惑星クレイには、こんな伝説が残されている。
世界が虚無の闇に包まれた時、光の名を持つ先導者と呼ばれる存在が

異世界より現れ、光へと導いていく。





初めての感覚だ。
例えるならジェットコースターに乗った時の無重力に似たような・・・、上も下もわからない。




「・・・ココは?」
ようやく足に地面がついて、ふらつきながら立ち上がる。
ブレザー姿のラピスラズリの髪と瞳をした少女・先導アイチは平均の女子高校生達よりも小柄が悩みのごく普通の女の子だ。

「うわっ・・・綺麗な白い羽だ」
この中に落ちたから怪我もなかったんだと、手の中で暫く羽を触っていたが
いつまでもこんなところにいられないと立ち上がる、手に持っていた学生鞄が見当たらない。

落ちた場所は丸く削られたようにそこから、空が見えたが高くて登れなさそうだ。

「どうしよう、携帯と・・・あとお金もないのに・・・・・・・・・というか。何処?」
標識でもないかと辺りを探すも、何もない。
しかも、日本ですらないような気がしてきた。

まるでギリシャの古代遺跡のような神殿の中にいたようで、外に出てきてようやくそのことがわかった。
長い間放置されていたのか緑の苔がびっちりとついている。

「えっと、修学旅行でもないし・・・なんで僕こんなところに」
どうしてこうなったかと思い出しているが、どうしてこんなところに来たのかまったく思い出せない。
遺跡みたい建物があるということは、誰か住んでいるかもしれないと人を探していると

空から人が変な生き物に乗って降りてきた。


「ふええっ!!」
ドスンッという音と共に、下りてきた。
よく見ると恐竜に機械が融合したような形をしている、見たこともない生き物に後ろへと身体が下がる。

「こいつが例の?」
隣には同じ生き物に乗って、鎧姿の人間が降りてきた。
顔を合わせてアイチを確認している。

「普通ならありえんが・・・、周囲に人もコイツ以外いないし、念のため連れて帰るか」
勝手に話を進めている二人、よくわからないが二人はアイチの意志を無視して拉致しようとすることだけはわかる。

「さぁ、こっちにこい!」
「・・・・いやだっ!」

力任せに連れて行こうとすると、アイチは遺跡とは別の森の中へと走っていく。
追いかけてくる二人を振り返ってみると、男達の後ろに巨大な影が。


「あっ・・・・・・!!」
「おい、後ろ!!」

男のうちの一人が、もう一人に声を掛ける。
巨大なクモのような生き物はアイチの3倍もあり、そのおかげでアイチは逃げ切れた。

(何だったんだろう、あの生き物!。此処は後江・・・日本じゃないの?)
あんなでかい生き物が発見されれば世界ニュースにもなるはずなのに、彼らは驚いていたがアイチほどのリアクションはなかった。

日常的にあの大きさの生き物と接している。

「わけがっ・・・わからない・・・誰か・・!」
あの二人以外の人を探して、走っていたが木の根っこに足を取られる。
転びそうになったが慌てて身体のバランスを取ろうとしたが、不安定な足場に足元が安定しない。

「あっ・・ちょっ・・・・わわっ!!」
そのまま運悪く巨大な地面の亀裂に、落ちてしまう。
下は暗闇で、底なんてわからない。

「・・・・しまっ・・・きゃぁぁっ!!」
真っ逆さまに何も掴むこともできずに、落下しているアイチの身体。
遠ざかっていく大地、死すらも覚悟しかけていたが


風を切る音が聞こえて、誰かがアイチの身体を受け止めた。


「・・・・・・・あれ?」
「・・・」

フードを被っていて顔はよくわからないが、助けてくれた。
横抱きにアイチを軽々と抱き上げて、体格からして男なのだろうと安全なところに着地するとアイチを降ろしてくれた。

「ありがとう・・・ございます・・貴方は?」
「・・・俺は櫂トシキ、お前が異世界から来たとか言う先導者〈ヴァンガード〉か?」

ヴァンガード。
聞いたことのない横文字だ、確かに先導という名字だが先導者というものではない。

彼はうっとおしそうにフードを下す、特徴的に跳ね亜麻色の髪。
陽の光の下に現れたのは綺麗な翡翠の瞳に整った顔立ちで何処となく男らしい凛々しさを感じるようで、思わず見惚れてしまった。

「えっと・・・僕は先導アイチと言います、でも・・先導者っていうものじゃ・・」
「ならば、お前は何処から来た?」

素直に住所と答えた、すると男はやはりなと目を細めた。
何かいけないことを答えたのだろうかと考えていると、誰かの大声が聞こえてくる。

「いたぞ!!あそこだ」
最初に会った男とも違う声だが、明らかにアイチを指差している。
しかも大人数であっという間に囲まれてしまい、櫂の後ろにアイチは下がった。

「あの娘は先導者だ!!捕えれば各国から大金が貰えるぞ」
「うっとおしい・・・」

スッと男達は手を翳すと、変な生き物が現れた。
まるで手品のように何処から種すらも見当たらず、我が目を疑う。

「〈ユニット使いか〉・・・しかし〈マイスター〉はいないようなら・・・・すぐにカタがつく」

櫂は同じように手の平を前に出すと、空から一枚のカードがくるくると回転しながら降りてくる。
それを潰すようにして握ると、パアンッとカードは光の欠片となって消えた次の瞬間

赤い、本でしか見たことないようにドラゴンが姿を現す。

耳が痛くなるように咆哮を上げると、櫂の命令を受けて男達を蹴散らしていく。
彼らも応戦するが力の桁からして違うのか、次々に倒されて、僅か数分で全員を地面に倒れさせた。

「凄い・・・」
「俺は〈マイスター〉だ、格下のユニット使いのお前らごときにやられるものか」

この場にいては、また追手が来るかもしれない。
アイチを呼び出した?ドラゴンに乗せると、一気に空へと舞い上がる。

強い風圧に一時、目を閉じていたが・・・ようやく慣れてきて目を開けると遺跡のあった場所が島であることに気付いた。


「島・・・だったの?」
前を座る櫂の腰の辺りの服を、握る力が強くなる。
僅かにその手は震えていた、此処は異世界で、しかも先導者として導かれたのは本当だと。

でも何故アイチは自分が選ばれたのかわからない。
何の力もなくて、同世代の子よりも身長もないというのに、劣っているのならわかるが

今、アイチはこの世界の誰よりも無力なような気がした。

(・・・何から説明するか)
櫂の方も、まさかアイチが何も知らずに一方的な呼び出されたとは知らず混乱していた。
見たところ崖から落ちそうになった時、特別な力の類を使おうとはしなかったし、ただ異世界から来たのは本当らしい。

見たこともない、アイチは制服と言っていた洋服。
ニホンと言う名の国も存在しない。

(ただの人間を異世界から呼び出して、どうするというのだ?)


本当にこんな小さな少女が、各国のマイスター達を導いて、世界を平和にするのか?
落ちないように櫂にしがみついているアイチに、櫂は予言を疑っていた。


「まずは言っておく、此処は惑星クレイ、お前のいた世界ではない」

冗談だと、思いたかったが彼の瞳は真実を語る者の目をしている。
アイチは驚きのあまり声も出せなかった。