[階段にて]

唯一のものを賛美する旋律が斎場を包み込む。
綺麗な銀糸の髪は、ステンドグラスで彩られた光華を写す聖。
照らされる鱗は、錦眼鏡のような輝きを魅せる。

子供達が彼女に続いて詠う。いつもの午後の光景。

「サクラせんせー、またねー」
歌い終わり、一日の学を終えた子供達が喜々として帰宅の途に就く。
「またね」
サクラと呼ばれた人魚の彼女が微笑みながら手を振る。薄手のワンピースは白をベースに桃色のチェックが体の芯を通っている。
袖には肩口から花弁のように白いレースが咲いている。銀髪も加わって、見る人に白の花束を思わせた。
整った睫毛と小さく可愛い鼻と唇、優しい声は子供たちの憧れるお姉さんであった。
その瞳はきっと開けば、はしゃぐ子供たちの姿を映し出すに違いないが、開かれることは無かった。
彼女は街の中心にあるバジリカで詩を教えていた。小さい頃から弱視であったが、十を数える前に、完全に光を失った。
それからは好きだった詩を謡うになり、子供たちが通うようになった。
その旋律は今では周辺の町にまで響き、祝日には態々足を運び、耳を傾ける熱心な者までいた。
目が見えない神の歌声を持つ彼女は聖女のような存在であった。


「せんせーごめんなさい、今日はおとうさんが隣町の急患で、留守番をしないと」
いつも彼女を送り迎えしてくれていた町医者の息子が父親に呼ばれて早く帰ってしまっていた。

帰る準備をしていると、いつの間にかバジリカには彼女1人だけになっていた。バジリカには人の気配がしなかった。珍しいことだった。

「しかたありませんね、帰りましょうか。」
他の人が来るのを待つ訳にもいかないし、大声で人を呼ぶ勇気も無かったので彼女は斎場に並ぶイスを手で探りながらバジリカを出た。

外を出ると、街にはいつもの活気は無く、閑散としていた。
そういえば隣町で収穫祭があると子供達が言っていたのを思い出した。バジリカに人がいなかったのもそういう事かと合点した。

通りに出れば、と期待していたが、諦めて頭の中に街を描く。
恐る恐る鱗におおわれた脚を進めてゆく。

石畳の上を外れそうになる度に方向を修正する。

すぐに付くはずの家の前の大きな階段に、やっとのことで辿りついた。いつもの何倍もの時間が掛かった気がする。
そこで彼女の足がぴたりと止まった。脚だけでなく身体全身が震える。
小さい頃、階段から転げ落ちた記憶が思い出された。
その時の痛みが全身に蘇る。。

ペロッ
「ひゃっ」驚いて飛び退くサクラ。突然ザラザラしたものが鱗を舐めたのだ。

「もう、驚かさないでくださいよ、ハツミ」彼女は犬をハツミと呼んだ。
この町の階段で主人を待つハツミは聖女と同じくらい有名であった。
「ワン」少し心配するような声で犬が鳴いた。大型犬をさらに一回り大きくした巨躯である。毛並みは銀色で、ふわふわのそれは聖女と同じく子供に人気があった。
サクラは行商人の主人が、魔物と大型犬の雑種だろうと、以前話してくれたことを思い起こす。
そして主人が帰らぬ人になったことも。

「ハツミ、まだ待ってるの?」少し憂いを抱いた笑顔でサクラはハツミの頭を撫でた。
何も答えない代わりに、静かに頭を委ねるハツミは気持ちよさそうに目を細めた。

ハツミのご主人様が盗賊に襲われたのは数日前の話。
従者が命からがら逃げ帰ったが、主人は帰らぬ人となった。人格者で、親のいないサクラに家を貸してくれたのも彼だった。
戻らぬ主人をずっと待つ彼は、以前より毛がボサボサで、心無しか元気がなかった。
子供には人気があったが、その巨躯と魔物との雑種ということから、引き取ろうという人はいないようだった。

しばらく撫でていたが、目の前の問題を思い出す。階段だ。
「情けないよね、こんな階段が怖いなんて」ハツミを話し相手に、独り言ちる。

「ワンッ」
すると撫でていた頭が下がった。伏せ、をしているようだった。
「乗っていいっていうことかな?」
「ワンッ」
私がハツミに向かって尋ねると、まるで人語を解しているかのように返事をした。

サクラは以前、主人から「ハツミは頭がいい、私が言うことを理解しているんだ」と言われたことを思い出した。
実際にハツミは言うことをきくし、子供達と簡単な遊びを理解して戯れている節があった。

「それじゃお邪魔するわね。重いなんて言わないでよ」
手で背中の位置を確認すると、静かに鱗の腰を下ろした。

極上の毛皮が手のひらを撫でる。
何事も無かったかのようにすっと立ちあがったことがサクラを少し喜ばせた。

毛皮が何回か上下したところで、世界が少し傾いて止まった。階段に前足を掛けた所でハツミは、毛を掴むまでちゃんと待ってくれた。

しっかりとした足取りで、どんどん登ってゆくのが分かった。
階段は20ほどの石段で、あっという間に傾斜が元に戻る。
しかし、階段を上り終わったハツミは歩みを止めなかった。

「ハツミ、もういいよ?」サクラが声を掛ける。ワンという返事をするものの、ハツミは聖女を背中に乗せたまま、歩き続けた。

ハツミが下ろしてくれたのはサクラの家の前であった。風見鶏のカラカラという知った音が知らせてくれた。
「ありがとうね」感謝の言葉でハツミの尻尾がブンブンと左右に揺れる音がした。

サクラが下りると、いつもの場所へと踵を返すハツミ。
「待って」と彼女は声を掛けた。
と同時に手を必死に伸ばすと、偶然にも彼の尻尾に触れたので、ギュッと握りしめてしまった。

「ガゥッ」ハツミの大きな牙の間から苦悶の音が漏れる。

「待ちなさい。お礼にご飯あげるから、家に上がりなさい」
サクラは背中に乗っている間に、鳴り響くお腹の虫を聞き逃さなかった。恐らく子供たちが与えるお菓子で空腹を今までごまかしていたに違いなかった。
尻尾を解放し、家の中へと向かうが、ハツミが家に入る気配は感じられなかった。
「ハツミ、入らないの?」と尋ねると、肯定の返事と同時に腹の虫も返事をした。

「強情ね。少し待ってなさい、いいわね、絶対よ」
再三釘を刺す彼女と、背筋をピンと伸ばして命令を聞く彼の姿は、肯定の返事を上官に返す忠実な一兵卒のようだ。

少し経ち、彼女が紐に繋がった生肉を抱えて、ドアから掛けてきた。
サクラがハツミを呼ぶ。「ワンッ」という返事を聞いて、ちゃんと待っていてくれたとサクラはほっと安堵した。
「よいしょっ」
家にあった肉を全て紐で繋げた肉の輪をハツミの首に掛ける。

ハツミはようやく帰還の許しを貰い、主人の帰る場所へと戻る。
その後ろ姿にサクラは叫ぶように言った。
「またお腹が空いたらここにきなさいね!」

自宅へ戻るサクラは、見えない目で振り返った。
昔にハツミの主人が小さいハツミを連れて遊びに来たことを思い出した。その時の匂いをまだ覚えていてくれたことが少し嬉しかった。

・・・・・・

ゴゴゴゴゴ
雨の粒が屋根を強かに打つ。この地方では、一か月に一度、豪雨が一日中続く日が来るのだ。それは神からヒトへの恵みとして祝日となる。サクラも例にもれず、この日は歌わない聖女として、家で静かにお茶を飲んで過ごすのだった。

「ふぅ」彼女は先ほどから唇をお茶で濡らしては、溜息ばかりついている。
憂慮の面持ちを浮かべる原因は階段の待ち人、ハツミだ。

あれから3日、私は生肉や水を子供達と一緒に与えるようになったが、階段を守る番犬のように、常に佇んでいるのだった。
日に日に声に張りが無くなっているのことが心配だった。

「まさか、一睡もしていないんじゃ」サクラは不安に駆られた。外の豪雨も手伝って、嫌な想像が膨らんだ。

気付けば、サクラは雨外套を纏い、家を飛び出していた。

滴があっという間に外套を水浸しにした。石畳から跳ね返る泥水が綺麗な鱗を曇らせる。
雨音でヒトの気配など分からなかったし、もし遭ったとしてもサクラは気に留めなかっただろう。
サクラは雨音の響きの違いから、階段の前で歩みを止めた。そして名前を呼んだ。

「ハツミ!ハツミ!いますかー!! いたら返事をしてください」

ザザザザザ

変わらず雨音だけが耳に響く。
さすがにこの雨に参って雨宿りしてくれたのだろうか。そう考えたが、すぐにサクラは自分の中で否定した。
(あの子はそんな聞き分けの良い子じゃないですね、、、ん?)

ザザザザザ(・・・ヒュ・・・ヒュ・・・・)
雨音の中から、空気が喉を擦れて出てくるような音を僅かに拾い出した。

サクラは少しの間見えない目で階段を凝視すると、大きく頷いた。
彼女の心の中、階段の魔物は番犬に退治されようとしていた。

腰を落とすと、階段を手探りで探す。冷たい雨水が全身を伝う。雨に濡れた石畳が彼女の手と膝から体温を奪う。
すぐに段差が見つかった。彼女は四つん這いの体を階段と平行にして、一段一段降りてゆく。

彼女の全神経は空気が擦れるヒュ、、、ヒュ、、、という音を聞く為に注がれた。冷たい雨も階段の魔物も彼女には敵わなかった。

一歩一歩降りてゆく。

音から、すぐそこで階段が終わることが分かった時、彼女の安心が階段を踏み外した。

「きゃっ」彼女の三半規管が2度回転したことを知らせる。
幸い地面まで残り数段程度だったので体の痛みは気になるほどでは無かった。

何より、彼女を受け止めたのは大きな毛の塊であった。

「ハツミ!」手探りで、彼の全身に触れて存在を確認する。
彼が冷たい石畳の上で寝るように倒れていたことが分かった。

声を掛けるサクラに返事は無い。不規則にヒュ、、、ヒュ、、、と息だけが漏れる。

撫でるハツミの毛は水を十分に吸っていた。そこにいつもの抱きつきたくなる温かさは感じられなかった。

「誰か、すいません!誰か!」必死に助けを求める。
しかし、雨は無情にも彼女の声を石畳に打ち落とす。家の中にそれが届くことは無かった。

彼女はハツミの力無い頭をぐっと持ち上げて、両腕を首に巻きつけた。
「ごめんね。寒かったでしょ。」

チュッ
彼の冷たくなった鼻に冷え切った唇でキスをすると、サクラは意を決して、彼の下に潜り込んだ。

「すぐに家であったまろうね。」彼女はこのままではハツミが死んでしまうという一心で頭が一杯だった。

彼女は力を込めて、一段一段、自分と同じくらいの毛皮を被り、登り始めた。

階段の傾斜はずり落ちるほどでは無いが、一段登るだけでサクラの呼吸は乱れた。
もう一段登る。手に力を入れて、ハツミが落ちないように必死に掴む。
尾鰭に力を入れて、彼を背中と腰で持ち上げる。
このときばかりは、陸で生活するのに不便な魚の脚に感謝した。
海を泳ぐ強靭な脚がなければ、彼女がハツミを持ち上げることなど到底叶わなかった。

「ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、」
漸く登りきった時、彼女の心臓はいつ爆発してもおかしくないほどの鼓動を繰り返していた。
恐る恐る降りた2倍も3倍も時間が掛かった。
脚はそれほどでもないが、ヒトと変わらない細い両腕が悲鳴を上げていた。

階段からサクラの家までの距離は、お茶を一杯入れて蒸らす程度の道程であった。
「もうすぐだからね、ちょっと引きずっちゃうけど許してね。」

そういうと、彼女は伏せるハツミの背中を抱きしめると力を入れて、持ち上げた。

もし通りかかる人がいたなら、大きなぬいぐるみを引きずる小さい子供のように見えただろう。
少し進んでは、腕を休める。
少し進んでは、腕を休める。

繰り返す度に、進むよりも休憩の時間が多くなってゆく。

「あっ、サクラせんせー」
傘を持った少年がこちらに手を振っているのが見えた。
声から、いつも私の送り迎えをしてくれている町医者の子供だと分かった。

町医者の子は、初め驚いたが事情を説明し、父親を家まで呼んできて欲しいというと、二つ返事で父親を呼びに走って行った。

問題が一つ解消されたことで、限界であった腕に力が戻る。
風見鶏が激しく音を立てている。家はもう眼の前であった。


家へたどり着くと、急いで彼の体をタオルで拭き、暖炉の火を強くする。
薪を焼べながら、ミルクを火の近くで温めた。

暫くして町医者の親子がやってきた。
ドアを開けると、少し驚いたような声を上げ、「濡れた体をふきなさい」と言われた。
サクラはその時、ようやく自分の体がずぶ濡れであることを思い出した。


「ありがとうございました」
「いや、かまわないよ。それより、君も体をしっかり温めなさい」
「はい、ありがとうございます。」もう一度お礼を言って、サクラは親子を見送る。
子供がバイバイと言ったので、手を振って返した。

「クシュッ」
2人を見送ると気が緩み、全身が冷えていることを思い出した。
暖炉へ急ぎ戻る。

診断の結果、ハツミは、睡眠不足と過労らしかった。医者が深夜の急患で階段を通った時も彼は姿勢を崩さずに番をしていたそうだ。
主人を待ってもうすぐ一週間。それに追い打ちをかけるように、今日の豪雨が彼の体力と意識を奪ったのだ。

サクラは大きめの毛布をハツミと自分に掛けると、暖かな空気を取り戻したふわふわの毛を抱きしめた。
「もふもふしてて暖かいね」

ヒュ、、、ヒュ、、、と苦しそうだった息は、今はスピー、、、スピー、、、と鼻が閉じたり開いたりする寝顔に変わっている。

パチパチと薪が小さく弾ける音がした。空はさらに暗く、雨音だけが続いている。
赤い灯が揺れ、やがて寝息が2つになった。


チュンッ チュンッ
小鳥の囀りに曙光が部屋を照らす。ベッドの傍に幾人かの姿があった。
「ん、、、」
サクラが頬を温める光のほうを向く。

「まだ寝ていなさい」サクラには昨日聞いた覚えがある声だった。声が続ける。
「酷い熱だから動かさないほうがいい。薬はそこのテーブルに置いているから、できるだけ体を冷やさないようにしなさい」

その言葉で、サクラは鈍痛のする頭と、重い体の理由を理解した。昨日あれだけ濡れて体を冷やせば風邪にならない筈は無い。

ペロッペロッ 「きゃっ」
ハツミがサクラの頬を舐める。お返しとばかりに、驚かせた犯人の頭をくしゃくしゃに撫でた。

「ハツミが朝、僕の家の前で吠えてね。ここへ引っ張ってきたんだよ。君は顔を真っ赤にして咳きをしているから驚いたよ。昨日薬を渡しておけばよかったね、申し訳ない。」
町医者が配慮に欠けていたと詫びる。
「いえ、ありがとうございます、ご迷惑をおかけしました」
「お礼ならサクラに言うといい。この子はほんとに頭がいい」
「ふふ、ハツミ、ありがとね」そういってサクラは舐めていたハツミの頬を離して顔を掴むと、キスをした。
すっかり彼が元気を取り戻しているのが嬉しかった。

「ハハハ、仲がいいね。しかし、ハツミの次の飼い主を町で話さないと、またこんなことが起きてしまう」真剣な表情で町医者は言を発する。

「私、この子の世話をします」間髪入れずサクラが声を上げた。

条件反射のように飛び出した言葉に一瞬サクラ自身驚いた顔を見せた。
だが、暫くして自分で納得したのか、もう一度、今度はゆっくりと言葉を紡いでゆく。

「ハツミの世話は私がします。なんだかこの子の気持ち、分かるんです」
サクラはゆっくりと瞼を開いた。
ハツミを見えない目で見つめる。ハツミの瞳に黒い瞳の彼女が映った。

サクラは柔らかい毛を撫でながら続ける。
「この子、自分のご主人様が亡くなっているの、もう理解しているんですよ。それでも立っているんです。待っているんです。」
目を閉じて、ハツミを抱きしめる。
「それって、、、私がバジリカで謡うのと同じことなんです。生きてる意味なんだと思います」
サクラの黒い瞳から、涙が止めどなく溢れていた。

「私はこの子の新しい理由になりたいです。だから、、、この子は私が面倒を見ます」

医者はニヤリと口の端を持ち上げた後、笑みを浮かべた。それは悪意では無く、彼女がハツミを引き取るという予想が当たった事と、それを見守ろうという親のような優しさであった。
「いいでしょう。街でハツミの話が挙がればそのように言っておきます。また問題、、、そうですね、大きいですし、食費が大変でしょう。肉屋の親父さんに余ったこま肉を頂けるように取り計らっておきますよ。」
その他何かあれば相談に乗りますと言った後、彼は部屋を出て行った。
サクラは出て行った部屋の扉に向かってもう一度お礼を言った。


暫くして、ハツミが部屋を出て行こうとしたので、サクラが呼び止めた。
ハツミは体を扉に向けたまま、立ち止まる。

「ハツミ、また階段で待つの?」
ワンッ、と返事が返ってくる。その返事に迷いはないように感じられた。
「貴方、、、人の言葉理解しているでしょう。そのままの意味で」

ハツミは少し考えると、ワンと返事をした。

「魔族ってしゃべれるモノもいるけど、、、血が通った貴方は喋ることできる?」
サクラは頭に浮かんだ疑問を口にした。これは確信などではなく、ただの興味本位の質問だった。喋れれば意思疎通が楽だからという理由だ。

「・・・」部屋に静寂が訪れる。
「やっぱり無茶なことだったね、ごめ、、、」と自分の無理難題を詫びようとした時。

「サ、ク、ラ」
低い声だった。魔物が喋る声のイメージそのままであった。

「スコシ、、、シャベレル、、、キクノハ、、、ダイ、、、ジョウブ」

サクラは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「サ、ク、ラ、、、?」ハツミは心配になって、固まったままのサクラに声を掛ける。

「・・・すごい!しゃべれるのね!もう一回私の名前呼んで!呼んで!」
急に氷が解けたかと思うと、サクラは熱も忘れて子供のようにはしゃぐ。
「サ、、、サクラ、、、」
「う〜〜〜ん!もう一回もう一回!」
矢継ぎ早に浴びせかけられる質問に気圧されて、ハツミは暫く、オウム返しに彼女の言葉を繰り返した。

・・・・・・・

「ごほっごほっ」
「アレダケ、ハシャゲバ、、、カゼ、、、ワルクナル」
「ごめんなさい。返す言葉もございません・・・」
犬に諭され、反省するサクラ。

あの後、サクラはなぜ喋れるのに隠していたか理由を聞いた。
魔物との混種の為に、喋るとそれを意識してしまう頭の固い住人がいないとも限らない為、主人がそれを配慮して町中では喋らないことにしていたのだった。

階段で立ち続ける理由は、サクラが言ったとおり、自分の意味は主人の為にあったこと故の忠義だと言った。

「ね、私があなたの生きる意味ではダメかな」
「ソレハ、ワカラナイ、、、カンガエチウ」正直に答えるハツミ。

「そっか、それじゃ候補には入ってる?」ワンッと元気に答えるハツミ、肯定の返事だ。

「これからは、あそこで待っててもいいけど、夜には帰ってくるのよ。また私まで風邪ひいてしまうから」サクラは少しイジワルに言う。

「スマナイ、、、キョウハ、、、ズットソバニ、イル」
器用に、ばつが悪そうな表情をすると、ベッドに首を乗っけて、「サクラノ、ネガオヲ、ズットミテオク」と言い返した。

サクラはフフッと笑うと、ハツミの顔を自分の目の前まで引っ張った。

そしてキスをした。

ただ、今度は鼻ではなく口だった。牙へ舌を入れて、熱いキスをした。
「ん、、、ちゅっ、、、んはっ」

ハツミは耳をピクンと動かしたが、お返しにザラザラの舌をサクラの口内に侵入させる。

サクラは獣の味に酔い痴れた。
ハツミは鼻を刺す甘い芳香に我を忘れた。
お互いに絆され、次第に水音が激しくなってゆく。
「はぁ、、、ハツミっ ハツミっ」
「サクラ、、、」
互いが互いの名前を呼び、抱き締めあう。いつしかハツミを布団に招き、体を密着させた。

熱いものが彼女に当たるのを感じだ。
サクラは自分の額をハツミの額に当てて言う。

「生きる意味、、、いっしょにみつけようね。きっと、、、ううん、、、必ず見つかる」
「サクラ、、、ウン」
「うんうん」
ハツミの返事に満足すると、サクラは彼のモノに手を添えた。
「ハツミ、、、少しだけ温めて貰ってもいいかな」消え入るような声で言う。
「サ、ク、ラ、、、ボクデ、、、イイノ?」息を荒げて尋ねる。彼はとても我慢できるようには見えなかった。
「それは私の言葉だよ」
両腕をふわふわの毛が覆う首に回して、たっぷりとキスをする。
そして背中を彼に向けて、白い枕を胸に抱きしめた。

彼が入れやすいように四つん這いになって、受け入れる準備ができたことを知らせる。
「、、、ハツミ、お願い」
その蜜のような甘い言葉に誘われて、ハツミが彼女の上に、できるだけ体重を掛けないように覆いかぶさった。

「サク、、、ラ!」
ぷつっと何かの切れる音がした。
「ん、、ぃたい!」
あまりの痛さに思わず声を洩らす。

「ハッ、、、ハッ、、、サクラ!サクラッ!」あまりの気持ちよさに、ハツミは腰が彼の意志とは別に動く。

暫くして、ピストンが止まり、謝罪の言葉を獣は発した。

「ん、、、いいよ、、、痛いけど我慢するから、、、、続けて」
そういうとサクラは枕を強く握りしめて、叩きつけられる熱に備える。

「サクラ、、、ヤクソク、、、ハツミ、、、マモル」ハツミは契りを交わすと、本能のままに腰を振るった。

ハツミの腰が何度もサクラのお尻にぶつかる。徐々に水音が増し、卑声がサクラの口を突く。
ハツミの腰がフルフルと震え出した。
「サクラ、、、サクラ、、、」
「うん、体、、、芯から温めて、、、」
返事が返ってくると、巨躯がこれ以上ない速度でスパートを掛けて弾けた。
ドクッドクッドクッ
「ひゃっ、、、んぁ、、、あ、、、、あぁ、、、」
サクラは枕を握りしめる手に一層力を込めて、次々に内を焦がすような熱い想いを受け止める。


「サ、ク、ラ、、、」
「ハツミ、、、」

2人は繋がりながら、暫く甘い時を過ごした。。。

・・・・・・

「ゴホッゴホッ」
「ワフゥ、、、クシュッ」

「はぁ」
翌日、患者が倍になって溜息を付く町医者の姿があった。

「あれだけ温めなさいといったのに、なにをやっているんですか」
「すいません、寝像が悪いもので・・・」咄嗟の言い訳で場をごまかすサクラ。毛布で鼻まで隠している。

「貴方も貴方ですよ、一晩で回復したと思ったら今度は風邪を貰うなんて」
「ワフゥ」どうやらハツミも反省しているようだ。ベッドの下に引いた毛布に包まり、巨躯を猫のように丸めている。

「仲がいいのは結構ですが、ほどほどにしておきなさい。子供達は二人に会えなくて悲しんでいるんですからね。」

「はぃ・・・すいません」「ワン・・・」
シュンとする1人と一匹。

「それでは、失礼しますね。」
バタンと扉が閉じられる。扉に向かって礼をする。
・・・バタンと玄関が閉まる音がした。
・・・
残された1人と一匹は目を合わせる。
サクラは「おいで♪」といって毛布を持ち上げた。


1人の盲目の聖女と1匹の忠犬で有名な町があった。
聖女が謡い、忠犬が階段に現れるのはそれからもう少し後でのことだった。

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