(01/05)
 男子便所に入ってきたのは、どうやら部活の朝練を終えた男子生徒達のようだった。
 数人いるようだが、個室に入ったありすには何人いるのかわからなかった。

 男子生徒達はトイレの個室の中に全裸の女子がいるとも知らず、品の無い笑い声をあげて談笑していた。
 その談笑が静かになってくると、なにやら荷物を弄る音が響き、何かの音がしてから息をひそめるように静かになった。
 ……そして何かの煙の臭い。

 ありすは、薄汚れたトイレの墨に煙草の吸殻が落ちていた事を思い出した。
 優等生とは言えない男子生徒達が、隠れて煙草を吸う場所としてこの男子便所を使っている事は明白だった。

 (はやく……早く出て行って……!)

 掲示板に張り出された全裸写真と同じ姿で男子便所に隠れているところが見つかれば、言い逃れする事も出来ない。
 ましてや隠れて煙草を吸っているような男子達だ。何をされるかわからないし、何をされても抵抗できない。


 ありすは息を殺して男子生徒達が去るのを待ったが、一向に出て行く気配は無い。

 男子達は教師に見つかる事を恐れてか、あまり物音を立てなかった。
 その静寂は、わずかな物音でも男子に気付かれてしまうように思えた。
 袋から制服を取り出し着替える衣擦れの音さえ大きな音として響いてしまうだろう。

 ありすは呼吸音さえ響かないようにして男子達が去るのを待った。

(02/05)
 ……何分経っただろう。
 1分1秒が、とても長い時間に感じた

 男子達も汚い男子便所の奥までは入ってこないようだったが、いつ気付かれてもおかしくない状況だった。


 (どうしよう……このままじゃ遅刻しちゃう)

 ありすはwhite_rabbitの命令で絶頂に達するまでオナニーしなければならないのに、男子達は男子便所から出て行く様子はなく、何本目かの煙草に火をつけたようだった。
 普段目立たない存在のありすが遅刻をしてクラスメイトの注目を集めてしまう事が怖かった。
 掲示板に貼られた全裸写真の正体がばれてしまうかもしれない。
 できるだけ始業時間の前までにwhite_rabbitの命令を済ませてしまいたかった。
 なのに、全裸のありすのすぐ近くに、男子達がいるのだ。

(03/05)
 逃げ場の無い状況。
 このままでは男子便所に来た意味が無く、ただ身を危険に晒しているだけに過ぎない。

 心臓の音が頭の中に響いて、男子便所に響くのではないかと思えるほどだった。
 しかしwhite_rabbitはありすの部屋を盗撮し、その写真を学校の掲示板に張り出すような相手だ。
 white_rabbitが誰なのかはわからないし、どうしてこんなイジメのような事を命令するのかもわからない。
 しかし、命令に従わなければ大変な事になるであろう事だけは確かな事だった。

 ありすは股間に指を触れた。

 「……ひぐっ!」

 男子便所の個室の中にか細く小さな声が響いた。
 ありすのクリトリスから脳天の先まで稲妻のように激しい刺激が貫き目の前が真っ白になった。

 異常な状況が、ありすを興奮させていた。

 全裸写真が晒されている状況。
 男子便所で全裸でいる状況。
 間近に男子がいる状況。
 ……それでもオナニーしなければならない情況。
 
 その異常な状況の所為か、ありすの身体は敏感になっていた。

 (もう授業が始まるし、トイレに入ってきた人もすぐに出て行くはず……)

 現実感の無い緊張と興奮が続いて、ありすに冷静な判断力は無くなっていた。
 この状況から逃げ出したいという気持ちが、早く済ませればこの状況が終わる、という混乱した判断になっているのかもしれない。
 ありすに出来る事は限られていて、選択の余地も無かった。

(04/05)
 つるんと小さなクリトリスが、柔肉の割れ目からはみ出るほど充血していた。
 そっと触ると、これまで感じた事の無いほどの快楽と興奮が下半身を麻痺させる。
 「ひぐっ……んっ……!!」
 思わず出そうになる声を必死で堪えた。
 大きな声や音をたてては、煙草を吸っているであろう男子達に気付かれてしまう。

 「……んっ、……うっ、ふぅぅ……っ」

 現実逃避するように、ありすは自慰に集中した。
 敏感になった陰核は、少し触れただけで普段以上の刺激を生じた。
 ひくん、ひくんと腰が反応する。
 男子便所の個室の中で、ありすの鼻息が静かに響く。

 (これなら、すぐに終わりそう……)

 事が済めば、服を着られる。
 服を着る事が出来れば、男子便所から出られる。
 万が一男子達に見つかっても全裸の姿を見られる事は無い。

 「……はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 にちっ、にちゅっ、と割れ目が湿った音を立て始める。

 ……しかし快楽が高まっても、なかなか絶頂に達しなかった。
 普段とは違う落ち着けない状況で、焦りながらの行為では、なかなかwhite_rabbitの命令を成し遂げる事は難しかった。

 (も、もっと集中しなきゃ……)

 ありすは事が済むまでの時間だけ、考えてもどうにもできない事を忘れ、自慰の快楽だけに集中しようとした。

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 にちゅっ、にちゅっ、にちゅっ、にちゅっにちゅっ……

 「……おい、一番奥の便所に、誰かいるんじゃね?」

 煙草を吸っていた男子達が気配に気づいた事に、ありすは気付かなかった。


 「やっぱ、誰かいるって。ヤバくね?」
 「でも先公って事はないだろ、たぶん……」

 人に見つからぬよう静かに煙草を吸っていた男子生徒たちは、小声で囁きあった。

 「人の来ない便所でクソでもしてるんじゃね?」
 「どうする? チクられないよう脅しとくか?」

 男子達もいまさら大騒ぎする事も出来ず、とりあえず様子を伺おうという事になった。

 「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ……

 しかし自慰に集中しているありすは、男子達の密談に気付かないままだった。

(05/05)
 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 ぐちゅっ、ぐちゅ、ぐちゅっ、ぐちゅ、ぐちゅっ

 (おい、なんか息が聞こえるぞ?)
 (マジか、やっぱ誰かいたんだな)

 ありすが自慰に耽る個室の扉の前に男子達が集まって聞き耳を立てていた。

 (便秘でイキんでるのか?)
 (なんだかすすり泣いているようにも聞こえるぞ)
 (それになんか変なニオイがするな?)

 個室から漂ってくる臭いは排便の悪臭では無く、男子達が嗅いだ事の無い「女の匂い」だった。未成熟なありすの膣から滲む愛液の匂いが個室の向こうまで漂っていた。

 「はぁっ、はぁんっ、あっ、あっあっ……」
 (あぁ、気持ちいい……もうイキそう……イキそう……)

 (ちょっと中をのぞいてみようぜ)

 男子の一人がそう言うと、他の男子達はニヤニヤと笑った。
 もともと品行方正ではない男子達だったので、中に誰がいようと困った事にはならないと思ったのだ。

 (イキそうっ! イクっ!イッちゃうぅぅ!)

 その時ガタンと個室のドアが音を立てた。

 (だ、誰かいるの!?)

 しかしもう、ありすの指の動きは止められなかった。
 ドアの上に誰かの指がかかり、よじ登って覗き込もうとしていた。

 (あぁっ!ダメぇ! イッちゃう! イクところ見ちゃダメぇぇぇ〜!!)

 誰かの頭が一瞬、ドアの上をよぎった。

 「い……イクぅっ!!」


 ……絶頂で意識が飛んだありすが我に返ったのは、数十秒後だった。

 がくがくと、腰の痙攣がおさまらなかった。

 男子生徒たちが走り去っていく音を遠くに聞きながら、状況を理解した。

 ありすが絶頂に達した時、ちょうど始業のチャイムが鳴ったのだ。

 たぶん、絶頂の声はチャイムの音にかき消されたはず。
 たぶん、覗こうとした男子に見られてはいないはず。
 でなければ何事も無く男子達が去っていく筈がない……。

 静寂の戻った男子便所の中、ありすが服を着終わったのは10分以上後の事だった。
 気を失いそうになるほどの絶頂に達したありすは、ほとんど腰が抜けたようになっていて、またこの異常な状況で自慰をした事の背徳感で、しばらく動けなかったのだ。

 ありすは保健室に行って休み、そのまま早退届を出して帰宅した。