序章 : [大きな穴をまっさかさま]


-ウサギさんの開かない本-

「ただいまー」
夕日を背に2人なかよく手をつないでお家へ帰ると夕食の時間。

今日の夢の話をパパとママにも聞かせてあげると、二人はアリスのお話を喜んで聴いてくれました。
家族4人、楽しい楽しいだんらんの時間を惜しみながら部屋へと戻るアリス。
とても長い時間、井戸の中を落ちていたので、アリスは自分の部屋にもどるのが、ひどく懐かしく感じられました。

「ただいま♪」

スカートを両手でつまんで扇に広げ、優雅にお部屋にご挨拶。
「アリス」の名前の札がかかったノブに手を掛けると、アリスの動きが止まります。
もしこのトビラも開かなかったら、、、と不安でしたが、アリスの部屋のトビラはそんなイジワルをすることはありませんでした。

ガチャ、、、バタン
部屋に戻ったアリスはクルクルと回って一輪の大きな青い花のよう。

「今日は素敵なことがいっぱいだったわ!」

夢の出来事はすぐに忘れてしまうので、早速日記に書こうと、机に向かうと、、、

そこに一冊の本が置いてありました。

見たことも無い 本でした。

いえ、正確には今日まで見たことの無い本でした。

表紙も何もない、厚くも薄くも無い本。。。そう、夢の中で最後に開いたあの本。


「あ、、、これは白ウサギさんの、、、本?」
手に取ると、いよいよあの夢で見た本にソックリでした。

夢をこんなに覚えていることなんて今まで無かったのだから、本当に起こったことかもしれないわ!
白ウサギさんがなかよくなりたいって言ってるのよ!

これから起こるステキなできごとを夢見て、アリスは本を、、、

「あれ?、、、んんぅ〜〜〜!!」

夢の中のノブと同じ出来事が起こりました。
そう、開かないのです。

「また開かないわ。あのウサギさん、よっぽどイジワルでひねくれているのね!」

またイライラしてしまいますが、今度は鍵穴の無いトビラではなくて一冊の本。
きっと開ける方法はあるわ!とアリスは爪を立てたり、はさみを使ったり。
果ては果物ナイフをページに突き立てたりもしました。
けれど、本は一ページたりとも開きません。

「もう!あなたから友達になりたいって言ってもなってあげませんよっ!」
本の先にいる白ウサギに毒づくと、いやな気分も洗い流そうと本をベッドに投げ置いて、アリスはお風呂へ行ってしまいました。