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バシュ、バリバリバリ!
 刀身が閃き、必殺のサンダー・スラッシュが最初の獲物をとらえる。

 雷の力を帯びた剣は硬い殻に覆われた怪物を、熱したナイフでバターを切るかの如く簡単に切り裂き、その巨体を真っ二つに両断した。
 左右二つに別れた怪物の半身が互いにスパークし合いながら崩れ落ちる。

 技を放っても剣にみなぎる雷の力に依然衰えは感じられない。

 別のシャフローが仲間の惨状に臆することなく両前脚を振り上げ、両前脚の爪を2本同時に突き立ててきた。

「でやぁぁぁ!」
 飛び上がって頭上で振り上げられた前脚ごと首を切り払うと両前脚と首を同時に失ったシャフローの巨体が、前のめりの格好で地面に突っ伏した。

「まだまだぁ!」
 今度は雷の力で輝く剣を手にした私がモンスターの群れに突進する番。この時、私は自分の戦い振りを闇の中から注視する視線に気づいていなかった。
♣「なんだあの剣士は? いや、魔法使いか!?」
♠「雷の精霊の加護を受けた戦士……その筋では有名な女だ」
♣「精霊様のお気に入りか。どおりでなかなかの上玉な訳だぜ」
♠「もうじき夜が明ける。撤退だ。モンスター共を引かせる」
♣「冗談はおカタいツラだけにしときな。このまま手ぶらで帰れるかよ」

 30体ほど倒したところで、モンスターの群れは潮が引くように撤退を始めた。礼拝所へと続く道を守りきった私の耳にも勝利を喜ぶ町の人々の歓声が聞こえる。
「ふう、なんとか追い払えたみたいね。よかった……」

 そう言い終える前に私は地面を転がっていた。

 冷たい刃が閃き、闇夜の虚空を切り裂く。
「誰っ!?」 振り向き様に闇に向かって誰何する。返答の変わりに抜き身の長剣を携えた巨体が闇の中から現れた。  肩幅の広い上半身に獣皮のシャツを羽織り、顔面を鉄仮面で覆っている。

 異様な外見だけど、こいつは明らかにモンスターじゃない。どさくさに紛れて女の子を連れ去る犯人って、もしかして……

「オレと勝負しろ、雷の戦士よ」
    !!

ブオン ブオン ブオン
 仮面の襲撃者が操る長剣から問答無用の斬撃が繰り出される。
ガキンッ 「くっ!」
 自分の剣で相手の一撃を弾くも手が痺れた。唸るように打ち込まれる男の剣は重くて的確、何より速い。この男、強い!

    雷よ!」
 人間相手にあまり雷の力は使いたくはないけど、ここで手加減したり負けたりして人さらいを逃がす訳にもいかない!
 私の呼びかけに呼応した雷の精霊達が剣に集まる。

サンダー・スラッシュ!!

 必殺のサンダー・スラッシュが炸裂する。
 男は両手で持った長剣を横に傾けて防御体勢をとった。

 これは、私にとって思惑通りの展開。剣と剣の接触だけでも雷撃は送り込める。相手は気絶は免れたとしても感電によるダメージで剣を握れなくなるはず。

 しかし、男の思わぬ行動が私の安易な思惑を打ち砕いた。

 サンダー・スラッシュがヒットする直前、男が横に倒した長剣をそのまま私に預けるかのように手前へ放り投げてきたのだ。
バシュッ! バリバリバリ 「あっ!」

 男が投げて寄こした剣のみにサンダー・スラッシュがヒットし、鋼の刀身が虚空で激しくスパークする。
 この男、私がシャフローと戦うのをどこかで見ていたに違いない。私は男の出方を甘く見ていた。そして修行不足の自分を呪った。

 剣を捨て、素手となった仮面の男が掴みかかってきた。

 捕まったら最後、腕力で大男に勝てる訳がない。
 咄嗟に私も技の余韻が残る自分の剣を捨てた。眼前に迫った男の手から逃れる事が最優先の私自身も剣を諦めて身軽になる必要があった。

 素手になった私を捕まえようとする男の両腕をすり抜け、彼の側面に回り込んだ。
 男が、すかさず私が逃れた方向に向き直った。

 彼の半身がこちらを向くのを待ち構えていた私は、鉄仮面に飛び付き、仮面の両側を掴んで力一杯手前に引き付ける。
 鉄仮面を掴まれて前のめりに体勢を崩した男のガラ空きになった胸元に引き付けざまの右膝蹴りをお見舞いした。
 彼の『みぞおち』に右膝がめり込む。

「ぐぇぉ!」

 胸の急所を押さえてうずくまる大男の広い背中を横目に私は自分の剣を拾い上げ、刃を男の広い背中に突きつけた。
「ぜぇ、ぜぇ……」
 痛みと苦しさに男の素顔が鉄仮面の下であえいでいる。

「大人しく降参なさい!」

「お前こそ降参しろ! 女ぁ!」
 背後からの声に振り向くと闇の中からこちらに近づいてくるシルエットが見える。闇から浮かび上がるシルエットは一人ではなく二人だった。
 黒い革製のマスクを被った男が、女の子を盾に現れた。
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