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 私が旅の途中で辿り着いたその町は全体が堅固な『防壁』に囲まれていた。
 町の名前は「ウインド」。町の入り口に立つ門番の人に聞くと、この防壁は外敵の襲撃に備えてつい最近になって築かれたものらしい。

 「外敵」とは人間ではなく「シャフロー」という名前のモンスター。

 二ヶ月ほど前から夜になると蜘蛛の様な形態と人間の背丈を超える体高を誇る六本足のモンスターが何処からともなく大群で現れ、人家を襲うようになったとか。
 襲われた集落は一夜で壊滅状態となり、最近では人口の多い村や町にも出没するようになり、襲われた近隣の集落から避難民がこのエアロの町に逃げ込んでくる程に事態は深刻だった。

 人々に深刻な被害をもたらしているシャフロー。もともとは暗い洞窟の奥深くに棲み、苔を食べるおとなしい生物だそうで、凶暴化の原因は不明……

 風の町として名高いウインドの町に吹く風は防壁に阻まれ、壁の内側では物々しく緊張した空気が町を支配していた。
 困っている人や怯えている人を放っておけない性分の私は町の防衛隊に志願することにした。防備は万全でも、イザというときは私の剣だって役に立つはず。

 ところが、町の人達は女である私は戦闘に参加しない方がいいと言う。

 モンスターは破壊するだけではなく、若い女の子のみを狙って連れ去るのだとか。蜘蛛型モンスターが女の子だけをさらうなんて、おかしな話しだけど、ますます放っておけない!
私の名はライディ
エルスをさすらう女剣士
でも、人は私の事をこう呼ぶ
「雷(いかずち)の戦士 ライディ」と

- Chapter 0 - 序章

「たぁぁぁ    !」 ザシュ ザシュ ザシュ
 私はモンスターの群れの隙間を駆け抜けながら剣を振るう。怪物の首が次々と落ち、街路を転がった。

蜘蛛型モンスターの動きは至って緩慢。足先に付いている杭のような爪にさえ注意すればザコの群れでしかなかった。

 ……でも異様に数が多い。私一人で既に10体以上は倒したはずなのに新手が次々に襲ってくる。まるで、この先にあるものを知っているかのように。
 月明かりのない新月の真夜中に始まった蜘蛛型モンスター・シャフローの襲撃。同時に町の各所で迎撃戦が始まっていた。

 夜は固く閉ざされている防壁の堅牢な門扉があっさりと突破され、道という道、路地という路地にひしめく多脚モンスターの群れが巨大な爪で石造りの街路をカチカチと不気味な足音を踏み鳴らしながら月のない闇夜の町中を蹂躙していく。

 私が立つ道の先にあるのは礼拝所。そこにはお年寄りや女性、子供達が避難している。絶対にここを突破されるわけにはいかない。

「雷よ!」 その言葉に応えるように、夜の冷たい空気が震え、私の周囲に金色の矢が集う。     雷の精霊達……

 なぜ雷の精霊達が私に加護を与えてくれるのかは私自身にも分からない。でも、これが私の剣に強大な力を与えてくれる。凄腕の剣士や邪悪で強大な魔物と互角に渡り合えるのも、この力があってこそ。

この力……雷の力が無ければ……?

 一瞬、悪い予感めいた言葉が脳裏をよぎるも、瞬時に雑念を振り払い、意識を集中させて構えた剣に雷を集める。

 構えた剣が輝き、硬く尖った爪の餌食にするべく群がってきたモンスター共を金色に照らした。洞窟に生息するシャフローは光りに敏感なのか突如発生した光源に怯み、一斉に足を止める。
 でも、もう遅い!

「喰らえっ! サンダー・スラッシュ!!」

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