人は地に歩くだけではなく
いつの間にか空を飛び、宇宙を翔けることもできるようになったけど。
問題は未だに山積みだ。
そう・・・たとえば・・こんな問題。
「アークエンジェル、ヘリオポリスへの入港を申請いたします。当艦は・・・・−−−」
大人の女性の声が凛と響く。
彼女はアークエンジェル艦長マリュー・ラミアス。
美しき女性でありながらもアークエンジェルの艦の指揮を出している。
「ヘリオポリスより、入港の許可が下りました。第32港口へ誘導サインを確認」
同じくこれは女性の声だが、まだ大人になりきっていない少女の声質。
明るい笑顔でようやく買い物ができるのが嬉しいのか
声も自然に弾むのはメイリン・ホーク。
艦長席の後ろのシートの片方に、ミリアリア・ハウという少し歳が上の少女が座り
片方にはメイリンが座っているが、まだ入港もしてないのに
ヘリオポリスに良いお店はないかとサイトをチェックをしていた。
「コラ、まだ入港していないのに何やってんの!!」
後ろを振り向いたミリアリアからメイリンが、のぞいていたサイトを見て先輩として一喝。
「だっ・・だってぇ・・・最近忙しくて全然買い物できなかったし・・」
「気持ちはわかるけど・・」
移動の多い職種だし、衣食住はアークエンジェルで全て行っているし
移動ばかりしていると宅配も頼めない。
「大目に見てあげましょう、ここまで入れば心配ないわよ」
マリューはメイリンの行動を、甘やかしたマリューに
図に乗ったメイリンは堂々とネットで店をチェックし始めた。
「化粧品でしょーー、洋服も欲しいな、お菓子も買いたいし。あっ・・・そうだ!」
艦内の通信システムを使い、格納庫に繋げる。
呼び出し音が鳴り、たまたま近くにいたメッシュの髪型の男の子が取る。
彼はヴィーノ・ディプレ、近くで同じく作業をしているのは肌黒の男の子はヨウラン・ケント。
『もしもしあたしだけどさぁ。
ヘリオポリスに入ったら二人とも買い物付き合ってくれる?荷物持ちがないから困っちゃって』
「にっ・・荷物持ちって・・オートエレカ・タクシー借りればいいだろうが!!」
荷物の多い客向けに作られた専用のリモコン一つで何処からともなくやってくるのだが
少々値が張るのがお財布に痛いので人力エレカにすることに。
『少しでも予算は抑えたいからオートエレカはレンタルしたくないの』
「俺らの都合はいいのかよ!!何とか言ってやってくださいよマードックさん!」
少し離れたところにいるおっさ・・・ではなく大人の男は
二人の担当であるメカニックの先輩。
格納庫のリーダー的存在コジロー・マードックに助けを求めたが。
「諦めろ・・・男っていうのは、女の子の便利アイテムにされちまう運命なんだよ」
さすがは年上、男女というものをよく知っている。
「そんなぁ・・・」
「買い物に行くの?僕も行く行く」
MSのコクピットから声がすると最初に
紫色の円形の機械仕掛けのおもちゃが降りてきた。
『ハロハロ!』
「僕も行くーーーー!!」
無重力の中だからこそできる、高いコクピットからのジャンプ。
ゆっくりと上から降りてくるのは、茶色の髪の幼さが残る女の子、キラ・ヒビキ。
彼らが7人がアークエンジェルのクルーだ。
艦のわりに人数が少ないが穴を埋めてくれるのは・・・−−。
『ハロハロ〜』
『イッテラッシャイ!』
『ハロ、ゲンキ、キラハゲンキカ?』
いろんな色のハロ達が艦内に浮かんでいる。
彼らが艦内の仕事の大半を行っていて
個々の力は一人分ほどしかないが、代わりにエラーやミスが少ない。
「行ってくるから、皆お仕事お願いね」
パタパタと羽を動かし、バランスを取っている。
キラは笑顔で手を振り、格納庫を出て行く。
へリオポリスは惑星ではなくコロニーで住居タイプのものではなく
いろんな商品が集まるアウトレットタイプ。
表では扱えない軍用のミサイルやMS、いろんなものが買えてしまう。
本当に闇で売られているものも、此処では公式として認められているが
何を仕入れるかは、へリオポリスを仕切っている一人の男が決めているらしい。
買う物が多すぎるために、結局エレカをレンタルすることになり
マリューとマードック以外は全員乗っていた。
「そこの角を曲がって、まっすぐ進んで行って次の信号を・・・」
いろんな店が並び、親子連れや恋人まで歩くのを見て
まさか裏の品物も扱っているコロニーなどと、誰も思いもしないだろう。
「よーーし、買いまくるわよ!!」
ミリアリアの掛け声と共に次々にエレカには買い物袋が乗せられ
ついには席に座っているヨウランの膝の上にまで溜まってきた。
「買いすぎだろう・・・俺らだって買い物したいのに・・」
きっと彼女達の買い物が終わってからに、されるだろうと覚悟した目で荷物を見つめる。
「あーーーっ!!」
「何だよ、いきなり大声だして」
運転席にいたヴィーノが突然大声を出した。
彼の視線の先にはメイリンと数人の男達。
何か話かけられてメイリンが喜んでいる。
ただそれだけだったのにヴィーノは会話の内容が読めた。
「メイリンをナンパしてやがる!!」
運転席を立つとヴィーノはまっすぐメイリンの元へ行くと
立ちはだかる様にして立つとナンパをしていたらしき男達は
諦めたように離れて行くが、彼らの姿が完全にいなくなるまでヴィーノは威嚇をしていたる
「やれやれ・・・」
わかりやすすぎる親友の行動がいつになったら報われるのか
首を傾げているメイリンを見て呟いた。
「キラ、そんなの買っちゃっだめよ!!」
「えーーっ」
タイトルからしてとても怪しげなソフトをキラからミリアリアは奪う。
ある一部は優秀なキラだが、一部が特化しすぎたのか
常識的な部分が欠けてしまっていて、偶に普通の人間が買わなそうなものを買いかけてしまう。
エレカが三人の少女達の荷物でいっぱいになりかけた頃、港では・・−−。
「アークエンジェルの艦長は女性だと聞いてしましたが・・・・いやはや・・」
「私などまだまだ未熟な身ですわ」
笑う姿も色っぽく美しい、同じように港に停泊している艦長達がマリューに話かけている。
暫くは此処に滞在すると聞いて
ぜひ食事にでもお誘いしたいと話をこぎ着けようとしていると。
「マリュー・ラミアス殿でいらっしゃいますか?」
髪は濃い紅色の色黒の男が話かけてきた。
「はい・・そうですが・・貴方は」
「私はアンドリュー・バルトフェルドの使いのものです。早急に面会したい」
このへリオポリスを統括している男の名を聞いて
マリューの周りにいた艦長達もざわめく。
「・・何故、私に」
「それはお会いになってからあの方がご説明いたします」
彼はダコスタと前を歩きながら名乗った。
真意を探るようにマリューは通った通路などを観察しながら進むと
へリオポリスを見下ろせる高いビルの屋上に着くと
社長室の社長の机らしくものに、パソコンが置かれて画面は起動し
顎鬚の生えた男が映っていた。
「貴方がバルトフェルドさん?」
『はじめましてマリュー・ラミアス殿。
ご存知アンドリュー・バルトフェルドです。
いやぁ・・・噂以上の美人で実際に、お目にかかれないのが非常に残念です』
「お世辞を言っても割引はいたしませんよ。
お仕事の依頼のために私を此処に呼んだのでしょう?
貴方が不在の今、残して来た部下の方々では少々ご心配でこのヘリオポリスを守ってほしいと」
此処に来るまでに隠れてマリューを狙っているものもいない。
何よりも証拠がダコスタが背中を見せて先を歩いたことだ。
命を狙っている人間に背中など敵に見せるはずがない。
『裏の事情をご存じなようで、ならば話は早い。
ではアルテミスについてもご存じですね』
へリオポリスと敵対している軍のコロニー。
重要な拠点でもなく天下りをした軍人の住処だとも、一般人に認識されている。
物流の盛んなこのヘリオポリスを私欲のために収めようと
この頃、活発に動いていると耳にしていたが。
『俺の留守を狙って攻めてきている』
さっきまでの軽い感じが消え、へリオポリスの『虎』の顔を見せる。
買い物を半分終わらせカフェで休憩をしていると
バックの中にいれておいたミニハロから緊急通信が入る。
『オウチカエル、オウチカエル』
「すぐ帰れって・・・どうしたんだろう?」
ミニハロをテーブルの上に置くと立体映像が現れ、送信者のマリューが映る。
『皆、買い物しているところ悪いけどすぐに戻ってきて!!』
「はっ・・・はい!」
会計を慌てて済ましてキラ達はカフェを出ると
制限速度ギリギリで、エレカを飛ばしながらマリューからコトの説明を受ける。
『すでに艦隊がこちらに向かってきているわ。
貴方達が到着次第アークエンジェルは発進でも・・』
「でも・・・?」
一つも問題がありげな様子のマリューもキラに目線を向け・・・。
『まだアレは動かせないのよ・・。再起動まで時間が掛かっていて』
「えーーーっ!」
新しくOSを書き替えて、帰ってきたころには、再起動も無事に終えている計算だったのに
急な依頼でまだ再起動には時間がかかる。
エレカに荷物を載せたまま格納庫入口へ滑り込むように
アークエンジェルへ到着すると。
「帰って来たぞ!!」
マードックがキラ達が帰ってきたのをマリューに通信で知らせる。
「アークエンジェル、メインエンジン始動!!発進します」
『了解!マリュー・ラミアスの声紋確認・・・・アークエンジェル。
これより発進シークエンスに入ります』
コンピューターはマリューの命令通り、エンジンを発進に向けて温め始める。
「遅れました!!」
雪崩込むようにミリアリアとメイリンが入ってくる。
席に座るとすぐに自分の仕事に就く。
「では、行きましょうか・・・・」
「「はい!!」」
準備ができたブリッジ・・・・だが。
「まだーーーーーー????」
黒い大きな影の前をキラは行ったり来たりをして、再起動が終わるのを待っていた。