第一話










ギリ…ギリ……



ん…ぐっ……ぐぅ…ぅ……!


「……苦しいですか、美知さん?」

「いっ…いいえ……
まだ…大丈夫……っ…!」

「そうですか…。
でも、本当に苦しくなったら素直にそう言って下さい。
儀式の途中で気絶でもされたら一大事ですからね」

「ええ……わかってる…」

「では、続けますよ」

「ええ……」



ギリ…ギリ……



ぶぐぅ…ぅっ……!







「…なんだ、凛子。
またそのビデオを観てるのか?
もう夜も遅い。さっさと宿題を済ませて寝ろって言っただろう」

「あっ…祐二様。
宿題ならもうとっくに終えました」

「なら、もう寝ろ。
明日も学校があるんだろう?」

「はい……でも、あと少しだけ…。
あと三分で、お母さんの乳房が捻じ切られるシーンなんです」

「…お前、そのビデオ
何百回観れば気が済むんだよ」

「えっと……確かこれで850回目ですけど
たぶん永遠に飽きないと思います」

「……とにかく、夜ふかしは程々にしておけよ。
今年の贄儀式もいよいよ来月に迫っている。
その主役たる乳贄のお前がこの時期に体調を崩しでもしたら
俺の責任問題にもなるんだからな」

「はい。心得ています」

「………」

「あっ……ほら、祐二様。
乳房がもげ落ちるシーンですよ」



ブチンッ!
ブチッ…ブチッ……!



ギャーッ!!



「…お母さん…綺麗……」







ビデオの中で乳房を捻じ切られた女性の名は美知。
そしてこの映像は、十五年前に
美知が乳贄として贄儀式に臨んだ姿を収めたものである。

贄儀式を終えた美知はこの後、四肢を切断されて肉達磨となり、
お国のために戦う軍人の慰安肉便器として戦地へ送り出されたのだという。


それから十五年。
贄儀式はこの村に伝わる伝統的な行事で
習慣では五年に一度執り行なわれることになっているのだが、
お国が戦争をしている最中に村行事を行なうなど不謹慎であるという世間の風潮もあり
ここ十数年間、贄儀式の開催は自粛されてきた。

だがその戦争も三年前に終結し、村民の暮らしもどうにか安定してきた今年こそは
伝統ある贄儀式をなんとか開催したいという村の長老会の意向もあって、
目出度く十五年ぶりに儀式が再開されることになったのだった。


贄儀式とは、
村でいちばん胸の豊かな娘を選定し、その乳房を海の神に捧げるという
この漁師村に古くから伝わる伝統行事である。

どのような按排で乳房を神に捧げるのかは
その年の奉り主の裁量に任されることになっている。
その奉り主には、この一年間に
村でいちばん多くの魚を獲った者がなることが習わしとされていて、
光栄にも、今年はその任を俺が務めることになった。


奉り主と、その年に自分の乳房を神に捧げる役割を担う乳贄は共に十二月一日に選定され、
ふたりはその日から贄儀式が開催される二月二十日までの約三ヶ月間を
ひとつ屋根の下で共に暮らさなければならないと定められている。

その取り決めに従って、現在俺は
今年度の乳贄である凛子とふたりきりの生活を送っている。


この凛子は、十五年前に乳贄となった美知の一人娘である。
さすが、歴代最大の乳房を有する乳贄と謳われた美知の血を引いているだけあって、
凛子の乳房もまた
戦時下の貧しい食糧事情の中を育ったとは思えないほど巨大に成長していた。

奉り主としてこれだけの乳房を預かるわけだから、
俺の責任は誠に重大である。




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