作・飛田流
東北のとある街に、昭和三十年代のラーメン屋をイメージしたレトロな構えの、「らーめん飛流」という小さな店がオープンした。
店長と店員、二人だけのこの店は、炭火焼きチャーシューや九州産の天然塩などこだわりの食材が売りで、オープン当初はそこそこ客の賑わいもあった。だが、駅前から続く繁華街のルートから離れているうえ、人通りの寂しい裏通りにあるという立地の悪さが
祟ってか、徐々に客足は落ちていき、それを取り戻せないまま一年が過ぎた。
そして、今、夜の十一時を回ろうとしている「らーめん飛流」の店内には――。
互いに嬌声を上げながらしなだれかかっている、ホストとその客風の若いカップル以外に客の姿はない。
「うま塩二丁!」
この店のたった一人の店員である
田丸祐は、カップルからのオーダーを、威勢良く店長の
仁科周作に伝えた。しかし周作は、それが耳に入っていないかのように、店の真ん中にある、狭く細長いコの字型のオープンキッチンの中で、ぼんやりと突っ立っているだけだ。
制服のTシャツを内側から押し上げるほど隆々とした体躯を持つ一八〇センチ超の男が、無言で厨房に立ちすくむ姿は、どこか不審な光景ですらあった。
「大将、うま塩二丁!!」
一段と大きな声を張り上げた祐のオーダーに、「大将」と呼ばれた周作ははっとして、
「……ああ、うま塩二丁な」
と、明らかに狼狽しながら、独り言のように復唱した。
このところ、木曜日の閉店時刻近くなると、周作の様子が少しおかしくなる。
祐が周作の異変に気づくようになったのは、三か月前の八月に入ったあたりからだ。仕事中、あきらかに落ち着きがなくなると思ったら、今しがたのようにぼうっとしていることもある。ふだん、自分自身にも祐にも厳しい周作にしては、かなり珍しいことだった。
そして、祐にはもう一つ気になっていることがある。それは、同じく木曜日の夜十一時半になると、決まってこの店に現れる男の客のことだ。
「……らっしゃーい」
今夜もまた、十一時半を過ぎてすぐに、その男が現れた。
男と入れ代わりに、それまで残っていたカップルが会計を済ませて店を出たため、店内にいる客はその男一人だけとなった。
やや大柄の体に黒いジャンパーを羽織った男は、無表情のままじろりと祐、そして周作を見ると、黙ってカウンター席についた。その席は、周作のちょうど目の前だった。
男のぎろりと剥いた大きな目と、やや強面の顔が、誰彼となく睨んでいるような印象を与える。見た目は周作より一回り年上の四十代半ばという感じもするが、独特の風貌からそれより若くも年上にも見える。しんとした店内にぽつりといるその男の存在は、口を開かずともどこかに威圧を感じさせた。
祐は努めて冷静な表情を作り、男にオーダーを取りに行った。と言っても、男の注文するメニューは毎回「うま塩ネギのせらーめん」なのだが。
「お客さん、『いつもの』でいいっすか」
男は黙っている。ということはそれでいいのだろう。
「大将、うま味……」
祐がオーダーを伝えようと、周作に振り向いたとき。
キッチンの中から周作は、手を止めたまま、固い表情でじっと二人の様子を見ていた。
「ネギのせ、一丁……」
その異様とも思える周作のこわばった目つきに、祐の声が途端に小さくなった。
明かりがほとんど消えた深夜のオフィスビルと、すっかり葉を落とした落葉樹が立ち並ぶ街を、一陣の木枯らしが駆け抜けていく。
祐はその脇にある、人のいない歩道をマウンテンバイクでうねうねと蛇行しながら走っていた。フライトジャケットとカーゴパンツに包まれた、短駆ながらも筋肉質の祐の体がアスファルトに長い影を落とす。
(ったく……なんなんだよ。大将も、「あの男」も)
あれから周作は、店の閉店時刻の〇時を待たずに、祐に帰り支度をするように命じた。
『でも、店の後片づけや皿洗いがまだ残ってるっすけど……』
『それは全部俺がやっておく。いいからおまえはさっさと帰れっ』
そう気忙しく言うと、周作は祐を店から追い出すようにして、先に帰らせた。
――「あの男」を一人、店に残したままで。
祐は、自転車の右ハンドルのレバーを強くつかんでいた。地面との摩擦で自転車が悲鳴を上げた一秒後、反動で前のめりになった体勢を瞬時に立て直し、左足を地面に付けて完全に止まる。
街灯が薄暗い明りを照らし出す歩道を、びゅう、と音を立てて、また冷たい木枯らしが吹き抜けていく。
「まさか……」
祐はハンドルを切り、来た道を引き返した。
そのまま自分の店まで戻った祐は、すでにのれんが仕舞われている店の脇にそっと自転車を停め、まず裏口に回った。そして、ポケットから合鍵を出して勝手口を開けると、音を立てないようにそっと中に入った。店の裏にある真っ暗なこの部屋には食材倉庫と製麺室があり、その先に進むと店内キッチンへと続く引き戸がある。
引き戸の隙間からは、わずかに光が漏れていた。
祐は戸の前に立ち、その向こうから聞こえる音に耳を澄ませた。すると奥から、男たち――周作とおそらくあの男の、荒い息づかいが聞こえてきた。
(! ……ケンカかっ)
祐は、手近にあったすりこぎを片手に取ると、そろそろと扉を開け――。
「……!!」
扉が二、三センチほど開いたところで、その手が止まった。
暗がりの先には。
まだ湯気を立てている寸胴鍋、ラーメン皿・業務用冷蔵庫などに囲まれたキッチンの中に、こちらに背を向けて立っている周作と、その背後でしゃがみ込んでいる、先ほどの黒ジャンパーの男がいた。
ただし周作は、上半身には店の帽子とTシャツを身につけているものの、下半身には服を何一つ身につけていない。そして、むき出しになった肉付きのいい尻の下に、男がすっぽりと顔をうずめていた。
ほとんどの明かりが消えた暗い店内でそこだけに照明が当たっており、それはまるでいかがわしい舞台のショーのようでもあった。
「くっせえ金玉だな……こんなくせえ金玉ぶら下げて、さっきまでラーメン作ってたのか、おい、大将よ」
周作の尻の下に顔をうずめ、ひたすら股ぐらのにおいを嗅いでいるその男は、そんな下品な言葉で周作をなぶる。
「う、ぅぅ……」
周作は屈強な体をびくびくと震わせながら、男からの屈辱にただ耐えていた。
男の頭が周作の尻の間で、妖しく、そして細かく前後に動く。
「ふ、ぅあぁぁぁぁっっっ!」
周作は、その刺激にこらえきれないように低く声を漏らした。
「金玉しゃぶられただけで、すぐにチンポギンギンに固くしやがって……。雄臭ぇ顔の割にとんだ淫乱野郎だな」
蔑むようにそう言い放った男は、周作の尻から顔を離し、ゆっくりと立ち上がった。
「前のめりになって、尻を突き出せ」
「……」
一瞬、戸惑ったように動きを止めたものの、周作はさしたる抵抗もせず調理台に手をつくと、黙ってその通りにした。
男は薄笑いを浮かべると、目の前にさらけ出された周作のがっしりとした尻たぶに両手を置き、それをぐいっと左右に押し広げた。
「うっ、ぐぅっっ」
「相変わらず、スケベそうなケツ穴だな」
露わになった周作の肉穴を凝視しながら、男は、両手の中にある厚い尻肉をマッサージのようにぐにぐにと揉みしだいた。慣れたその手際に、「はぁっ、んんっ」、と周作の口から熱い吐息が漏れる。
男は満足げな顔で周作の尻から手を離すと、次に自分のズボンのベルトに手を掛けてゆるめ、下着とともにそれを引き下ろした。
すると、すでに鎌首をもたげている太長い肉刀が、そこからのそりと顔を出した。
「てめえのチンポには触んじゃねえぞ。『いつも通り』俺のチンポだけでイカせてやるからな」
そう低い声で命じた男は、ふたたび周作の尻をつかむと、その間に自分の巨砲の先をぐっと押しつけた。
「は、ぁぁぁん……」
「なんだぁ、てめえケツに俺の亀頭押しつけられただけで感じてんのか」
「そ、それは……っ」
男の顔が、残忍な笑みで歪んだ。
「なら、こうすればもっと感じる……よなっ!」
間を置かずに、ズンッ、と男は、腰を前に突き出した。
「あぁぁぁぁっっっ!!」
喘ぎともひきつれた叫びともつかぬ周作の太い声が、店内に響きわたる。そんな苦しげな表情の周作を構いもせず、男は周作のがっしりとした腰をつかみ、自らの肉棒で目の前の尻を突きまくった。
「おぉ……ちくしょう、ノンケのケツは、やっぱ締め付けが違う、な……」
「ぐぅぅぅっ、おっ、あっ、おおおっっ!」
昼間は客の目の前でラーメンを作っている場所で今、パンッ、パンッ、と肉がぶつかり合う淫らな音が響きわたっている。
「……!」
祐はいつの間にか、自分のペニスがズボンと下着を突き上げ、ぎりぎりと痛いほどに勃起しているのを感じていた。その先端には汁がじんわりとしみ出している。
男同士のセックスなんて、醜悪の極みだと思っていたのに……。
そんな祐の視線も知らず、男たちは、互いに快楽の果実をむさぼり食っていた。
汗みずくの顔をいきらせた周作が、
「ヒワダさん、お、俺、もう……い、い……」
人形のようにがくがくと大きく体を揺らしながら、男に懇願した。
「ふん、もうイクのか。しょうがねえな」
ヒワダ、と周作に呼ばれた男は、さらに腰のスピードを上げていった。
「うぁぁぁぁっ!! い、イク、イッちまうぅぅぅぅ!!」
「オラ、てめえの大好きなチンポのごちそう、たんと喰らえや!」
ヒワダは最後に吠えるようにそう叫ぶと、周作の尻に自らの腰でガツンと一撃を加えた。
「うっ、ああっ……で、で、出るぅぅっっっ」
二人の動きが止まり、びくびくとそれぞれの体がけいれんするように震えた。
ヒワダはなおも微妙に腰を動かし、自分の巨砲をぐいぐいと周作の腸壁にこすりつけてから、それを周作の尻からずるりと抜き去った。てかてかと淫らに光った肉棒が、痛々しく腫れた周作の後孔との間に白い糸を引いている。
ヒワダは、周作の足元に散った大量の白濁汁をじろりと見て、ふふ、と笑った。
「……なんだい大将、このザーメンの飛ばしっぷりは。てめえの雄汁が食器にまでかかったんじゃねえのか」
しかし、キッチンに寄りかかったままの周作は、ただうつろな様子で射精の余韻に浸っていた。
祐は、いきり勃った股間を強く押さえたまま、その様子を物陰から呆然と見ていた。
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