―レッスン中―
ガチャッ。
「何とか着替えも済んだし……舞踏会で恥をかかないよう、しっかりレッスンしなくっちゃ!」
一人の少女が稽古用のレオタードに袖を通したまま、意気揚々と更衣室から飛び出してくる……少しカールが掛かっている、左右に結わえた金髪を揺らしながら、短く切り揃えた前髪越しにおでこを見せつけて、自慢げな表情を浮かべている彼女こそ、私が仕えているカトリーヌ姫だ。
晩餐会で王子様とのダンスが控えているせいか、どうやら相当張り切っているらしい。
下手に機嫌を損ねても面倒なので、そそくさと彼女の後を追い掛けていく……
(まったく、本当に世話の焼けるお姫様。全然サイズだって合ってないのに、いくら何でも練習の時まで見栄を張らなくったって……)
姫の背中をじっと見つめながら、私は胸の奥底で文句を呟く。
先ほど薄桃色のレオタードと白いタイツ越しに、ぽっちゃりした体型がものの見事に目立っていたのだ……一緒に着替えを手伝っている間も、本当に手間でたまらなかった。
無駄に成長し切っている胸元はともかく、膨らみ気味な下腹部やむっちりした太股など、肥えている体型がレオタード越しにしっかりと浮かび上がっている。
短いスカート越しに大きなお尻が揺れ動いている様子なんて、まるで子豚そのものだった。痩せ細った体型をしている私が世話をするのも、正直言って大変だ。
もし本人に知られても困るので、愚痴はここまでにしておこう……
* * * * * *
「カトリーヌ姫。準備体操はその辺にして、そろそろレッスンを始めるざます」
準備体操をやり遂げると、すぐに講師が言葉を切り出してくる。
どうやら、これから本格的にバレエのレッスンを始めるつもりでいるらしい。
誰に対しても厳しいのか、それとも姫の出来が悪いのか、とにかく口うるさい相手だった……普段からわがままばかり言っている姫も、肩を張りつめずにいられないようだ。
稽古場の片隅で彼女の様子をこっそりと様子を見つめたまま、当分は視線を離せそうになかった。
レッスンにしか意識を向けていないようなので、もし悪戯を仕掛けるなら都合がいいかもしれない……