「ようこそ戦士ライディ。私のアジトは気に入って頂けたかな?」
「きゃあっ!?」
壁しかないはずの背後から声と共に伸びてきた冷たくて硬い手に腰の両側をガッチリと掴まれた私は思わず悲鳴をあげてしまった。
「私の名は魔導師ブロア。貴女をここへ招待する際の不作法をお詫びするよ」
男は悪びれる様子もなく、というより事務的な口調で自己紹介してきた。
どうやって壁の中から現れたのかは不明だけども、とりあえずこの男が人さらいの親玉って訳ね。男の正体が分かったことで少しは気を取り直す事が出来た。
「あなたの招待を受けた覚えはないわ。ここから早く出して、私は旅を続けなくちゃならないの!」「じょっ、冗談じゃないわ!!」
もう少し接近したらキスされるような至近距離で『お前はオレの物だ宣言』される筋合いなんかない。「使命って、女の子を連れ去ることが、かしら?」
「人さらいは実益を兼ねたお遊びだ。本来の目的は『破壊活動』だよ可愛いライディ。人為的に誘導したシャフローの軍団を用いてね」「人為的? 襲撃事件自体が、あなたの仕業ってこと!?」
ブロアの口角が横に伸び、また歯を剥く。多分これが、この男にとっての笑顔なのだと気づいた。
原因不明といわれたシャフローの凶暴化と目の前にいる怪人の取り合わせに一定の説得力がある事は認めざるを得ない。