商品の価値は、売り手が決めるものである。
売りたい値段で、買い手に売る。当然のことだ。
間違っても、その価値は商品が決めるものではない。
たとえ、商品に知性があったとしても。
人間たちが住まうコロニーから数キロ離れた、密林の奥。
妖怪の生息域に、奇妙な壁が建っていた。廃墟の残骸というわけでもなく、3メートルほどの高さの威容が鎮座している。両端には、子どもが粘土をこねたような出来損ないの腕が生えていた。
壁の名は、ぬりかべ。
薄暗く湿った場所を好む下級の妖怪である。茫洋とした紅い目は、己の腹に生えた真っ白な2つの桃と、それに並ぶ購入者たちへ注がれていた。
鬼、河童、猫又、妖魔、魚人と、多種多様な魔の者が一列になり、紙幣を手にしてそわそわとしている。その先頭では、ふたなりペニスを生やした2人の妖魔が、桃の中央に空いた穴に向かって腰を激しく振っていた。
なんとも珍妙な光景だ。
女たちの剛直が穴を抉るたび、白桃は「ぶじょっ! ぶじょっ!」と淫らな水音を立てて、白く泡立った果汁を噴き出す。それに合わせて、ピンクとオレンジの色に縁どられた純白の包装紙がバサバサとはためいた。
「ぎっ! ぎっ! んぎっ! やめっ! やめぇやああ゙っ! ご、ごのっ!」
「ゔっ! ゔっ! ゔぐっ! んぐぅうゔゔっつ! ぐ、ぐぞがっ……!」
これまた奇妙なことに、物言わぬはずの果物が呻き声を上げていた。
桃の名は、桜姫と火翠。
正義の味方――退魔忍だ。桃に見えていたのは彼女たちの美尻。その尻の少し下より、それぞれ2本ずつ飛び出しているのは、色合いの美しいブーツ。包装紙は、正義の誇りである退魔スーツのスカートだった。そう、あの退魔忍がケツを丸出しにして壁に埋め込まれ、妖怪たちの慰み者になっているのである。
それは、凄まじい戦いだった。
人間の絶滅を掲げる悪鬼の将軍のひとりが、無数の同胞を従えてコロニーを襲撃しようと画策した。それに対し、機構は桜姫と火翠をいち早く派遣。地形が変わる戦闘の果て、勝利したのは人類側であった。
ところが、屍の山で疲れ果てた2人に新たな敵が襲い掛かる。「オークショニア」と呼ばれる、人間や違法な品を売買する妖怪のグループが、漁夫の利を得ようとしたのだ。激戦に次ぐ激戦には、さしもの退魔忍も膝をつき、競売品のひとつになった。
心身ともに美しき退魔忍を欲しがる者は多い。希少な品を集めるコレクター集団の「品評会」をはじめ、学者、奴隷商、盗賊やマフィアなど、退魔忍に興味や恨みを持つ者たちがこぞってオークションに参加した。
最終的に落札したのは、壁尻の横で呼び込みをしている商人――
「さぁさ、並んで並んで! こちらの壁から突き出すぷりんとしたものは、由緒ある霊山から採れた貴重な桃――ってのは冗談で、我らが憎き退魔忍のケツでござい!」
頭に尖った耳を生やし、両目に隈のある狸に似た少女だった。
「こいつを味わえば、頭痛、腰痛、腹痛、勃起不全に心の病気まで、なんでも効くってな話で。さらに金運上昇、家内安全、商売繁盛と、御利益がもりもり! そこの旦那さん、この機を逃しちゃ一生後悔するっスよ? おおっと、おぜぜを忘れずに!」
薬売りの衣装――萌葱色に染められた着物――に包まれた両腕を大げさに振るい、狸少女は新たな客を引き入れる。誇大広告が過ぎるセールストークだが、それを指摘する野暮な者はいない。彼ら彼女らは、人間だけでなく同類からも追いやられた弱小の妖怪。退魔忍のあられもない姿を生きて拝めるだけでも、彼らにとっては奇跡なのだ。
「んっ! やめっ! んぐっ! ぐぅっ! うぅっ! ほんまっ、こいつらぁ……!」
「雑魚……お゙お゙っ! よ、妖怪どもがっ……! がぁっ! あ゙っ! あ゙っ!」
ぱちゅんっ! ぱちゅんっ! ぱちゅんっっっ!
妖魔たちがピストンの速度を上げる。掘削の衝撃を受けた尻肉が波打ち、地面へダラダラと零れる本気汁の量も増えた。
「アハハ、いいわっ♥ 生意気な退魔忍を犯せるなんて、さいっっっこうの気分っ! ねぇねぇ、アンタはどんな気分なのよ?」
桜姫の穴を買った妖魔は膣肉を耕しつつ、痙攣する尻に尋ねる。新雪の如く真っ白な肌には、文字を描く術式によって「正」の字が書き込まれていた。退魔忍の穴が使われた数である。その数は、未完成のものを合わせると13回だった。
「ボクたちみたいなヨワーい妖怪の前で、ケツ穴晒して恥ずかしくないのぉ? ツヨーい退魔忍サマは、心臓も強いのかなぁ? ニヒヒっ、ボクだったら恥ずかしくて死んじゃうね!」
火翠の穴を堪能する妖魔も、ペニスの先端を子宮の入口へ叩き込みながら煽る。戦闘中は華麗に翻ったスカートは、度重なる迸りを受けてバリバリになっていた。
敵を喜ばせたくない退魔忍は、無視を決め込む。しかし、羞恥と怒りの炎に焦がれる呻きを漏らすことは止められなかった。
「お゙っ……ほっ! お゙っ! お゙っ! んお゙お゙っ! や、やめやめっ……!」
「あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! くそ、ったれがっ……! こ、殺してっ……!」
その呻きは、ラストパートをかけられたことによって切羽詰まったものに変化した。潤みを帯びた女陰は、「ぐちょっ! ぐちょっ!」と、まさしく潰れた果実のような音を奏で、凌辱者のチンポを締め付ける。
「そらっ、アンタの子袋にいっぱい出してあげるわっ!」
「雑魚妖魔のチンポ汁、たんと味わいなよっ! ほりゃっ! ほりゃあっ!」
ぼびゅるるるるるっ! びゅぶっ! びゅぐびゅぐっ!
妖魔たちの腰がめいっぱい突き出され、大量の白濁液が少女たちの子宮に撒き散らされた。
「イグぅううううううううゔゔっっっ!」
桜姫と火翠は異口同音に叫び、望まぬ絶頂に達する。
数時間前より散々しつけられた雌穴は、ペニスが引き抜かれても閉じない。茹でた貝の如く陰唇が開ききったままで、「ごびゅっ! ぶぽぽっ!」と、受け止めきれなかった精液を噴き出した。
「ざまぁみなさい、クソ退魔忍っ! 人類の盾だか何だか知らないけど、身の程を知るのね!」
満足げな表情の女が、目下にあるケツへ平手打ちを浴びせ、桜姫に「んにぃぃっ!?」と悲鳴を上げさせる。
「はぁ……はぁ……え、えがった……。あっ、そうだっ! チンポの汚れをちゃんと落とさないと。ひえー、ばっちい」
火翠に中出しをキメた妖魔は、自身の精液で穢れたペニスを、それ以上に汚れたスカートで包んで掃除した。正義のコスチュームがチリ紙扱いである。「やめ……やがれっ……!」と制止する声が飛んでも、汚物の清掃は続いた。
締めに、桜姫と火翠の尻で、正の字の一画が刻まれる。
凌辱の証明にして、格の違いをわからせた数を。
客が壁尻から離れると、狸少女はぬりかべを見上げ、猫でも呼ぶように舌を鳴らして合図した。
桜姫と火翠を腹に埋め込んだ妖怪は、巨体をグニグニと煽動させる。少女たちのくびれた腰を拘束する肉が収縮し、内臓が強く圧迫された。
「がぁああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!?」
「ぎぃいいいいい゙い゙い゙い゙い゙っ!?」
身体の中身を圧縮されるような痛みに、退魔忍たちは悲鳴を上げる。
ぶびゅびゅうううううっっっ!
それと同時に、膣道に溜まった精液が押し出され、並んだケツから白濁した滝が生み出された。並んだ客たちは、退魔忍の無様な姿を見てゲラゲラと嗤う。
ぬりかべはしばらく肉を蠢かし、客のために穴の〝洗浄〟を行った。
「はいはーい! それじゃあ、次のかたどうぞーっ! 尻穴でも雌穴でも、妖怪に捕まった正義の味方のコキ穴、思う存分ほじくちゃってくださいっス!」
女陰から何も出なくなったところで、狸少女は次の客を案内する。
今度は、小鬼と河童の少女の2人組だ。
彼らは商人に通貨を渡し、極楽の余韻で痙攣する尻の前に立った。壁尻の値段は、コロニーにある高級風俗店の〝1発分〟と同程度である。それなりの値段だが、相手が退魔忍であることを考慮すると破格ともいえた。
また、列の脇に設置されている机では、短刀や霊術札といった装備が売られている。こちらは家が建つほどの値段が付けられており、見向きもされない。弱小妖怪の欲望の矛先は、いつだって若き肉だ。
「ゲゲゲッ! ケツ! ケツ! タイマニンのケツ!」
少女の背の半分もない小鬼が飛び上がり、桜姫の尻にしがみつく。餅よりも柔らかい尻たぶに頬ずりし、醜く歪んだ口から垂れる涎で、スカートごとベチャベチャにした。辛抱堪らぬ様子の彼は、いきり立った肉棒を雌穴に突っ込んだかと思うと、桜姫とは比べ物にもならないぐらい汚い尻を振るう。
「がぁっ! あ゙っ! あ゙っ! くひっ! イっ、イった……んお゙っ! ばかり、やのに……! くあ゙あ゙あ゙っ!」
杭打機さながらのピストンが、絶頂感が抜けきれない膣壁を研磨し、爆発に近い激感が桜姫の背骨を駆け巡った。白い2つの山がプルプルと震え、その間にあるトンネルが「ぷしっ! ぷしっ!」と鉄砲水を打ち出す。
「ゲヒャアッ! イケッ! ヨワイ、メス! モット、イケッ!」
獲物が甘イキしたのを確認した小鬼はさらに興奮し、ペニスがもげるのではないかという勢いで腰を振り乱した。
「お゙お゙ぉぉ!? イっでるっ……! イっでる……が……ら! お゙っっ……ほっ……!」
壁の向こうから野太い嬌声が聞こえてくる。快感の波が少女の意識をさらい、次の、その次の極楽へと強制的に導いていった。

「おぉー、最初から飛ばすねぇ。んじゃ、アタイも」
獣のようなセックスを隣で眺めていた河童少女は、右手の指をワキワキとさせ、握り拳を作る。その狙いを火翠の股間へ定め、勢いよく叩き込んだ。
「かっっっ……はぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!?」
ずぼぉぉっっ!
身体を貫かれたような激感に、火翠が吼える。彼女の声に驚愕が混ざっているのは、妖怪の拳が犯したのは雌穴ではなく、その上にある窄まりだったからだ。後ろの処女を奪われたケツ穴も仰天し、「ぶっ! ぷっ!」と喚いて、茶色がかった腸液を零す。
「なんよ、退魔忍ってのはケツが弱いんだぁねぇ。みんなを守るのに、それじゃあいかんよぉ。もっと鍛えないと――」
河童少女はニヤリと笑い、手首を肛門に締め付けられている右腕を、
「――ねぇ!」
肘まで潜り込ませた。
肛門で溜まった空気が口へと押し出されたのかと思う、重い衝撃。
「や、やめっ……ろぉお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙っ!」
火翠は一瞬たりとも我慢できず、喉と唇を開放した。痛みを逃がすべく両脚が暴れ、ブーツのヒールがガクガクと躍る。ぬりかべの腹を蹴ろうにも、黒いつま先は届かない。
妖怪の腕を生やした尻は、異物を排除しようと、動ける範囲で右へ左へと揺れる。その動きでスカートが舞うも、尻たぶに滲んだ脂汗で一部が接着し、そのまま剥がれなくなった。
「うひひっ♥ 嬉しいねぇ! 生きて退魔忍のコーモン様に手を突っ込めるたぁ、夢にも思わんかったよぉ! アンタも思わんかったよねぇ? アタイみたいな雑魚河童に、糞を出す穴を弄くられるなんてさぁ!」
腕を出し入れしながら河童少女が煽る。腸壁で巻き起こる苦悦の爆発が脳を揺さぶり、火翠は言い返すどころか、「ぐお゙お゙お゙お゙っ!」と知性を感じられない声を放つしかなかった。
「イケッ、タイマニンッ! オマエ、ヨワイ! ダカラ、ブザマにイケッ! ツヨいオレ、タノシマせろ!」
「ふっっざけん……なやぁ! お゙……お゙ぉっ! あ、あかんっ……! ま、また……イグっ!」
火翠が肛虐に苦しめられている間も、桜姫は雑魚妖怪に性処理道具のように扱われ、愛の無い絶頂へ連れていかれる。泡立った恥汁がピストンで周囲に飛び散り、小鬼の腹で跳ね返ったものが尻とスカートを汚した。
ところで、小鬼は射精に向けてせっせと腰を振っているわけだが、火翠のケツ穴を掘り起こす河童少女には、精を放つ器官が存在しない。ならば、何をもって終了だというのか。
「ほんじゃ、そろそろアレを貰うとするかねぇ……」
妖怪の右手がアメジスト色の輝きを放ち、
「そぉら! クソ退魔忍のクソ穴から、タマっころイタだきっ!」
一気に引き抜かれた。

「んお゙お゙っ!? お゙っ……ほぉおお゙お゙お゙……!」
火翠から取り出されたのは、艶の混じった声と、オレンジ色の光を帯びた球体。河童という種族は、獲物の霊力を「尻子玉」として生成し、肛門から奪えるのだ。
「ちょっとちょっと、お客さーん! 石化はナシっスよー? 霊力だけっスからねぇー!」
この種族の餌食になった者は、最終的に石となる。それを危惧した狸少女が注意すると、河童少女は「わかっとるよー!」と返した。
「ぢ、ぢくじょ……イグっ……! そ、そんなとこで……くほっ……!」
一瞬遅れて、昨日まで男を知らなかった秘裂が「ぷしぃぃっ!」と、絶頂飛沫を河童少女の顔面にぶっかけた。排泄器官で達したことに加え、雑魚妖怪に大事な霊力を取られたことが、退魔忍の矜持をいたく傷つける。
「ありゃりゃ。何もしてないのに、マンコでもイッちまったのかい? 退魔忍ってのはケツが弱いだけじゃなく、欲張りなんだねぇ!」
頭の皿までビチャビチャになったというのに、河童少女は満面の笑みを浮かべ、肛門の刺激だけで絶頂した貪欲な雌穴をなじった。「ぐ、ぐぞがぁ……!」という呻きを耳にし、ますます笑みを深める。
「ダスッ! ダスゾッ! ハラメ、メス! ハラメェ!」
「や、やめっ、出すなぁ! お゙ほっ! な、中に出したら……あかんっ!」
小鬼と桜姫の方もクライマックスを迎えた。
小さな身体のいったいどこに入っているのか、大量で濃厚な精液が少女の膣内でぶち撒けられる。
「あづぅっ!? イっ、イグっっ……っぅう!」
子宮口を叩く汚液の熱に性感帯を炙られた桜姫が、イキ声と極楽を噛みしめた。
こうして、退魔忍たちのケツに正の字が増える。
次の組は、筋肉質の女妖魔と、頭に牛の角を生やした女妖怪だ。どちらも、男よりも立派なペニスをぶら提げている。2人は躊躇なくイチモツをぶち込み、退魔忍の狭い膣を拡張して、性感をより覚えるよう丁寧にこね回した。
「ええ……かげんっに……イグぅううゔゔっ! あ、あかんっ! またっ! またぁあああ゙あ゙っ!」
「お゙お゙ぉぉぉっ! イグっ! や、やめっ……ろお゙っ! もうっ、イカぜるなぁあああ゙あ゙っっ!」
退魔忍を使った性処理は続く。
妖怪たちの列は長く、終わりが見えない。
*
むごき凌辱が行われている裏では、退魔忍たちが心を折ることなく、怒りの炎を燃やしていた。
ただ、その気構えに反して、彼女たちの姿はあまりに不格好である。
ぬりかべの背中から飛び出しているのは、長手袋に包まれた腕と、恥辱に歪んだ顔を張り付けた頭のみ。首枷を嵌められた罪人を思わす有様だ。
「ぐぅぅぅっ! こ、こいつら……ほんまっ、しつこいんやっ! んっ! んっ! んぐっ!」
「くそったれが……! お゙お゙っ! い、いまに……みてろよ……んお゙っ! お゙っ!」
それに加え、背後の責めが苛烈になると、雌の一面が顔を出す。吊り上がっていた眉が八の字になり、憤激の色に染まった瞳が潤みを帯びた。きつく結ばれていた唇はだらしなく開かれ、涎の糸を零す。それは、長手袋からポタポタと垂れる汗とともに落下し、地面に湖を作った。
「あがんで……! お゙ほっ! そない、突いたらっ! ウチのオメコ……! あ゙ぅぅっ! ガバガバんなるぅゔゔ!」
「やめろ……ってんのが! あ゙ぁっ! 聞こえねぇ……のかっ! んお゙ぉっ! 壊れるっ! オレのアソコっ……! ごわれるぅゔゔ!」
そうは言うが、膣肉はペニスに媚びるかのように収縮し、魔の快楽を貪っている。
少し前までは、痛みと違和感しか覚えなかったが、今では快感の方が大きい。退魔忍という存在が、普通の人間と比べて頑丈だというのが、不幸の一因であろう。裂けることもなく、広がりきることもなく、適応してしまうのだ。
「イグっ! イグっ! イグっっっ! イグぅうううううゔゔっっっ!」
結果として、2匹の雌は繁殖の悦びを十分に教え込まれ、揃って遠吠えを上げる。
悪を倒すために鍛え上げられた身体が、犯されるためだけの肉と化していた。
後ろにある4本の脚が、シャチホコよろしく膝を曲げ、ピーンッと突っ張る。純白と漆黒の長手袋に包まれた指が、何かを掴むかのように握り締められた。
そんな恥ずかしい姿を、相棒に間近で見られている。桜姫と火翠は、相手のためを思って意識の外へと追いやろうとした。とはいえ、普段は絶対に聞くことのない、じつに悩ましげな声はイヤでも耳に入ってくる。
2人の関係は、仕事の相棒、大切な友人というものだが、そこに愛情がないとは言えない。終わりの見えない凌辱でイキ癖がつくと、隣から聞こえる嬌声は、絶頂を加速させる背徳のスパイスとなった。
「ふぅーっ! ふぅーっ! さ、桜姫……」
荒い息をつく火翠が、桜姫へちらりと視線をやる。名前に相応しく、彼女の頬は桜色に染まっていた。情欲を煽る表情だが、火翠は凄まじい精神力で無視する。
「ま、まだや……。もう、ちょっとやね……」
桜姫は、汗で髪が張り付いた首を横に振った。
2人は意味ありげに頷き合い、また前へと顔を向けて、背後で暴れ回る快感の嵐に耐える。
戦闘のプロである彼女たちは、相棒に向かって「大丈夫か?」などと優しい言葉をかけたり、励ますなんてことはしない。その言葉は、守るべき人々に取っておくべきだと心得ている。また「相棒は絶対に心を折らない」と、絶大な信頼を寄せている証でもあった。
そもそも、桜姫と火翠は〝ただの退魔忍〟ではない。
腕に覚えがある強者でも絶望するような状況で、何か策を練っているようだ。
狸少女も含め、ここにいる妖怪たちはみな弱小だと見抜いている。必要なのは、生きた壁から抜け出す方法だけ。これが解決すれば、あとは裁判なしの死刑だ。斬首刑と火刑。好みのものを選ばせてもらえたら幸運だろう。
商人と商品が初めて顔を合わせたとき――
「どーもどーも、桜姫さんに、火翠さん! あっしが御二方を落札したので、これからよろしくっス! その穴っぽこで、じゃんじゃん稼がせてもらうっスよぉ♥」
前者は悪夢を、
「身の丈に合わん買いもんをしたなぁ、タヌキさん。目利きを誤ると、損をすんのはカネだけじゃないで? 必ず後悔させたるわ」
「あぁ、お代は命で、ってな。妖怪風情が人間に楯突いたことを、あの世で反省しやがれ」
後者は地獄を約束した。
実力差から言えば、狸少女に勝ち目は万に一つもない。
されど、死の使いからの宣告に対し、闇の商人は薄く笑うだけだった。
*
「くひぃいいっっっ! くるっ! まだ、ぐるっ! きぢゃうぅううゔゔっ!」
「ちったぁ……んお゙っ! や、休ませっ、やがれ……! クソ妖怪ど……もぉお゙お゙お゙お゙ぉっ!」
あれから約1時間経っても、有料の肉便器は盛況だった。2つの尻は精液でベタベタになっており、あちこちに書き込まれている正の字を朧げにしている。
いま桜姫と火翠を犯しているのは、長い髪をバレッタでまとめた妖魔と、獣の性質が強い猫又の少女だ。
「おっと、お客さんは3回目っスよね? いやぁ、お大臣! その調子でバンバン使ってくだせぇ!」
ペニスバンドを激しく振りたくる妖魔に、狸少女が横から話しかける。
「さすがは退魔忍ねぇ。どんなに激しくしたって、まったくガバガバにならないからイイわぁ♥」
女の顔は至福に満ちていた。
彼女の性欲の捌け口である桜姫は、「あへぇえええ゙え゙え゙!」と善がり声を恥ずかしげもなく上げている。その屈辱と興奮を混ぜた声質から、壁の裏に回らなくとも快楽に蕩けたイキ顔を想像することができた。
「まったくだニャ。普通の子だと、すぐに壊れてツマんニャいからねー」
ふたなりチンポでケツ穴を掘り起こす猫又が頷く。
火翠が「お゙ほっ! お゙ほぉっ!」と相槌を打ち、後ろにいる妖怪たちもそうだそうだと同意した。
「へへへっ、そうでしょうとも! そうでしょうとも!」
客の高評価に気を良くした狸少女は、ニンマリとする。
「なんたって戦姫なんスから、そりゃあアソコの肉も鍛えに鍛えて――」
少女たちが〝頑丈な理由〟をご機嫌な調子で説明しようとし、
「……あっ……と」
着物の袖が口元を押さえたことで、中断された。
目尻を引き攣らせた商人は、「えへっ♥」と愛想笑いを浮かべるが、少しばかり遅い。
「戦姫?」
客の誰かが聞き返した。
森に沈黙が落ちる。
虫の声まで消えたような気がした。
戦姫。
その単語の恐ろしさを理解すると、一斉に悲鳴や動揺の声を上げ、壁尻に並んでいた列が崩壊する。ペニスが慌ただしく引き抜かれ、少女たちからも「んぎょっ!?」「はぎっ!?」と混乱の叫びが迸った。
「イカれたガキが! いったい何を考えてやがる!? 戦姫を2匹も捕まえられたと機構が知ったら、この森を消し飛ばしに来るぞ!」
筋肉質の女妖魔が狸少女の胸倉を掴み、丸太のように太い腕で持ち上げる。
戦姫とは、退魔忍の中でも指折りの実力者に与えられる称号だ。彼女たちは、妖怪から「人間の姿をした死神」と恐れられ、強力な兵を揃えた組織ですら安易に近づこうとしなかった。下等な妖怪にいたっては、視界に入れることすら許されない。
オークショニアが戦姫を襲ったのも、練りに練った作戦のもと、必ず勝てると踏んだからだ。だが、問題はそこではない。
そんな人類の最終兵器を奪われたとなれば、妖魔が言ったように、戦姫を管理する機構の反応は過激なものになる。命を落としたり、自害していれば良し。そうでなければ戦姫の力を妖怪側に利用されることを避け、交渉もなく、慈悲もなく、虜囚諸共すべてを灰にしようと動くだろう。
「あ、あ、あぁ、や、やばいやばい……! そ、そそ、そ、そんな戦姫だなんて……! やばいやばいやばい……」
ツインテールの妖魔が元々暗い色をした顔をさらに青くし、自分の髪を引っ張りながら跪いた。さもあらん。おまえの余命は今日だと、医者に告知されたようなものだ。
「お、お、お、オデは関係ナイからナ……!」
肥満体の鬼が両腕を振り回して駆け出す。半分以上の客が彼に倣い、逃れられない残酷な現実から少しでも離れようとした。
「まーまー、どうか落ち着いてくださいっス。だぁって、お客さんたち、うちの商品が戦姫だって知ったら、ビビりまくって勃つモンも勃たなかったでしょ?」
足先を宙に浮かせた狸少女は、かわいらしく舌を出し、まだ残っている客の股間へ目配せする。先ほどまでいきり立っていたペニスは、みな萎えていた。
「ふざけろ、馬鹿タヌキめ! それを知ってりゃ、店に近づきすらしなかったぜ!」
革のジャケットを羽織った狼男が、地面に唾を吐く。両手にはめたライダーグローブを突き破り、鋭い爪が飛び出した。嘘の代償を求め、ギラリと光る。
「えー、そんなご無体なぁ。だいたい戦姫が強いって、みなさん仰いますけど……この中に、その〝ご活躍とやら〟を実際に見たよって方はいらっしゃるんスかぁ?」
一触即発な雰囲気の渦中に居るというのに、狸少女はのんびりとしていた。
問われた妖怪たちが顔を見合わせる。
もちろん居るわけがない。戦姫と出会った妖怪が、彼女たちの美しい姿の次に目にするのは、自分へ向かって疾る白刃の光だ。
「戦姫は人間の姿をした死神ですって? ぜーんぜん、ぜんぜんっ! アレの話は大法螺も大法螺っス! ほんとに強いのは、戦車や飛空艇をたくさん持ってる機構であって、戦姫ってのはただの賑やかし! ムサいおじさんよりも、カワイイ女の子に旗を振らせた方が盛り上がるでしょ?」
見た目も中身も狸の少女は、ここぞとばかりに無茶苦茶なことを言い出した。
戦姫と妖怪の戦闘は、時と場所を選ばず日常的に行われている。
たとえ相対しなくとも、その恐ろしさを耳で聞き、無数の死体や廃墟といった爪痕を目にし、圧倒的な霊力の余波を肌で感じているはずだ。それで戦姫の力について疑問に思うのなら、まずは己の脳の不在を疑った方がいい。
「……何を抜かしとるんや? ウチらは、ほんまに……」
「信じられねぇバカだな。どうやって生きてきたのか、マジで疑問だぜ。テメェら雑魚どもは、相手の力量もわかんねぇのか?」
当然、名誉を穢された戦姫側から異議が申し立てられた。
「おやおやぁ? その雑魚にとっ捕まって、イカされまくってる本物の雑魚がなんか言ってるっスよぉ」
狸少女は意地悪く笑い、壁の向こうの主張を遮る。
捕まったことに関しては事実だけに、桜姫と火翠が猛犬のように唸った。
「旦那さんがた、よく考えてみてくださいっス。無数の妖怪を個人で滅ぼす人間なんて、そんなの居るわけないじゃないっスかぁ。戦姫は兵隊さんたちのヤル気を出すためだけの存在なんスよ。じゃなきゃ、こんなフリフリの衣装なんか着ないっスよ」
ついでとばかりに、正義の誇りである退魔スーツが馬鹿にされる。
「だから、怖い噂は人間の卑劣な作戦なんス! じょーほー戦! 心理戦! プロパガンダってやつっス!」
たしかに、戦場に美少女が登場すれば士気も上がろう。
ただし、それは圧倒的な実力に裏打ちされたもので、見た目や年齢は関係ない。機構と退魔忍は、人類の生存圏を賭けて妖怪と戦っており、お遊びをしているわけではないのだ。狸少女の説明は見当違いもいいところである。
「まぁ、そう……なのか? うん……そうかも、な」
筋肉質の女妖魔は自信なさげに呟きつつ、掴んでいた着物の襟を手放す。
「だ、だよねー! こんなクソガキが強いだなんて、ヘンな話だと思ってたしー!」
彼女に賛同する同族の顔立ちは、どちらがクソガキかわからないほど幼かった。
残念ながら、人間の店にも妖怪の店にも、馬鹿につける薬は売っていない。彼ら彼女らが弱者の域を抜け出せないのは、戦闘能力の話以前に、物を知らないところにある。プロパガンダとプロパンガスの違いもわからないような奴らだ。
「この辺りは機構や他の強い妖怪が幅を利かせてるから、お客さんたちも溜まってるんじゃないんっスか? 機構の広告塔にもなれない役立たずの戦姫を使って、日頃の鬱憤と金玉の中身をぶっこ抜きやしょう? ね? ね?」
両手を組み合わせた狸少女が、あざとく上目遣いをするも、客の顔は渋いままだった。
信頼を失った店は、客足が遠のくもの。どこの世界でも同じだ。
「うーん、そうっスよね。騙しちゃったのは事実っスもんね。よぉし! これでも、あっしは一流の商売人。客を泣かせて、そのままってのは頂けねぇ。あっしも涙を呑んで勉強させて頂くっスよ。お代は、えー……」
狸少女が着物からそろばんを取り出し、珠を弾き出す。それが終わって「こんなモンでどうでしょう?」と提示したのは、人間の昼食代程度の価格だった。
人類の守護者となる戦姫の価値が、おにぎりやサンドイッチと同等とは、とんでもない侮辱である。
しかし商品の価値を決めるのは、売り手であり、商品自身ではない。商人がワンコインだといえば、戦姫の雌穴とケツ穴の価値はその通りになるのだ。
「それと、今日は最後に楽しい催しがあるっス。ちょいと、お耳を拝借……」
狸少女はそう言って客を手招きし、戦姫たちに聞こえない声で何事か囁く。
それは、いかなる内容だったのか。
説明を受けた妖怪たちは揃って笑みを浮かべ、財布の紐を緩めるのだった。
*
退魔忍の穴が妖怪の精を受け入れた回数が、200を超えた頃。
「ぐっ……お゙ぉ……! お゙っ……お゙っ……お゙ぉぉぉ……」
「はひーっ……はひーっ……ゔぅっ……! ゔっ……ゔっ……」
さしもの桜姫と火翠も疲労困憊であった。
胸のところまで項垂れ、顎先から汗と涎を混ぜたものを垂らすがままにしている。涙や鼻水も混じっているかもしれない。己の体液でドロドロになった地面を映す瞳は、霞みがかっていた。
退魔忍の魂ともいえる衣装も滅茶苦茶だ。長手袋は汗を吸ってシワシワになり、ブーツは少し揺れるだけでチャプチャプと音がする。ぬりかべに食われて確認できないが、きっと上着とインナーは水分を1滴だって吸えない状態になっているのだろう。

傍から見れば藻掻く力も無さそうだ。それでは抵抗を諦めたのか。
否。
不意に桜姫と火翠は顔を上げ、挑戦的な笑みを送り合った。
ついに〝準備〟が整ったのである。
退魔忍が操る霊術の発動には、霊力が必要であり、その源は子宮だ。ゆえに絶頂を迎えると、その大きさによって、いくらかの霊力が体外へ放出されてしまう。霊力は、休息もしくは丸薬によって回復するが、この状況では望むべくもない。おまけに、この周辺には霊術の発動を阻害する結界が張られていた。
となると、成す術なしと思うだろう。
実際、壁尻を堪能する妖怪たちはそう信じていた。
ここで重要なのは、「霊力は時間の経過によっても僅かに回復する」という点である。
オークショニアとの戦闘後に意識を取り戻した桜姫と火翠は、自分たちが置かれた状況を理解すると、すぐさま回復に専念した。霊力の操作に長けた退魔忍は、一定量の霊力を保護しつつ身体に蓄えることができる。
この瞬間、一発逆転を引き起こす力が溜まった。
ぬりかべや結界だけでなく、他の妖怪も残らず粉砕するほど強力な霊術の発動条件が揃ったのだ。
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