正直言って、危なかった。

 退魔師は淫魔と一対一で戦うなんてことは絶対にしない。

 わずかな接触が敗北に繋がる以上、隊を組んで任務に当たるのが通常なのだ。

【冬真】
(どうしよう……まずは、この部屋を調べてみるべきかな)

 人間界と淫魔界は次元を異にしている、と言われている。

 おそらく歩いては帰れない。

【冬真】
「……だめだ」

 部屋にいくつかあった装置の使い方はまるでわからなかった。

 霊気でも動かないところを見ると、たぶん淫魔専用なのだろう。

【冬真】
(教材、か……)

 教材――淫魔は人間界から若い人間をさらって、若い淫魔たちの勉強道具にしている。

 それは退魔師の間では周知の話だ。

 人間界で淫魔に襲われても、大抵は『気持ちいい夢』で済んでしまう。

 一人の淫魔に、溜めていた精気を奪われるだけだからだ。

 けれど、淫魔界に誘拐された場合は話が違ってくる。

 相手は多くの淫魔で、精が尽きたからといっても解放はされない。

 淫魔による輪姦。それに、人間は耐えられない。

 よくて性的不能、悪くすれば廃人――それが誘拐された男の末路。

 女の場合はよくて性依存、悪ければ――……。

【冬真】
(とにかく……誘拐された人は帰ってくることが多いし、淫魔も人間界に来てるんだから……)

【冬真】
(淫魔界には、人間界へ行くための術や装置があるのは間違いないんだ)

【冬真】
(人間を送り返すことだって――)

【冬真】
「う、ぁ……?」

 不意に視界が赤く、熱くなった。

【冬真】
「これはやっぱり……長居は、まずそうだ……」

 淫気も問題だが、精気が濃すぎるのだ。

 淫魔界の精気の濃度は、体感で人間界の百倍以上はある。

 逆に言うなら人間界の精気は薄い。

 そこで人間は、魂の燃料の元となる精気を積極的に取り込むように進化した。

 そんな人間が淫魔界に来たら、精気を取り込みすぎてしまうのは必然だろう。

 結果、精気酔いが起きる――早い話、発情する。

【冬真】
(人間界で溜まった精気を発散するなら自慰で十分だけど、ここだとたぶん……)

 自慰で発散した分の精気を、すぐに取り込んでしまう。効果無し。

【冬真】
「保って、半日……かな」

 それまでに人間界に戻らないと、僕は正気を失って自ら淫魔の元へ向かってしまうに違いない。

 


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