瑠美子のおもらしサーガ〜聖塊の乙女〜 体験版

STAGE 1

「えっ……ここ、一体どこなの? それに私、どうしてこんな格好なんかに着替えちゃってるの!?」



 いきなり陥った状況を、丘倉おかくら 瑠美子るみこは上手く飲み込めそうになかった。
 先ほどまで部屋に籠もってオークションで手に入れたばかりの中古ゲームをプレイしていたはずなのに、いきなり見ず知らずの場所に立たされていたのだ。
 見晴らしの良い草原に立ち尽くしたまま、おかしな格好をしていることにも気づき出す。
 まるで水着のような衣類の上から、所々が金色に縁取られた、鮮やかな桃色の胸当てや肩を覆うための鎧などを装着していたのだ……お腹や太股の表面を撫で回すそよ風によって、いわゆる『ビキニアーマー』という代物がどれだけ際どい衣装なのかをありありと実感させられる。

『――こら、さっさと冒険の旅に向かわないか!』

 茫然としている瑠美子へと、いきなり誰かが話し掛けてくる。
 なかなかスタート地点から動こうとしない瑠美子の様子を見兼ねて、すぐ歩き出すよう言い放つ。

「えっ……? い、一体どこから聞こえてくるの!? 」

 いきなり耳に飛び込んできた声に、瑠美子は驚かずにいられなかった。
 コスプレ衣装みたいな代物を着せられたままおかしな場所に放り出されるだけでも考えられないのに、突然誰かに名前を呼ばれていたのだ。
 何度も周囲を振り返りながら、つい困惑せずにいられない。
 すぐ近くに相手がいるはずなのに、どんなに見渡しても誰の姿も見つけられそうになかったのだ。

『――残念じゃが、ワシの姿は絶対にお主には見えんぞ。ワシはこのゲームのナビゲーター、いわゆる《天の声》じゃからな。ところでお主、本当にこの場所に見覚えはないのか? さっきプレイしたばかりじゃろ。最後の面をクリアできれば、無事に元の世界に帰れるはずじゃ。せいぜいゲームオーバーにならんよう気をつけることじゃな?』

 頭を捻ってばかりいる瑠美子に、相手はさらに言葉を続ける。
 自らを《天の声》と名乗った相手は今いる場所がゲームの中だと言い切った上、もし元の世界に戻りたかったらヒロインになりきって物語を進めるよう言い放つ。

「そ、そんなこと急に言われたって。私だって困っちゃうのに……」

 天の声の言葉に耳を傾けるうちに、瑠美子はますます困り果ててしまう。
 プレイしたばかりのゲームの世界に飛び込む羽目になるなど、どんなに考えても納得できそうになかった……はしたない衣装を着せられるだけでなく、コントローラーの代わりに長剣まで握らされて、これからヒロインとして振る舞わなければいけないらしい。
 未だに戸惑わずにいられない中、仕方なく脚を踏み出すしかなかった。
 どうやら天の声が言うには、最後までゲームをクリアできない限りはおかしな世界から抜け出せないようなので、何としてもエンディングまで辿り着かなければいけないようなのだ。

ピョンッ、ピョンッ、ピョンッ……
「な、何なのよコイツ。やっぱりさっき言われたとおりに、本当にゲームの世界に迷い込んじゃったの……!?」

 草原を歩き回っていた矢先、瑠美子はすぐに脚を止める。
 半透明の丸っこい身体に目や口がくっついた生物が、何故か目の前で飛び跳ねていたのだ。
 あまりに異様な光景に、つい目を疑わずにいられなかった。
 今まで見たこともない生物の存在によって、今いる場所が紛れもなくゲームの世界だと否応なく痛感させられていたのだ。

「それじゃ早速で悪いけど覚悟しなさい……えいっ!」
ズビュッ!
「きゃんっ!?」



 背筋を張り詰めたまま、瑠美子は始めての戦闘に挑む。
 どうやらスライムは段々と近づいてくるようだと気づいて、飛び跳ねるタイミングに合わせて剣を振り下ろしていたのだ。
 剣先にぶつかった途端、スライムはあっけなく真っ二つに切り裂かれて消え失せる。
 目の前で消滅していく様子に胸を撫で下ろす暇もなく、草原を駆け抜けるたびにスライムが跳ね回りながら近づいてくるので、そのたびに剣を振り回して次々と退治しなければいけなかったのだ。
 普段ならボタンを押すだけで済むはずなのに、重たい剣を振り回すだけで段々と腕がくたびれてくる。

「ぐふっ、ぐふふっ……」
ピョインッ、ピョインッ、ピョインッ……
(も、もしかしてコイツも……さっき倒したスライムの仲間なの!?)



 スライム達との戦闘に慣れてきた瑠美子の元に、別の刺客がやってくる。
 姿形こそ倒したばかりのスライムと同じものの、まるで金属のように表面が光り輝いてきて、何よりも異様に目つきが悪いのが気になってたまらない。
 いかにも性悪そうな面構えや不気味な声色に気を配っているうちに、嫌な予感が脳裏をよぎってくる……