虚無の戦いから数ヵ月、アイチと櫂、各国のヴァンガード達の活躍により
大きな被害もなく抑え込みに成功、以降彼らに目立った動きはないままに


平和な時間を、過ごしていた。




クァドリ・フォリオ皇国の城は大忙しだった。
それもそのはず、王である櫂がついに明日結婚をするのだ、お相手は。

「よく似合っているわ、アイチ」
幼馴染にして光の先導師、アイチ・先導・ユナイテッドサンクチュアリ。
長い波打つ青い髪は頭の上に纏めて、大きな鏡の前に立つとドレスを軽く指で掴むと一回転する。

代々伝わるウェディングドレスを着るアイチに、涙ぐむシズカ。
これを幼い頃にシズカに見せてもらった時からずっとこれを着るのが夢だったけど、それがついに叶えられる。

「ちょっといいかー?」
入ってきたのは男子連中、三和を始めとする森川や井崎達。
アイチのドレス姿に、一同目を奪われる。

「お前ー・・本当にあのアイチか??」
森川は実は偽者じゃないかと疑ってきたが、着替えを手伝ったミサキが本物だと証明した。
確かに、ドレスを着たアイチは慣れ親しんだアイチではない気もわかると、サイズチェックをしている。

「似合っているじゃねーか、アイチ」
いつものように笑う三和をミサキは顔は動かさず、目だけを向ける。
井崎達と楽し気に話しをしていると、何処からともなくエミが現れると。

「ほらっ、アイチもう寝なさい。明日は早いんだからね。井崎さん達もすいませんがこれで」
「そうだな、また明日」
明日の早朝には光定やレン・レオンも到着する予定で大忙しになる。
アイチは明日からは櫂の妻・妃になるのだが、三強の二人が結婚するということで多くの客と報道陣で国内は大盛り上がり。

万年モテ期の櫂が、ついに結婚する。
お相手は長年恋い焦がれていた幼馴染という、ロマンチックな設定に
祝福の声が絶えずに、まだ結婚式前日だというのにカウントダウン込みで城下町は、お祭り騒ぎ。

「エミも、もうアイチの世話焼きはできないわね?
そろそろ貴方も恋のお相手を見つけたらどうかしら?」

シズカにそう言われて、カムイは城下町で前祝としてナオキ達や男前のメンバーと飲んでいたが何故かクシャミをしてしまう。
ビリヤードのような場所で気楽に飲んでいたが、ナギサも嫁に出る時が近いのかと泣いているゴウキを仲間が慰める。

「・・・花嫁か・・・」
ドレスをアイチの好意で見せてもらったが、ユナイテッド家から嫁ぐ・嫁いでしまう女性が着るドレスだというが
エミの時も、同じドレスを着るのかと思うとエミはついイメージしてしまう。


「そうだね、エミは気になる人とかいないの?」
アイチの頭にカムイが浮かぶが、エミはと言うと。

「別にいないわよ、それよりも明日は早いんだからもう寝なさい」
ドレスを脱ぐとアイチの背中を押して浴室へと押し込む。
扉を閉めると、エミはもうこうしてアイチと接することはないのだろうと少し寂しくなったのか扉の前で顔を俯かせていると
シズカが肩を軽く叩き、こう言った。

「次は貴方の番かもしれないわよ。特別何かに優れている人じゃなくても良いのよ。
恋をして、誰かを愛しなさい」
「・・・うん」

小さく、なんだか元気がなさそうに返事をする。
エミもいつかこのドレスを着よう、そんな目標ができた気がした。



「いいのかよー、アイチのドレス姿を見なくてよ」
部屋の隅に置いてある結婚式用に作られた櫂の衣装見つつ、三和は櫂に話しかけた。
しかし櫂は暫く無言のままだったが。

「楽しみが減る」
などと言ってきた、顔にはできないが明日はやはり楽しみなようだ。
そういえば櫂は結婚式前だというのに、書類をチェックをしているのが気になる。

「・・・隣国が荒れていてな」
「暴動で王が倒れたって言っていたな」

前々から独裁政治をしていて、島の行き来も難しかったが国民の堪忍袋がついに切れたのか
現政権に対して暴動が起きて国内が大混乱、指導者もいないままに暴動を起こしてしまったのか難民は出ていないが
テロリストに国政を占拠されて、こっちに喧嘩を吹っ掛けてきている。

「三強の夫婦に喧嘩売るなんて死亡フラグもんじゃねーか」
「ああ、だが血はあまり流したくない」

自身の経験と、アイチの悲しむ顔が見たくないからだろう。
光定と内密に相談して、抑え込む作戦を進めているとか。

「あんまり煮詰めるよな、明日は大忙しだ」
「わかっている、アイチには言うなよ」

「りょーかいvv」
軽く手を振りながら、三和は扉を閉める。






クァドリ・フォリオ皇国に向けて、黒い大艦隊が進んでいたが司令官の椅子には相も変わらず眠たそうにしている
三強の一人・雀ヶ森レンだが、単体で飛んで行った方が早いのだけどさすがにちゃんと形式的なものなのでそれはできず
結局結婚式前夜には間に合いそうになく、当日到着になりそうだ。

「アイチ君と櫂の結婚式ですかー、僕も結婚したいです」
「・・・その前に、お前の妻になれるほどの器のでかい女性が見つかるかどうかだ・・・・」

テツは疲れたように溜息を吐く、櫂だってアイチのような人間を見つけられただけ奇跡だ。
あれほどの包容力と最強の乙女力を持つ女性は世界遺産並みに珍しい、唯一の弱点は胸の成長が著しいぐらいだが
夜はテツがこのまま舵を取ると、レンは大あくびをしたまま寝室へと向かう。

「・・・テツ、僕はやな予感がするんです」
「・・・どういうことだ?」

「平和過ぎるから、でしょうか?」


ヴォイドが攻めてきてから半年、以降目立った動きはない。
しかし不気味な沈黙ほど恐ろしい事はない、知らないだけで大きな何かが動いているのではないかとずっと考えている。

「気にし過ぎだ、蒼龍も光定も皆がいる。何かあっても大丈夫だ・・。お前は一人ではないのだ」
昔のように間違った道を進んだら、全力で止めてくれる。
殴ってくれるアイチの様な仲間も今は傍にいる、あるかもしれない予感に押しつぶされるなとテツも通信席にいるアサカや美童達が笑みを浮かべている。

「そうですね、皆さん。ありがとう」
『ハッ!!』

頭を下げると、レンはコートを揺らしつつ寝室へと向かう。
明日はどうやってアイチと櫂をからかってやろうと考えつつ、自然とにやけながら。


「それじゃ、おやすみアイチ」
「また明日ね」
シズカやエミ、ミサキ達はすでに城にあるアイチの部屋を後にする。
明日からは櫂と同じ部屋で寝て、そのまま初夜をと考えると恥ずかしくて死んでしまいそうでシーツで顔を隠す。

(そういえば・・・櫂君と会ってないな・・)
三和曰く、いろいろと忙しいらしい。
アイチも手を貸そうとしたが、ミサキが女にはいろいろと準備が必要なのだと櫂に言っていたらしく
ナオキやシンゴにアイチの仕事を回したとかで、本当に申し訳ない。

『結婚式、派手にやろうぜ!!』
『アイチ様ーー、おめでどうな゛のでずーーー!!』
陽気なナオキに対し、何故かシンゴは泣いていた。
皆が祝ってくれている、家族やミサキ、三和やクリスも光定と一緒に来てくれて森川達も・・・・あと。


「コーリンさん、やっぱり来られないのかな?」


招待状は出したのだけど、やはり一族のこととかしがらみがあるみたいで
無理にとは言えないが、コーリンにはいろいろと助けてもらったから、ぜひ来てほしいのにと考えながらアイチは眠りについた。





テーブルの上には、白い封筒に入った招待状。
でもコーリンには目立った動きのないヴォイドを見張るという使命もあるし、あくまで歴史の観察者として
世界に関わるべきではないと、結婚式には行かないつもりだった。

「ねぇ・・行って来たら。私達もいるしさ・・・結婚式は一生に一回だしさ」

レッカが見かねて声をかけてくれたが、コーリンはそんなことはできないと拒否をしていたが
何処からかタクトが現れて、招待状を手にすると。

「アイチ君達の結婚式。・・・そうですね、今はヴォイドの動きも落ち着いていますし
ウルトラレアとしては盛り上げることも使命ですし、飛び込みで行きましょうか」
「ホント!!わーい、私結婚式って見るの初めてなのよね!!」

すぐに準備をしようと、コーリンも嬉しそうに笑って頷いてレッカと一緒に部屋へと向かう。
タクトはその後ろ姿を見送ると、スイコは目を閉じて。


「変わりましたね、・・・タクト様」
「そうでしょうか・・・、僕はずっと変わらないままでいたつもりでしたけど」

世界が大きな戦争をし、沢山の人間の死を見てきた。
傍観者として、正確な世界の記録を残すために、それは冷酷であらなければならず人でありながら、人の心を忘れてしまっていたかもしれない。

「そうですね、変わったとしたら・・・・・・うわぁぁぁっ!!」
「タクト!!」

頭を抱えて倒れるタクト、慌てた様子でスイコが声をかけると
目を見開いた青い瞳にタクトの額に現れる、見たこともない刺青が内側から侵食するように生まれてきた。


「こっ・・・・これは!!」




出発の準備のため、トランクに荷物を詰めるコーリン。
祝いの席だからとびっきりのカワイイステージ衣装かつ、正装服にしようとドレッサーの前で悩むレッカ。

「言っておくけど、白は花嫁の色だし黒は縁起が悪いからだめよ」
あの赤髪辺りは黒で着そうだが、KYだから無視だと言うとレッカはじと目でコーリンを見ると。

「へぇーー。調べたんだ、実は行く気満々だったんですねぇ、コーリンさんは」
「うるさいわね!!早く荷物まとめっ・・・・・・!!」


レッカの背後から黒い影が迫った。
とっさに守るようにしてレッカを抱きしめるコーリン。


それは船でクァドリ・フォリオ皇国に向かうレオンや、光定やクリス。
酔いつぶれているナオキやカムイ、深夜になっても仕事をしている櫂。
一人、月見酒をしている三和に、泣き疲れたようにしてミサキと寝るエミ、月に祈りを捧げているシズカ。


明日が必ず来ると信じて眠るアイチも黒い闇に包まれ、交差する二つの不気味な赤いリングに星は包まれた。