(いつか見た未来。
子供は2人いて、綺麗な嫁さんが隣にいる。
車も家もそんなに高価な物でもないが、
庭もあって幸せな家庭。
俺はサラリーマン。
ネクタイ締めて、電車に揺られて出勤。
家に帰れば家族が温かく迎えてくれる・・・。
しかし、そんな妄想はすぐに打ち下された。
痴漢ハンター佐山、奴の起こした冤罪事件。
母親は家族を捨て、父親は全てを取り戻そうとしての過労死。
冤罪事件が起きた時から、俺の人生のベクトルは
痴漢人生のバッドエンドルートへと着実に歩みを進めている。
犯罪を起こす人間が悪いのか・・・?
しかし、正義の名の下にやりたい放題やっている人間は正義なのか?
冤罪は犯罪ではないのか?
飲酒運転ではクビになるが、性犯罪では停職止まりの公務員は?
きっと、こんな社会が悪いんだ・・・。
勝った方が正義、俺たちを陥れる人間たち・・・、
例え奴らが正義で俺たちが犯罪者でも・・・きっと最後に立っている者が正しい。
この戦いで決まる・・・。この人生も正しかったか、俺たちが正しかったということを・・・)
「寺田、おい寺田!!」
伊藤の声に気づき、寺田は目を覚ました。
「ここは・・・?」
「ここは?じゃないよ・・・。ここは俺のアパートだ。
今日から俺たちに喧嘩を売っている奴らを狩りに行くんだろう?」
伊藤はハァっとため息をつき、呆れ顔で言った。
「そうだったな・・・。皆は?」
「もうそれぞれ出かけたよ。俺たちも出ようぜ」
寺田はすぐさま起き上がり、顔を洗って玄関へと向かう。
「寺田、携帯!!」
が、携帯を忘れ伊藤に呼び止められた。
「しっかりしてくれよ?携帯忘れたらスーさんと連絡どうするんだよ?」
「悪いな」
(言い出した俺がこれではな。迷っている暇じゃないな・・・)
寺田は気を引き締めなおし、伊藤と夜の街へと繰り出した。
「そういや、スーさんは4人は捕まるって言ってたんだろう?」
「そうだが、どうした?」
「いや・・・俺と寺田、拓とゴリ、チョロで行動しているんなら、1チーム足りないだろ?
「ああそのことか・・・スペシャルゲストを呼んであるんだ」
そう言いながら、寺田はニヤニヤ笑いながら続けた。
「今回はマンタローの奴を呼んである」
「マンタロー・・・?ああ、チン肉漫太郎か!!」
最初はピンとこなかった伊藤だったが、
思い出したとたん、テンションがMAXに上がっていた。
「思い出したか?15年前は協力してくれなかったがな、
今回は漫画喫茶ということで快く協力してくれたよ。」
「そうか、そうだよな。マンタローは漫喫やら個室専門の痴漢師だったよな。
15年前は個室じゃないと聞いたら、即答だったな〜。
キン肉マンマニアで、キン肉マンの息子、キン肉万太郎をパロって
チン肉漫太郎って名乗ってたるくらいで、
チン肉バスターやらチン肉ドライバーやら、
キン肉マンの必殺技にちなんだ変態技が多かったよなぁ!!」
2人はマンタローのことを思い出しながら、爆笑していた。
痴漢師には通り名にちなんで特徴があるものだが、
このマンタローはそんな痴漢師たちの仲でも
突出した個性があり、四天王にも近い知名度と
シェイクヒップチャンネルでもネタにされる率が
多いのであった。
伊藤はよじれる腹を抑えながら、話を続けた。
「腹痛ぇ〜、まぁ冗談抜きに奴らなら漫画喫茶は網羅しているし、
色々な店でのネットワークも広い。
これは凄いゲストだな。これぞスペシャルゲストってことか」
「その通り、これほどの戦力はないよ。
かつての百鬼たちはバラバラになってしまったが、
こうして新しく力になってくれる奴もいる。
本当にありがたいことだ。
仲間というものは、本当にいいもんだと思うよ。」
寺田はしみじみと、仲間の良ささを語った。
「そうだよなぁ・・・、ま、へのつっぱりはいりませんけどね」
「コイツー!!真面目な話をしているところにー!!」
寺田と伊藤はしばし談笑をしながら、目的地へと向かった。
「痴漢王は・・・死ぬべき。痴漢王たちは・・・今新たな痴漢のために・・・××町を・・・」
なれないタイピングで、誹謗・中傷と個人情報を
シェイクヒップチャンネルへと書き込む女性の姿があった。
彼女の名前は雨宮千鶴、15年前、自称高校生探偵として佐山事件に関ったが、
拓とゴリにより捕まり、犯されてしまっていた。
犯されたことを恨み、寺田を社会から抹消しようとする組織より、
この仕事を請け負っていたのだ。
「ふう、こんなものね。あれから15年も経ったのね・・・」
(今でも思い出すと、体が熱くなる・・・。
あの時の責めのせいで、満足いくSEXなんて味わったことないからかな)
雨宮の下着には、うっすらと染みができ始めていた。
拓の媚薬、ゴリの巨根。
普通の生活をしていれば、そんな素晴らしい快楽を与えてくれる者などいない。
最高の快楽を味わえたことが良かったが、それ以降同じ快楽を与えてくれる者が
いないことによる欲求不満、それが苛立ちとなり
寺田への恨みと変わっていったのだ。
「私も30歳を超えちゃったもんな。どこかにいい男でもいないかしら・・・」
「うへへぇぇ、ここにいるぜ」
「え?」
最初は幻聴かと思った雨宮だったが、振り返るとあの時のあの2人が
後ろに立っていたのであった。
(どうして・・・鍵は・・・んぐ?)
考える隙を与えず、ゴリはすぐさま雨宮の後ろをとり、口をふさいだ。
「うへぇぇ、さわぐんじゃないぞ」
「さすが、伊藤って訳か。このぐらいの鍵なら1発だな」
雨宮の頭の中の疑問は、拓が答えてくれた。
伊藤は事前に簡単な鍵ならほぼ開くような、万能鍵を作成していたのだ。
拓は嬉しそうに鍵をチャラチャラとまわしていたが、
それを止め、怒気をあらわに雨宮に問いかけた。
「さて、とりあえず久々だな小娘。今じゃ、すっかりケツのデカイオバサンのようだが。
まぁそんなことはどうでもいい、誰の指示か吐いてもらおうか!!」
雨宮はおびえた様子を見せたが、ゆっくりと首を横に振った。
拓はその様子を見て、顔の血管をピクピクとしながら試験管を取り出した。
「お前を殺すことは、ゴリにとっては簡単なことだろう。
しかし、残念ながら殺人になるからなぁ。でもこの薬を使えばすべて解決。
覚悟してもらうぜ?俺たちに喧嘩を売った代償は高くつく・・・」
恐怖で支配された雨宮に、拓はゆっくりと歩み寄った。
「聞いてないぜ!!確かに、男に当たる確立があるって言ってたけどよぉ!!」
一方、噂のマンタローは必死で追ってから逃げながらスーさんに連絡していた。
「分かった、とりあえず、チョロに応援に行かせる!!それまで持つか!!」
「知るか!!」
マンタローは半べそをかきながら、スーさんとの連絡を絶ち、
入り組んだ狭い路地を走り抜けていた。
(ここら辺は俺の庭、捕まるわけが無い。しかし・・・奴らがこの一件に絡んでいたとはよ・・・!?)
「ぐはぁ!!」
路地を抜けようかという瞬間、出会い頭にマンタローは拳を喰らい、地面に倒れこんだ。
(しまった、仲間か・・・挟まれた)
敵は、仲間を呼んでいた。
彼らも裏の世界で生きる者たち、ここら辺の地理は熟知していたのだ。
「よう有名人、お前、マンタローだろう?」
拳を喰らわせた男が、マンタローに話しかける。
「これは光栄だね。あんた等みたいな組織の者に知られているとはね」
「そりゃそうさ。キン肉マンマニアで良く
シェイクヒップチャンネルでネタにされてるからな。
そうだ、キン肉マンにちなんでこういうのはどうだ?」
そう言うと男がラリアットの構えを見せる。
マンタローは何かを感づき、後ろを振り向いた。
すると、後ろの男も同じ構えを見せる。
(コイツは・・・クロスボンバー!?)
「気づいたようだな?」
驚愕の表情を浮かべたマンタローを楽しそうに見下ろし、
男は続けた。
「クロスボンバー、俺は完璧超人ってのが好きでな、
この技で正義超人が次々と刈られていく様がとても好きだった・・・。
さぁ、覚悟を決めな・・・立て!!」
どちらにしてもやられる運命、そう感じたマンタローはしぶしぶ立ち上がった。
(しょうがない、やるしかないか・・・。
しかし、ありがたいことに俺の懐には、電マークU快!!が入っている。
伊藤に頼んで電気が走るようにしてもらったからな。
全快にすればスタンガン並みにはなる!
股間にイチモツ!!手に電マ(荷物)だぜ!!)
マンタローは一か八か、電マに仕込まれた電気で
相手に向かうことを決心した。
「いくぜ、生きいてたら痴漢王なんて奴とつるむのは止めて、足を洗いな!!」
正面の男が動き始めると、後ろの男もそれに合わせ向かってくる。
伊藤は懐から瞬時に電マを取り出し、正面の男に向けて突いた。
カーン!!
次の瞬間、乾いた音がした。
電マは男に蹴り上げられ、中を舞う。
(馬鹿な・・・どんだけ喧嘩慣れしてんだよ・・・。
俺は、ギリギリまで感づかれないようにしてたってのによぉ)
マンタローも裏の世界の住人。
キン肉マンマニアでキン肉マンにちなんだ体位をするために、
屈強な筋肉を作り上げた戦士。
だが、そのマンタローをも超える男たち。
ガン!!
マンタローは前後からラリアットを喰らい、
その場に崩れ落ちた。
「く・・・そ」
「へぇ、まだ息があるか・・・たいしたもんだな。
おい、コイツを持ち帰って俺らの兵隊にするか?」
「そうだな、男はまだまだ足りない」
男たちはマンタローを見下ろし、妙なことをつぶやいた。
(男は足りない・・・そうか・・・奴らの組織は・・・)
薄れ行く意識の中、マンタローは男たちに担ぎ上げられた。
「待ちな!!」
「あ!?ぐぉ!!」
マンタローが担ぎ上げられた刹那、後ろにいた男の肝臓に
拳が叩き込まれた。
男は不意の拳をモロに喰らい、その場に倒れこんだ。
「何だガキ?大人の世界に手をだすんじゃねぇぞ?」
「ガキだと?あんまりなめない方が良いよ!!」
(ガキ?)
振り落とされたマンタローは声のする方を振り向いた。
男が言った通り、襲い掛かってきたのは学生服を着た少年だった。
中学生かまたは高校生か?やけにガタイがよく身長も180以上だったが、
その服装と顔は明らかに少年。
マンタローをよそ目に、2人は話を続けた。
「これは裏の人間の問題だ。このまま邪魔をするっつうんだったら、殺す」
「裏の人間ね・・・。俺だって、裏の人間さ。マンタローさんは返してもらうよ」
少年の言葉を聞いて、マンタローはふと思い出した。
(そうか、少年の痴漢師、そんな奴はただ1人しかいねぇはずだ)
男がしびれを切らし、少年へと襲い掛かる。
しかし、少年は軽く男をいなした。
(間違いない、顔もそっくりだ。痴漢王と同じファーストネームを持つ男・・・)
いなされたことで、更に殺気を帯びながら再び男が襲い掛かる。
しかし、怒りで男のパンチは若干の大降りを見せた。
少年は、その隙を見逃さなかった。
自らも前へと出て、カウンターを合わせる。
ズガァ!!
一瞬にして、男は地べたへとひれ伏していた。
「大丈夫?マンタローさん」
「ああ、なんとかな。お前は、佐山武・・・か?」
「よく知ってるね。18歳を超えるまでは、あんまりまだ目立ちたくないんだけどね」
やれやれといった感じで佐山武は答えた。
マンタローを助けたその人物は、痴漢ハンターと痴漢王の子、
最強の遺伝子を受け継ぐ佐山武だったのであった。