【1.聖杯を巡る戦いは終わった。】



 聖杯を巡る戦いは終わった。
 アーチャーは去り、セイバーとわたしは、かろうじてこの戦いを生き残ることが出来た。
 でも、士郎はギルガメッシュとの戦いから生還することはなかった。
 わたしと繋がっていた魔力の繋がりが不意に消えさったのだ。
 それは、正に消失と呼べるもので跡形もなくなってしまっていた。
 何があったのか、知るすべはない。
 戦いの跡はまさに戦場と呼べるもので、ただの二人だけが争ったものとは到底思えない激しいものだった。

 聖杯戦争の勝者となったはずのセイバーとわたし達には、優越感も達成感も無かった。
 セイバーは聖杯戦争が終わったにも関わらず、思うところがあるのかわたしとの契約を続行することを望んだ。

 慎二はあの後入院し、桜がずっと看病していた。
 慎二が何時全快出来るかは、全く判らない。
 そして桜は士郎の家にはもう行っていないようだった。
 それはそうだ、目的がない。
 食事を作って一緒に食べて欲しい相手は、もういないのだ。
 桜とは士郎の失踪についてまだ話をしていない。
 士郎という繋がり失ってしまってからは、顔を合わせてもいなかった。
 正直、問いつめられたら、桜に対してはどんな言葉をかけていいのか未だに思いつかない。

 藤村先生は帰らぬ主の留守を守っているようだ。
 身近にいた者が突然消えてしまったというのに、努めて平静を保っているように見えるのは流石教師だと思う。

 セイバーは現界を果たしたが、食事は細く眠っている時間が長くなってきている。
 やはりわたし一人の魔力では、セイバーを維持するのは辛い。
 そしてわたしはというと、魔力のほとんどをセイバーにとられて魔術の行使はおろか、いつも躰のだるさがあって、日常生活でも支障が出はじめてきていた。

 そんなある日のこと、セイバーがとうとう倒れてしまった。
 原因は明らかだ。
 サーヴァントを現界せしめているのは、マスターから得られる魔力だ。
 それが聖杯というサポート無しでは無理が出てくるということは、最初から解っているつもりだった。

 聖杯戦争が終わってすぐに、わたしは大量の魔力を得る方法を探し始めていた。
 だが、それは容易な話ではなかった。
 そもそも魔術師の魔力量というものは、生まれで殆ど決定されてしまうもので回復量も同様である。
 聖杯のように地脈から汲み上げるような、儀式魔術を使うには時間的にも技術的にも余裕が無かった。
 むろんセイバーの現界のタイムリミットギリギリまで、諦めるつもりなど無かった。

 代々の遠坂の者が、研究半ばで何らかの理由で放置したもの。
 危なくて厳重に封印されたもの。
 役に立たないため、仕舞い込まれたもの。
 それらを丹念に一つ一つ調べるという、気が遠くなる作業を続けた。
 最初、これの使用法がなかなか判らず、放棄しかけていた。
 なにしろ殴り書きされた簡単な研究メモだけが残っていて、文脈はメチャクチャで後で本人が読んでも判ったのか疑問なほどだった。
 だが、様々な推論を重ね合わせて、ようやくこれが目的のモノであるという結論が出来た。

 使い物になるかどうかも定かではないけど、賭けに出ることにした。
 そこには、小さな宝石箱にピアスと紅い宝石が3つずつ入っていた。
 ピアスはCの形になっていて、欠けているその部分に宝石をはめ込み、輪をとじ合わせれば固定出来るみたいだ。
 純金製なのか輪を拡げるのは楽に出来た。
 ピアスにはリングの部分に呪文が刻印されている。
 これが発動のキーワードのようだった。

 問題はこれを付ける位置だった。
 研究メモによると呪具を付ける場所には、魔力を高めるのに特定のポイントというものがあり、それは要するに性器に付けなければならないのだ。
 なぜ性器なのかというと、性器には魔力を集積させやすい特性があるからだった。
 『性』は『精』となり、それが魔力になるのだそうだ。

 昔から、性と魔術には密接な関係があった。
 だから、性器に呪具を付けることで、魔術的な能力を高めるというのは理屈では理解は出来た。
 でも、性器にニードルで孔を開けピアスを通すことは、感情的にはそう簡単に覚悟が出来るものではなかった。

 セイバーとわたしは出会ってから、まだ日も浅く生きていた時代も立場もまるで違う。
 そもそも自然の摂理に逆らい、現界させていることに躊躇いもある。
 そんなこと考え、貴重な時間を浪費してゆく。
 やはり、ウダウダ悩むのは性に合わない。
 結論はとうに出ていたはずだった。
 そう決めたのなら、あとは行動するだけ。
 そのための準備に急ぎ取りかかることにした。

 孔開け用のニードルを用意する。
 左右の乳首に一つずつ、クリトリスに一つ。
 1回ごとに使い捨てにするので3本用意した。
 ガーゼを用意し、消毒薬と麻酔薬を染みこませる。

次へ

メニュー