(01/05)
大学生となった鈴木ハナエは、順風万端な日々に戸惑いを感じていた。
はじめは大学の雰囲気に馴染めず苦労したが、同じ地元出身の恋人が出来てからは大学生活も居心地の良いものに変わり、ハナエはすっかり彼氏に精神的に依存するようになっていた。寂しかった一人暮らしも、同じように一人暮らしを始めた彼氏と助け合う事で楽しいものとなっていった。恋人がいるという事で女友達との関わりも楽になる事が多かった。
結婚の話もハナエから持ちかけた話だった。
最初は「同居したほうが生活費が安く済む」といった軽い話だったが、同居を両親にどう説得するかという問題を正攻法で進めようとしてから一気に加速してしまった。彼氏を両親に紹介すると、相応に驚いた反応だった両親も次第に気が急いてしまったようだ。目立った長所はないが取り立てて短所も無い彼氏に父親も反対を続ける事が難しくなり「同居するという事はその先の責任も取るのだろうな」と念を押した。母親も「結婚は早いほうが良い」と言い出すと、父親も「ならば早く孫の顔が見たい」と言い出した。それらは他愛も無い世間話がこじれての事で、同居の話は結局お流れになってしまったのだが、両親同士の付き合いは順調だったようで、いつしか「大学を卒業して就職したら結婚」という事に決まっていた。
もちろんハナエも、その彼氏も、結婚そのものには賛成だった。面倒な事も無く結婚話がまとまった事は喜ばしい事だった。
しかしハナエの心中には、ちょっとした戸惑いが湧き上がっていた。
自分が地味な女である事は本人が一番自覚していた。なのに同世代の友人を差し置いて順調に幸せを手に入れられる事が、どこか信じられなかった。
自分より恋愛経験の豊富な女子は山ほどいる。なのに自分は初めて付き合った男性と結婚が決まったのだ。
結婚そのものには何の不安も不満も無い。
しかし、世間が騒ぎ立てる恋愛経験とは無縁だった自分がいち早く幸せになれる事が信じられなかったのだ。
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