそんな事を言う余裕があるのか? だったらもっと激しくしても大丈夫だな?」
「えっ! やめっ……あああ ―― っ!」
一番感じる一点に集中してガンガン腰を打ちつけられ、ユアンの意識がスパークした。そんな事をすればリングに締め付けられた部分が辛くなるだけだという事も忘れてあられもなく腰を振り、自分からシェンに脚を絡めてなめらかな肌に自身を擦りつける。きつく縛められていてさえ漏れ続ける蜜で肌がぬめり、激しく首を振って涙と涎を振りこぼしながら嬌声とも嗚咽ともつかない声をあげ続ける。
「言うんだ、ユアン。イかせて、それだけでいい」
―― 後略 ――