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#1 私の名前は遊佐見ミオナ。 今、実家の病院を引き継ぐべく医大を目指して猛勉強中の受験生。 先生には「お前の成績なら国立も大丈夫だろう」って言われてるけど、油断は禁物。まだまだ勉強しなくちゃね。 #2 世田谷にある、『遊佐見クリニック』が私の家。3階建てのちょっと立派な建物よ。 1階が診察室とコンビニのテナントになっていて、2階に入院施設と看護婦さんの宿直室、その上の3階がお母さんと私の住居部になっているの。 2年前に死んだお父さんの遺志を継いで、今はお母さんが院長として頑張っている。 患者のこととなると一生懸命のお父さんだったけど、道に飛び出した子猫を救おうとしてあっけなく死んじゃうなんて、ホント漫画みたいで・・・笑えない。残された遺族はたまったモノじゃないわよ。 この病院もお父さんとお母さんの2人でやってきたんだけど、 患者の相手をしていたのはほとんどお父さんだったから亡くなってすぐはお母さんも色々と大変だったみたい。 1度は閉院しちゃうことも考えたみたいだけど、私が必死で止めたの。 だって・・・お父さんもきっと残念がるだろうと思って・・・。 寂しいしね、お父さんとの思い出が消えてしまうようで。 それにこんな小さな開業医だけど、お父さんの手術技術は抜群だったっていう噂。 有名なスポーツ選手や代議士さん、芸能人なんかもたまにお忍びで入院してたんだから。 お父さんがいなくなって、そんな患者さんも来なくなった。 今はお母さんが近所の患者さんたちを相手に静かに運営しているわ。 #3 「ただいま〜」 「あ、ミオナさん、おかえりなさい。そうだ、お母様が呼んでましたよ。 院長室まで来て欲しいって」 受け付けに座っていた看護婦長のよしみさんが私に言う。 「え、お母さんが? ・・・なんだろ?」 (勉強の進み具合かな?) 私は怪訝に思いながらお母さんの部屋、院長室をノックした。
#4 (コンコン) 「ミオナです」 「ど〜ぞ〜」 #5 中ではお母さんが机の上の書類に目を通していた。 「ただいま、お母さん」 「どう、最近は? 勉強、はかどってる?」 あちゃ、やっぱ勉強のことかぁ。私の成績、知ってる筈なのになぁ。 「うん、大丈夫。先生も今の成績なら国立、大丈夫だろうって」 「そう、それなら良かった。お母さんもミオナのコトだから 安心してるんだけどね・・・ところでミオナ、今日は大事なお話しがあるの」 え、勉強のコトじゃないんだ・・・なんだろう? 「な、何よ、あらたまって?」 「覚えてるわよね、お父さんのこと」 あ、当たり前じゃない、私が何で医者を目指してると思ってるのよ。 は〜ん、さては再婚を考えてるとかかな? 「うん、当然でしょ。でもね、私、お母さんが再び女の幸せをつかみたい、っていうなら邪魔はしないつもりよ。 で、相手はどんな人なの? バツイチのロマンスグレイ紳士系とか? 連れ子は私と同い年、ちょっと薄幸そうな美少年で転校早々注目の的、 同居してる私は同級生たちに嫉妬されて・・・」 「・・・呆れた想像癖ね。残念ながら違うわ。ロマンスグレイの紳士も薄幸そうな美少年も出てきません」 「な〜んだ」 ちょっと残念なような、でもお母さんが再婚しないのは・・・ソレはソレでやっぱり嬉しい。 「あのね、ミオナ。お父さんに手術をしてもらいにいろんな人がこっそりウチの病院に来てたの、覚えてる?」 「うん。芸能人も来てたわよね。私、何枚かサインもらったもの」 「アレはね、お父さんの特殊な手術方法を必要として・・・ お父さんだけにしか出来ない治療技術を求めてこの病院を訪ねてきたの」 「へ〜、お父さんブラックジャックみたいだね。神の手ってヤツ?」 「う〜ん、驚かないで聞いてね、ミオナ」 お母さんが真剣な眼差しで私の顔を正面から覗き込んだ。 (な、何なのよう、一体?) 重苦しい沈黙。私はゴクリ、と唾を飲んでお母さんの次の言葉を待った。 「お父さんはね、患者さんのカラダの中に入って、病原治癒を施していた『体内執刀医』だったの」 「!?」 ・・・はぁ? どーゆーコト? カラダの中に入るって・・・ミクロマンとか? お母さん、真顔で私のコトかつごうとしてるの? 「ちょっ、何ソレ? 何かの冗談?」 お母さんは静かに首を振った。いっそう真剣な眼差しで私を見る。 「ミオナ、コレは本当のコトなの。今まで黙っててごめんなさい。急にこんな話しされたって、信じろって言う方が無理よね。ソレは分かってる。でも、聞いて、ミオナ。そしてお母さんを・・・お母さんとお父さんのことを信じて欲しいの。ミオナ、あなたの能力(ちから)が必要なのよ」 #6 ソレから聞いたお母さんの話しは、医大を目指す私には理解不能なコトばかりだった。 最先端医療技術を施行する国際的医療結社「MISTY」の存在。 お母さんはお父さんの跡を継いで、その結社の極東支部長を務めているコト。 何より驚かされたのは・・・お父さんがしていた手術法。 お父さんは細胞分子を原子レベルで操作出来る薬を服用するコトにより自分の身体をナノ単位に小さくしてから特殊な手段を用いて患者の体内に侵入、そして患部を身体の中から直接治療していたんだって。言うなれば人工マクロファージってヤツ、なのかな? 信じられない話しだったけど、不可能と言われた手術を何回も成功させたお父さんの手術法が実はそういうやり方だった、と聞けば確かに納得は出来るんだけど・・・ でも、でも〜! 「その小さくなる薬はメルモちゃんの赤いキャンディ&青いキャンディみたいなモノ?」 我ながら子供っぽい例えだと思うけど、そんなモノしか思い浮かばない自分がニクイ。しかも例えが古いし(こないだCSでやってたんだもん)。 「・・・ドラえもんを出さないだけマシね。簡単に言えば、そう」 「誰がそんな薬を開発したの? だってだって、ノーベル賞モノでしょ? まさか、お父さんが?」 「残念ながら開発したのはお父さんじゃないわ。結社の開発部。お父さんはその薬を使って身体を小さくしていたの」 お母さんは、腕を組み直して私をまっすぐ見つめ、話しを続けた。 「それでね、ミオナ。その薬は誰が飲んでも小さくなれる、ってわけではないの」 メルモちゃんのキャンディって、メルモちゃん以外の人が飲んでも大きくなったり 小さくなったりするんだっけっか・・・私、ぼんやりとそんなコトを考えてた。 「特殊なDNA配列を持った人だけが、この薬に反応するコトが出来るの。だから誰でもこの薬を飲めば小さくなれるってわけじゃない・・・残念ながらお母さんが飲んでも小さくなれないのよ・・・でも」 え、でも・・・何? そういえばさっき、お母さんは「私の能力が必要」って言ってた。 まさか私? 私が? 「そう、ミオナ。アナタはその特殊なDNA配列を持っている。お父さんから受け継いだDNAを持つ選ばれし者なの」 え、選ばれし者って・・・私もこの薬で小さくなれるってコト? 「ミオナ、お父さんの意志を継いで体内執刀医になってくれないかしら?」 |
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