フタナリ化牝馬・紗矢香

体験版 第1話

「それでは位置について、よーい……」
「……」

 他の選手達とともに、水橋みずはし 紗矢香さやかはスタートラインに立っていた。
 周囲の様子を窺いながら先を見つめているうちに、段々と肩がこわばってしまう。
 放課後に夜遅くまで練習に明け暮れるうちに、ついにマラソン大会の当日を迎えていたのだ……陸上部の選手として選ばれた使命を無事に果たせるのか、つい緊張せずにいられない。
 いつ火蓋が切り落とされるのか、今はただ見守ることしかできそうにないのだ。

(今日のために、暗くなるまで特訓してきたんだから……ちゃんと走り切らなくっちゃ!)

 スタートの合図が切られるのを刻一刻と待っている間も、紗矢香はしっかりと気を引き締めたまま決して緩めない。
 大会に向けて続けてきた練習の成果を、何としても発揮するつもりでいたのだ。
 長い距離を無事に走り切れるのか、そして何より優勝を勝ち取れるのか……どれだけ特訓を積んでいても、未だに気懸かりでたまらない。
 今までの努力を無駄にするような真似などは、何としても避けなければいけないのだ……

パンッ!
「はっ、はっ、はっ……」
タッタッタッタッ……

 ピストルが鳴り響くと同時に、一斉に選手達が走り始めた。
 紗矢香も周りに負けじと、スタートラインから一気に駆け抜ける。
 息を弾ませながら、しっかりと地面に脚を踏み込んでいく。
 長い距離を走り続ける間も、周りにいる相手選手の様子が気になってたまらない。

(何とか先頭に立てたみたいだし、この調子まで最後まで走り切らなくっちゃ!)

 夢中になって脚を動かすうちに、紗矢香は何とかトップに立つことができた。
 練習の成果を生かして、順調に他の選手を抜き去っていたのだ……周囲に誰もいなくなった後も姿勢を保ったまま、つい背筋を張り詰めずにいられない。
 たとえ現時点で先頭を走っていても、いつ後続の選手から追い抜かれてしまうかも分からなかった。
 まだゴールまでの距離が残っているので、当分は気が抜けそうにないのだ……

「はっ、はっ、はっ……」
ギュッ。

 ひたむきに走り続けるうちに、紗矢香はついに中間地点へと辿り着く。
 決して追い抜かれないようペースを保っていたおかげか、順調にトップを守り続けていたのだ。
 給水所を通り抜けながら、傍にあるコップを握り締めていく。
 残り半分も今のような調子で、トップをキープし続けなければいけないのだ。

「んんっ……!」
コクンッ、コクンッ、コクンッ……

 給水所で受け取った水を、紗矢香は息を切らしながら飲み込む。
 程良く冷やされた水を口にするだけで、火照った身体に染み込んできてたまらない。
 すべての水を飲み干した後、空になったコップを道端に投げ捨てる。
 あまり休んでいられる余裕もなかったので、ゴールを目指してひたすら走り続けなければいけないのだ。

「……うぐっ!?」
カクカクカクッ……

 中間地点を通り過ぎてから数分後、紗矢香はおかしな状況へと追いやられてしまう。
 まだ長い道のりが残っているはずなのに、段々と動きが鈍ってきたのだ。
 片手でお腹を押さえ込んだまま、つい呻かずにいられない。
 大会の途中にもかかわらず、とんでもない窮地に立たされていたのだ。

グルグルグルッ、ゾクゾクゾクッ……
(どうしよう……まだ大会も終わってないのに、どうしてこんな時にお腹が痛くなってきちゃうの!?)

 いきなり押し寄せてきた下腹部の異変に、紗矢香はあっけなく気を取られてしまう。
 マラソンの途中にもかかわらず、いきなり便意を催してしまったのだ。
 腸内がおかしな方向に捩じ曲がるような感覚が、とにかく辛くてたまらない。
 まだ長い道のりが残っているはずなのに、どうして肝心な時に催してしまうのか、どんなに考えても納得できそうになかった……

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
ヨタヨタヨタッ……

 突然の腹痛に思い悩まされる中、紗矢香は必死の思いで走り続けていた。
 もたついている隙を狙って、後ろを走っている他の選手にいつ追い抜かれてしまうかも分からないので、何としてもリードを保たなければいけないのだ。
 ひたむきに我慢を続ける間も、つい身を捩らせずにいられない。
 脚を持ち上げるたびに、段々とおぼつかない足取りへと変わり果てていく。

ギリギリギリィッ……
(どうしよう、どんどんお腹がおかしくなってきちゃって……もうお願いだから、あまり暴れないでってば!?)

 便意を堪えながら走り続ける間も、紗矢香は着々と状況を追い込まれていく。
 地面に脚を踏み込むたびに、衝撃がお腹の方にまで響いてきてたまらない。
 お腹に詰まっている代物が揺れ動くたびに、段々とおかしな焦りに苛まれてしまう。
 まともな身動きすら取れないほど、下腹部の欲求が刻一刻と勢いを増してくるのだ……

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……あぁっ!?」
タッタッタッタッ……

 たどたどしい足取りで走り続けていた矢先、紗矢香は呆気に取られてしまう。
 無闇に腸内を刺激しないよう小走りで道のりを進んでいた矢先、あっけなく他の選手に抜かれてしまったのだ。
 いきなり通り過ぎてきた相手選手の姿に、つい戸惑わずにいられない。
 すぐに追い越さなければいけないはずなのに、なかなか思うように脚が持ち上げられそうになかったのだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……あぐぅうっ!」
フラフラフラッ……

 相手選手の後を追い掛けている間も、紗矢香は呻き声を洩らしてしまう。
 膝を持ち上げるたびに、腹痛が容赦なく襲い掛かってくるのだ。
 段々と遠ざかっていく相手の背中を見つめている間も、あまりにじれったくてたまらない。
 目の前にいる相手だけでなく、猛烈な下腹部の衝動を抑えることにも気を配らなければいけなかったのだ。

タッタッタッタッ……
(どうしよう、すぐに追い掛けなきゃ行けないのに……どうして、ちゃんと脚が持ち上げられないの!?)

 ひたむきに我慢を続けている間も、紗矢香はさらに落ち着きを失ってしまう。
 気づいたら別の誰かが横切ってきて、あっけなく追い抜かれてしまったのだ。
 続々と迫ってくる選手達が気配を、つい意識せずにいられない。
 誰かに追い抜かれる間も後を追い掛けるどころか、おぼつかない足取りへと変わり果ててきてしまうのだ……

「あ、あうぅっ……!」
ヨロヨロヨロッ……

 残りの道のりを走り続けていた矢先、紗矢香はとんでもない行動を取ってしまう。
 執拗に押し寄せてくる腹痛に耐え兼ねて、ついにはその場に立ち止まってしまったのだ。
 前方を見つめたまま縮み上がっている間も、つい茫然とせずにいられない。
 脚を止めている隙に、みるみるうちに相手選手が自分を追い越していくのだ。

「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ……ひぐぅうっ!?」
ブルブルブルッ。

 他の選手が次々と追い抜く様子を見送っている間も、紗矢香はなかなか脚を踏み出せそうになかった。
 走り続けることすら困難なほど、切羽詰まった状況へと追い詰められてしまったのだ……その場に立ち尽くしたまま、つい身をこわばらせずにいられない。
 マラソンを続けるどころか、何とかして便意を堪えるだけで精一杯だったのだ。
 下腹部が静まる頃合いを見計らって何度も呼吸を整えている間も、ひとりでに悲鳴が洩れ出てしまう。

ギュルギュルギュルッ、ミシミシミシィッ……
(このままじゃ、どんどん追い抜かれちゃうのに……もうお願いだから、それ以上は来ないでってばぁ!?)

 暴れ狂っている腸内を静めたいあまりに、紗矢香は少しも気が抜けそうになかった。
 マラソンの途中で不意に押し寄せた違和感が便意に変わったかと思えば、下腹部を猛烈に駆け巡ってきたのだ。
 両手でしっかりとお腹を押さえ込んだまま、少しも姿勢を変えられそうになかった。
 いつ何かの拍子に肛門が緩んでしまうかも分からない中、もし無理にでも動いてしまえばどんな事態を招いてしまうかも分からないのだ……

「あれ、あの子。一体どうしちゃったんだろう?」
「前半までいいペースで走ってたはずなのに、急に走らなくなっちゃうなんて……」
「もしかしたら、前半に無理をし過ぎちゃったのかもしれないぞ?」

 紗矢香のおかしな素振りに、周りにいた観客達が続々と注目を寄せていく。
 最初は先頭を切っていたはずなのに、中間地点を過ぎた辺りから段々と動きが鈍ってきて、ついにはその場に立ち止まっていたのだ。
 どうして急に走らなくなってしまったのか気になるあまり、つい頭を捻らずにいられない。

「おい、水橋! いつまでそんな所で休んでるつもりだ! いい加減、先に行った相手を追い掛けろ!」

 段々と周囲が騒がしくなる中、一人の男性教師が紗矢香に大声をぶつける。
 大会の様子を見届けていた陸上部のコーチが、なかなか走ろうとしない紗矢香の様子に痺れを切らして怒鳴りつけてきたのだ。
 脚を止めている間に何人かに抜かれてしまったので、すぐにでも追いつくよう平然と言い放つ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……うぐぅっ!?」
ビクビクビュクンッ!

 コーチの怒号に慌てながら再び走り始めた矢先、紗矢香はとんでもない事態を引き起こしてしまう。
 二、三歩脚を踏み出した途端に全身をこわばらせながら、突然呻き声を洩らし始めていたのだ。
 その場に凍りついたまま、つい唖然とせずにいられない。
 先を行く相手選手を追い掛けるどころか、決して人前で許されない行為を冒してしまったのだ……

ゾクゾクゾクッ……ビリリッ!
(どうしよう……お尻から何か出ちゃった。どうしてこんな大事な時に、勝手にお尻が緩んじゃうのよ!?)

 下半身から押し寄せてくる不快な感触に、紗矢香はあっけなく意識を奪われてしまう。
 無理に動いた拍子に、気づいたら尻穴が緩んでしまったのだ……ひとりでに噴き出してきた下痢便の存在を、つい意識せずにいられない。
 お尻の谷間に続々と粘ついた液体が広がってきて、とにかく不快でたまらなかった。
 マラソン大会の途中にもかかわらず、とんでもない失態を引き起こしてしまったのだ……

「ふ、ふぐぅっ……あひっ、嫌ぁっ!?」
ブルブルブルッ……ビチチッ、ビチャビチャビチャッ!

 突然しでかした脱糞のせいで、紗矢香はあっけなく落ち着きを失ってしまう。
 とっさに全身をこわばらせた後も緩んだ尻穴を少しも引き締められず、すぐ傍まで迫っていた液状便を続々と漏らしてしまう。
 お尻の辺りに着々と溜まってくる生暖かい泥のような感触につい焦らずにいられない。
 ずっと無理な我慢を続けていた分、便意を少しも抑え切れそうにないのだ。

グチョッ、グチョッ、ヌチョチョッ……
(どうしよう、お尻の穴が全然締まんなくなっちゃって……ウンチがどんどん漏れてきちゃってる!?)

 下腹部の欲求に屈するまま、紗矢香はさらに排便を繰り返してしまう。
 お尻周辺に下痢便を撒き散らした後、今度は軟便が肛門から飛び出してきて、ショーツの内側にへばりついてくる……肌にしつこくこびりつく感触に、つい震え上がらずにいられない。
 開きっ放しの尻穴を少しも引き締められないうちに、気づいたら下半身にとんでもない状態が出来上がってくる。
 延々とひり出した汚物によって、お尻全体を埋め尽くしてしまったのだ……

「も、もうそれ以上は本当に……あひっ、うぐぅうっ!?」
ビチビチビチィッ、ブチュブチュベチョッ!

 下半身が着々と排泄物に塗れていく間も、紗矢香はなかなか排便を止められそうになかった。
 おかしな身悶えとともに耳障りな物音を響かせながら、腸内に詰まっていた汚物を続々とひり出してしまう。
 激しい恥じらいに苛まれるあまり、つい悲鳴を洩らさずにいられない。
 どんなに泣き叫んでも、お尻の辺りから響き渡る不様な排泄音をどうしても誤魔化せそうになかったのだ。

ヌロヌロヌロォッ……
(やだ、どうして脚にも垂れてきちゃうのよ! このままじゃウンチを漏らしたこと……誰かに気づかれちゃうかもしれないのに!?)

 着々と変わり果てていく下半身の状態に、紗矢香はますます神経を削がれてしまう。
 ショーツの内側に蓄えられた大量の汚物が、ついに脚の付け根から垂れ落ちてきたのだ……太股にも絡みつくおぞましい感触に、つい縮み上がらずにいられない。
 腰をくねらせる仕草に合わせて排泄物が続々と零れ落ちてきて、着々と下半身が汚れていく。
 どんなに嫌でたまらなくても肛門が疼くたびに、下痢便や形を崩した排泄物がお尻の間に溜まっていき、陸上ブルマの外へと溢れ出してくるのを少しも塞き止められにないのだ……

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……や、やだっ! 何て汚い格好しちゃってるの!?」
タッタッタッタッ……

 紗矢香のとんでもない醜態に、傍を通り掛かった他の選手達も度肝を抜かれていた。
 息を切らしながらその場に立ち止まっているかと思えば、下半身を茶色い汚物によって埋め尽くしているのだ……膨らみ切った下半身から漂ってくる、不愉快な異臭につい顔をしかめずにいられない。
 思わぬ拍子に視界へと飛び込んできた、汚物まみれの下半身を嫌がるあまりに悲鳴までぶつけてくるのだ。

「や、やだっ! お願いだから見ないでっ!」
ヒクヒクヒクッ……

 背中から浴びせられた声に、紗矢香はあっけなく気持ちを揺さぶられてしまう。
 とっさに縮み上がった後も傍にいる相手の視線が気になるあまり、つい顔を背けずにいられない。
 自分へと向けられる表情を通して、どんな醜態をさらけ出してしまったのかを否応なく思い知らされる。
 汚れ尽くした下半身を何としても取り繕わなければいけない反面、泥状の排泄物が詰まったお尻を抱えたまま、少しも身動きが取れそうにないのだ。

「おいおい、見てみろよ。あの子、ついにウンチなんて漏らしちゃったぞ!」
「あんなにお尻が汚れちゃってる。まさか大会の途中で、お腹を壊しちゃうなんてね……」
「それにしても、酷い有様だな……さすがに気の毒かもしれないけど、こんな格好じゃもう走れそうにないかもしれないな」

 マラソン大会の途中で引き起こした紗矢香の失態に気づいて、周りにいた観客達も続々と騒ぎ立ててくる。
 異様に盛り上がったお尻の真ん中部分や陸上ブルマ越しに汚らしい染みを広げている様子など、どう見ても粗相をしでかした以外に考えられそうになかった。
 ついには太股から茶色い雫や泥状の汚物まで零す様子まで目の当たりにさせられて、つい非難せずにいられない。

「あ、あうぅっ……ひぐっ! もう嫌ぁっ!?」
ゾクゾクゾクッ……ビリリッ、ブチュブチュグチュッ!

 続々と浴びせられる観客達の注目に、紗矢香はさらに弱り果ててしまう。
 突き刺さるような視線や罵声を思い知らされる間も、少しも排便を止められそうになかったのだ……悲鳴を洩らしている間も、下半身から響き渡る排泄音によってものの見事にかき消されていたのだ。
 ついには下半身を揺らしながら、感情に任せて取り乱す始末だった。
 みっともなく汚れ切った下半身を人目に晒してしまった後、その場に泣き崩れる以外に何もできそうになかったのだ。

「み、水橋……! もう十分だ。すぐ俺の所へ来い!」
グイッ。

 うろたえている紗矢香の元へ、コーチは急いで駆けつける。
 マラソンの途中でしでかした失態のせいで観客達が騒ぎ出していたので、何とかして紗矢香を落ち着かせるつもりでいたのだ。
 紗矢香の元へ駆け寄った後、背中を押しながらコースの外へ連れていくだけで精一杯だった。

「あ、あうぅっ。こ、コーチぃ……」
フラフラフラッ……

 コーチに寄り掛かりながら道端へと歩いている間も、紗矢香は思わず泣き崩れてしまう。
 まだ大会が続いているのに、まさかコースから立ち去る羽目になるなど考えられない事態だった。
 あまりに惨めな自分自身の状態を思い知らされるあまり、つい涙を零さずにいられない。
 片隅に引っ込む間も、下半身に纏わりついている汚物の存在によってどれだけ醜い格好をさらけ出しているのかを嫌と言うほど気づかされていたのだ。

「大丈夫ですか? すぐに手当しますからね……」
「あそこなら誰にも見つからずに済むから、すぐ着替えてもらえますか……?」
「……こちら救護班。選手が一名、粗相をしでかしてしまったので、着替えに使えそうなものを、至急ご用意いただけますか?」

 騒ぎを聞きつけて、救護班が紗矢香の元へと駆け寄ってくる。
 両脚に茶色い汚物を絡ませるほど体調を崩してしまった紗矢香を、すぐにでも介抱するつもりでいたのだ。
 両手で顔を覆っている紗矢香の様子を気遣う間も、つい視線を泳がせずにいられない。

「ご、ごめんなさい。私なんかのために……あ、あうぅっ!?」
ワナワナワナッ……

 自分の元へと集まってきた救護班の様子に、紗矢香はさらに弱り果ててしまう。
 ただでさえ大勢にみっともない醜態を見られたばかりなのに、まさか救護班の迷惑になってしまうなど思いもしなかった。
 恐る恐る言葉を洩らす間も、つい声を震わせずにいられない。
 大量の排泄物に塗れたお尻を間近から見られるたびに、申し訳ない気持ちへと苛まれてしまうのだ……

      *      *      *      *      *      *

「水橋、もうお腹は大丈夫か? あと少しで表彰式が始まるみたいだから、一緒に見にこい」
「は、はい……」

 救護班の手を借りて下半身を取り繕った後、紗矢香はコーチとともに恐る恐る会場へと向かい出す。
 介抱を受けている間に、気づいたらマラソン大会が終わりを迎えていたのだ。
 コーチに付き添われる間も、つい縮み上がらずにいられない。

『本日の大会の優勝は桐谷高校陸上部、筑紫 遥菜選手です……』
『……今日の大会で優勝できて、本当に嬉しかったです』

 紗矢香の気持ちをよそに、会場では表彰式が繰り広げられていく。
 表彰台では優勝を勝ち取った他校の選手が、嬉しそうにインタビューを受けている真っ最中だった。
 勝利を掴んだのがよほど嬉しかったのか、自信満々な笑みを周囲に振り撒いてくる。

(本当は、私があそこに立っていたはずなのに……どうしてお腹がおかしくなったせいで、リタイヤなんてしなきゃいけなかったのよ!)

 表彰台の方をじっくりと見つめたまま、紗矢香は言い表しようのない感情へと苛まれてしまう。
 本来なら自分が立っていたはずの場所を、目の前にいる彼女に横取りさせられてしまったのだ……思わぬ拍子にお腹を崩してしまった事態など、あまりに悔しくてたまらない。
 試合中にしでかした脱糞のせいで、大会をリタイヤするだけでなく大勢の前で醜態を晒してしまった事実が否応なく胸の奥底へのしかかってくる……

「水橋、そろそろ帰るぞ」
「わ、分かりました……」
ヨタヨタヨタッ……

 頬を震わせている紗矢香の様子を見兼ねて、コーチはさりげなく言葉を投げ掛ける。
 どんなに表彰台を睨みつけても敗北した事実は変わらないので、紗矢香を帰らせるつもりでいたのだ。
 紗矢香もコーチに付き添われながら、恐る恐る会場から遠ざかっていく。

「……やだ、あの子って確か、コースでお漏らししちゃった子じゃない?」
「もう、可哀想だよ。もしあの子に聞かれちゃったらどうするつもりなの?」
「しょうがないじゃない。本当にすごい騒ぎだったんだから……」

 会場から立ち去ろうとする紗矢香へと向けて、不意に誰かが言葉を浴びせてくる。
 大会の途中で脱糞をしでかした事実を振り返りながら、わざわざ紗矢香のいる傍で噂を繰り広げてきたのだ。
 おかしな身悶えを引き起こしながら、ユニフォームが台無しになるほど大量に下痢便を漏らす様子がどうしても目に焼きついて離れそうになかった。

「……あうぅっ!?」
ヒクヒクヒクッ。

 心無い観客達の言葉に、紗矢香はあっけなく打ち震えてしまう。
 すぐにでも会場から消え失せるつもりでいたのに、まさか帰り際に先ほどの失態を突きつけられるなど考えられない事態だった。
 その場に立ち止まったまま、つい縮み上がらずにいられない。
 傍にいる相手に反論する勇気すら、今は振り絞れそうになかったのだ……

フタナリ化牝馬・紗矢香
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