アイチの住む村は神聖国家ユナイテッド・サンクチュアリの端にある、小さく特徴のない平凡な村。
そこにアイチは母親のシズカと暮らしていた。

気が弱くて、自分に自信がなくて、いつもいじめられているばかりのアイチに友達がいなかった。
今日も同じ年頃の子から石を投げられていたが明るいオレンジ色の髪の小さな女の子が怒鳴りながら走ってきた。

「コラー、アイチをいじめるなーー!!」
「やべっ・・エミだ!」
片手には物騒な木の棒が、石を投げてきたら場外ホームランをぶちかます予定であったが
エミの迫力にいじめっ子はあっさりと退散していく。

「アイチ、大丈夫・・」
石をぶつけられて、額から血が出ている。
持っていたハンカチでエミは拭いてくれた、弱い者虐めばかりしてっと

一年前からエミはアイチをいつも守ってくれていた。



エミはアイチの本当の妹ではない。
一年前、川で一人アイチが泣いていると、岸辺に気を失い流れ着いたエミを見つけて助けたのがきっかけだ。
汚れてはいたが高価そうなドレス、身分の高い人なのだろうとシズカは話していたが
アイチよりも小さな女の子が何故?と話をしているとエミは目を覚ました。

アイチと同じ、青い目を数回瞬きさせる・・心配して声をかけるアイチを見て。


「アオト兄様!!」


などと、聞いたこともない名前で抱きしめてられて驚いた。
かなり、混乱していたので落ち着いたところでシズカが、他人の空似であると説明すると

恥ずかしそうにアイチに謝る。

「貴方はエミさんというのね、ところでご家族は?」
温かなスープの入ったカップを手渡しながら、捜索願いが出ているかもと憲兵に聞いてみようかとすると
それだけはやめてほしいと、懇願されて、深い事情があるとアイチもシズカもすぐにわかった。

「あのっ・・私を此処に置いてもらえませんか!
怪我の治療費の分だけ働きますので、お願いします!」

ベットの上で正座をし、頭を下げる。
とてもしっかりして、ちゃんとしたところで教育を受けていたのでろう、それもかなりの。

「迎えの方が来るまで、いつまでも此処にいていいのよ。この家には私とアイチだけしかいないのだし・・・
アイチのお下がりの服もあまりないし、今度買い物に行きましょうね」
「そうだね」

嬉しそうにアイチとシズカは提案するが、エミは人が集まりそうな場所へ行くのを嫌がって
エミの好きそうな服をシズカが買ってくると、エミはとても喜んだ。

「見てー、アイチ!」
足を軸に一回転し、ふわりと揺れるスカートを気に入ったように笑顔で見せてくれた。
最初、先のことで不安そうな顔ばかりをしていて、元気になってよかった。

村人もよそからは来たエミに対し、警戒心を露わにしていたがすぐにアイチのしっかりした妹として
いじめられると何処からともなく現れて、時には、お玉を片手にアイチを助けにくる姿をよく見かけていた。

「もうっ、いい年になっていじめだなんて、恥ずかしい人達ね」
「仕方ないよ、僕が・・・・弱いから」

「アイチ・・・・」

エミのように、気持ちを声に出すこともできず、人の後ろに隠れてばかり。
村の友達は誰もいない、ただ二人だけ本当の友と呼ばれる同世代の子がいたが、何処かへ引っ越してしまい

二度と会うことはできないであろう。


「君に会いたいな・・」
首からかける形で、持ち歩いているカードに触れる。
友人がくれた、このカードのおかげで土をかけられても、無視されても平気なのだ。

エミがアイチを助け、シズカが家で夕食を作って、三人で眠る。
その繰り返しの日々が、幸福であることに・・・−−−失って始めてアイチはわかった。




もう寝る時間だと、風呂から上がり、寝ようとした時だった。
ドアを激しく叩く音にシズカが玄関の扉を開ける。

「こんな時間に?どちら様ですか?」
「マイという者ですがっ・・こちらにエミ様はおられませんか!」
扉を開けるとエミと同じ歳ぐらいの娘と、男が二人。
顔見知りなのだろうか、なのにエミの顔は真っ青だった、幸福な時間が終わりを迎え
現実が迎えに来たのだと、もう此処にはいられないのだと感づいたのだ。

「アオト様っ・・・!」
慌てるように、腰を下げるがまた勘違いされたと人違いだとエミも説明。
そんなに似ているのかと、エミの兄さんという人物に・・・一度会ってたみたいような気がしてきた。

「あのっ・・エミは」
「失礼は許しませんよ!
この方は神聖国家ユナイテッド・サンクチュアリの第二王位継承者先導エミ様ですよ!!」

この国の王族。
慌てるようにしてエミを見た、汚れていたが高級な素材を使ったドレスに知識と教養。
まさかこの国の王族だったとは、しかし・・シズカはこの村にも届いた話を聞くと妙なことが。

「ですが、王族の方々は皆殺しにあったと・・・」
「そうです・・エミ様とアオト様を残して殺されたのですっ・・・!!ドラゴンエンパイヤの皇帝に!!」

『深紅の死神』『帝国の暴竜』と、恐れられたドラゴンを使うヴァンガード。
その男に家族を奪われ、今も追われる身のエミ。

川に流れついていたのも、彼らから逃げる際、襲撃を受けて川へ落ちたとマイは話した。
必死に探すこと1年、生きていると信じ続け再会できることに彼らは感激していたが、エミは嬉しくなさそうだ。

「さぁっ・・早く。ドラゴンエンパイヤの手の者が近くまで!!」
「えっ・・・!!」
移動しやすい服に着替えると、別れの挨拶もなくエミを外へ連れ出そうとする。
引かれるような形で早歩きするとエミは、悲しそうな目で遠ざかっていく家にいるアイチとシズカを見ていた。

「エミ・・・」
何もかもが突然過ぎて、何もできなかった。
戻りたくない、エミはこの家で暮らしたかったのだと、悲しげに振り向いたエミは言葉には出さなかったが
そう、アイチには訴えているように見えて、アイチは追いかけようとすると夜だというのに村を囲むように火が上がる。

「火事・・・・!!」
空を巨大な生き物が通過していく、目を凝らすとそれはドラゴンだった。
ユナイテッド・サンクチュアリには珍しい、フレイムドラゴンのユニット。

彼らのいう通りドラゴンエンパイヤの者が来ているのであろ。

習慣や価値観の違いから、ドラゴンエンパイヤとユナイテッド・サンクチュアリは争いが絶えず
この村もかつてはドラゴンエンパイヤの領地だったのだと、シズカから聞いたことがある。

好戦的で、戦うことに命すらもかけている。
もしもエミが彼らに見つかれば、殺されてしまうかもと・・・胸に手を当て握りしめるとアイチは走り出した。

「アイチ!!」
「僕、エミのところへ行ってくる!!」

走り出した、アイチ。
村の広場には、ドラゴンエンパイヤの兵士がいて、村を制圧しているようにも見えた。

人の隠れて進む道をアイチは熟知している、いじめっ子から身を守るために身に着けた術だ。
隠れながら進んでいると、人の声が聞こえる、エミを迎えに来た男の声に似ている。

「悲鳴だっ・・・!!」
いじめっ子から、逃げる時みたいにただひたすらに走った。
声のする方向へと、そこではマイがエミを守るようにユニットの召喚に使うカードを持っているが
戦闘用ではないのか、召喚しても時間稼ぎにもならないと護衛の男もやられてしまった。

「さぁ・・一緒に来てもらうぜ、エミ王女様よぉ・・」
「こないで・・ください!!」
マイがカードのユニットを呼び出そうとすると、男は骨の強張ったその手でマイを殴った。
地面に倒れるマイをエミが、悲鳴に似た声で呼ぶ。

「あんたを捕まえれば、王からたんまりと褒美が貰えるんだぜ・・・」
「離してっ・・・アオト兄様・・・・・アイチーーーー!!」

「エミを離してださい!」
息を荒くして、現れたのはアイチ。
動きやすいように男にも見えなくもない恰好をしているのが、兵士はアイチをアオトと勘違い。

「お前は・・・アオト王子かっ・・!へっ・・でも、お前はヴァンガードじゃねぇんだろう・・使っているところを
誰も見た事ないっていうし、お前も捕まえて俺は上官になるぜ!!」

かげろうのカードをエミを掴んだまま、コールする。
現れたのは、バーサーク・ドラゴン三体相手に生身のアイチが勝てるわけがない。

「アイチ、逃げて!」
振るえる身体、炎を吹くドラゴンなど見たことが無くて、腰が抜けてしまいそうだが。
大丈夫、やれる・・・何故ならアイチには


勇気を剣に変える剣士がいる。


いつも首から下げているカードを取り出し、天高く上げる。



「立ち上がれ!!僕の分身、コール!!ブラスター・ブレード!!」
魔法陣に似たサークルが現れると、そこから白い鎧と剣を持つ成人男性ほどの剣士が現れる。


「ロイヤルパラディンッ・・・!!ブラスター・ブレードだとっ・・!!」
光り輝く、その光。
ユナイテッド・サンクチュアリに語り継げられている、聖騎士団のクランを持つユニット。
あの噂は、本当だったのかと、驚愕の目でアイチを見ている。

「アイチが・・?」
エミも、目を見開いて驚いている。
そして、アイチはブラスター・ブレードに命じ、エミとマイを助けた。

呆然としている間に、あっさりと助け、アイチの近くに二人を下すと白い剣を地面に突き刺して
三体のユニットの動きを一時的に封じると、走り出し、ユニット三体を斬りつけるとユニット達は消えていく。

「凄い・・」
まるでドラゴンエンパイヤの、かの死神にも劣らぬ強さ。
敵の兵士は尻尾を巻いて逃げ出した、そしてブラスター・ブレードは膝を折り、アイチに頭を下げる。

〈マイ・ヴァンガード、お怪我は?〉
「ううん、でも・・・あの人達は・・・・・」

護衛の男二人の脈を確認する、ブラスター・ブレードだが手遅れだと首を横に振る。
もう少し早く到着していればと悔やんでも仕方がない。

「とにかく、この場から・・・」




「そうはいかないぜ」



空を見上げると、バーサーク・ドラゴンとは比べものにならないほどの大きさのドラゴンに乗った男が現れた。
逆光で顔は見えないが、アイチに火球をぶつけるがブラスター・ブレードが前に出てガードする。

「へぇ・・やっぱりロイヤルパラディンか、国の大犯罪者に聖騎士使いとは・・だったらこれならどうかな!!」
ドラゴンが上へと頭を上げると、第一波以上の炎の攻撃に熱風で火傷しそうだ。
エミとマイをアイチが守るように抱くが、さすがのブラスター・ブレードも辛そうな顔をしている。

〈・・・・・!!〉
巨大な爆発が起き、「やべっ・・やりすぎだ!!」と慌てる男。
しかし、アイチ達がいた場所には人の焼死体らしきものは発見されず、逃げられたが逆にホッとする。

「逃げられたかー・・まさか、あいつはともかく無関係なエミ王女まで燃やしたらあいつに殺されるし・・」
「三和部隊長・・大変ですっ・・!」
頭を掻いて、追撃部隊の編成をしていると慌てたように部下の男が駆け寄る。
まさかエミを間違って殺して死体が出てきたとかなしにしてほしいが、三和の予想を超える事態の報告を受けることに。

「そのっ・・櫂皇帝陛下が自ら出撃に・・」
「はぁぁぁ???」

もう近くまで来ていると聞いて、顎が外れそうになった。
昔、この近くで暮らしていたと聞いたことがあったが、ド派手な懐かしさを尋ねる旅でもしに来たのかと
追跡部隊に命令を出すと、すぐに相棒のドラゴンと共にやってくる櫂を迎える準備をする羽目に。