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 2・地面に落ちている鎖を拾い上げて武器にする

 緩慢なピストンの動作に不審を感じた私は攻撃を自重した。
 その代わりに、彼の鞭に対抗するべくある攻撃計画を思いついていた。

 私は地面に落ちている鎖を素早く拾い上げた。
 手にしたその鎖は、表面に錆が浮いた年代物だけど、武器として使用に耐えうる手頃な太さと強度はあった。

 鎖の長さを確かめるために鎖を手繰ってみる。
 鎖の長さによって使い道にも違いが出てくる。あの鞭に対抗するには長い方が断然有利。

 手繰ると砂地の表面に露出した部分と砂に埋もれた部分のシルエットが繋がった。長い!。砂に埋もれて見えなかったけど、この鎖は先程つま先に当たった鎖と繋がっていた。

 鎖の状態を確認し終え、すぐさま準備に取りかかる。十分な長さの鎖を剣の柄から刀身にわたって沿わせると、刀身に沿わせた鎖ごと余った鎖をぐるぐると手早く巻き付ける。

 刀身の鋭利な先端部分を残して、その下全部に鎖を巻き付けた剣を、投げ槍の要領で片手に持った切っ先の照準をピストンに合わせた。

「受け取りなさい!」

 剣に巻き付けた鎖の余った部分を左手に持った私は、渾身の力を込めて右手に持った剣をピストン目掛けて投げつけた。

「なっ!?」 私が飛び込んでくる事を期待して待ち構えていたピストンは、真っ先に即席の飛び道具が飛んできた事に当惑し、目を丸くしていていた。

 飛来する鎖付きの剣の対処に戸惑ったピストンが緩慢な動作で鞭を振り上げと、四本中2本の鞭が剣に絡み付いた。
 すかさず左手に持った鎖を引っ張ると、ピストンも鞭を奪われまいと鞭を束ねた柄を懸命に引っ張り返してきた。

 ピストンが鞭を手放さない事、剣に絡まった鞭が容易に外れない事を手応えで確認した私は手元の鎖を両手で引っ張りながら彼を軸に据えて、その周囲を素早く一周した。

「わわっ、何だ?」

 さらに一周、もう一周。周回を重ねるに従って私とピストンとの距離は狭まった。
 ピストンの眼前で周回を終えると、彼はもう私に手出し出来なくなっていた。彼の胴体を鞭と盾ごと鎖でまとめて縛り上げたのだから。

「くそっ……なめた真似しやがって!!」

 まだ鎖が余っていたので、それでピストンの両足首を念入りに縛ると彼はあっさり倒れてしまった。
「ぐわっ!! ぺっぺっ」
 前のめりに顔面から砂に突っ込んだピストンが何とか仰向けになろうと芋虫みたいにグネグネ藻掻くものの、身体に密着した盾が邪魔でなかなか仰向けになれずにいた。

 闘技場のあちこちに鎖が落ちていて助かったわ。でも、どうして鎖が……?

 この場所が別の使われ方、例えばここが採石場だった時代の遺物なのかしら。それとも以前にここで行われた凄惨な戦いや拷問の……私は前者だと思いたいけど。
 そんなことを考えると砂地の所々に見える黒ずみも血溜まりの跡に見えてくる……

 その後に困ったのは鞭が剣に絡み付いてなかなか引き離すことが出来なかった事。こんなのに自分自身が絡み付かれていたらと思うと心底ゾッとする……

「ライディ、何をしている? まだピストンとの一戦は終わっていないぞ」
 頭上からブロアが声を掛けてきた。
 どういうこと? ピストンはもう戦えないはず。
「そういえば、お前にはまだ『掟』を伝えていなかったな」

「掟?」

我が闘技場で勝者となる条件は、
『殺す』か『犯す』かの、二つにひとつ

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