STAGE 1
「あれっ、触っただけで消えちゃった……それにどうして、疲れも吹き飛んじゃってるだろう?」
大皿に盛られた食べ物に恐る恐る触れた途端、瑠美子の身におかしな現象が引き起こされる。
いきなり食べ物が消滅すると同時に、疲れが和らいでいったのだ。
ひたすら考えを巡らせるうちに、ある事実へと辿り着く。
どうやら宙に浮かんでいた食べ物はいわゆる『回復アイテム』の一種らしく、触れたおかげで体力が回復したらしいのだ。
「……はうぅんっ!?」
ゾクゾクゾクッ……
いきなり下半身から押し寄せてきた感覚に、瑠美子はあっけなく意識を奪われる。
先ほどまで何ともなかったはずなのに、何故か尿意を催してしまったのだ……とっさに全身をこわばらせた後も、ひとりでに全身が震え上がってしまう。
両脚を重ね合わせたまま尿意を堪えている間も、つい焦らずにいられなかった。
どうして何の前触れもなく、おかしな感覚の波が押し寄せてくるのか、どんなに考えても理由を掴めそうになかったのだ。
『そんな所に立ち止まって、一体どうしたんじゃ? ……あれだけ沢山食べてしまった後なんじゃ、オシッコに行きたくなっても当然じゃろう。ほら、早く先を急がんか?』
うろたえている瑠美子を見兼ねて、またしても天の声が話しかけてくる。
どうして急に尿意を催してしまったのか、さりげなく理由を打ち明ける……回復アイテムに触れるだけで食事を摂ったことになり、そのおかげで体力が回復する仕組みだと説明していたのだ。
「そ、そんな……別に口の中に入れたわけでもないのに。あんなに沢山……食べちゃったことになっちゃうの!?」
ヒクヒクヒクッ……
天の声から聞かされた言葉の内容に、瑠美子は思わず耳を疑ってしまう。
たかが回復アイテムを取っただけで尿意を催す羽目になるなど、あまりに考えられない事態だった。
姿の見えない相手に言い返している間も、つい唖然とせずにいられない。
おかしな感覚の波が静まるのを待って下腹部を押さえている間も、大皿に盛られていた分厚いステーキや大量のフルーツがそのまま体内に収まってしまっている事実をありありと思い知らされる。
普段からお世話になっている回復アイテムに、まさかこんな副作用が潜んでいたなどさすがに思いもしなかったのだ。
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ……!?」
ヨタヨタヨタッ……
張り詰めたお腹を抱えたまま、瑠美子はひたすら先を急ぐしかなかった。
地面に脚を踏み込むたびに、重たくなったお腹が揺れ動いてくる。
どんなに認めたくなくても天の声が言っていたとおりに、大量の食べ物を摂ったせいとしか思えそうになかった。
ひたすら我慢を続けながら道を歩いている間も、刻一刻と勢いを増してくる尿意に焦らずにいられない。
もしゲームのヒロインが冒険の途中で催してしまったらどんな風に用を足しているのか、さすがに考えもしなかった。
ニュルニュルニュルッ……
「きゃんっ! な、何なのよコイツ!?」
おぼつかない足取りのまま草原を突き進んでいた矢先、瑠美子はあっけなく脚を止めてしまう。
やっと街が見えてきたはずなのに、触手の群れに遭遇していたのだ。
地面から生え伸びたまま艶めかしく蠢く様子に、つい焦らずにいられない。
『やっとここまで来れたか……こいつは《アルラウネ》と言うモンスターの一種じゃ。どうやら街に来る旅人を狙ってるようじゃから、すぐ退治してしまわんとな……』
「そ、そんなこと急に言われたって……!?」
その場に立ち止まったままひるんでいる瑠美子に、天の声がいきなり話しかけてくる。
どうやら草原に控えている触手を倒さない限り、街に入れそうにないらしい。
うねり続ける相手の姿など、目にするだけで戸惑わずにいられない……無防備な格好のまま尿意を我慢し続けるだけでも大変なのに、正体不明の生物に行く手を阻まれるなどあり得ない事態だった。
とっさに剣を構えた後も、ひとりでに背筋がこわばってしまう……