(´・ω・`) 2037年  晩春  某駅前繁華街 (´・ω・`)


  そうして、僕が志保さんに引きずられるようにして連れて行かれたのは、駅前の繁華街にある一軒のビルだった。
  右腕に押し付けられた胸の感触が気持ち良すぎて、道すがら何か話をしていたはずなのだが、簡単な自己紹介をした事しか憶えていなかった。

   志保
   「着いたわ、ここ。よく来るのよ」

  常連らしい彼女は、ぐいぐい僕を引っ張ってビルの中に引きずり込む。
  そのビルは、飲食店や書店、ブティックなどがワンフロアに一店舗入っていて、
  僕がエレベーターで連れて行かれた4階は、フロアをいくつもの小部屋で仕切られたカラオケルームだった。
  カウンターにいる、制服の上にエプロンを着けたショートカットの女の子(アルバイトだろう)が、エレベーターから降りた僕達に気付いて元気に声をかける。

   アルバイト少女
   「いらっしゃいませ! あ、志保さん、こんにちは!」

   志保
   「こんにちは、夏樹ちゃん」

  ここの店員さんとは顔見知りらしく親しげに挨拶を交わすと、
  志保さんは一旦僕から離れて、カウンターの上の受付台帳に出鱈目な連絡先と名前をすらすらと書いた。

   志保
   「とりあえず1時間お願いね。それと、ドリンクはいつものを二つ」

   バイト店員の夏樹ちゃん
   「はい、いつものですね! お部屋は6番へどうぞ、ドリンクはすぐお持ちしま~す」

   志保
   「ありがとう」

  そう言って志保さんは再び僕の右腕に絡み付いてくると、フロアの少し奥まった位置にあるルームナンバー6の部屋へ僕を引っ張って行く。
  途中ふとカウンターを振り返ると、〝夏樹ちゃん〟と呼ばれた店員の子が、僕の方をニヤニヤしながら見ていた。
  しかし僕と目が合うやいなや、にこっ、と満面の笑顔(明らかに作った表情だ)になると、さっとカウンターの裏へ入って行った。
  その挙動に感じた何か言い知れぬ不安を拭おうと、志保さんに適当に話題を振る。

   俊章
   「・・・・・・本当に常連なんですね。あの子、夏樹ちゃん? とも親しげでしたし」

   志保
   「ええ、そうよ。それに、夏樹ちゃんは娘のクラスメイトでもあるの」

   俊章
   「えっ!そうなんですか!?」

  驚いた、夏樹ちゃんは見たところ上級学校生くらいだろうか、志保さんにそんな大きな子供がいるとは
・・・・・・
  ナンバー6の部屋のドアを開けながら、驚嘆の念を伝える。

   俊章
   「驚きました
・・・・・・、志保さん、あの子と同い年の娘さんがいるようには、とても見えませんよ」

  部屋は明度を押さえたオレンジ色の照明で照らされていて、その色のせいもあってか薄暗く感じる。
  壁際に備えられた、詰めれば7人くらい座れそうな 大型のソファの真ん中辺りに、二人で寄り添って座る。
  腕は絡められたままで、身体も密着したままだ。

   志保
   「あら、そう? 嬉しいわ うちの智香はもう19歳になったのよ」

   俊章
   「えっ・・・・・・? 志保さんは一体何さ
・・・・・・あっ、すみませんっ」

  お子さんが予想より大きかった驚きのあまり、志保さんの年齢について質問しそうになり、慌てて謝罪する。
 
   志保
   「ふふ、いいのよ。
・・・・・・俊章くん、女は見た目だけじゃ分からないものよ?」

   俊章
   「あははは
・・・・・・

  いつのまにか僕の事を〝俊章くん〟と呼ぶようになっていた志保さんから、少女のような悪戯な笑みを向けられて、僕は苦笑いを返す。
  彼女は自分の左腕を僕の右腕に絡ませ胸に押し付けながら、右手を僕の右足太腿に添えて、緩慢にそこを撫で回している。
  そして外では気付かなかったが、この狭い部屋で身体を密着させられるとはっきり分かる。
  香水か、ボディソープか、シャンプーか
・・・・・・、とにかく、何か彼女からほのかに甘い香りが漂ってきている。
  腕と太腿と臭覚を刺激されて、僕の股間の息子は半勃ち状態だった。
  ズボンの股間部分が微妙に盛り上がっている事に、志保さんはきっと気付いているだろう。
  もどかしい心地良さと恥ずかしさのせいで、会話が途切れたら理性を失ってしまいそうだった。

   俊章
    「でも、大丈夫なんですか? 日曜の昼日中に、街に出て男と腕を組んだりしてるとこ、娘さんの友達に見られちゃっても
・・・・・・

   志保
   「あ、それなら平気。言ったでしょう」

  そこで志保さんは不意に僕の耳元に口を寄せ、

   志保
   「〝よく来るの〟、って」 

  と、声のトーンを落とし、言い聞かせるようにゆっくりと囁いた。
  背筋にぞくっと何かを感じて、すぐに耳元から離れた彼女の顔を反射的に見遣る。
  すると彼女は、目を細めて唇を少し開けて笑っていて、さっきまでとはまるで違う、色気に満ちた表情をしている。
  少女のようだったり、大人の女性だったり、色々な表情を見せる志保さんに、僕はいよいよ本格的に魅力を感じ始めていた。

   俊章
   「あ、ああ、なるほど
・・・・・・、つまりあの夏樹ちゃんは」

  そう言い掛けたところで、ガチャッと勢い良くドアが開き、

   夏樹
   「いつものドリンクお待ち~!」

  グラスを二つ乗せたお盆を持った夏樹ちゃんが飛び込んできた。
・・・・・・この子はきっと、とてもフランクな性格なんだろうなぁ。
  薄茶色の液体といくつかの氷片が入ったグラスを僕と志保さんの前に置く。

  chapter104

   志保
   「ありがとう夏樹ちゃん」
 
   夏樹
   「ごゆっくりどうぞ~。あ、でも」

  一旦は部屋から廊下に出た夏樹ちゃんだが、何か思い出したように身体を捻り閉じかけていたドアの隙間から、ひょいと顔を覗かせた。
  そしてニンマリ笑うと声を潜めて

   夏樹
   「さすがにマズイから、ここでおっ始めたりしないでくださいね

  と言って、去っていった。
  確信を得た僕は、さっき言いかけた続きを口にする。

   俊章
   「つまりあの夏樹ちゃんは、〝協力者〟、なんですね。志保さんが色んな男性とここへ来るのを、見て見ぬ振りしてくれる」

   志保
   「ん
・・・・・・、まぁ、そんなところね。ここでちょっとお酒入れて、それからホテルへ行ったりもするのよ。
    普通のバーみたいなお店より、誰かに見られる危険性も低いから」

  そう言って、志保さんはグラスを手に取って口をつけた。
  つられて僕もグラスを取り、ぐいっと一口飲む。中身はジンジャーエールだった。

   志保
   「あ、それと一応言っておくけど、私ここで〝おっ始めた〟事なんて一度もないわよ?」

   俊章
   「は
・・・・・・はぁ・・・・・・

  憤慨気味な志保さんに、生返事を返す。
  僕にはどうでも良い事だが、彼女には重要らしい。
  男遊びはしても、所構わずサカる女だとは思われたくないのかも知れない。
  女心は分からない
・・・・・・





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