【2.「凛、少しよろしいですか?」】




「凛、少しよろしいですか?」
 ノックをする音とともにセイバーが部屋に入ってきた。
 意識を取り戻したらしい。

「セイバー、目が覚めたのね」
「もうじき、私は消えるでしょう」
「セイバー……貴女……」
「ですが、これでいいのです。
 短い間でしたが、平和な日常というもの知ることが出来て幸せでした」
 セイバーは悟ったように、静かにそう告げた。

「だめよ、セイバー。
 わたしの側にいてちょうだい!」
 でも、それはイヤ。
 そんなことは認めたくない。

「凛への負荷も相当あったと思います。
 私は日に日に凛がやつれていくのを見ていて辛かった」
 セイバーは消えゆく自分のことより、わたしのことを考えてくれていた。
 いつもそうだった。
 セイバーは自分のことより、他人のことばかり気にかけてる。

「わたしにはセイバーが必要なの。
 そのためには、なんでもするつもりよ」
「そんな……もう、これ以上無理はしないでください。
 私は十分幸せでした。
 これからは、凛は自分のために生きて下さい」
「ええ、だからわたしは、自分のためにセイバーを現界させるの。
 少し前だったら、わたしはなんでも一人でやっていけるって思っていた。
 でも、士郎やセイバーに出会って、変わっていったのよ。
 士郎がいなくなって、セイバーまでいなくなるなんて、わたしにはもう耐えられない」

「凛………」
「セイバーはわたしのサーヴァントなんだから、反論なんて聞かないわよ」
「ですが、いったいどうするというのです?
 凛の魔力を限界まで使っても維持出来ない状況です。
 なにか手段があるというのですか?」
「ついさっき見つけたの、これよセイバー」
「これは?」
 机の上にある小箱をセイバーに見せる。

「………これは、ピアスですか?」
 セイバーに小箱を手渡す。
 中からそれを取り出すと、3つのリングが金色に煌めく。
 それはねじで挟むのではなく、ニードルを通して装着するもの。

「なにか強い呪力が働いてますね、凛の家に伝わる物ですか?」
 セイバーはそれを魅入られたように、じっくりとしばらく眺めている。

「そう、これを付ければ、魔力の回復量を上げることが出来るわ」
「そんなものがあったのですか、それを付ければ問題は解決するのですね」
「ええそうよ、だから作業が終わるまで、セイバーはゆっくり休んでいてね」
「では、私もお手伝いします。
 ピアスを一人で付けるのは難しいでしょう」
「いや、いいから、大丈夫」
 セイバーの手で、あんな所にピアスを付けさせるなんてとんでもない。
 早々に引き取ってもらわないと。

「こういう経験はありませんが、これでも血には慣れていますから、取り乱したりなどしません」
「いや、そういうことじゃなくてね……」
「耳にピアスを付けるだけでしょう?
 他の人に付けてもらった方がいいに決まっています」
 このままだと、セイバーに押し切られてしまう。
 なにか考えるんだ、わたし。

「そ、それはね……付けるのは魔術師でないと、効果をあらわさないから………」
「…………」
 頼むから信じて。

「………………」
 セイバーはこちらをジッと伺っている。
 思わず視線が泳いでしまう。

「信じてくれない?」
「無理です、なにか隠していますね、凛?」
「うっ……」
「図星ですね、本当のことを話してください」
 やはり、苦しかったか。
 あっさり見破られてしまった。

「仕方ないなぁ、話すわよ」
 諦めて本当のことを話すことにした。

「付けるのは………耳じゃないの……」
「えっ、ではどこにするのです?」
「だから……その、わたしの………性器に……なの……」
「……なんですって?」
「……わたしの……乳首とアソコにピアシングするの……」
 自分の顔がみるみる赤くなっていくのが判る。

「なっ、なんでそんな所に、付けるんですか、凛!?
 いったいなんの冗談なのです?」
 それを聞いていたセイバーの顔も赤くなっていった。

「冗談じゃないわよ、これでも大まじめよ。
 これを性器つけることで、魔力の回復量をアップさせることが出来るの。
 性器でなければならない訳は、性器が魔力の吸収に最も適しているからよ。
 他の場所では効果がないの」
「なるほど、判りました。
 ですが、凛の躰をそんな風に傷つけることには反対です。
 凛は女性なのですから、自分の躰をもっと大切にするべきです。
 ここまでのことをする必要はありません。
 他の方法を模索すべきです」
 セイバーらしい予想通りの反応だった。

「残念ながら、今出来そうな方法はこれだけなのよ」
「誰かから援助してもらうわけにはいかないのですか、凛?」
「個人的に頼りになる魔術師の知り合いは、残念ながらいないし魔術協会には頼めない。
 英霊をサーヴァントにしたままなんてことが知れたら、危険視して即封印指定されかねないわよ」
 実のところセイバーはこの世界に存在するだけで、危ない橋を渡っているのだ。
 目立つことは出来るだけ避けねばならない。

「……そうなのですか……」
「他の方法というと、無理矢理一般人から必要量を摂取するには、数百人もの犠牲が必要になるわ。
 命をとらないようにするならば、その数は数十倍は必要ね」
「そんなことは出来かねます!」
 わたしもセイバーに、そんなことはさせたくはない。

「でしょうね、セイバーもしたくはないだろうし、そんな派手なことをすれば、魔術協会にすぐにバレてしまうわ」
「ですが凛……」
「魔術刻印を刻む苦しみに比べたら、対したこと無いわよ。
 わたしは魔術師になると決めた時から、女であることより魔術師であることを選んだ。
 この躰は魔術を使うための道具だと思っているから何でもないわよ。
 それよりセイバーが大事。
 士郎も居なくなって、セイバーまで失ってしまうなんて耐えられないの。
 だから、この躰が傷つくぐらいなんでもない」
 そう、わたしはただの女ではない、魔術師なのだ。
 だから一般人とは価値観が違う。

「……………」
「セイバーだって、聖剣の加護で成長を止めてしまったわよね。
 それはなぜ?」
「それは………」
「国のために自分の躰を捧げたセイバーと同じことよ。
 しかも英霊になって聖杯戦争で戦った。
 これもこれも、国のためよね。
 わたしにはそこまでの覚悟はないけど、同じことよ」
「後で後悔しますよ、凛」
「後で後悔することより、今思いつく最善のことをするだけだわ。
 わたしはセイバーが大事、セイバーが消えてしまうことを考えたら、こんなことは蚊に刺されるぐらいのものよ」
 わたしは胸を張って答えた。

「ありがとうございます。
 凛の思い、心得えました。
 私はこの世界に来て本当に良かった」
「そう、納得してくれて良かったわ」
 セイバーも納得してくれたようで良かった。

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