ドアをたたく手 雑誌のライターをしている人で主に在宅で仕事をしているんだが、 締め切りを守らないこととお金を持つとパチンコに通うことで有名だった。 当然借金もある。 まあ、軽く六桁だと本人は言っていたがもっとかもしれない。 そんな人物なので、彼の家にはインターフォンがなかった。 いや、あるんだが音を切っている。 借金取り対策だが、その代わり激しくドアを叩く音がたまの電話の向こうでも聞こえていて、 どっちがうるさいんだかわかりはしない。 宅急便などは不在届を受け取って自分で引き取りに行く。 家賃や公共料金などは事情をよく知る社長がギャラから払い込んでやっていたらしい。 なので、かろうじてアパートは追い出されずにすんでいたし、最悪水は飲めていた。 そんな彼の生活はさておき。 ある夜のこと。 ドアが激しく叩かれた。 午前二時は過ぎていただろうと思う。 借金取りなら昼夜は問わないので気に留めずにいたが、妙なことに気がついた。 ドンドンドンドンドンドン! ガリガリガリガリ ドンドンドンドンドン! ガリガリガリガリ 明らかに、ドアを引っ掻く音がする。 今までの取立てからすると異質だ。 玄関口に出ることもできず、動くことさえできず。 気がつけば夜が明けていたそうだ。 昼近く、恐る恐る外に出た彼が見たのは、 玄関先に剥がれ落ちた数枚の爪とドアについた血の筋だった。 TOP |