シスター・コンプレックス 妹ご主人・姉玩具 体験版

第1話

「……今呼び上げた者が、県大会の選手に選ばれた選手になるから、
これから大会に向けての練習に励むように」

目の前にいる顧問の先生は、私の名前を――
柚木園 智依と言う名前を、一度も読み上げることが無かった。

「えっ……?!」

(なんで、先生は……私の名前を呼んでくれなかったの?
他のみんなは呼ばれているって言うのに)

先生が目の前で読み上げていたのは、私が所属しているテニス部が、
6月に控える県大会の選手に選ばれる選手の名前だけど、
さっきまで耳にしていた顧問の言葉を、どんなに頭の中で振り返っても、
確かに私がテニス部の選手として選ばれなかったのは、紛れも無い事実だった。

未だに耳を疑っていた私だけど、続々と名前を呼ばれた部員達が、
先生の前に誇らしげに立ち並ぶけれど、私は少しも脚を動かせなかった……

「せ、先生……それじゃあ私、試合に出れないって言うんですか?」

それでも私は今でも耳を疑って、何としても私を選手として選んでもらえないかと、
必死に先生の前で食い下がって、自分の抱えている思いを何度も訴えることにした。

上級生になった私にとっては、県大会だけが選手として出られる、
最後の試合だった為に、どんなに先生の宣告を受けて、
耐え難いほどのショックを感じても、私はこのまま引き下がるわけにはいかない。

「悪いな、柚木園……まだ怪我も治りたてだから、無理はさせられないからな?」

無茶な申し出を告げる私の姿を、きっと哀れに思ったのだろう……
先生は少し申し訳無さそうな表情で、どうして上級生の私を、
県大会の選手に選ばなかったのか、決定的な理由を私に突きつけてきた。

どうやら先生も上級生の私を、最後の試合に出させてあげたかったらしいけど、
それでも私自身に原因がある以上、どう頑張っても試合に参加させることは出来ないらしい。

私が県大会に向けて、今まで以上に練習を頑張り過ぎてしまったせいで……
実は足首の靭帯を損傷してしまい、つい数日前まではギプスで足を覆って、
松葉杖で学校に通っていた状態で、その間は当然ながらテニスの練習どころではなかった。

「そ、それでも私、納得がいきません。上級生の私にとって、
最後の試合になるって言うのに、私だけが試合に出る事が出来ないだなんて……」

確かに先生が私の怪我を心配して、県大会への出場を断念したと言う、
先生が告げた理由も分からなくは無いけど、どうしても私には納得が行かなかった。

普段の私なら、あまりにも諦めの悪い申し出も、ここまでしつこく口にしなかったかもしれない……
それでも上級生である私にとって、どうしても最後の試合だった、
県大会に何としても参加したいと言う気持ちが、 少しも自分で抑えられない。

結果的には自分の不注意で、脚を挫く怪我をしでかしたとしても、
空が暗くなるのも構わずにラケットを振り回したり、
走り込みなどの単調な練習にも人一倍打ち込んで、自分で考えられる限りの、
血の滲むような努力をどうしても無下にしたくなかったのだ。

「確かに柚木園が試合に出たい気持ち、先生にもよ〜く分かってるつもりだ。
でも数日前にやっと怪我が治ったばかりじゃないか……
別にこの学校でないと、一生テニスが出来ないわけじゃないだろう。
大体、柚木園自身が一番理解しているんじゃないのか? やっと怪我が治ったばかりで、
今からどんなに練習を頑張っても、試合までにベストなコンディションまで持ち込めるか……?」

それでも目の前にいる先生は、まるで私に言い聞かせるようにして、
県大会への参加だけは、断念して欲しいと説得を続けるばかりだ。

別に県大会以外にもテニスの試合はあるから、そっちに向けて頑張るようにとか、
怪我が治ったばかりで無理に選手として参加して、足首の捻挫を悪くしたら大変だとか、
聞きたくもない単語ばかりを先生が並べるので、私の抱え込んでいる苛立ちは募る一方だ。

「先生……それでも私、どうしても最後の試合だけは出たいんですっ!
何とか試合に出られるようになりたいって思って、今までずっと怪我のリハビリだって……」

学校でもしも最後の試合に出られなければ、あとは受験戦争などで時間を取られて、
ずっと熱心に打ち込んできたテニスに、当分は時間を割けなくなる……
そんな宿命が今の私を突き動かしている。

確かに足首の怪我によって、相当な練習の遅れが出てしまったことは、
怪我も治りたてな私にとって、充分過ぎるハンデになるかもしれない、
そんな事実を抱えながら、私はそれでも県大会に出る為に、
怪我のリハビリにも今まで取り組んで、いよいよ選手が発表されると言うタイミングで、
何とかして怪我を完治させてきたので、ここで選手に選ばれなかったら、
きっと私のテニス部員としての選手生命に、覆しようの無い悔いが残ってしまうはずだ……

「柚木園の気持ち、先生にだってものすごく分かってるぞ。それでも試合の為に、
ここまで怪我を治しただけでも、先生はとても立派だと思うぞ?」

しかし先生は、私がどんなに必死の思いで訴え続けても、
絶対に首を縦に振ってはくれずに、改めて私を選手として選ぼうとはしなかった。

私が怪我に見舞われた後も、それでも頑張ってリハビリに励んで、
県大会の選手に選ばれる日を夢見ていた事を知りながら、
それでも先生は私の前に大きく立ちはだかって、絶対に私の訴えを聞き入れてくれない。

「確かに、柚木園が無念に感じるのも分かるけど……今回は引き下がってくれないか?」

足首の捻挫が治ったばかりの状態で、強豪ばかりが立ち並ぶ県大会を前にして、
怪我が治ったばかりの私が試合に出るのは、
さすがに難しいだろうと言う先生の判断は、決して私の言葉では覆らなかった。

聞き分けの無い私を諭すかのようにして、今までの頑張りをしっかりと認めながら、
それでも怪我をぶり返しては大変だから、県大会への参加を諦めて欲しいと、
先生は今でも眉をひそめながら、無情な言葉を私の前で突きつけてくる。

「そ、そんなぁ……」

私は先生の言葉に圧倒されて、思わず肩を落としながら、
ただ目の前に広がる光景に、茫然と立ち尽くすことしか出来ない。

先生から名前を呼ばれたテニス部員達が、私の前に立ち並びながら、
県大会の選手に選ばれて誇らしげにしているのと対照的に、
少しも参加を許してもらえなかった、私の気持ちは惨めな気持ちに苛まれていくばかりだ……

「先生、私……柚木園センパイの分まで、県大会で最後まで頑張りたいと思いますっ!」

すっかり私の気持ちが落ち込んでいる所を、まるで割り込むかのようにして、
ある一人の下級生が、高らかな声をコート内に響かせていく。

先ほどの声の主は、上級生ばかりが選ばれる県大会の選手に、
下級生で唯一選ばれた、瀬名さんと言う後輩だった。

「良く言ったぞ、瀬名。試合に出られない柚木園の代わりに、もっと練習を頑張らないとな?」
「ハイっ、先生っ!」

少し耳障りにも感じた瀬名の言葉に、すぐに先生は反応を見せて、
不運な怪我に見舞われたせいで、上級生にも関わらず県大会に出られない私に代わって、
しっかりと頑張るようにと言う励ましが、先生の口から続いていく。

瀬名さんはハキハキとした口調のまま、すぐに先生の方に返事を返していくけど、
本来なら瀬名さんの場所に立っているべきは、上級生である自分のはずだったのだ……

「そ、そんなぁ……どうして、私じゃなくって」
(私の代わりに、下級生の瀬名さんが選手に選ばれたって言うのよ……!)

私は声にならない声を……いや、もしかしたら小さく声を洩らしていたかもしれない。

どうして上級生の私ではなく、さらにはテニスの練習だって、
この日に向けて頑張り続けたにも関わらず、下級生の瀬名さんが私の代わりとして、
県大会の選手として選ばれたのか、未だに私には納得がいかなかった。

確かに今まで幾度もの努力を重ねて、やっと選手としての実力を身に付けた私と違い、
瀬名さんは下級生の中でもテニスの才能において、
頭一つ抜きん出ていたのは紛れも無い事実だった。

それでも本来は自分が活躍するべき出番を、成長の著しい天才肌の後輩に、
たった数分間のやり取りで奪われてしまった、徹底的な場面に遭遇してしまった状況で、
私はあまりにも惨めな気持ちに苛まれてしまい、どうしても無念さを感じずにはいられなかった……

「安心しろ、柚木園。ちゃんと後輩の瀬名が、柚木園の分まで張り切ってくれるらしいから」
「柚木園センパイ。先生とも約束しましたから、ちゃんと県大会でも活躍して見せますからね?」

私がひどく落ち込んでいる最中にも関わらず、顧問の先生と瀬名さんが続けるやり取りは、
今の私にとってはあまりにも眩く、そして目障りに感じられた。

これから瀬名さんは私に代わって、選手として選ばれた県大会でも、
きっと私以上の活躍を見せてくれるだろう……私だけじゃなくテニス部員のみんなや、
先生だって下級生の瀬名さんに期待を向けている、とても惨めな私を一人ぼっちにして。

「……くうっ!」
ダッ……

私は目の前で繰り広げられている光景を、
段々と直視出来なくなってしまい、ついには顔を思わず背けてしまった。

ずっと抱え込んでいる悔しい気持ちも構わずに、瀬名さんの無邪気で嬉しそうな笑みや、
先生が瀬名さんを中心とした選手達に期待を寄せている状況に、
まるで自分の心をえぐられるような感覚に陥っていて、もう一秒だって耐えられなかったのだ。

気づいたら私は押し付けられた現実を直視出来ずに、
テニス部員達に対して踵を返して、そのままテニスコートから立ち去ってしまった。

「お、おい。柚木園……一体どこにいくんだ?!」

私がテニスコートを背に駆け出していく最中、すぐに先生が声を掛け始めるけど、
そんな気遣いを振り切るようにして、必死の思いで私はテニスコートから逃げ出す事しか出来ない。

段々と先生の声が遠ざかっていく状況を気づかされながら、
それでも私は惨め過ぎる自分自身を、顧問の先生や選手に選ばれた瀬名さん、
テニス部員のみんながいる前で、これ以上晒したくは無かったのだ……

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

テニスコートを立ち去った後も、私は誰にも追いつかれない為に、
必死に学校の中を駆け出しながら、一人になれる場所を延々と追い求めていた。

丁度陰になっている校舎裏まで辿り着いた後で、
やっと私は全身に疲れを感じてしまい、すぐ壁に寄りかかりながら息を切らしてしまう。

どうやら私の脚は捻挫から完全に治っていたようで、
全力で走り続けた結果、先生やテニス部員達を上手く振り切る事が出来たようだけど、
本当は私もこんな用途なんかで、怪我から治ったばかりの脚を酷使したくなんて無かった。

(どうして、私じゃなくって……まだ下級生の瀬名さんに、
大事な選手の座まで、奪われなくっちゃいけないのよぉっ!)

先ほど先生から突きつけられた宣告や、瀬名さんが洩らしていった、
私にとっては戯言にしか思えない言葉に、相当気持ちが堪えていたのだろう……
本来ならこんな短い距離を走る程度では、決して疲れたりしない身体が、
気づいたら足が棒になる感覚に襲われるほど疲弊しきっていた。

全身の力がどっと抜けてしまい、壁に寄りかかったまま身動きが取れなくなっていた私は、
校舎裏に一人で佇みながら、悔しい気持ちをぶつけられる場所を求めていた。

それでも私の打ちひしがれた気持ちは、周囲にいる何処にもぶつける事すら出来ずに、
どうしてテニス部員として、今まで必死の努力を続けてきた自分が、
ここまで無情な運命を、否応無く迎えなければいけないのか……
悔しい気持ちが少しも拭えずに、逆に身体の内側から募っていくばかりだ。

「はぁっ、はぁっ、あうぅっ……ぐすっ」

さらに私は壁に寄りかかった格好で、瞳の内側がが次第に熱くなると同時に、
ずっと俯いていた顔から、何か熱い液体が流れていくのを感じていた。

どうやら押し付けられた現実を、どうしても受け入れられずにいた私は、
自分でも気づかぬ間に涙を流してしまったらしい。

自然と瞳から溢れ出す涙を、私はどうしても止める事が出来ずに、
校舎裏で寂しく呻き声まで洩らしている自分に、みっともない気持ちをひしひしと肌で受けながら、
それでも行き所の無い感情に襲われたせいで、私は少しも泣き続ける行為を止められない。

(先生は何も分かってくれないって言うの……?! 怪我を一生懸命治したのだって、
私にとって大切な、最後の試合に出るつもりだって言うのに……!)

先生やテニス部員達がいない状況で、やっと私は自分の気持ちを打ち明けられるけど、
誰も私の言葉を聞いてくれないせいで、私はさらに寂しい気持ちに襲われてしまう。

テニス部として最後の試合になる県大会に向けて、私は部活動の日に練習するのは当然ながら、
休日でも遊びに行く時間まで潰して、個人的にトレーニングを続けていたのだ。

靭帯損傷と言うトラブルに見舞われた時も、少しでも怪我の治りが早くなるように、
ずっとリハビリにも打ち込んできて、県大会の選考に間に合わせてきたにも関わらず、
先生の無情な判断によって無下にされ、今まで積み上げた努力や、
何よりもテニス部員としての強い想いですらも、無残にも打ち砕かれてしまった。

(それに、どうして瀬名さんなんかに……私の最後の舞台を、
あんなにあっさりと奪われなくっちゃいけないって言うのよ……!)

さらに私が悔しくてたまらないのは、本来なら上級生として得るべき選手の立場を、
寄りにも寄って下級生の瀬名さんに奪われてしまったのだ。

テニス部としての練習や、怪我のリハビリにも必死に努力を続けたにも関わらず、
そんな自分の努力をきっと下級生の瀬名さんは垣間見る事も無く、
ものの見事に選手の座を奪い去ってしまった。

前に私も瀬名さんとテニスの試合に挑んだ際も、今まで努力を積んできた自分と、
ほぼ互角に戦える程の実力を、すでに後輩の瀬名さんが身に付けていて、
きっと先生も他のテニス部員も、唯一の下級生である瀬名さんに一目を置いていたと思う。

「うぅっ、うぅっ、あうぅっ……!」

それでも今の私には、どうしても瀬名さんの存在を許せずに、
他のテニス部員達には絶対に明かせない思いを抱えたまま、
誰もいない校舎裏でひたすら、悔しい気持ちで涙を滲ませてしまう。

自分の手で掴もうとしていた折角の晴れ舞台を、
少しの努力だって見せずに、天才的な才能を抱いている後輩の瀬名さんから、
こんな形で奪われてしまったと思うだけで、とにかく私は悔しくて無念でたまらない。

「あうぅっ、えうっ、くうぅっ……!」

瞳から自然と溢れ出た涙は止められないどころか、胸の奥底から湧き上がってくる感情によって、
さらに私の頬を伝っては、呻き声もひとりでに洩れ出してしまい、少しも自分では止められない。

もしも私が誰もいない校舎裏で、壁に寄りかかりながら息を切らして、
感情のままに泣き出しているなどと知られたら、きっと哀れな私の姿に驚いてしまうだろう。

今の私は全身が揺さぶられるほどの、抑えられない感情が一気に爆発してしまったせいで、
とても見苦しい素振りを、どこかの場所で演じ続けることしか出来なかった……
それでも先生やテニス部員達がいる前でなど、私の惨めな姿など決して明かせずに、
必死に自分の居場所を探し続けた末に、この校舎裏まで駆け込んだけれど。

『今呼び上げた者が、県大会の選手に選ばれた選手になるから……』
『柚木園センパイの分まで、県大会で最後まで頑張りたいと思います』

私が壁に寄りかかりながら顔を俯かせる事で、
必死に避けようとしていた光景が、未だに頭の中でこびり付いて離れてくれない。

上級生である私にとって、最後の試合である県大会の選手に、
先生が選ばなかった事実や、天才的な才能を持つ後輩の瀬名さんに、
あっさりと選手の座を奪われてしまった事実は、どんなに覆したくても覆せない事実だったのだ。

(どうして、今まで努力し続けた私の前で……こんなヒドい言葉なんて聞かせるのよぉっ!)

どうしても避けられない現実に直面した私に、無念な気持ちや悔しさなどの様々な感情で、
私の気持ちはすっかり覆いつくされてしまい、何も他の事が考えられそうにない。

どんなに耳を塞いでも、先生の無情な宣告や瀬名さんの無情な言葉が、
絶えず私の中で幾度もこだまして、着実に気持ちを蔑んでいく状況に、
ますます気持ちが追い詰められてしまい、どうしても今の私では耐えられなかった。

「うぅっ……グスッ、あうぅっ……」

私の気持ちが限界まで押し潰されたせいで、きっと私の瞳からは涙が溢れ出して、
少しも自分では止められなくなってしまい、さらには腰までも段々と砕けていく。

校舎裏で一人寂しくすすり泣く事でしか、今の私は自分の感情を表現出来なくなってしまい、
流し続ける涙や呻き声で発散されるどころか、逆に激しい感情は私の中で渦巻くばかりで、
段々と私の身体までおかしくなってしまいそうな……言い表しようのない状況にも襲われていた。

……ポタッ。
「えっ……?」



胸の奥底に激しく打ち付ける感情を、涙だけでしか表現できずにいる私は、
一瞬だけ別の異変に気づかされて、思わず瞳から溢れる涙を止め始めてしまう。

目尻に涙を溜め込んだまま、不意に耳の中に飛び込んできた、
何かの液体が垂れ落ちて跳ねていく、とても違和感のある音に、
まるで惨めな自分自身を誤魔化すかのようにして、私は注目を寄せていく……

(今の音って、一体どこから聞こえてきたの?
まさか私の流している涙なんかで、こんな音なんて鳴らないはずなのに)

どうして物静かな校舎内で、水が跳ねるような音が聞こえてくるのか……
最初に頬を伝って流れ落ちる涙を確かめたけど、そこまで大げさな音など決して立つはずが無い。

それでも確かに自分の周囲に、何かしらの液体が垂れ落ちている音が、
自分の耳にもこうして響いていくのは確かだったのだ……

「えっ、そ、そんなぁ……」
ポタポタポタッ。

急に聞こえてきた水音は、どうやら自分の足下から聞こえてくる事実に気づいた私は、
恐る恐る視線を落としていき、校舎裏に佇む自分の足下を覗き込むと、
私は自分でも信じられない光景を目の当たりにさせられて、思わず目を疑ってしまう。

それでも私がうろたえながら、少しずつ腰を引かせていくと、
スカートの内部から続々とこぼれ出す液体によって、
足下のアスファルトに黒い染みが点々と浮かびあがるばかりだ。

(これが、涙の代わりに聞こえてきた、水音の正体だって言うの……?!)

先ほど聞こえてきたばかりの水音の正体を掴んだ私に、
再び別の疑問が降りかかっていき、水音が響く校舎裏で立ちすくみながら、
自分がどんな事態に陥っていたのかを、私は改めて思い知らされていた。

いくら無情な通告を突きつけられた事で、自分の気持ちが打ちひしがれていたとしても、
目の前に広がる信じ難い光景を、未だに私自身と結び付けることが出来ない。

ピチャピチャピチャッ、グシュグシュッ……
(どうして、私のお股やお尻が……
こんなに濡れちゃってるって言うの? 別に私、オシッコなんて……)

なんと私はトイレなどでは無く、校舎裏を舞台にして、
下半身を包むアンダースコートを少しも脱がずに、
股間からオシッコを溢れさせてしまったらしい。

自分の下半身を顧みる事で、初めて股間から溢れ出すオシッコがお尻まで広がって、
スカートで覆われている脚の付け根から、溢れ出す滴が何滴もポタポタと零れ落ちたり、
さらに脚を伝って靴下の内部にも流れ込んでいく状況に、私の気持ちは激しく揺さぶられてしまう。

今でも私の股間からは熱い液体が溢れ出しては、さっき部室で穿き替えたばかりの、
アンダースコートの内部を駆け巡っていき、股間やお尻を続々と濡らしながら、
地面まで垂れ落ちていく状況を、本当は自分でも止めたい気持ちで一杯だったけど、
少しも震えが収まらない腰のせいで、今の私は少しも止められない。

(そんな……もしかして私、オシッコをお漏らししちゃったって言うの?
今まで少しも気付かなかったのに……)

本来なら思春期を迎えた女の子として、絶対に公共の場所で冒してはならない、
みっともないお漏らし行為を、現に校舎裏と言う場所で繰り広げているのだ。

アンダースコートの薄い生地がジットリと濡れたまま、
お尻や股間に張り付いていき、肌に不快な感触を与えるだけで無く、
ついにはスカートや靴下にもオシッコが浸透していき、濡れた染みを延々と広げ続ける。

まさか自分でも気づかぬ間に、抑えられない感情が行き場を失った結果、
校舎裏でオシッコをお漏らししてしまうなど、未だに私は信じられなかったのだ。

ショワショワショワッ、グシュグシュグシュッ。
「ちょ、ちょっと……ヤダぁっ!」

それでも一度溢れ出した感情のままに、股間から続々と湧き出したオシッコは、
私の下半身を一気に濡らしていき、校舎裏で一人寂しくすすり泣いている以上の、
目も当てられない姿を、否応なしに私の身体へと押し付けてくる。

気づいたら冒してしまったお漏らし行為を、何としても自分の手で取り繕いたい私は、
必死の思いで膀胱を閉ざそうと試みるけど、何故かお漏らししたオシッコを、
少しも自分の手で止める事すら出来ずに、延々と足下へと垂れ落としてしまう。

(お願いだから、止まってよぉっ……もう子供じゃないのに、どうしてお漏らしなんて……)

どうして小さな子供でもないのに、学校の校舎裏でお漏らしまで始めてしまい、
少しも自分のオシッコが止められないのか……今の私には少しも理由が掴めなかった。

股間から恥ずかしい滴りを延々と作り上げてしまう自分自身に、
未だに私は失禁行為を冒したと言う、突然身に降りかかった事実を受け入れられず、
それでも股間から続々と溢れ出る熱い液体は、紛れも無くオシッコ以外の何物でも無い。

ポタポタポタッ、ピチャピチャピチャッ……
「あ、あうぅっ……」

少しも止められないオシッコによって、足下のアスファルトに点々と跡を残していたのが、
次第に水溜まりと化していく状況に、ますます激しい動揺に襲われてしまう。

すでに太股から足首まで流れ出していたオシッコが、靴下や靴の中にも入り込んでしまい、
どうやっても逃れようの無いお漏らし行為の証拠を、
オシッコの水溜まりと言う形で地面へと刻み込んでいたのだ。

(どう、しよう……オシッコが少しも止まってくれないよぉ。
一体私の身体、どうしちゃったって言うのよ……)

股間から溢れ出るオシッコを少しも止められない状況で、
瞳から涙をこぼすどころではなくなってしまい、ますます私の気持ちが激しく揺さぶられていく。

今まで渦巻いていた後悔や悔しい感情に加えて、校舎内でしでかしたお漏らし行為によって、
惨めな気持ちまで襲い掛かり、ついには激しい感情で自分の身体がおかしくなった結果、
ついには失禁行為まで冒してしまい、お漏らししたオシッコを少しも止められずに、
恥ずかしい行為まで延々と繰り広げてしまったのだと、私はこの場で思い知らされるばかりだ。

フルフルフルッ。
「あ、あうぅっ……」

しでかしたばかりのお漏らし行為に、私の気持ちがついに屈したせいか、
段々と校舎裏で立ち尽くす気力すら失せてしまい、オシッコで濡れている腰を、
少しずつ地面への方へと下ろしていき、ついには膝でしか立っていられなくなる。

目の前に突きつけられた状況に、私は自分自身を少しも制御出来なくなり、
ついには膝を崩し始めて、二度と立ち上がる気力すら沸かないほど、
私は校舎内での失禁行為に、激しい動揺に襲われていたのだ。

(きっと、私の身体がおかしくなっちゃったんだ。選手に選ばれなくて、
瀬名さんに奪われちゃったのが、すっごい悔しいせいで……)

校舎裏の壁に突っ伏した格好で、恐る恐る地面を覗き込むと、
まるで自分の抱え込んでいた感情を現すかのように、
コンクリートの上に水溜まりが出来上がっていた。

コンクリートに恥ずかしい跡を残している原因は、今でも私の股間から続々と溢れていき、
身に付けているスカートやアンダースコートに、濡れたような染みまで広げて、
股間からお尻から膝までを濡らしながら、さらにオシッコによる水溜まりを広げるばかりだ。

いくらテニス部員としての最後の試合に参加出来なかった事がショックだったとしても、
ここまでオシッコが止められなくなる程、自分の身体が追い詰められていたとは思わなかったと、
濡れ続ける下半身を抱えたまま、未だに私は惨めな自分自身を受け入れられそうにない……

「……柚木園さ〜ん。一体どこに行っちゃったの?」

自らの下半身をオシッコの海に浸しながら、すっかり気持ちが落ち込む最中に、
さらに別の言葉が耳の中に飛び込んできたせいで、
条件反射のせいで俯かせていた顔を持ち上げてしまった。

恐る恐る耳を傾けていくと、どうやら私の名前をずっと呼んでいるらしい。

(えっ、今誰かが私の名前、呼んでるとでも言うの?)

聞き覚えのある声に、すぐに私は身を起き上がらせて、声のある方を恐る恐る顔を向けると……
私と同じテニスウェアを着込んだテニス部員が、続々と私のいる場所へと脚を近づけてくる。

どうやら私が校舎裏に身を潜めながら、惨めに涙をこぼし続けている最中も、
テニス部員達はずっと私の姿を探し求めていたらしい。

「はぁっ、はぁっ、柚木園さん、ここにいたよ?」
「柚木園さん、大丈夫? 急に走りだしちゃうから、私達も探すのが大変だったんだから……」
「柚木園センパイ、一体こんな場所に座り込んじゃって、どうかしちゃったんですか……あっ」

校舎裏で膝立ちのまま佇んでいる、私の姿に気づいたテニス部員は、
他の部員達にも声を掛けていき、私の居場所をすぐに伝達してくる。

不意に先生の前から駆けていき、テニスコートから立ち去ってしまった私を、
テニス部員達はずっと心配を寄せていき、すぐに私の様子を確かめるけど、
直後に惨めな私の姿を目の当たりにした直後、今まで掛け続けていた声がすぐに止んでしまう。

「い、イヤっ……お願いだから、見ないでよぉっ!」
ズルズルッ、グチュグチュッ……

すでに私の下半身は、お漏らししたオシッコで殆どが濡れ尽くしていた為、
人目で私が校舎裏で失禁行為をしでかした事実は、テニス部員達の前で明らかになってしまった。

私はそれでも恥じらいの気持ちに襲われるまま、少しでも自分の身を取り繕うとして、
オシッコの水溜まりが広がる地面に腰を落としながら、テニス部員達の前で後ずさりを始める。

オシッコの水溜まりに下半身が浸されていく感触に、ますます気持ち悪さを感じてしまうけど、
学校内で冒してしまったお漏らし行為を、目の前にいるテニス部員達に包み隠す為には、
どんなにお尻やスカートが汚れてしまっても、他に方法が無かったのだ。

(どうして、こんな悪いタイミングで……私がお漏らししてるところなんて、
テニス部のみんなに見つかっちゃうの……?!)

オシッコの水溜まりに腰を下ろしたまま、テニス部員達から幾度も向けられる、
哀れみの視線を必死の思いで避けようとしても、少しも目の前にいるテニス部員達は、
私の惨めな下半身から視線を逸らしてくれない。

目の前で立ちはだかっているテニス部員と、全く同じテニスウェアを身に付けながら、
お漏らししたオシッコによって幾度も濡らしながら、恥ずかしい色の染みまでも続々と、
股間から広げてしまう状況を、きっと彼女達は蔑んでいるのだろう。

必死の思いで後ずさりを繰り返していた私は、ついに校舎の壁にぶつかってしまい、
立ち上がる事すら出来ない腰を抱えながら、自分でもオシッコで濡れ続ける脚を思わず眺めると、
オシッコが肌にしっかり張り付いていると、失禁行為を冒した避けようの無い事実を、
ありありと間近で見せつけられて、ますます自分自身の惨めさを思い知らされる。

「ねぇ、柚木園さん……お尻が濡れてるのって、もしかして」
「もしかしても何も、オシッコをお漏らししちゃったのよ?」
「柚木園センパイってば、おトイレに行きたくって、コートから突然いなくなったって言うの?」
「それでもオシッコをお漏らししちゃったって事は、きっと間に合わなかったんだよ?」

さらに私の惨めな気持ちをかき立てるのは、
周囲をずっと取り囲んでいるテニス部員達から、
横目で私の惨めな姿を確かめながら、徐々に聞こえてくる噂話だ。

横目で濡れ続ける下半身を覗き込みながら、すぐに他の部員達と言葉を交わしながら、
私のみっともない姿を肴にして、延々と罵り言葉を囁くばかりだ。

きっと彼女達からしてみれば、せめて私には聞こえないような声で、
お互いに話し込んでいるはずだけど、それでも気持ちが打ちひしがれている私には、
彼女達の罵り言葉がハッキリと聞こえてきて、幾らでも頭の中でこだまする……

「あ、あうぅっ……」
カクカクカクッ……

私は今置かれている状況に耐え切れず、テニス部員達から浴びせられる罵り言葉を、
まるでかき消すようにして、悲鳴のような呻き声を上げ始める。

きっと心の奥底で、テニス部員達から蔑まれる状況から、
何としても逃げたい気持ちを抱えていたのだろう……勝手に膝が震え出してしまい、
すぐにでも立ち上がって逃げ出すようにと、私の身体に幾度も訴えてくる。

それでもオシッコまみれになった腰を、自分だけの力では上手く持ち上げられないせいで、
自分を幾らでも蔑んでくるテニス部員達から、少しも逃れられそうにない……

「大丈夫ですか、柚木園センパイ? 私が保健室まで付き合いますから……」

自らの醜態に気持ちが打ちひしがれてしまった私に、
さらに下級生の瀬名さんが、徹底的な追い討ちを与えてきた。

県大会の選手に選ばれなかった悔しさに、ついに校舎裏でお漏らし行為をしでかした私を、
目の前にいる瀬名さんは手を差し伸べながら、すぐにでも立ち上がらせようとしてきたのだ。

自分だけの力で立ち上がれない以上、本来なら瀬名さんの行為を身に受けるべきだと、
私自身も思い知らされていたけれど、あまりにも惨めな姿を、
絶対に覗かれたくない相手に晒してしまった状況に、どうしても私の気持ちは耐えられなかった……

「い、イヤぁっ……!」
カクカクカクッ、ショワショワショワッ……

私は瀬名さんからの気遣いを拒絶するかのようにして、口から激しい悲鳴を上げながら、
同時に下半身を震わせて、体内から再びオシッコを溢れさせてしまった。

すでに肌に張り付いていたアンダースコートの内部から、
新しいオシッコが湧き出していき、股間からお尻までの間を駆け巡っていった後で、
すぐに下半身を浸していく水溜まりに混ざりながら、さらに惨めな証拠を広げ続けていく。

テニス部員達に取り囲まれた状況にも関わらず、
またしてもオシッコをお漏らししてしまった私は、どれ程惨めな姿を晒しているのか、
下半身に広がる温もりだけで無く、続々と向けられる視線によっても思い知らされてしまう……

「えうぅっ……ひっく。お願いだから、こんな私なんて放っておいてよぉっ!」
グシュグシュグシュッ、ジュクジュクジュクッ……

新たなオシッコを股間から溢れさせて、お尻を中心に新たな水溜まりを広げてしまった後、
私の抱えていた惨めな気持ちが最高潮に達してしまい、さらに激しく気持ちを取り乱していく。

ヒソヒソ声とともに自分を蔑んでいたテニス部員達、
失禁行為の原因を作り出した後輩の瀬名さん、足下に広がるオシッコの水溜まり……
どれもこれも今の私には少しも受け入れられる光景ではなかった。

気づいたら下半身だけで無く、瞳からも熱いものが溢れ出してしまい、
少しも自分で止められない状況にも苛まれながら、それでも押し付けられた現実から逃れられず、
この日から私は、学校で過ごす資格すら失った事実を思い知らされ、
もう二度と学校には戻らないと言う決意を、胸の奥底で固く誓うことでしか、
自らしでかした失禁行為を受け入れる事は出来そうにない。