(ちぃーっ ! ……篤っくんがアッサリ賭けに乗った訳だわっ ! ……こりゃあ、ガッチガチの石部金吉だわねっ !? )
 ※ 石部金吉:いしべきんきち【日本国語大辞典】道徳的に堅固で、金銭や女色に心を迷わされない人。男女間の情愛などを解しない人。 ※

 そして愛莉は、さも今、眼が覚めたかのように伸びをして置きあがると、眠そうな声を作って言ったのだった。
「ふあ~っ……篤っくん、帰ってきたのぉ…… ? 」
 部屋の戸から身体が半分廊下に出掛かっていた賢一は、その声に、びくんっ、と身を竦ませて答えた。
「あ、あああ、あの……ぼ、僕…け、賢一です…」
「あ、あら…や、やだあ、あたしったら……ぱ、ぱんつ…み、見えてた…かな ? 」
 取り繕うようにベッドから滑り降りた愛莉が、わざとらしく短いスカートの裾を引っ張って見せた。


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「あ、あ、あの……あ、愛莉さんですよね ? 」
「え、ええ……確か賢一くんよね ? ……久し振りだね……」
「あの、篤くんは ? ……僕、篤くんに呼ばれて来たんだけど…… ? 」
「あっ……ええと…………そ、そう……な、なんかね、賢一くんに渡すものがあるって言ってた…かな……だ、だけど、お母さんに…か、買い物をさ……た、頼まれて…」
 愛莉が必死に話を作って言い募る。
「参ったなあ……電話では急いで来いなんて言ってたくせに……出直した方が、いいかなあ ? 」
「ま、まあ…ゆ、ゆっくりしてってよ……あはっ……あたしの部屋じゃないけどさ……ど、どうぞ坐って ? 」
 篤の勉強机の椅子を引いて薦める愛莉だった。ここで帰られたら折角の苦労が水の泡だ。
 困ったような顔をしながら賢一が椅子に坐ると、愛莉もベッドに腰を降ろした。
 それから、互いの学園の事などを、ぽつ、ぽつ、話しながら愛莉は誘惑する口実を考えていた。
「そうだ……あのさあ……賢一くんなら知ってるかなあ ? 」
 愛莉はベッドから降りて賢一の前に立つと極上の笑みを浮かべて訊いたのだった。
「な、何をでしょう ? 」
 些か緊張気味に訊き返す賢一に愛莉が、ずばり、と訊いた。
「篤っくんの『えっちなご本』の隠し場所っ ♪ 」
「ひぇえええっ !? 」
 賢一が慌てて視線を逸らせた。
(これは、知ってるなあっ ! )
「し、し、知りませんっ ! 」
「うっそっ ! ……男の子同士の、そういう庇い合いって、好きくないぃ ! 」
「い、い、いえ……そ、そんな訳じゃ……」
「あたしね……篤っくんが『どんなえっちが好みか』知りたいのよぉ ! ……判るでしょう ? 」
「ふぇ、ふぇええっ !? 」
 賢一が奇妙な声を洩らして視線を泳がせた。


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(もう一押し……かな ? )
「ほらあ……次に篤っくんとえっちする時にさ……どんな体位が好みか、とか……どういうシチュが好いのか、とかぁ……知りたいのよぉ ! 」
「つ、つ、次に……え、エッチする……と、時って……」
 あからさまに動揺した顔を見せる賢一に、ここぞ、と愛莉が畳み掛ける。
「うふっ ♪ ……教えてくれたら、イイことして…あ・げ・るっ ♪ 」
 賢一の肩に手を置いて顔を覗き込むようにして愛莉が艶かしく囁いた。
 ますます視線を泳がせて頬を染めた賢一が小さな声で呟いた。
お、押入れの中に……
(げえっ !? ……そ、それはマジやばだわよっ!)

「あ、ああっ ! ……お、押入れは…さ、さっき探したから……あ、あんまり…す、凄いの…な、なかった…みたい……」
 慌てて言い繕う愛莉を、いや愛莉のスカートを、ちら、ちら、盗み見るようにして賢一が言い淀む。
(おおっ ! ……これは脈あり…かな ? )
 賢一が(ノーパンらしい)スカートに気を取られているのを勘違いした愛莉が、ちらっ、とスカートを翻した。
「ねえん……知ってるんでしょぉ ? 」
 何しろ愛莉はショーツを脱いでしまった事などすっかり忘れていたのだった。


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「そ、そそ、それなら……あ、あの……た、確か……そこの古い教科書の裏側に……」
 賢一が書棚の一番下の段の手前に無造作に積んである古い教科書の山を指差した。
(お、おい、こらっ ! ……な、なんで賢一がそれを知ってんだよぉ !? )
「ふ~ん……古い教科書の裏っかたとは、考えたモノねえっ ! ……そんなトコ、誰も触らないモンねぇ ? 」
 愛莉が、にや~っ、とほくそ笑んでその古い教科書を退けたのだった。
「あはっ ♪ ……あった、あったっ ♪ 」
(あ、愛莉ぃ ! ……そ、それは俺のお宝なんだよぉ !? )
 押入れの中で身動きもできない篤が悔しそうに呻いていた。
 一方、取りだした『篤のお宝』を調べていた愛莉が頓狂な声をあげた。
「ああっ ! ……や、やっぱりぃ !! ……巨乳モノばっかじゃないぃ !! ……篤っくんって、やっぱり『おっぱい星人』なんだぁ ! 」
「お、オッパイ星人って……あ、愛莉さんっ !? 」
 いきり立つ愛莉のスカートが揺れるのに視線を奪われながら賢一が訊き返した。
「だってぇ、聞いてよ賢一くんっ ! ……今日だって、丹紀ちゃんが……あっ、『丹紀ちゃん』っていうのはあたしの親友なんだけど……」
「ああ……あの…し、知ってます……」
「あら ? ……会ったコトあったっけ ? 」
「い、いえその……ま、前に…しゃ、写真を…み、見せて貰って……」
「そう ? ……ああ、それよりね、今日だって帰りに丹紀ちゃんがこうやって手を振ったら…あっ、丹紀ちゃんってさ、あたしよりおっぱいが大きいのよね……だから手を振るとおっぱいが揺れるのよぉ ! ……それを篤っくんたら、ヤラシイ…眼で……み…て……たの…よ……ん…ん ? 」
 気がつくと、丹紀の動作を真似て手を振った愛莉の胸元を賢一が見詰めていた。
「や、やだ……あ、あたしも…ゆ、揺れた… ? 」
「は、はは、はいぃ……す、少し……」
「『少し』ぃ…… ? 」
 自分で丹紀の方が大きいから揺れるのだと言っておきながら、『少し』と言われて不満そうに訊き返した愛莉だった。
「あっ……い、いえ…あ、愛莉さんも…け、結構……ゆ、揺れました……」
「そ、そう ♪ …………ああっ…それより問題はこの巨乳モノばっかのエロ本よぉ !! ……ってえ ? …ナニ、このタイトルぅ…『風紀委員長は肉便器』ですってぇっ !? 」
 丹紀は『風紀委員』ではなかったが『風紀委員』であった。
(や、やべっ !? )
 押入れで竦みあがった篤に更に『ヤバイ』事が起こったのだった。
 そのけしからんタイトルのエロ本を、ぺら、ぺら、捲り始めた愛莉の手元から挟んであった写真が零れ落ちたのだった。
「え ? ……な、なに ? 」
 足元に散らばった写真を見た愛莉の顔色が、みるみる、怒りに染まった。
「な、な、なんで……丹紀ちゃんの写真が、こんなにぃっ !? 」


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