「カトルナイツ、やはり来たか・・・」
薄暗い本部にて机には、それぞれの数人だがアサカやユリにも匹敵するほどのヴァンガードを連れて
国境ギリギリのところまで、ガイヤールも含めた全員が脅しも含めての出撃。
「レオンとキョウの調べでは、目立った動きはなく後江山の村にいるらしい」
テツが教鞭を長くさせると、電子パネルの印を指さした。
自ら攻撃してくる可能性もあり、すでにドラゴンエンパイヤは迎撃態勢をしているおり
櫂の片腕に三和・大納言副官閣下という怪しい男が現在、現場の指揮を取っている。
「やはり、戦争は避けられない・・・・か」
一件好戦的に見える櫂だが、半分以上は脅しであり本気で戦いが好きなのではない。
戦いは多く物を失ってしまう、骨肉の争いやヴァンガードによる戦争で死者はなかったものの
多くの人々が怪我を負い、病室に駆け込む家族を見るのは、心が痛かった。
「すでに僕の国もヴァンガード部隊も到着しつつありますが・・
半分の部隊が海が荒れて足止めをくらっているのは、やはり彼らですね・・」
「先導君達、・・・確か出掛けてるらしいって、呼び戻してくるわ」
ユリが指令室から外へと出ると、ずっと窓のない室内で仕事をしていたから気づかなかったが
雲行きが怪しくなってきており・・・大雨が今にも降って来そうだ。
「一雨、来そうね・・・」
アイチの森川の追跡は、自宅のある村まで続いた。
買い物で買った品々はカムイが一時持って帰ってからの戻り、ついでにと人数分の雨合羽を気を利かせて買ってきてくれた。
「確かに、雨降りそうだしね・・・アイチ。そろそろ・・」
ミサキが何度か話しかけるも、今の森川の生活水準がかなり低下していたことに罪悪感を抱いているのだろう。
無駄なセレブで、コーリンコレクションなる部屋まであって招待されたコーリンがドン引きしていたことがあったが
今の彼は一般市民であり、井崎とも仲良くしているのが幸いだった。
「あと、もうちょっと・・・」
「・・なんか、様子がおかしいぞ」
ナオキが村に帰った森川達が、慌てる様子を遠目で見ていた。
エミも文句一つ言わずにいたが、背後に人の気配を感じて振り向くと。
「・・レオンさん、キョウ君・・・?」
「知った顔があるなと思えば、何やってんだ。お前ら?」
キョウがアイチの視線をたどれば、森川達の姿。
これが理由かと納得した、レオンがエミの隣にさりげなく屈むと顔を合わせて近くに居たくないのか距離を取られてしまう。
レオンは、さすがに気まずそうにしているがミサキが話題を別の方へと反らす。
「そっ・・・それよりも、何があったんだろうね」
実はこの時、タイヨウがヒロキ達いじめっこに連れ出されて山をくり抜いた場所にある祠にまで来ていた。
目的は祠の奥にあるグルグウィントという守り剣を持ってくるというもの、村の子供達の間では勇敢な証とされているが
山の岩盤に穴を開けてそこに祠があるのだが崩落の危険性があるとして
立ち入りを禁止しているが、ヒロキは無視してタイヨウを中に押し込んだ。
「お前が弱虫じゃないってこと、証明しろよ!!」
「そうだ!そうだ!!」
「男だろうが!!」
後ろにいる男子も援護するようにして、ヒロキの味方をしていると勝ち誇った様な笑みを浮かべていた。
いつも森川が守ってくれていたが彼の留守の間を見計らって、連れ出されてタイヨウは怖かったが
ただ剣に触れてくればもういじめないと約束もしてくれたしずっと森川や井崎に守られっぱなしは嫌だった。
「わっ・・・わかった・・」
パーカーの裾を握り締めて、タイヨウは奥へと進む。
やがてタイヨウの姿は見えなくなり、「何分で大泣きして出てくるか?」という賭けをしていたが
ヒロキは追い詰められていたことを、この場にいる誰も知らない。
井崎が身を寄せている親戚に相談したことで、いじめがバレてしまってもう此処には置いてはいけないと
養子か、あるいわ何処かの労働口に送るかという話を聞いて、真っ青になった。
実の親は別に死んでなどいなかったが、両親は離婚したが父に引き取られたが
仕事仕事毎日で離婚後は遊んでもくれずに寂しい日々を送り、ついには面倒になったのか親戚に押し付けられた。
その先で、親からも他人からも愛されているタイヨウを見て、激しく嫉妬した。
どうして彼は、あんなにまで満たされているのか、ヒロキは友人にも親にも恵まれておらず
タイヨウをいじめることで、歪んだ心を満たそうとしていたが
突然、大雨が降り始めたためにヒロキ達は洞窟内へ。
すぐに上がるだろうと見ていたが、雨は次第に酷くなっていき最近雨が続いていて
洞窟内にも土色の雨水が入り込み始めていたが・・・・何処からともなく轟音が近づいてくる。
「・・・な・・何の音だ?」
ヒロキが、少しだけ顔を出すと上の斜面からなぎ倒された木と共に土が迫ってきた・・・土砂崩れだ。
「にっ・・逃げろ――!!」
慌てて洞窟内に入るが、出入り口は塞がれてしまい。
退路を断たれ、剣を持って奥から出てきたタイヨウにもヒロキ達の声が聞こえてきた。
「どうか・・したの?」
「お前のせいだよ!!お前のせいで、閉じ込められたじゃねーか!!」
逆恨みをしたヒロキは、タイヨウを激しく責め立てた。
しかし責めたところで此処から脱出はできない、しかも誰にも言わずに此処まで来たのだ。
助けはこない絶望的な状況だ。
(あのメモ、見てくれたかな・・)
此処に来る前に、森川の自宅ポストに此処に来ることを伝えたメモをこっそり入れておいたのだ。
母は入ってはいけないと言っていたので、何かあっては大変だと機転を利かせたのだが
閉じ込められたことで酸素がいつまでもつかどうかと、タイヨウは剣を見た。
「すぐに山に行くぞ!!ついてこい、井崎!!」
「駄目だ!!さっきの土砂崩れを見ただろう、祠も・・潰されている!!」
大規模な土砂崩れであり、祠のあっという間に飲み込まれて生きてはいないだろうとタイヨウの母は泣き崩れていた。
でも、まだ生きていると森川は馬鹿なりの感が告げている。
そこへ、救いの救世主のカトルナイツが土砂崩れを避けてやってきた。
彼らの力はヴァンガードでも最強ランク、弱き者を助け、罪人を罰する彼らならと井崎が事情を説明。
「あのっ、知り合いの男の子が土砂に埋まっているんだ!!助けてくれ!!」
「子供・・・・?」
ガイヤールの前に井崎が慌てて説明をし、一刻を争う事態だと焦る。
しかし彼らは至って冷静であり、まるでたかが数人の命だろうと見下しているような。
「助けてください!息子がっ・・私の息子がっ!!」
必死に母親も訴えるが、黙ってきていたネーヴから無情の言葉が出てき。
「この世界は、弱い者は自然に淘汰される。天に見放され、親の言いつけを破った者など助ける意味はない」
「・・・なっ!!」
遠くで聞いていたアイチ達も言葉を失った。
何度も戦ってきた相手だが、一般常識は備わっているはずだと考えていたがあっさりと切り捨てる彼らに森川は怒りが爆発。
ネーヴの言葉に、ガイヤールは良い感情をしていないような目線を向けていた。
「お前、本気で言ってんのかよ!!お前らはできるだろうが、それだけの力があるのに
淘汰なんて難しい言葉と理屈で、片づけてんじゃねーよ!!」
誰かが転べば、手を差しのべるのが人間なのに不幸だとか淘汰とかいう言葉で片づけなんておかしいと真っ向から否定。
雨はさらに激しく打ち付け、雨の雫が強く肌に突き刺さるように降りつけた。
「私達が今回、此処に来たのは対ドラゴンエンパイヤのためです。人命救助ではありません。
それとも、私達が救助作業をしている間に敵が攻めて来て、犠牲が出た時、貴方は責任を取れますか?
代わりに戦うことはできますか?」
セラの感情だけではない、理論も含めて森川に尋ねた。
さすがに言い返す言葉がなくて、下唇を強く噛みしめて手を強く握る。
「そうだよ、たかが数人の命じゃない?人はいずれ死ぬのよ、おそかれ早かれ・・ね」
狂気を含んだように笑うラティ、ドーナツを食べ終えて指を軽く舐めている。
その言葉に完全にキレた森川は井崎の制止も無視して、カトルナイツに近づいていく。
「てめぇらっ、それが正義の味方のすることか・・・・・!」
「いい加減にしろ」
ネーヴが森川を掴むと、そのまま乱暴に投げつけた。
雨水の溜まった水溜りに投げつけると、他人ごとの様に「うわー、汚いー」とラティが言っていた。
「森川!!」
井崎が駆け寄るが、目立った怪我はないが身体は泥水になっている。
見下ろすカトルナイツは、服が一切汚れておらず雨も自然に力で避けさせているのか合羽も傘もない。
なんで、こんな奴らがヴァンガードとして最高なのか、偉いのかわからない。
立ち上がることはできずに、悔し涙を流しているとタイヨウの母も座り込んで泣き叫んでいた。
誰も、カトルナイツに文句を言えずに立ち尽くしていたが
「あいつらっ!!」
「このキョウ様が、ぶっとばしてきてやるぜ!!」
ナオキもカムイもキョウは完全にキレて、全員がカトルナイツに対して怒りに満ちている。
ほぼ初対面のエミすらも、あれが世間では正義の味方として評判のカトルナイツなのかと疑っていたが
飛び出して行こうとするナオキをレオンとミサキが止めていた。
「離せ、番長!!あんなこと、許していいのかよ!」
「アタシだって許せない、けど・・今はアイチもいて・・・アイチ?」
止めるのに夢中になっていたら、アイチの姿はない。
そこへ、カトルナイツに向かって歩いていく一人の人間がいた。
「・・・お前?」
座り込む森川に手を差しのべると、泥だらけになった手も何の迷いもなく掴むと立ち上がらせてくれた。
被っているフードのせいで、よく顔は見えなかったが
それは、店で会ったアイチと呼ばれていた女の子だった。
「・・・誰だ?」
突然現れた、人物にネーヴは目を細める。
立ち去ろうとしたセラやラティ、ずっと無言のガイヤールも顔を上げてきた。
彼らの前に立つと、アイチはフードを後ろに下げて素顔をさらした。
「・・・・お前っ、生きていたのか・・・?」
あの傷では死んだと思われていたアイチが、生きていたとネーヴは驚いていた。
ガイヤールも呼吸が止まったように息をすると、カトルナイツと並びアイチと向かい合う。
「何故、助けないのですか・・まだ助かるかもしれない命なのに」
「お前らと戦うためだ、俺達の前に出てこなければ、まだ多少は長生きできただろうに」
明らかに戦闘態勢に、隠れていたナオキ達も出てくる。
前回からさほど時間は経っておらず、櫂も三和やレンもおらず勝てる勝機は低いが
戦うしかないとカードを構えるが、アイチはありえない指示を出す。
「皆にはタイヨウ君っていう子を探してあげて、此処は僕一人でやる」
「おまっ・・お前、一人でカトルナイツ全員相手にするっていうのかよ!!」
キョウが驚きのあまり、顎が外れるくらいに怒鳴った。
敵も味方も、アイチの提案は無謀の策には見えずに全員が大反対、また大怪我を負えば今度こそ死んでしまう。
「せっ・・せめて、レオンと石田を残してください。俺がすぐに見つけてきますよっ!」
「いいえ、土砂は祠の入口を完全に埋めている。カムイ君のユニットでは強い衝撃を与えかねないから
全員の良い点を使わないときっと救えない・・・・」
それに一秒も争う事態であり、アイチは指を差した方向を見た。
「南西の方角の麓に大木がある。そこから3メートル行ってからさらに南下4メートルの地下を掘り続けて。
目印はちょっと赤い岩の周辺、祠はそこだよ」
「な・・南・・えっ・・??」
覚えられずにナオキが、もう一回と尋ねるが。
「わかったよ」
「早い!!」
ミサキは一発で、アイチの指示を記憶。
でもアイチは一人にはできないが、黙っていたエミが口を開いた。
「アイチなら大丈夫・・・早く行きましょう・・」
「・・・・エミさん?」
何処か悲しそうにし、アイチの邪魔をしてはいけない気がすると話す。
アイチは前を向いて、後ろには振り返ろうとはしない。
「ありがとう、エミ」
ずぶ濡れになりながら、アイチはエミに礼を言うと耐えるようにして顔を背ける。
こうなったら早くタイヨウ達を見つけるしかないと、走り出すナオキ達、彼らが完全にいなくなるとアイチは視線を完全に前に戻した。
「貴方に私達が止められますか?」
セラもネーヴの隣についた。
ドーナツを食べ終えたラティも戦いを楽しむかのように笑みを浮かべて、カードがその手に浮かぶ。
「私達に勝つなんて、幻影のイメージだよ」
「せっかく助かった命、無駄にして後悔させてやろう」
ネーヴもラティも戦うつもりだ、指定した場所はミサキが結界で固定してくれたので戦いに巻き込まれることはない。
「・・・・」
ガイヤールは、顔色を変えずにアイチを見つめていた。
髪はばっさりと短めなショートカットで男のようではあったが、最後に見た時とは違う・・--。
「強いレギオンカードでも・・、作ったのですか?」
始めてガイヤールが声を出し、アイチの勝機はそこにあるのかと聞いてきた。
いくら現最強のレギオンカードを持っているガイヤ―ルと、カトルナイツに勝てるはずがないと周りの仲間も余裕を見せていた。
「レギオンは、ありません。でも・・・僕はそれを超えた」
「・・・超えるとは?」
セラは、その言葉に反応してきた。
ただの脅しだとして、戦いを楽しむかのように悦楽に満ちた顔で先手に踏み込んできたのはネーヴ。
「おい!」
リーダーのガイヤールは、まだ指示を出していない。
続けとラティもフィアナにライドして、空へと浮かぶと幻影交じりの攻撃を繰り出す。
「!!」
アイチはライドせず、生身でネーヴの蹴りを受け止める。
何度も連打していく体術に、地面からはシンバスターも現れると多数のミサイルを放ってきた。
「・・・・」
すっと目を細めると、軽やかに全て避けたが後ろにいた村に被害が及んでしまう。
幸いにも建物や森が焦げた程度だったが、パニックとなり慌てて逃げていく。
「貴方達は、人を守るために戦うのではないのですか?」
一般市民にまで被害も屋も得ない姿勢に、空に浮かぶとカトルナイツも追いかけてきた。
向かい合う両者、だが彼らの誰もが人を傷つけたという認識は薄い。
「お前が大人しく攻撃に当たっていればよかったものを、大きな悪を撃つためには多少の犠牲も仕方ない。
そうでなければ、倒す者も倒せないのだからな」
まるで、怒りに耐えるように手を強く握り・・目を閉じた。
雨は激しく降り続け、空は厚い雲に覆われていた。
「わかりました、貴方達はヴォイドと同じ・・僕達の敵だということが!!!
ジェネレーションゾーン、解放!!!」
開かれたアイチの瞳と共にそして額には
謎の紋章が浮かび上がっていた。
それは銀色の『四葉』を象っている、幸運の印だ。