助けを求める窓


優子の姉の香苗さんは旅行会社のツアコンをしている。

福井県に行った時のこと。
運転手二名、添乗員二名のバス二台のツアーだった。
香苗さんは三年先輩の京子さんと組んでいた。
宿泊先は県内ではそれなりに有名なホテルで、添乗員用の部屋がある場所だったが、
その部屋は少々変わっていた。
シングル程度の広さの部屋の壁際にベッドがあり、L字になるように窓際に簡易的なソファベッドがあった。
部屋に入ると、京子さんは香苗さんに言った。

「悪いけど、窓際に寝てくれる?」

ソファベッドの方が寝心地が悪いからに違いない。
そう納得して、香苗さんはソファベッドに寝た。

ところが、夜中。
二時ごろだったろうか。

コンコンコンコン……

窓を叩く音がする。
気のせいかと思ったが、また音はした。

コンコンコンコンコンコン……

ところがだ。
その添乗員部屋は五階にあり、ベランダもない。
ありえないことなのだ。
しばらく動けずにいると、今度は

ドーンドーンドーンドーン!

ととんでもなく大きな音がした。
慌てて京子さんを見るが、起きる気配はない。
その間にも音は鳴り続けている。
恐ろしくなって京子さんを起こそうとベッドから降りた瞬間に、音は止んだ。

今のはなんだったんだろう?

恐ろしくはあったが、音が止んだ以上は京子さんを起こすわけにはいかない。
もう一度ベッドに潜りこんだ香苗さんがうとうとし始めた頃、また音がした。

コンコンコンコン……

もう、恐ろしくてたまらない。
音は、どんどん早く大きくなっている、

コンコンコンコンコンコン……

もう限界だった。
京子さんを起こそうと香苗さんがベッドを降りたその瞬間。

ドーンドーンドーンドーン

とんでもない音が響く。
泣きながら京子さんを起こすと、彼女は寝ぼけ眼で言った。

「またなの?」

その音は、窓際のベッドで眠ったときだけ聞こえるそうだ。
壁際では聞こえないという。

後日、こんな話を聞いた。

添乗員部屋がある新館が立て変わる前の話。
そこには古い従業員の寮があった。
そこで小火が起こったとき、不運にも一人部屋に残っていた女性従業員は逃げようとしたが、
熱膨張でドアが開かない。
必死に窓を破って出ようにもその窓はワイヤーが入ったタイプのもので、
女性が破れる代物ではなかった。

結局彼女は、最後まで窓を叩きながら死んでいったのだという。


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