「あんたはアークエンジェルにいろ」
俺とフラガさんで外の連中を片付けるから。
出撃するつもりらしいが、オーブの首長が、しかも貧血すら起こしかねない状態で
戦うなんて無謀すぎる、だから・・俺がやると自ら名乗り出たのだ。
「しっ・・・しかし、私は」
「こんなところで戦ってどうするだよ!!」
オーブのためにも必要な人間だ。
セイランと対抗できる唯一の人、こんなところで死なせるわけにはいかない。
・・キラだってそう思うから言っただけであって
別にアスハがどうこうというわけではない、訂正しておいてほしい。
「カガリ様、アスカの言うとおりです、今のお体の状態では」
並みのナチュラルよりも優れているとはいえ、キラへ血を分けてしまったのは負担は大きい。
戦闘中に貧血なんて起こされたらたまったもんじゃない。
自分の体調が万全でないことを自覚したのか・・出撃するのを諦めてくれた。
「・・・わかった・・」
せめてCICで何かできることをしようと、渋々頷いた。
本当は戦いたいのに、堪えるというのは難しいことだが此処はシンを信じるしかない。
「いくぞ、坊主」
先に行ってるからなとフラガはストライクに乗り込んでいく。
遅れまいとシンもインパルスに行こうとすると後ろから声をかけられた。
前にトダカ一佐の件で揉めた軍人達。
あれ以来互いに顔をあわせないようにしていた。
気まずいから・・・加害者も、被害者も。
「なんだよ・・」
本当はもっと違う言葉を使いたいのに、意地とかそんなものが邪魔をして言い出せなかった。
口にした後に後悔してしまう、キラさんにも言われたのにまた繰り返してしまう。
「頼む・・・、キラ様やカガリ様が乗っておられるのだから・・絶対に守ってくれよ」
そういうと彼らは全員頭を深く下げる。
「あっ・・ああ・・」
まさか頭を下げられるなんて予想外だったので
頼まれた方がなんだか変な気持ちになって逃げるようにコクピットの中に入っていく。
言われるまでもない、この艦は絶対に守る。
守れなかったものも沢山ある、けどこれだけは守らなければ
もう・・何も残らない。
「シン・アスラン、インパルス行きます!!」
キラさんがくれたもの・・返すためにも。
戦う・・・・・!!
そう決意したのに、この誓いは強固なもので壊れたりしないと
信念を持っていがミネルバの出現のせいで気持ちが揺らいでいる。
あの艦には知っている人間が沢山居るから。
敵になったとしても死んで欲しくない人達が・・・。
『坊主!!』
呆然と見ていたせいで回避を忘れ、フラガに声で心が現実に戻り
避けるようにミネルバの隣を横切るインパルス。
「くっ!!」
後ろにいたアークエンジェルも咄嗟に舵を取り、すれ違うように避けられた。
ミネルバのすぐ近くをなんとか回避できたのはノイマンの腕のおかげだ。
「大丈夫ですか?」
独自の判断で舵を取ってしまったために
バランスを崩してしてしまった者も多かったがどうにか無事だった様子。
倒れそうになるキラの身体をフレイは落ちないようにさせることだけを考えて支えきった。
「あっ・・・ああ・・」
隣に居たカガリも平気だとノイマンに伝える。
「まさか・・あの艦まで」
今追われている部隊の他にも新手が現れるとは、それだけザフトに要注意とされているのか。
「逃げ切れるんですか・・」
あの艦の力は相当なもの、さらに・・ガンダムも数機乗せている。
こちらのガンダムはインパルスのみ。
キラは今、自分の命の灯火を消すまいと戦っている。
負ける要素だらけのアークエンジェル。
「・・・・・・・ッ!!」
それでも・・逃げなければ。
命令を出しつつ考え付く限りの策を必死に練る。。
「ミネルバまで・・・、!!」
フラガはレーダーの警告音を聞き、確認すればセイバーが接近して来ているのが見えた。
「ザラ・・隊長!!」
脳裏に浮かぶのはキラの腹にナイフを突き刺した時の光景。
瞳には何も浮かばず、無機質な色、人を傷つけたとも思っていないような瞳の色が忘れられない。
キラと同じく、伝説的なガンダムのマスター。
はっきり言って勝てるなんて思っちゃいない、認めたくないけど・・・
実力は本物、けど・・及ばないからって諦めたくない。
諦められるほど、この想いは単純なものじゃないから。
「うぉぉぉぉっ!!」
「シンか・・・」
ビームサーベル同士の火花散る激しい戦い。
互角・・−−、のように見えているがアスランは本気を出していない。
力を抜かれていることにカッとなったシンはさらに攻める。
すると突然レイから通信で呼びかけてきた。
『聞け、シン』
「レッ・・レイ?」
背景が暗くてわからず、どこから通信してきているのかはわからない。
きっとアスランにもタリアも知らない、レイ独断でのシンとの通信。
『お前はもう、裏切り者じゃないんだ
デストロイを倒し、人々を救ったザフトの英雄だ。
だからもう、こっちに戻ってきてもいいんだぞ』
インパルスがデストロイを倒すシーンは人々の心の中でインパルスを英雄しさぜるもので
デュランダルにもシンの今一度の説得を頼まれていたのだ。
当初の目的ではアスランにその役を与える予定だったが
多少予定とは違ったがシンをこちら側に戻せるのならそうして欲しいと。
最後のチャンスをくれた。
「戻れるって・・ミネルバに」
『ああ・・ヴィーノもヨウランもルナマリアもお前の帰りを待っているんだ』
帰って来い。
お前の返事次第で艦長に議長の特例だと伝えて、戻れるようにしてやるから。
そうレイは甘く俺を誘う。
「・・・それで・・アークエンジェルはどうなるだよ・・」
俺は助かる、けどアークエンジェルは?
キラさんやフラガさん、フレイさん・・アスハは?
『シン、彼らが何をしてきたかお前も知っているだろう?
今までは仕方なくそこにいた理由があったんだ、理由がなくなれば居なくても済むんだ』
俺だけが楽になれる。
ミネルバに戻れば、悩まずにただ示された敵と戦うあの頃に戻れる。
ただ敵を倒すだけ・・けど、そう簡単に戻れやしない。
知りすぎた、敵も味方も。
そして・・助けられた。
もしも此処でミネルバを選べば、俺だけは助かる『俺』だけ・・。
するとミネルバからアークエンジェルへ向けての通信がシンの耳にも入る。
無条件の降伏をすれならば、クルー全員の安全を保障するものだった。
命を賭けて最後まで無駄に戦うか。
それとも・・信念を捨て、降伏の道を選ぶか。
今の俺と同じ条件をマリューは突きつけられていた。
(どうするんだ・・あの人は・・)
艦長は艦の皆の命を預かる身、判断次第で取り返しつかない失敗にだってなりえるのに。
オーブ代表であるカガリの身が危ないとアマギは反対していた。
しかしキラがいない今、賢明な判断が犠牲を左右させる、どちらを取るか悩んでいると
医務室に居るフレイが通信で呼びかけてきた。
『キラが・・!!』
まさか・・容態が急変したのかと焦るカガリ。
フレイが伝えたもの、それはシンとマリューの心を動かすものだった。
『カガリを・・オーブへ・・、絶対に送ってください・・』
自分の方が大怪我しているのに、そんな状態でもキラは他人を優先した。
夢の中まであんなに心配する言葉を聞いてマリューは答えを決め
ミネルバに返信を送る。
『こちらアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです』
まさか女性の艦長だったとは驚きも大きいが顔を知るアーサーは驚愕していた。
「こっ・・この人!!」
オーブで会った・・、まさかと思っているアーサーに対し
タリアはやっぱりそうかと納得していた。
艦長経験があるものでなければわからない判断を彼女はした。
できればならこんな形での再会はしたくなかったのだが・・・。
『残念ですが、その要求は受けられません。
この艦には仕事があります、連合かプラントか・・今また二色に染まろうとする世界に
私達は邪魔な色なのかもしれません、ですがだからこそ今ここで消えるわけにはいかないのです!!』
はっきりと投降の要求を却下した。
それは自分のためではない、世界がまた・・二年前と同じになろうとするのを止めるため。
それを聞いたシンも答えが出たようだ。
『ごめん・・レイ、やっぱり俺・・いけない』
てっきり戻ってくると思っていたのか少し驚いた顔をしていた。
滅多に顔の表情を変えないレイがシンの決断に驚いている。
ミネルバよりもアークエンジェルを取った。
『確かに・・俺だけは助かるけど、自分だけだなんて卑怯な真似できないよ』
どうして・・笑っていられるんだ。
死ぬかもしれない状況なのにシンは笑っていた。
自分自身もどんな顔をしてるかシンには見えていなかったがきっと変な顔をしてるんだろな・・と。
『皆にガキでごめんなって言っておいてくれ』
それだけを言うとシンは通信を切る。
何も映さなくなったモニター、レイは髪で顔が見えず、どんな顔をしているかわからなかったが
下唇を噛んで何かを堪えているように見えた。