(´・ω・`) 2037年  晩春  某マンションの一室 (´・ω・`)


   眼鏡の女の子
   「あ~あ~、だから食事が済んだら食器はすぐに洗わないと~、また全食器の半分がシンクに洗われないまんま積まれてる・・・・・・」

  キッチンからブツブツと声が聞こえてくるが気にしない。

   眼鏡の女の子
   「シンクがほとんど埋まってるし
・・・・・・、この前も言ったでしょ? 使ってすぐ洗わないからこうなるんだって・・・・・・

  いちいち使う度に洗うなんて面倒な、溜めてから一気に洗えば手間が少なくて済む。それにその方が達成感がある。

   眼鏡の女の子
   「毎度言ってるけど
・・・・・・、これありのまま報告したら私じゃなくてお母さんが乗り込んで来るよ? お兄ちゃん」


  chapter101


  さっきから小言が煩いのは妹の瞳(ヒトミ)。
  僕が一人暮らしを始めてすぐの頃からずっと、母親の使いとして月に二度やって来ては暮らしぶりをチェックしていく。
  大学を卒業したてで親に仕送りを貰っていた頃ならともかく、
  今や親に頼らず立派に独り立ちしている、26歳にもなる息子を母親は未だに子供扱いなのだ。

   
   「ふぅ、キッチンは終了。次はそっち部屋だよ、ほらほら邪魔邪魔、出てった出てった!」

  洗い物の山をやっつけた瞳は、キッチンから僕の寝室兼仕事部屋にやって来て、
  「邪魔」と「出てった」を繰り返しながら部屋の主である僕をリビングへと追い出した。

   
   「うぁ~、またベッドの上とイスの上以外に足の踏み場が無くなってる
・・・・・・、なんでたった二週間でこの状態に戻っちゃうの・・・・・・?」

   部屋の主?
   「自分の部屋を自分が住みやすいようにしてるだけだ、その状態の方が落ち着くんだよ、僕は
・・・・・・

  毎週聞かされてすっかり耳タコのセリフに抗議しつつ、仕事の途中で追い出された僕はリビングで瞳の〝仕事〟が終わるのを待つ。
  いつもこの間は何故だか居心地が悪い
・・・・・・、ここは僕の部屋なんだが・・・・・・

  僕は高岡俊章(タカオカ トシアキ)、26歳。
  大学を卒業後、学生時代にバイトをしていた出版社の紹介で、在宅で翻訳の仕事をしている。
  あまり人付き合いというものが得意ではない僕にとって、限りなく理想に近い暮らしだ。
  初めの頃は親からの仕送りに頼ってワンルームマンションに住んでいたが、
  酒も呑まず煙草も吸わずギャンブルもしない、大して金のかかる趣味の無い僕は、生活に必要な支出以外の稼ぎをほとんど貯金していたので、
  この地域の不動産相場下落のおかげもあり、去年から築18年2LDKのマンション住まいだ(賃貸)。

   
   「うわぁっ、エロDVD触っちゃった!」

  僕の唯一と言っていい趣味をまた今週も瞳が発見したようだ。何だか失礼な悲鳴が聞こえた。

   
   「
・・・・・・あ、こっちにも、・・・・・・やっぱり人妻モノばっかりか・・・・・・・・・・・・ゲームまで人妻モノだらけ・・・・・・」 

  僕の唯一の趣味はいわゆる「寝取られ」「寝取り」「ビッチ」(これらのジャンルはネットでは似て非なるものと看做されているらしい)中出しモノのエロDVD鑑賞&エロゲープレイ。
  他のジャンルでも反応しないわけではないが、夫や彼氏のいる女性が他の男性と性的関係を持つ内容のもの、
  特に人妻が夫以外の男に抱かれ中出しされて悦ぶ様に、自分でもよく分からない、異常なまでの興奮を覚えるのだ。

   
   「
・・・・・・お兄ちゃん、部屋に篭ってこんなの見てばっかりいるから、彼女出来ないんだよ~?」

   俊章
   「
僕の勝手だろ、彼女作るなんて面倒くさい・・・・・・・・・・・・そういうお前はどうなんだよ? 大学で彼氏の一人くらい出来たか?」

   
   「余計なお世話でーす!」

  自分がしてるのは〝余計なお世話〟ではないとでも言うのか
・・・・・・

  瞳は、東都第二大学というこの国でトップ3に入る大学の医学部に通う学生で、現在21歳。
  学業の面では僕よりずっと優秀で、将来は間違いなく名医になるだろう。
  頭脳明晰な上に、腰まで伸びる艶やかなストレートの黒髪と、抜群のプロポーションを持つハイスペックな娘なのだが、
  野暮ったい眼鏡といつも地味な服装、そしてお堅い性格が、せっかく天から与えられたいくつもの長所を覆い隠してしまっている。

   俊章
   「眼鏡をコンタクトにして、もうちょっとオシャレな服装すれば、彼氏の一人や二人すぐ出来るだろうになぁ
・・・・・・

   
   「ええ、ええ、どうせ私は地味女ですよ、彼氏もいませんよ、声すらかけられませんよ、
・・・・・・あぁ、藪蛇になっちゃった」

  カウンターを受けてヘコんでいる瞳は、汚い物でも扱うかのように摘み上げていたエロDVDを、ぞんざいにベッドの上へ放った。


  2時間程をかけて、文句を垂れながらも片付けを終えると、

   
   「じゃ、お母さんには、とりあえず『お兄ちゃんはちゃんと真面目に生きてる』って報告しとくから」

  いつもの様にそう言い、僕が渋い顔で差し出した諭吉先生一枚をふんだくって帰って行った。
  片付けの報酬と、母親への報告を偽ってもらう事への賄賂を兼ねた諭吉先生。
  悠々自適な一人暮らしを母親の闖入で乱されたくない僕にとっては、そのくらい安いものだ。

  ふぅ、台風は今週も無事に去った。
・・・・・・さて、仕事を再開する前にエロDVDでも見て一発スッキリするかな。


  それから午後7時過ぎ頃まで仕事をして、夕食(と言ってもコンビニ弁当だが)の買い物から戻り、
  玄関ドアの新聞受けに突き刺さったままになっていた夕刊を抜いた時、
  僕はそこに新聞以外の物が入っている事に気付いた
・・・・・・





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