第1話 望んで改造された少女






ぐるる…ぎゅるるる……


「ああ、くそっ…腹減ったな…」


でも、今月はもう余計に使える金なんか無いしなぁ…
…って、まてよ。そういえば今日は土曜日。
河川敷で炊き出しがある日だったか!

でもなぁ、ボランティアの連中に
今週もまた来たのかって言われるのもシャクだしなぁ。


ぐるる…ぎゅるるる……


「ああ、くそっ……」


駄目だ。
腹が減りすぎて、目がまわってぶっ倒れそうだ。
…仕方ない、背に腹は替えられない。

ここは恥を忍んで、河川敷に行くしかなさそうだ。


この町では週に一度、地元のボランティアが中心となって
ホームレスや失業者を対象にした炊き出しが行なわれている。

俺は別にホームレスや失業者というわけではないが、
現実問題として食うに困っているわけで…
とにかく、これで三週連続で炊き出しの世話になるわけだ。

我ながら情けない。


こんな俺もかつては、世間に名の知れた大病院で
勤務医をしていたこともあったのだが、
ある事件がきっかけでその病院を追われることになった後は
そのときに被った汚名のせいで医師としての再就職先も見つからず、
今ではこのしなびた海辺の町で、港の倉庫の一角を借りて
モグリの診療所を営んでいるという落ちぶれようなのであった。

そんな診療所に来る客といえば、
正規の病院に通えないようなホームレスや外国人不法滞在者ばかり。
むろん、彼らから報酬を取ることなどできはしない。
皆、俺以上に貧しい奴ばかりなのだから。

炊き出しに行けば、俺がいつも偉そうに講釈をたれているあいつらとも
顔をあわせることになるから、本当は行きたくないんだがな…







「はいはい、一列に並んでくださ〜い!
そこ、列からはみ出さないで!」


うわ…すごい行列だな、こりゃ。
俺の分、残ってるかな…


「はい、は〜い!すいませ〜ん!
今日の炊き出しは、この方までで終了となりま〜す!
ここより後ろの皆さんは申し訳ありませんけど…」


「…マジで?」

「ごめんなさいね」

「………」


結局今日の炊き出しは、俺の前方二十人くらいのところで終了。
俺は、昼飯にありつくことができなかったのであった。







ぐるる…ぎゅるる……


ああ、くそっ…昼飯が食えないとなったら
ますます腹が減ってきた気がするな…くそっ。


「あれ〜、先生。
また貰えなかったの?」

「ん…なんだ、お前か」


俺に声をかけてきたこの少女。
名前は……前に聞いたことがあるような気もするが…
忘れたな。

みなしごの彼女は、近所の孤児院で暮らしているらしいのだが、
なんでも、施設の財政状況が思わしくないということで
先月からメシが朝夕の一日二度に減らされてしまったらしい。

そんなわけで、毎週土曜日には
孤児院の連中も炊き出しの飯を求めて
こうして河川敷にやって来ているのだという。


「あぁっ!お前、ありつけたのか!?
くそっ、いいな…」

「えへへ〜!羨ましいでしょ〜?

でも、先生もさ、
炊き出しの時間が十一時からって知ってるんだから
もうちょっと早く来ればいいのに」

「うるさい。
俺だっていろいろと忙しいんだよ」

「ふぅん…ウソ。暇なくせに〜」

「………」

「まあ、とりあえずさ。
あっちのベンチが空いてるから行こうよ?」

「バカ、
俺はもらえなかったんだよ。
…もう帰る」

「まあまあ、そうスネないで。
あたしの半分わけてあげるから」

「え…いいのか?
お前だって、腹空いてんだろ?」

「いつも、うちの馬鹿ガキどもの
遊び相手をしてくれてるお礼だよ〜」



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