ロゼの手を引き、寝台から起こすとエディに蹴り飛ばされた男は殴られたところを押さえながら
懐にしまいこんであった一本の犬笛のような思いっきり吹く。
「曲者だ!!であえーー」
耳の良いエディは足音がまっすぐと
こちらに向かってくる音が聞こえてくるとロゼの手を握りこの場を離れる。
「やべっ、こっちだ!」
こんなところで問題を起こして、官吏になる前に犯罪者として捕まるわけにはいかない。
そんなことになったら試験にも受けられず
ロイの嫁にならなければいけない運命しか待ってなく
まだ努力して得た実力を使ってもいないのに終わるなんて絶対に嫌だ。
「どうしました!!グラマン将軍」
いち早く駆けつけた兵士は赤く腫れた頬を押さえているグラマンに一瞬驚く。
「曲者だ!!もしかしたら誓妃様を狙ったの賊かもしれん、見つけ次第始末しろ!」
疑問はあったが命令を受けたからには実行しなければならずグラマンの言う通りに動き始める。
「はっ!!」
宮殿内にいる全ての兵士は金色の髪をした少年と
茶色の髪の少女の二人組の大捜索が始まった。
「なんだ・・・?」
慌ただしく動く兵士達の姿に話をしていたヒューズとロイも気付いた。
しかしそれよりも困った事態が発生したため、興味はない。
「まいったな・・すでに合格する官吏が決まったというのは・・・」
頭は決して悪くない合格者達だが彼らには
上層部のお偉いさんの血が流れていてこれがどういう意味なのか
政治に関して全くの無知な人間でもすぐにわかる。
試験は開始されることもなく終了し
エディとアルは何の試験も受けていないのに不合格として
リゼンブールに帰るという選択を押しつけられたのだ。
「今この宮廷で・・誓妃と繋がっていないものは何人いるか・・。
それにいくらなんでも可哀そすぎるぞ」
試験に絶対に受からなければ勉強をしていた二人の背中を見ていた
ヒューズはこのことを伝える気にはなれず、次の試験も恐らくは正当な試験もないままに
終わってしまう確率は高くそうなると10歳以上も歳の離れたオジサマのところへ
お嫁に行くことになるエディが不幸すぎる。
「わかっている、しかし・・相手が誓妃となると・・難しい。
・・・新しい王でも誕生すれば解決はするが」
ロイが何を言いたいのかヒューズはすぐにわかった。
この国の腐敗を止めるためには、何百年と続いた政権を破壊し
新たな王が必要だと。
「無理だって、俺やお前でも無理だったんたぞ。
・・誓妃の息子に抜けなかったのが救いだが・・知るのは神のみだぜ、ロイ」
ヒューズでも、ロイでも無理だった。
王になるのが?誓妃に負けない力をつけられる方法がまるであるかのような話だったが
残念ながら、ある条件をクリアしなければ・・・・・・王にはなれない。
「おい・・・大丈夫か」
「えぇ・・・ありがとう・・」
見つからないようにしながら宮殿を抜け出す作戦を取ったのだが
入った時のように簡単にはいかなくなった。
兵士の人数も多くなってきたし、エディ一人ならともかくロゼがいる。
普通の少女並みの身体能力しか持たないロゼは脱出路を制限し
逃げるよりも兵士達の動きが落ち着くまではじっとしてい方がいいと二人、身を隠していたが
力ずくで押さえ込まれた恐怖にロゼの震えは未だに止まらない。
(顔色もあまり良くないし、どこか安全な場所に隠れた方がいいかも・・)
そう思うエディだったが宮殿内に人のいないところなんてあるのかと
少しだけ顔を出したところへ運悪く兵士に見つかってしまう。
「いたぞーーーー!!」
大声を出し、仲間を呼ぶ兵士。
エディはロゼの手を引き、走り出す。
暫く走っていると作りの違う細長い建物を見つけると其処へと向かって走る。
「あそこだ!!」
何故かはわからない・・まるで惹かれるようにエディは建物へ。
しかし厳重に、よほど大切なものが入っているのか
何重にも鎖に巻かれ施錠されていて一時は諦めようかとも考えたが。
「何処だ!!」
「こっちにはいなかったぞ!!」
兵士達の声がもうすぐそこまで近づいてきている。
「やばい!!こうなったら・・力ずくで!!」
エディが鎖を強く握った瞬間、あり得ないことが起きた。
鎖が、まるでエディの手に反応するかのように
ヒビ割れが走ると砕けて扉を守るものを消してしまった。
「貴方・・・何を」
ロゼは隣にいるエディを見るが、エディにはそんな神業的な隠し芸など
もってはおらずそれどころか自身も驚きだ。
「ちっ・・違う、俺じゃ・・・」
きっと鎖が悪かったかだと否定をしたかったが兵士達の姿を見て二人は中へと入り、奥へと走り出す。
すぐに追いかけてくると思っていたのに足音も、気配もない。
「どういうことだ・・・」
この建物に問題でもあるのかと、薄暗い・・はっきりと何があるのか
わからない建物の内部を見ながら進むと立派な銅像がずらりと
並べられているだけでエディには何故彼らが入ってこないのか理解ができない。
「何だと!!大神の社へ入っただと!!」
手当を受けた後、グラマン自ら指揮を取り賊退治に出ると
兵士達からエディ達の最新情報を教えられた。
「はい・・我々はあそこには立ち入ることは・・」
兵士のような、一般の民衆・・それどころか将軍すらも迂闊に入ることの許されない神宮。
エディの方は別に逃げたところで、特に何とも思わないが
妾にするつもりで買ったロゼは捕まえ置きたかった。
ようやく今日、隅々まで触れてやろうとしたのにとんだ邪魔者が入ってしまい
モノにするどころか逃げ出されて、このままだと二度と手の届かない場所へ逃げ出されてしまう。
(口を出しそうな将軍は反乱を押さえに出ている・・・)
告げ口のないように他の者には口止めをするばいい。
まずは最初に邪魔をしたエディを始末しようと細かい飾りの施された剣を握ると、大神の社へと向かう。
「ここなら安全だな・・・」
神宮の奥まで入ってきたエディ、すると天井が円形にくり抜かれた不思議な部屋に辿りついた。
よく見ると壁一面に剣が突き刺さっているという変な光景が目に入る。
「何・・・これ」
異質な光景にロゼはエディに寄り添うように近づく。
恐怖を一切感じなかったのか、エディはそのうちの一本を突っついてみる。
「石みたいに固まってる・・?変な部屋だけど剣も・・・」
背後に大きな影が現れるのを指し込んだ太陽の光が教えてくれた。
エディは隣にいたロゼをわざと突き飛ばすと数秒前まで二人がいた場所に剣が下ろされた。
「見つけたぞ!!ガキめ」
ロゼに乱暴をしていた男だとすぐにわかり、エディは構える。
「あんたか!!こんなところまで追いかけてきやがったのか!!」
「私のモノを返してもらう」
人であるロゼをモノと言ったグラマンの言葉にエディはカチンとくるものを感じる。
「この国では奴隷制度は先代の王で廃止された!!将軍とはいえ捕まるぞ!」
「それはありえない、私はか弱き民衆どもを守る将軍だ。
何の役にも立たないモノをどう扱おうが私の勝手だ。
そもそも・・私が悪いのではない其処の娘が悪いのだ・・・・・・・・何にもできないから」
ロゼはそう言われて、私にもできることはあると言えなかった。
家族が死んだ時も、何もできなかった。
恋人が死んだ時も、ロゼが保証人だったために
借金を代わりに背負わされて何も持ってないから売り飛ばされて
多くの人間を守るグラマンの慰み者にでもなった方が
世のためなのかと気持ちが自傷的になっていたが。
「ふざけんな!!」
エディの言葉が、それを否定する。
「何もできないここが悪いわけないだろうが!!
普通で平凡な国民・・そんな人達が暮らしている場所、それが国だ!!
力がないから、力のあるお前に、どう扱われようと自由だなんて考えるお前は
上に立つべく資格ではない!!」
近くにあった剣を掴むと、力を込めて地面から引き抜こうとする。
清らかな風がどこからか・・吹き始めた。
それはエディの髪をまず揺らし・・ロゼの髪・・・そして神宮そのものを揺らす。
「まさかっ・・・お前」
「おりゃああああああっ!!」
白い亀裂が剣に入ると、錆びついた使い物にならないはずの剣から何かが生まれようとしていた。
「ロイ!!見ろ」
大神の社でグラマンと賊が戦っていると聞いて現場に来たヒューズとロイが見たものは
空高く白い光り柱が上がる瞬間だった。
「・・・・・!!」
周りにいた兵士達は、開いた口が塞がらず、その光景は首都に住む多くの人間によって目撃され
この国の腐敗の原因である誓妃も、見ていた。
強い風が舞う中、エディの眼は空ろな色だったが
やるべきことはわかっていたのか剣の先をグラマンに向ける。
「はぁぁっ!!」
エディはそのままグラマンの剣を真っ二つ
勢いはそれだけで収まらずグラマンは壁に吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅ・・」
強い衝撃はなまっていた身体にはよく効いたのか、すぐには立ち上がれない。
目撃者のロゼは、グラマンとエディを交互に見た。
下からの風によってエディの髪は揺れ動いており・・
身体も淡く輝いてまるで神様が降臨したかのような神秘的な光景。
「おい、何が・・・」
社内に入ってきたロイ達が見たのは、エディ・・しかしいつもは明らかに様子が違う。
さらに手には剣も握られている。
「・・・ロィ・・・マ・・・スタング」
小さく呟くとエディの身体は崩れるように落ちるとロイはエディの身体を受け止める。
「一体・・何が」
気を失っているエディの、小さなその手には
エディには少々大きめではないかという剣が握られていた。
「これは・・・・・!!」
滅多に感情を表に出さないロイが、驚きを含めた声を出す。
薄く黄金に輝くその剣、そしてこの場所。
気を失っても尚、離そうとしない剣が意味するものは・・・。
「今の政権を破壊する・・新たな王は君だというのか・・・・」
こんなにも小さな少女が・・・誰もが待ちわびた王に選べれるなんて。