「急ぐぞ、アイチ!」
「うんっ・・・!」
二人の子供は辺り一面、炎に囲まれた中で手を繋いで走っていく。
辺りには頼れる大人はいない中で、炎のない安全な場所を目指して熱い炎の中にわずかにあろう、炎のない道を走っていたが
目の前に、大きな黒い影が現れた。
「櫂・・・君っ・・・・!」
自然とアイチと呼ばれる少女は櫂の後ろへと下がる、アイチは櫂と呼ばれる少年を見ると
彼は大きな影に対し、怒りの感情を込めて睨んでいた。
「お前がっ・・・父さんと母さんをっ!」
「待って!!櫂君っ・・・!!」
影に向かって櫂は走っていく、アイチを置き去りにして。
一人残されたアイチはどうすればいいかわからずに、混乱している。
やがて、櫂とアイチの間に、炎で焼かれた家が道を塞いでしまい・・追いかけることができなくなってしまい
アイチは一人になり、立ったまま炎に向かって大声で。
「櫂君ーーーー!!」
彼の名を呼ぶ。
惑星クレイ、それは平和に人々が暮らしていた緑豊かな星だった。
しかし、ある日・・・大国が一夜にして滅ぼされたのをきっかけに平和は突如として終わりを迎えた。
クレイにはユニットを誰もが呼び出せる力を持っている、その中でも特に秀でた者『ファイター』達が大国を滅ぼした未知の敵に立ち向かっていくのだが
各国への侵攻は食い止めれたのだが、多くのファイターが戦死。
しかも、根本を断ち切ったわけではなく、未だに世界各国に現れている宇宙からの侵略者・謎の生命体は
『リンクジョーカー』と呼ばれている。
「シーク・ザ・メイト、レギオン!!」
村を襲撃した、リンクジョーカーのユニットを倒そうとろ、己のユニットを呼び出しているのはまだ年端のいかない子供だ。
あの戦いは、星輝大戦と呼ばれ、多くのファイターは死んでしまったために
まだ経験の浅い、少年少女達を『ファイター』としてを戦わせなければいけなくなってしまったのだ。
「よし、今だ!!櫂」
「放て!!エターナル・フレイム!!」
口から火球を吐いて、リンクジョーカーのユニットは倒れた。
櫂と、そしてもう一人金髪の少年はホッとした表情を浮かべている。
「ミッション完了だぜ、櫂vv」
彼のユニット、文字の書かれた聖布が身体に巻き付いている封竜ブロケードを戻すが櫂は無表情のまま
ミッションは終わったと、帰り支度を始める。
「アレは雑魚だ、一体倒したくらいでいちいち喜んでいたらキリがないぞ、三和」
「そりゃそうだけど・・これで村を襲うユニットはいなくなると、喜んでもいいじゃねーか?」
確かに櫂の言う通り、櫂達の成長を待って根源に対し、戦争を仕掛ける準備をしている真っ最中。
今は彼らに対しての被害を食い止めるのが先決、もっと力をつけなければと一時の勝利に酔いしれている間などない。
宮地学園。
対リンクジョーカーに対し、世界各国から力のある子供達を集めて教育する学園の一つ。
力のある子供達は強制的にこの学園へ転入させられている、これも世界を守るためだ。
「見て・・・櫂トシキ君よ」
「本当だ・・・指揮官最有候補だぜ・・・」
櫂はその中で、もっとも力のあるファイターとして、学園でその名を知らぬものなどいない。
手首には赤い石が一個付けられたブレスレットし、光に反射して石は輝いていた。
廊下を歩いただけで、皆から注目を浴びていてた、完全無欠と思われてはいるが彼は悩みを抱えていた。
今まで一緒に戦っていた三和が、櫂とのコンビを解消したいと言い出してきたのだ。
『もう、お前に力を合わせられなくなっちまってさ・・わりぃ・・』
こればかりは努力しても簡単に埋めることができない、ユニットの力は生まれた時にほぼ定められているもので
代えようのない運命であるが、三和の代わりに櫂と戦ってくれる別のファイターだが、櫂クラスになると相手も限られている。
(あいつらは、すでに組んでいる相手がいるからな・・)
脳裏に浮かぶのは、同等の力を持つ櫂が認めた強いファイター達。
どうしたものかと悩んでいると三和に、組む相手を募集している掲示板のことを教えられた。
(俺ほどのレベルのファイターが、募集などかけているのか?)
しかし心当たりもないし、見るだけ見てみるかと足を運ぶと、そこには掲示板を真剣に見つめる一人の少女がいた。
青い髪と瞳、知っている顔だった。
「アイチ?」
「・・・かっ・・・櫂くっ・・!!」
驚いたアイチは、どうすればわからずにその場を後にする。
恥ずかしそうに顔を背けて逃げ出すアイチ、三和とは時期がずれてはしまうが幼馴染だ。
しかし、住んでいた町が襲われた後はほとんど話もしていない。
(・・・ファイター募集の掲示板?)
どういうユニットを使っているかは知らないが、アイチは櫂とは雲泥の差もあるファイターだ。
組んでくれるファイターを探していたのかと掲示板を見れば、条件などを提示した紙が貼られていて
アイチの文字で『メイト募集』と書いてあった。
それをごく自然に掲示板の板から外して、櫂は手に取って見ていた。
「びっ・・びっくりしたー、櫂君に会うの久しぶりだったけど・・変だったよね・・」
しかし戻るって挨拶のしなおしというのも、恥ずかしい。
櫂は超実力者のファイターだし、あんなことがあってから自然と顔も合わせづらい。
アイチの足元に、カワイイユニットがまとわりついていた。
いつも勝手に現れるアイチの相棒、頭に羽のついた卵色の身体をしたピーカ。
「大丈夫だよ」
ぽふっとアイチの頭の上に乗るピーカ。
機嫌がよかったのだが、隣の施設をじぃっ・・と見ている。
「どうかしたの・・・?ああ・・そういえば」
捕えたリンクジョーカーユニットがいると、友人が言っていたような気がした。
実験材料として学園に持ち込まれたが、動きは完全に封じていて、念のために何人もの強いファイターも警備に当たっているから
問題はないが、やっぱり人々を傷つけているユニットを安全圏である学園に入れるのは抵抗がある。
不安そうにしていると、ぺしぺしとピーカが頭の羽でアイチの頭を叩いてきた。
「早く帰ろうか」
掲示板を見たというと言ってくる生徒も、アイチと組んでくれそうなタイプのファイターのメイト募集もなさそうだ。
明日になったらメイトになりたいという人が現れればいいなぁいいと
オレンジ色に染まる廊下を歩く、ピーカはまだ気になるのか例の施設を見ている。
敵を倒すには、敵を知らなければならない。
この学園にリンクジョーカーのユニット、『メビウスブレス・ドラゴン』が運ばれてきた。
身体には黄色の鎖で縛られており、拘束されていた。
薬で眠らせており、万が一の場合のことも考えて学内でも凄腕のファイターが警備していた。
「なるべく傷つけるな、解剖するまでな」
白衣を着た男が指示を出していたのだが、突然ドラゴンは意識を取り戻し、瞳を開いた。
近くにいた数人の科学者が悲鳴を上げて逃げ出す、すぐに捕縛の力を高めたが抵抗力が強くて、自由を奪っていた鎖を強引に引きちぎる。
「屋も得ない!!処分しろ!!」
大きくメビウスブレス・ドラゴンが口を開けると、空気の振動のようなブレスを吐いた。
それを聞いたファイターや関係者達が次々に倒れていく、あのブレスには相手の動きを封じる力があり
いかに強いファイターであったとしても、動きを封じられば何の意味もない、・・・完全な失態。
「まずいっ・・・外に出てはっ・・・・!!」
倒れたファイターの一人がどうにか、立ち上がると赤い大きなボタンを思いっきり押して・・気を失った。
それは緊急警報を知らせるボタンだった、校内に響いたその音に帰り支度をしていたアイチにも届く。
「何の音だろう?・・・警報?」
ピーカは慌てたように、アイチに早く帰り支度をしろとせかす。
しかしアイチは何かあったのではと教師のいる職員室へと急ぐ、校内にはアイチの方にも数人の生徒が残っていて慌てたよう走っていた。
階段の真ん中あたりで、足を止めるアイチ。
彼らの会話が聞こえてくるとどうやら捕えていたメビウスブレス・ドラゴンが逃げ出して、暴れているという。
「早く先生を!!」
「でも、あいつを止められるのか!!レベルの高い生徒を呼んだ方が!!」
教師よりも、強いファイターも生徒の中にはいる。
判断に迷っていると突然、窓が壊れ、土煙が廊下に流れ込んできた。
「でっ・・・出たーーー!!」
男子生徒の一人が腰を抜かして座り込む、もう一人の方は傷を負って動けなくなっている。
メビウスブレス・ドラゴンは窓から覗き込むようにして、こちらを見ていた。
「リンク・・ジョーカー・・・・っ!!」
アイチの足も震え、立っているのがやっとだった。
ずっと男子生徒しか見ていなかったが、アイチの気配を感づくとこちらを見てきた。
窓から顔を出していたが、校舎を破壊するのも躊躇いもなく・・アイチに向かって襲い掛かってくる。
「嘘・・なんで!!」
どうして、アイチを狙ってくるのかわけがわからずに、とにかく上へと走り続ける。
残された生徒達は唖然としていると、櫂が現れた。
「何があった?」
何者かの破壊、生徒からリンクジョーカーのユニットに追いかけられた子がいると聞いて、すぐに上へと向かう。
それがアイチとは知らずに。
とにかく夢中で上へと走り続けるが、上は屋上になっていることに上る階段がなくなったところでようやく気付いた。
広い屋上に出たところでメビウスブレス・ドラゴンが大きく翼を広げてきた、アイチはピーカを抱えて・・・後ろへと下がる。
「・・・こっ・・・こないでっ・・・!!」
フェンスの隅の方まで追い詰められるアイチ。
もう何処にも逃げ道はない、震える手でピーカを抱きしめていると。
メビウスブレス・ドラゴンに突如、炎による攻撃が当たる。
「あっ・・・櫂君!」
助かったとホッとはしているが、このドラゴンは討伐難関度上位のリンクジョーカー。
三和がいればどうにかなったかもしれないが、今はアイチしか、この場にファイターはいない。
「アイチ、俺の『シークメイト』をしろ」
「レギオン〈双闘〉って・・・無理だよ!!だって・・・僕は君の力に合せられない落ちこぼれだよ・・」
格付けなんて天と地の差。
絶対に櫂の力を下げてしまう、できないとしょげる。
「俺の単体の力だけでは倒せない、一発勝負だがレギオンで一時的に力を上げてでも倒すしかない!」
ドラゴニック・オーバーロードもアイチを見下ろすように見ている、まるで諭すかのように。
一時的でも、ほんの数秒でもいい・・・櫂のメイトになれるのなら・・・。
「わかった・・・やろう」
「・・・では、行くぞ・・・」
「「シーク・「ザ」・メイト!!」」
二人の声が綺麗に重なると、アイチのピーカと櫂のドラゴニック・オーバーロードが輝く始めた。
メビウスブレス・ドラゴンも気づいたのは、こちらに向かってくる。
「レギオン!!」
黄色の双闘を意味する金色のマークが現れる。
すると櫂は今までに感じたことのない力の高鳴りを、感じた。
(なんだ・・これはっ・・・)
今まで、三和以外ともシーク・メイトしたことがあるが感じたのことのない感覚。
この力の前に、どんな強敵でも負ける気はしない。
「やれ!!オーバーロード!!」
大型の剣を手にし、オーバーロードはメビウスブレス・ドラゴンへと向かっていく。
そして真っ二つに胴体から切り付けると、黒い灰と化し・・・消え行った。
「やった・・!!」
喜ぶアイチ、一瞬でも櫂のメイトになれてよかった。
しかし・・櫂はアイチに「俺のメイトになれ」と言われたのだった。
「・・・えっ、僕が・・・櫂君の?」
「俺以外誰がいる?俺のメイトになれ」
ファイターの力を一つにする、シークメイト。
それの相手をメイトと呼ばれる、シンクロ率の高いファイター同士が成せる最強の技。
しかし櫂にはすでに三和という、メイトがいるのでは?
「でも、三和君と・・」
「あいつは俺のレベルについていけなくなったらしいからな、お前が三和の代わりに俺のメイトをなれ」
腕の中にいたピーカを落としてしまうほどの衝撃、地面には落ちずふわふわと浮かぶとピーカはオーバーロードの頭の角を突っついて遊んでいたが
オーバーロードはうなり声のようなものを出すだけで抵抗はしない。
「僕がっ・・・櫂君のメイト!!!!??????」
メイトは探していた、しかし・・櫂がアイチのメイトになってくれるなんて
リンクジョーカーには襲われるわ、櫂からメイトになれと言われるわ
幸運と不運が、両方いっぺんにやってきたとんでもない日だったがアイチにとって忘れられない日となる。
アイチの胸には白い石がはめ込まれたペンダントが揺れていた。