此処は惑星クレイにある、海に囲まれた小さな島国・エリュテイア。
真ん中にはニンフ山があり、緑と海という自然に囲まれたのどかな国であった。
この国を治める首都・アトラースにある城、へスペリデス近くの緑の芝生の生えた広めの訓練場では
騎士達が早朝から剣の稽古をしていました・・・、そう・・この国にはある問題があったのだった。
「ぐあーーっ!!」
「おい、三人揃ってギブアップかよ」
軽く汗を掻いて木刀を軽く肩に担いでいるのは、うずまきのような髪型をしているちょっと不良そうなクロノ。
折り重なるようにして倒れているのは、古い付き合いの三人組。
三人の中で一番体格が有るが、気の弱さが玉に傷の長良ケイ。
「皆一緒に稽古始めたのに、クロノ凄いなー・・」
おかっぱのような髪型をしているが、物知りなサポート系タイプの山路カル。
「まぁ、クロノは僕達の中でも喧嘩負け知らずでしたから」
そして4人の自称リーダーである、黒髪の釣り目の男の子、多度ツネト。
「そうだ!!ありえない!!しかも俺らと同じ歳なのに、あの方の片腕までに一気に昇進するなんて・・!!」
間違いなく出世コースだと悔しそうに、歯ぎしりをしている。
最初誘われた時、クロノは自分なんかがと遠慮していたが、自信を持てと言われたのを思い出して頬を赤らめる。
「うわー、見ました?クロノ君が照れましたよ」
「見ましたよ、ツネトさん。さすがはあのお方ですね」
「僕も、あの方に早くお役に立ちた・・あっ、上にいますよ」
ふと、ケイが上を見上げるとクロノ達も上を見上げる。
青とピンクの光、間違いない・・あの二人だ。
「やっぱり、すげー・・・・・・」
凛々しい二人を想像していると、ツネトの腹の虫が鳴いた。
そろそろ朝食の時間だと、朝練は此処までにして一度家に帰ろうとタオルで汗を拭いて雑談しながら訓練場を後にする。
クロノは、見えなくとも空に向かって敬礼をすると先を進む三人を追いかけていく。
二つの光は、この国の双子のお姫様が見回りをしてくれている光・・これを国民は見てから今日が始まる。
見回りを終えると、城に戻ってきて軽くシャワーを浴びるといつものようにピンクの制服に着替える。
ドレッサーの前にいるのは、16歳の双子の妹君・エミだった。
オレンジ色のやや毛先が丸くなり、長さは腰の辺りまで伸ばしていて
胸の音符のブローチの位置も再チェックし、鏡の前で軽く一回りをしていて変なところはないと再確認。
「よし、・・・出かける前に・・・」
エミは廊下を出ると、外ではエミ専属の騎士・カムイが待ってくれていた。
同じ歳で、付き合いの長くまっすぐで勇敢な性格を表した様な顔をしている、背はエミよりも少し上だ。
「おはようございます、エミ姫。どうされました?・・そちらは」
「どうせアイチ、また二度寝しているでしょ?起こしに行かないと」
頬を可愛く膨らませて、エミは廊下を進んでいく。
着いたのは青い扉の前だった、そこにはアイチの専属騎士、櫂が腕を組んでドア付近に持たれている。
エミが近づく気配に気づいて目を開けてきた、綺麗な翡翠の瞳。
年上らしいが、筋肉は良く体は鍛えられていて完成体そのもの。
剣の腕では国一番のシオンも歯が立たなかったほどの腕だが、いろいろと謎の多い男。
しかし、ミステリアスな雰囲気が素敵だとメイド達は皆彼に夢中であった。
だが、エミは少しだけ・・彼が苦手だった、別に悪い人ではないのだ、仕事も給料以上に働いてくれるし
気も効いたところもあるのに、途中まで膨らませていた頬は萎み・・軽く櫂に頭を下げる。
「あの、アイチは?」
「・・・中にいる、きっと・・・」
二度寝している。
ドアをこっそり開けてみると、本当に二度寝をしていた。
ペットの上に上半身だけ乗せて、服装は問題ないところをみるといつもより準備が早く終わったので少しだけならと
油断したら、あっという間に朝食の時間に。
あちゃーという顔をしているカムイと、溜息をする櫂。
「アイチーーーー起きなさい!!」
怒りの声を出す、エミだった。
「あらあら、アイチってば・・・また二度寝しちゃったのね?」
ふんわりと笑うのはアイチ似の母、シズカ女王だった。
アイチはびっくりして髪型がまたぼさぼさになったので、再度整えることになったとつぶやくが、火に油を注ぐ結果になった。
「反省しているの!?いつも私が朝食の時間になって起こしてあげているの!!」
「うう・・・それは言わないでよ」
顔を俯くアイチと、エミを宥めるアイチ似の女王シズカ。
怒りが収まらないでいたが、そこは母親・・上手に両方を叱る。
「アイチも、余裕ができたのなら早めにくればよかったのにね。エミも・・貴方の声はよく響いているのよ」
広い食堂だ・・声はよく響く。
さすがに恥ずかしくなったのか、エミは恥ずかしそうに黙って朝食のフレンチトーストを食べている。
その光景を出入り口付近に待機していたカムイと櫂は、小さく笑って見つめていた。
「ところで櫂君、例の目撃情報は最後何処になるのかしら?」
食事を終えて、紅茶を飲んでいるとシズカは櫂に話しかけてきた。
一歩前に出ると用意していたバインダーを、差し出して口頭でも説明を始める。
「はい、近隣の国を通過して行ったのを最後に目撃情報はありません」
念のため、漁港には注意を促してはある。
人に危害を加えることなく、通過してくれればいいと胸の剣を象った勲章の形をしたブローチにアイチはそっと触れた。
『近くにクラ―ケンの目撃情報がありまーす、暫くの間は自主時に漁に出ないでくださーい!』
メガホンのようなものを使ってケイは、クロノらと共に注意喚起の書かれた紙を配布していた。
一見穏やかな海にクラ―ケンが来るのかと疑問の声もある。
しかしクロノは島国で育っている、天気が穏やかでも油断はしてはいけないと身体が知っている。
「ケッ、こんな穏やかな海に冗談だろ!」
警告を無視して、漁に出て行く一艘の船。
仲間の漁師の静止も無視し、あっという間に沖へと出て行ってしまう。
「おい!!あいつ、警告無視しやがったぞ!!」
ツネトが帰ってきたらシメてやると、怒りを表しにしていてケイ達が宥めている。
「生活がかかってるからって同情するけど、何かあったら・・・・って!!助けるのは俺らなんだぞ・・って!!」
言っている傍から、船が襲撃を受けていた。
相手はクラ―ケンだった、緑色の尾が見える・・間違いなく奴だ・・・キング・サーペント。
ドラゴンのような姿をしている、深海に生息しているはずのキング・サーペント。
たまに現れるが滅多に人なんて襲わないはずなのに、漁船をその大きな尾で沈めて辛うじて海に飛び込んだ漁師を食べようとしている。
「やべぇ!!」
「おい!!クロノ!!」
近くにあった小型の海岸警備隊用のボートで、キング・サーペントへ向かっていく。
慌ててツネト達も、もう一艘同じ船に乗って追いかける。
「おい!!こっちだ、化け物!!」
持っていた剣をキング・サーペントに向かって投げると尾びれに命中したが、激怒してクロノに向かっていく。
だがクロノはそれを狙っていた、巧みにボートを操作して漁師達から遠ざける。
「クロノ!!おい!!」
「お前らはそいつらを救出しろ!!すぐにアイチ姫さっ・・・!!」
一気にボートにまで追いつかれて、頭から突っ込んで来てボートが真っ二つに破壊されてしまう。
そのまま海に放り投げられるクロノ、海にはキング・サーペントが待ち構えている、・・・・もうダメか!!
喰われる最後を予感したが、キング・サーペントの牙を誰かが受け止めた。
「もう大丈夫だよ、クロノ君」
「アイチ姫様っ・・!!」
「戦乙女の先導者〈ヴァルキリー・ヴァンガード〉だ!!」
空中に浮かぶのは、戦闘用ドレスであろう・・・膝上の青い騎士服のようなもの。
勲章に触れると淡い白い光が現れる、それはアイチの身体を包み込んでいくと・・・先ほどとは違う、
白い騎士服に、背中に天使の羽の描かれた騎士服へと変化したのだ。
「民を守りし、剣となりて、この身に纏え!!純真の宝石騎士〈ピュアハート・ジュエルナイト〉!!」
白く輝く剣を手に、キング・サーペントに挑む。
大きな口を開けて威嚇をし、牙と剣がぶつかり合うもキング・サーペントは海へと深く潜ってしまう。
「まずい・・あいつ潜りやがった」
海面で立ち泳ぎをしつつ、観戦するクロノ。
「大丈夫だ、すでにエミさんが待ち構えているから」
ボートが現れた、カムイと櫂だった。
船の方は漁師を乗せるので定員オーバーだったらしく、迎えに来てくれたらしい。
「すいません、カムイ隊長にまで迷惑を・・・」
「気にすんなって、・・・まぁ、助けたいって気持ちはわかるけど無茶はダメだぜ・・それと・・後で始末書な」
「うっ!!」
人助けとはいえ、小型ボートを破壊してしまった。
始末書が書くのが苦手なクロノは、陸に帰りたくないと項垂れていると海が大きく波を作り出した。
「・・・始まったな」
櫂が海面に向かって呟いていた。
『海は私のステージよ、さぁ・・!!行くわよ!!私の中にいる歌姫、響け・・深海の深くまで!PR♥ISM-P ラブラドル!!』
人魚とは言ったが、足はそのままに露出が多くはなかったが使用上はしょうがない。
持っていたステッキを使って大きな渦潮を作り上げて、キング・サーペントを大きく上へと巻き上げる。
「今よ!!アイチ!!」
空ではアイチが剣を手にして、待ち構えていた。
白い剣を手に、アイチは一撃で真っ二つにしてキング・サーペントを海に沈める。
小さく溜息をし・・、完全に仕留めた事を確認。
港では歓声が巻き上がっており、一人のけが人も出さずして解決したのであった。
「このっ・・馬鹿タレが!!」
夕暮れ時、ようやく落ち着いたところで漁師のリーダーである男が勝手な行動をした漁師達を叱りつけていた。
返す言葉もないは、大柄のはずがとても小さく見えていた・・離れたところからアイチ達が見守っていると
この家族が知らせを聞いて、慌てて駆けつけて無事な姿に妻は号泣、子供はつられて泣いていた。
「お前がしたのは、こういうことだ・・もっと自分の命を考えて使いな」
それだけをいうと、リーダーは去っていく。
船を失ったが命は無事ならそれでいいと、妻は泣いて夫の無事を喜んでくれて
あと少し、クロノの突撃が遅かったら危なかったと、家族全員でクロノは礼を言われて戸惑っていた。
「船の方も、ちょっと返済には時間がかかるらしいけど・・保険に入っていたらしいし・・よかったね」
アイチに言われて、「はい」と元気よく返事をするクロノ。
エミ達もよかったと嬉しそうにしている。
しかし、帰った後が大変だった。
始末書だ・・、一人騎士専用の食堂でクロノは頭を一生懸命使って悩んでいると
貴族出の同僚騎士シオンがさりげなくやってきて
丁寧に書き方を教えてくれた。
「櫂隊長が助けてやってくれって、君はこういうの苦手だからね」
「・・・うるせーよ、シオン」
くすくすと笑いながらも、手伝ってくれたシオン。
ツネト達はその様子を、ドアの隙間から見守っていたという。
「・・・何か、多くなったね」
私室にいたアイチは、今回の出撃記録を仕上げていた。
最後の確認のために櫂に手に渡してから、ぽつりとこんなことをつぶやく。
「昔は、人を襲うことなんてなかったのに」
そもそもクラ―ケンなんて、本でしか見たことがない。
人には危害を加える記録だってないのに、あのクラ―ケンは明らかに人に狙いを定めていた。
「それを立凪タクトが警告していただろう・・・、クレイの危機だと」
書類に目を通しながら、櫂はその時のことを思い出していた。
世界中のテレビ画面に突然映し出されたのは、若き大国の王・立凪タクト。
『皆さん、惑星クレイにかつてないほどの危機が訪れようとしています』
アイチとエミ、そして両親はリビングでそれを心配そうに聞いていた。
彼の口から告げられたのは、ユニットと呼ばれる存在達に異変が起きていることだった。