振り返るとそこに青い瞳の淫魔――インキュバスがそこに浮かんでいた。

【インキュバス】
「しかも……教材になって、ないよね?」

【冬真】
(……く……)

 攻撃したいが――足場は幅10センチ、しかも体勢が悪い。

【冬真】
(……頼む)

 右手を懐へ入れつつ、携帯を持っている左手をゆっくりと動かして淫魔の視界へ晒す。

【インキュバス】
「ん? なに持ってるの?」

【冬真】
「えっと、これは……」

【インキュバス】
「ああ、携帯って機械だよね? 人間界で流行ってるって習ったよ?」

 食いついてくれたらしい。

 インキュバス――ペニスを持つ淫魔の性欲の対象は、女性だ。

 可能性はあると思っていた。

【冬真】
「……よ、よければ、使ってみる?」

 僕は携帯をインキュバスに差し出す。

【インキュバス】
「いいの?」

【冬真】
「どうぞ……」

 淫魔は手を伸ばしてきて――でも、その手が掴んだのは僕の手首だった。

【冬真】
「なっ……!?」

【インキュバス】
「でもね? あたしは機械よりきみに興味があるんだー?」

 そう言って、淫魔はいやらしく笑う。

【インキュバス】
「あたし、教材になってない人間と会うの、初めてなんだよね」

 インキュバスは、ぐいっと掴んだ僕の左手を引っ張った。

 バランスが崩れる――前に、僕は自分から後ろへ飛んだ。

 体を捻りながら、退魔札を放つ。

【インキュバス】
「っ!? こ、れって――!?」

【冬真】
「消えろ……!」

【インキュバス】
「ひぎいいぃぃぃぃぃぃっ!!?」

 耳がつんざく絶叫を残して、インキュバスが燃え散っていく。

【???】
「あ……あああ……っ!?」

【冬真】
「……!」

 校舎の上、屋上に別の淫魔がいた。

【インキュバスB】
「よ、よくも――っ!!」

 淫魔は叫びながら屋上の柵を乗り越え、一直線にこっちへ飛んでくる。

 早い。

 でも、僕は彼女に気づいてからすぐに退魔札に霊気を込め始めていた。

 すれ違い様に、退魔札を命中させる。

【インキュバスB】
「ぎゃああああぁぁぁ――っ!?」

 淫魔は地面を転げながら、燃え尽きていった。

【冬真】
「ふぅ……」

 同時に来られてたら危なかった。

 


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