小一時間前、愛莉が篤の部屋に入るなり言ったのだった。
っくんたら、さっき丹紀にきちゃんをヤラシイ眼で見てたでしょっ ! 」
「な、ナニ言いだすんだよっ ! 」
 篤は少し視線を泳がせて、それでも精一杯惚けて見せた。『丹紀ちゃん』というのはクラスメートでもある愛莉の親友である。
「ほらぁ ? ……いまあっ、動揺したぁ ! ……男子って、女子なら誰かれ構わず欲情するのよねっ ! ……しかも、彼女の親友に欲情するなんて、さいってーっ !! 」

「ば、バカ言ってんじゃねーよっ ! ……彼女の親友に欲情するなんて、それじゃまるで変態だろっ ? 」
 何しろ、愛莉は筋金入りの『焼き餅やき』なのだった。篤が丹紀の制服の揺れる胸にちょっと見蕩れただけでこうなのだ。
「どうだかね~ぇ ? ……例えばぁ……そうよ、丹紀ちゃんと部屋の中で二人きりになったら、篤っくんなら速攻で押し倒しそうっ ! 」
「なっ !? ……お前なあ、焼き餅もいい加減にしろよっ ! ……そ、それなら、ここへ丹紀ちゃんを呼んで……お前、押入れにでも隠れて見ていろよっ ! 」
 売り言葉に買い言葉で篤がそう言うと、愛莉が少し考えてから言ったのだった。
「それじゃあ、賭けをしましょう ? 」
「えっ !? ……か、『賭け』って ? 」
「賢一くんだっけ ? ……篤っくんの親友の彼をここに呼んでよっ ! 」
「な、なんだよ……それっ ? 」
「押入れに隠れるのは篤っくんの方よっ ! 」
「な、何でそうなるんだよ ? 」
「篤っくんは、親友の賢一くんがあたしに ―― つまり親友の彼女に ―― 欲情したりしないって信じてるんでしょ ? 」
「だから、何でそういう話になるのさっ ? ……丹紀ちゃんをこの部屋へ呼ぶって話だろ ? 」
 話が逸れたように感じて篤が訝しそうに訊き返した。
「ばっかじゃないっ ? ……あたしが隠れて覗いてるのが判ってて篤っくんが丹紀ちゃんに手をだす訳がないでしょ ? 」
「あっ………… ! 」
 確かにそんな莫迦な事をする男は居ないだろう。勿論、そんな事をすれば絶交では済まないに違いない。
「だからぁ……篤っくんの親友があたしと二人きりで居ても欲情しなかったら、篤っくんの事も信じてあげるわよ ? 」
 一瞬、眼が点になった篤だったが生真面目で通っている親友の賢一の顔を思い浮かべて答えたのだった。
「…………わ、判ったよっ ! ……だけど、『賭け』とどう繋がるんだよ ? 」
 すると愛莉は、にま~っ、と笑って言ったのだった。
「賢一くんがあたしに手をださなかったら、篤っくんの勝ち ! ……その時は、篤っくんの言うコト、な~んでも聞いて、あ・げ・るっ ♪ 」
「ほ、ほ、ほ、ホンとウだな ? 」
 篤が勢い込んで訊き返した。声が裏返っていた。
「その代わりぃ……賢一くんがあたしに襲い掛かったら……篤っくんは、一生、あたしの奴隷になるのよっ、いいっ ? 」
「…………い、いい、一生ってのは……ちょっと…なあ…」
 躊躇ためら いを見せて返事を濁す篤に愛莉が嘲るように言った。
「なによぉ !! ……やっぱり自信ないんだぁ ? 」
「そ、そんなコト言うんだったら……お、俺が勝ったら、愛莉も……い、一生……お、俺の『肉便器』にしてやるからなっ !! 」
「ひぃ !? ………………や、やっぱ……い、一生は…な、長い…かしらね……」

 愛莉が些か怯んだように言い直した。
「……い、一ヶ月……で…ど、どう ? 」
「い、一週間に……し、しようぜ ? 」
「そ、そそ、そうね……それくらいが…だ、妥当なトコ…かしら…………そ、その代わり……い、一週間みっちり奉仕させちゃうんだからねっ ! 」
「お、おお…お、俺だって……あんなコトや、そんなコトを…………よ、よしっ ! …い、いいだろうっ ! ……その『賭け』乗ったっ !! 」
 何ともセコイ押し問答の末に、『一週間だけ』互いを『好き勝手にする』事で賭けが行われる事となったのだった。
「ふふん ♪ 」
 早くも勝利を確信したように鼻で笑う愛莉に些か不安に駆られた篤は慌てて付け加えたのだった。
「あっ……ああっ……て、手を握る……く、くらいは……襲い掛かった、内に…は、入らない…からな ? 」
「あったりまえじゃないっ ! …手を握るとか、キスとかで、一々『襲い掛かられた』なんて、言う訳ないでしょお ? 」
 呆れたように答える愛莉に少し途惑う篤だった。
「き、キスは流石に……」
「なによう、キスなんて挨拶みたいなモノじゃないっ ! ……キスぐらいで、おたおた、するなんてばっかみたいっ ! 」

(そ、そうかぁ ? ……し、しかし…まあ、それだけ許容範囲が広がると考えれば……)
「そ、それなら……ど、何処までしたら……『襲い掛かった』コトに…なるん…だよ…」
「……そうねえ……手を握ったりキスするのはさっきも言った通り『挨拶』だしぃ……胸を触るくらいはスキンシップの内よね ? 」
「お、おぉ……そ、そうだよ…な…」
 よくよく考えれば、丹紀の胸を見ただけで焼き餅を焼いた愛莉が『胸を触るくらいはスキンシップ』もないだろうが、それだけ自分の勝ちに繋がる許容範囲が広がる事に、篤は複雑な心境で頷いたのだった。
「まあ、あたしがぱんつを脱がされたら、篤っくんの負けね ? 」
 さも可笑しそうにそう言う愛莉に、篤が気色ばんで言い返した。
「ちょ、ちょっと待てよっ ! ……まさかそんなコト言って、お前……じ、自分でパンツ脱いで『あたしの勝ちぃ ! 』………と、とか、言わないよなっ ? 」
「ば~かっ ! ……そんなセコイ引っ掛けする訳ないじゃんっ ! ……それじゃあ、こうしましょう ? ……あたしがおまんこに挿入されたら……『篤っくんの負け』ね ? ……それなら、文句無いでしょ ? 」
「お、おおぅ……さ、流石にわざと…そ、そんなコト…で、できない…よな… ? 」
 何故だかどんどん深みに嵌まって往く気がした篤だった。

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