脅された女教師の末路 体験版
第1話
(……こんなメールを送られても、破廉恥な真似なんて絶対に出来ないんだから)
携帯から顔を遠ざけた後、曜子はそのまま廊下から立ち去ることにした。
自分宛てに送られた脅迫文ごと、言いつけられた命令を無視するつもりでいたのだ。
課せられた命令を拒むため、曜子は職員室へと引き返していく。
(いくら弱味を握られても、学校の中ではしたない行為をしでかすなんて、教師として絶対に許されないんだから……)
廊下を歩き続ける間、曜子はある考えを巡らせる。
見ず知らずの誰かから突きつけられた脅しに屈するなど、教師として絶対に許せなかったのだ。
まさか携帯に書かれた内容どおりに、自分の立場が貶められることもないはずだと、曜子は何度も自分に言い聞かせていた。
いつ誰かが覗いているかも分からない、静まり返った校舎内の薄気味悪さから逃れたかった……その一心で、曜子は職員室までの道のりを引き返す。
他の教師達もいる場所に戻れば、心細さも拭えるはずだと思っていたのだ……
* * * * * *
「……ヤダっ、酒崎先生じゃない」
「もしかして、まだ知らないのかな……?」
脅迫文を受け取った日の翌日、曜子は普段どおりに学校を訪れていた。
顔を合わせた生徒達と挨拶を交わそうとした途端、続々とざわついてくる様子に、曜子はどうしても頭を捻らずにいられない。
曜子の顔を見かけるたびに、ろくに挨拶を交わさないどころか、小声で何かを話し合っているらしいのだ。
ガラガラッ。
「おはようございます……」
生徒達の不穏な様子を気にしながら、曜子はついに職員室へ辿り着いていた。
騒がしい生徒達もいない職員室の中なら、少しは落ち着けるはずだと考えていたのだ。
自分の姿を見かけるたびに噂を立ててくる生徒達から、やっとの思いで離れられたので、曜子はほっと肩を撫で下ろす。
「あの、酒崎先生……生徒達に何か、言われませんでした?」
「申し上げにくいことなのですが……こんな画像が出回っているようなので」
自分の席に腰掛けていた曜子へ、他の教師が不意に近づいてくる。
どんな用事かと振り向いた直後、曜子は目の前に携帯の画面を突きつけられていた。
曜子自身がまだ気づいてないのを不憫に感じて、学校中で引き起こされた騒ぎの原因を、教師はそっと曜子の前へ突きつける。
「こ、これは……! 一体いつ、こんなものが送られてきたんですか?!」
ワナワナワナッ……
教師から差し出された携帯の画面に、曜子はあっけなく身を固めてしまう。
昨日送りつけられたのと、全く同じ内容の画像を目の当たりにしていたのだ。
控え室の中で着替えている様子や、職員用のトイレで用を足す様子を、どうして他人の携帯から見せられているのか、曜子はどうしても考えずにいられない。
自分だけでなく他の教師達にも、さらには顔を合わせたばかりの生徒達にも、どうやら脅迫に使われた画像が出回っているようだ……
(あんな恥ずかしい命令、出来なくて当たり前じゃない! 一体どうして、こんな目に遭わないといけないの……?!)
とんでもない状況を強いられて、曜子はあっけなくうろたえてしまう。
決して人前では見せられない姿を、すでに学校中に知れ渡っていると言う事実に、曜子の気持ちはすっかり揺さぶられていたのだ。
周りにいる教師達や、さらには校舎に続々と集まる生徒達が、自分に向けてどんな感情を抱いているか……考えるだけで全身が震え上がってしまう。
痴態の数々が広まった後でも、今までどおりに気丈な振る舞いが出来るのか、どうしても考えられそうにない……