プ ロ ロ ー グ
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 森村詩月。
 僕が担任を務めているクラスの生徒である彼女は、とにかく目立たない女の子だった。
 主張するという事を知らないようにいつも黙って俯いていた。
 クラスの中に友達は居ないのか、休み時間でも誰かと話している所を一度も見た事が無かった。
 決して無視をされたり、虐められているわけではない。森村はそんな関心さえも持たれずに、空気のようにただそこに居る。
 正直な話、僕も彼女に対してはほとんど関心を持った事がなかった。
 出席簿の中に名前がある。
 ただそれだけの存在だった。

 僕が初めて森村に惹かれたのは放課後の図書室。
 管理を担当している僕は戸締まりの為に図書室を訪れた。
 下校時間も間近になり、誰も居なくなった閲覧室に彼女は居た。
 夕暮れ時のオレンジ色の光に包まれ、一人静かに本を読んでいる彼女の姿は絵画のように美しかった。
 彼女は僕の視線に気づくと、本を書棚に戻して小さくお辞儀をすると鍵を僕に渡して図書室から出て行った。
 彼女は図書委員だったのだ。
 何故今まで気づかなかったのだろうか。こんな近くにこれほど可憐な少女が居た事に。

 僕は少女という存在を愛している。
 成熟した女性とは全く違う美しさが彼女達にはある。身体の各所が丸みを帯びる前の中性的なシルエットに僕は強く惹かれた。
 学生の頃からずっと、僕は彼女達の魅力に取り憑かれていた。
 僕が教員を目指したのも、少女達に近づきたいという下心があったからこそだ。
 教職課程を経て教員免許を取得し、無事に就職先も見つかって、僕はこの学校へと配属されて来た。
 夢にまで見た、少女達のすぐ近くで過ごす日常。だが、僕は生徒に手を出す勇気も無くただただ彼女達を近くから見つめる事しか出来なかった。

 自分で言うのも何だが、僕は平凡な男だ。
 顔が良いわけでも無く、頭が良いわけでも無く、運動が得意なわけでも無い。可も無く不可も無い普通の先生だ。
 当然ながら、女生徒から告白されるなどという漫画のような出来事は一度たりとも無かった。
 ただ、少女に対する感覚の鋭さだけは誰にも負けない自信がある。
 昼休みに校庭で遊ぶ生徒達の中から女生徒達だけを識別して何をしているのか把握したり、教室の隅で囁き合う女生徒達の小さな声を聞き分けたり、トイレの外から少女達の排泄音を聞き取ったり匂いを嗅ぎ取ったりする事が出来る。
 誰にも自慢することの出来ない能力ではあるが。
 出来た事と言えば、視姦した少女達の姿を脳裏に焼き付けて職員用トイレで自慰に耽ったり、夜勤時に女生徒が持ち帰り忘れた体操服やブルマを拝借して自慰に耽るくらいの事だ。

 教員生活も今年で四年目だ。
 心の中に渦巻く少女達への欲望を隠し、僕は上辺を取り繕って良い先生を演じてきた。他の先生方や生徒達からそれなりの信頼を得ているという自負もある。
 これからも僕はどす黒い欲望をひた隠しにしたまま良き指導者、良き理解者としてこのまま少女達を見守り続けるだろう。
 そう思っていた。
 だが、僕は森村に恋をしてしまった。

 彼女に恋をしたその日から、僕は彼女を見つめ続けた。
 出席を取る時に彼女の小さくか細い声を聞くのが毎日の楽しみになった。
 授業では時折彼女を指して問いに答えさせた。
 たまに視線が合った時には彼女に微笑み掛けた。彼女はいつもすぐに目を逸らしてしまうが。
 更には、担任教師である立場を事を利用して時折彼女に話し掛ける事もした。
 残念ながら会話が成立する事はほとんど無かった。僕の問いに対して彼女は小さく頷いたり、小さく頭を振るだけだった。
 こんなに近くに居るのに、近づく事が出来ないモヤモヤとした日々。
 僕の彼女に対する想いは、少女に対する欲望と絡まり合って、抑え切れない程に膨れ上がってしまっていた。


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