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 どうやらここが目的の場所だったみたいね。

「運命の闘技場へようこそ。戦士ライディ!」
 そびえ立つ壁のふちに魔導師ブロアが立っていた。

「こちらで用意したコスチュームも、なかなかお似合いのようで安心したよ」
 ブロアは灰色の顔に満足そうな表情を浮かべている。あとは高みの見物ってわけね。

 私は闘技場の中央でブロアを睨みつけると右手に持った剣の切っ先を壁の上に立つブロアに向けた。
「見物客はアナタだけ? それとも一人目の対戦相手はアナタかしら!」

「フフン、勇ましいな、けっこう結構。対戦相手ならお前の背後で既に控えておるぞ」

「えっ!?」

 ブロアの言葉が終わらないうちに私は慌ててその場から飛び退いた。    ビョウン
 蛇のようなひも状の物体が唸りをあげて私が立っていた場所をかすめ飛ぶ。

 戦いは既に始まっていたのだ。

「ウヒョーッ、やっぱいい尻してんな〜、ついつい見とれちまったぜ!」
 そこに立っていたのはエアロの町で私を拉致した二人組の一人。忘れもしない……キヤを人質にとっていた卑劣な男。

「ブロア様! この女をヤッてもいいんですよね!」
「ピストン、真面目にやらんと女に勝っても、その後のお楽しみは無しだ。むしろオレがお前をブチ殺す」

 ピストンと呼ばれた男はエアロの町で対峙したときと同じ覆面姿。相変わらず黒いマスク越しに見える二つの目玉はギラギラと粗暴な光りを帯びて血走っていた。

 違っていたのは両手に武具を携えていたこと。左手に盾を構え、そして右手に持った鉄棒の先端には金属製の鞭が四本つながった独特な形状の武器を手にしていた。

「分かってますぁ……ヒヒヒ安心しな女戦士さんよ、殺しゃしねえ。今からコイツで捕まえて、その後でじっくりと時間を掛けて牝豚に変えてやる!」

ビョウ ビョウ ビョウ ビョウ
 鞭の束を振り回しながら歩み寄るピストン。右手首を微妙にくねらせ、回転する金属製の鞭の軌道にも微妙な変化を与えている。

 その先端にはそれぞれ重さの違う分銅が取り付けられ、四本の鞭それぞれが微妙に異なるタイミングで回っている。見掛けによらず器用な男。

 使い慣れない者にとっては、さぞ使いづらそうな武器を巧みに操っている。

 タイミングをずらした鞭で相手の剣と身体を同時に搦め捕り、抵抗する手段を奪われた相手をジワジワといたぶる……目の前にいる男の性質を考えれば、あの複雑な武器を習熟できた理由もよく分る気がする。

「お前は大事な商品だ。そのエロい身体にキズはつけたくねえ。大人しく捕まっちまえよ」
 左手で用心深く構えた盾の向こうから、いやらしい目線をこちらに送ることも怠らない。

「アンタになんか絶っ対に捕まるもんですか!」

 それは威嚇や強がりではなく、本心。生理的嫌悪感が発した魂の叫び。
 腹を空かせた野獣の目つきのピストンがジリジリと私との間合いを詰めてきた。
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