この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。登場人物は、法律により成人と定められた年齢に達しています。
加害者の醜悪さを強調するため、作品内で暴力的、犯罪的行為が描かれますが、本作品には、これらの醜悪な行為を助長又は賛美する意図は断じてありません。作者は現実世界におけるあらゆる暴力・犯罪に反対します。

###柏原

　柏原は病院のベッドに腰かけて、窓の外の景色を眺めていた。
「柏原君、調子はどうだい？」
　宮本医師が柏原に声を掛けた。
「あ、先生。お陰様で随分良くなりました。もう退院しても大丈夫です」
「馬鹿言っちゃいけない。君は、まだ軍に籍があるんだ。退院したら、また、どこかに配属されることになる。徴兵期間が終わるまで、ここで、ゆっくりしたまえ」
　宮本医師は柏原の肩を手で叩いた。柏原二等兵――これほど美しい男は他に見たことがない。非の打ち所がないほど整った目鼻立ち。その凛々しさの中に、どこか中性的な色気を感じさせる。若者らしい筋肉を纏った肉体と白く滑らかな肌。彼の全身から立ち上るフェロモンは人を惑わせる。宮本医師に男色趣味はなかったが、もし、この柏原に「誘われ」たなら、抗うことはできないだろう。
　しかし、彼にとって、この美貌は呪いだった。彼は、ある孤島の部隊に配属され、そこで、三十余名の隊員たちに、毎日、レイプされていたのである。


　毒島――某大国は、この南海に浮かぶ離島の領有権を主張し続けている。その大国が、突如、この毒島周辺で頻繁に領海侵犯を行うようになった。
　軍本部は、毒島駐屯地に注目し、ある違和感を覚えた。毒島から送られてくる日報は、毎日同じような内容のコピーであり、まともに任務を遂行している気配がない。外部からは見えない閉鎖空間では秩序が崩壊することが多い。軍紀が乱れているのではないか？　そこで、監察部が有能な監察官を内部スパイとして毒島駐屯地に送り込み、実態を調べさせたのである。
　監察官からの報告は恐るべきものであった。毒島駐屯地では、全隊員が、一人の兵卒――つまり柏原二等兵を性玩具のように扱い、その快楽に溺れているという報告である。
　その報告を受けた監察部が毒島駐屯地に監察部隊を送り込み、実態を詳細に解明した――。
　柏原二等兵が初めて凌辱されたのは、配属から半年ほど経った頃だった。先輩兵卒たちが柏原をロープで縛り、動けない柏原を犯したのである。
　一等兵たちは連日、柏原の肉体を楽しむようになった。隊長を含む上官たちがその事実に気付き始めていたころ、毒島にある噂が流れた。柏原二等兵は、無類の男好きであり、自ら進んで隊員たちに尻を貸しているのだと……。女っ気のない離島の駐屯地である。そして、男をも惑わすほどのこの柏原の美貌である。上官たちは、その噂を利用して、自分たちも柏原を犯すようになった。
　こうして、柏原の肉体を性処理道具とする隊員は次第に増え、やがて、柏原一人が、全隊員の性欲を受け止める器となったのである。

　宮本医師もその報告書を読んでいる。毒島駐屯地で押収された幾つかの証拠資料にも目を通している。それは、筆舌に尽くしがたい、おぞましい資料であった。特に宮本医師が驚愕したのは、毒島で「マニュアル」と呼ばれていたある文書である。以下は、その抜粋である。

【原則】
・柏原二等兵は他の全ての隊員（以下、単に隊員）の性処理係として任務を全うすること。
・柏原二等兵は隊員の命令に絶対服従すること。
【命令】
・隊員による「ヌゲ」の命令により、柏原二等兵は速やかに全裸になり、直立で敬礼すること。
・隊員による「シリ」の命令により、柏原二等兵は速やかに隊員に尻を差し出すこと。
・隊員による「クチ」の命令により、柏原二等兵は速やかに隊員の男根を口に咥え、奉仕を開始すること。
・隊員による「清掃」の命令により、柏原二等兵は隊員の陰茎に付着する体液を舌で舐め取り、清掃すること。
【命令細則】
・隊員が掌を下に向けて「シリ」と命じた場合、柏原二等兵は四つ這いになって尻を高く上げ、挿入を待つこと。
・隊員が掌を上に向けて「シリ」と命じた場合、柏原二等兵は床に背中をつけ、両膝を抱えて股を開き、挿入を待つこと。
・隊員が壁を指さして「シリ」と命じた場合、柏原二等兵は壁に手を突き、股を開いて尻を突き出して挿入を待つこと。
・柏原二等兵は全ての命令に対し「ハイ」と即座に返答すること。
・柏原二等兵は口内に受け取った隊員の体液を必ず飲み下すこと。
・柏原二等兵は肉体に射精を受け取った際、必ず「ありがとうございます」と礼を述べること。
【罰則】
・柏原二等兵が上記ルールに従わない場合、隊員は柏原二等兵を罰することができる。
・隊員が柏原二等兵に与える罰は、隊員の裁量に任せるものとする。

　以上はあくまで抜粋である。「マニュアル」の本体は数十ページにも及ぶ。そこには柏原が行うべき「動作」が事細かに定められている。フェラチオの際、柏原が奉仕すべき「箇所」の指定。柏原の舌や唇の動かし方。あらゆる体位。柏原が尻に男根を咥え込んでいる際の腰の動かし方。柏原の視線。柏原の「鳴き方」……。隊員たちの好みや希望に合わせて、柏原は徹底的に調教されていたことがわかる。
　柏原が即座に従うべき命令の数は百を超えている。「土下座」「正座」「膝立ち」「足舐め」「腋舐め」「尻舐め」「玉舐め」「竿舐め」「亀頭舐め」「視線」「後ろ手」「椅子」「自慰」「口開け」「尻拡げ」「シックスナイン」「ケツ振り」「喘ぎ」「感謝」「敬礼」「犬歩き」……。
　これほど子細なマニュアルが最初から用意されたとは思われない。隊員たちがアイデアを出し合い、項目を次々と書き加えていったのだろう。それだけでも、毒島駐屯地の異常性がよくわかる。
　柏原にとって、このマニュアルは絶対的な指示書である。隊員たちにとっては、このマニュアルは、「操作ガイド」のようなものだ。柏原を呼び出し、簡単な仕草と手短な命令で、柏原の美しい肉体を意のままにコントロールできるのだ。面倒な駆け引きも前戯も不要である。隊員たちはさぞ「愉快」だったろう。
　これは、完全なデヒューマナイズ（非人間化）である。一年近くにわたり、人格を否定され、器具のように扱われ続けた柏原の精神が崩壊しなかったことは奇跡としか思えない。宮本医師は柏原の肉体に残る傷を治療しながら、柏原の精神力の強さに感服した。

　事態の全容を把握した監察部隊は、速やかに柏原を保護し、この軍病院に搬送した。
　毒島駐屯地で行われていた行為は、許し難い犯罪である。柏原以外の全ての隊員は、厳重な処罰を受けるべきだ――しかし、現実はそうはいかなかった。国防軍は完全に腐敗している。この軍病院は、負傷した兵卒を受け入れている。その中には、性的暴行を受けた形跡がある者も多い。しかし軍は、批判を恐れ、事実を隠蔽するのだ。
　宮本医師が知る限り、柏原が受けた被害はこれまでで最悪のケースだった。流石に今回は厳しい処分が下されるだろう。宮本医師はそう考えた。しかし、処分はあまりにも甘かった。柏原を連日犯していた兵卒たちは、配置転換と共に、数ヶ月の減給を言い渡されただけである。処分の理由は、「イジメとセクハラ」である。彼らは、毎日のように柏原を呼び出し、例の「マニュアル」に従って非人間的な命令を柏原に下し、柏原をレイプしていたのだ。旧便所に柏原を全裸で拘束し、全員で柏原の尻と口を犯したことも一度や二度ではない。「イジメとセクハラ」などという言葉で片づけられるような事件ではないはずである。
　上官たちの処分も甘かった。一部の幹部は事実上の降格になったが、彼らは転属先でのうのうと暮らしている。処分の理由は、「監督不行き届き」である。監督不行き届きとは何事か。彼らもまた柏原を凌辱した当事者のはずである。
　宮本医師は、軍の上層部に抗議した。そのような甘い処分では、今後も同様の事件が繰り返されるだろうと。しかし、上層部は宮本医師の抗議を握りつぶした。宮本医師は無力感に苛まれながらも、まずは柏原の治療に専念することを決意した。最高の医療で柏原の傷ついた肉体を治癒させること。今の宮本医師にできるのはそれだけである。宮本医師は、柏原の兵役期間が満了するまで、柏原をこの軍病院に入院させるつもりだ。柏原が退院し、いずれかの部隊に再配属されれば、また、辛い経験をするかもしれない。何しろ、これほどの美貌である。柏原を男ばかりの組織に戻すのは、獣の檻に肉を放り込むようなものだ……。

　柏原はあれほどの目に遭いながら、隊員たちへの恨み言を口にすることはなかった。自らを苦しめた他の兵卒や上官たちの処分が軽かったことを知っても、憤る様子もなかった。彼は明日を見ているのだろう。復讐心に囚われるより、前向きに生きようと決意しているのだろう。
　柏原は、毒島駐屯地に配属される前、ある俳優養成所のメンバーだった。既にいくつかのオーディションを通過し、デビュー目前だったらしい。確かに、彼ほどの凛々しい美貌と、人を惹きつける明るいオーラがあれば、たちまち国民的な人気者になっていたかもしれない。
　柏原は除隊後にアクション俳優になる夢を諦めていないようだ。柏原はリハビリ施設で積極的に筋トレやストレッチを行っている。
「リハビリ室はジムじゃないんだから、あまり張り切らないでくれよ。君を入院させておく言い訳が立たなくなるじゃないか」と宮本医師が冗談交じりに柏原を諫めたこともあったほどである。
　柏原は宮本医師に対して屈託のない笑顔を向ける。その眩しい程の笑顔を見れば、この青年が長期にわたる集団レイプに苦しんでいたなどと誰も思わないだろう。なんという精神力だろうか。あれほどの目に遭いながら、トラウマを引きずらず前を向いて生きようとしているこの若者の心の強さに、宮本医師は何度も感服した。
###ケント

　柏原が入院している軍病院に、急患が搬送されてきた。宮本医師は、その患者の容姿を一目見て、「またか」と思った。端麗な眉に愁いを帯びた大きな瞳。小高く形よい鼻と潤いある唇。そして透き通るような肌。まるで天使のような美しさである。彼を一言で言うなら、美青年というより美少年と呼んだ方が的確だろう。彼の名はケントである。
　軍病院に急患として搬送された美しい兵士。彼もまた、柏原同様に性的な虐待を受けてきたのだろう。宮本医師の直感は当たっていた。しかし、ケントの症状は宮本医師の予想を遥かに超えていた。体中に生々しい線状の火傷の跡がある。高温に熱せられた金属で皮膚を焼かれたのであろう。ケントの手足や胸には、縄できつく縛られた跡がある。身動きが取れない状態で、その拷問を受け続けたのだろう。酷いことをしやがる……。
　宮本医師は、失神しているケントの体を調べながら、思わず「うっ」と声を上げた。肛門付近の皮膚が焼け爛れているのである。一目見ただけで、第二度深達性から第三度の熱傷だとわかる。おそらく、高温に熱せられた金属棒を肛門に突っ込まれたのだろう。想像を絶する苦痛によって彼が意識を失うのも無理はない。これは、命に関わる重傷である。現地にも軍医はいたであろうが、治療設備が整ったこの軍病院に彼を搬送したのは賢明な判断である。現地の保健室で手当てをした程度では、彼は数日中に命を落としていたであろう。
　宮本医師は緊急手術を開始した。直腸の壁は大きく破れているものの、排泄をコントロールする内肛門括約筋の最深部と、そこにつながる主要な神経回路だけが奇跡的に熱傷を免れていた。腸の縫合と、長期間の絶食、点滴治療を行えば、ギリギリ自然治癒へと向かわせることも可能だろう。
　ケントは手術後、意識不明のまま集中治療室に送られた。
　ケントが集中治療室で生死の境を彷徨っている間、宮本医師は監察部に連絡を入れた。ケントが所属していた訓練所を大至急調査しろとの指示である。宮本医師の医学部時代の同期が監察部で要職に就いている。監察部は、速やかにその訓練所の調査に乗り出した。

　ケントは搬送から七十二時間後にようやく意識を取り戻した。人工呼吸器が外され、ケントはようやく自力で呼吸ができるようになった。人工呼吸器で声帯が傷ついているため、ケントは、まともに声を出すことはできない。それでも、宮本医師が容態を確認するためにケントの顔を覗き込むと、ケントは怯えるように瞳孔を開き、掠れた声で「おゆるしください」と言った。宮本医師は「もう大丈夫だよ」と、ケントの手を優しく握った。
　二週間の絶食期間。点滴からの栄養補給。水さえ飲めないケントは強烈な渇きに苦しみ続けた。医師が腸の縫合を確認すると、ケントはようやく僅かな水を口にすることを許された。
　流動食の補給が始まると、ケントは便通の苦痛に苦しむようになった。傷口が内側からメリメリと裂けるような鋭い激痛、傷口に塩を塗るような灼熱感。そんな気が遠くなるような痛みを、ケントは毎日味わうのである。
　一体、彼が何をしたというんだ……。ただ美しいという理由で性処理の道具にされ、残忍な虐待を受け、ようやく解放された後も、こうやって毎日苦しまなくてはならない。彼をこんな地獄に突き落とした連中は、今、何を考えて生きているのだろうか？　
　気丈な柏原とは対照的に、ケントは精神的なダメージも深刻だった。この病院が安全な場所だと理解した後も、ケントは多くを語らず、ただ「助けてください」と言って涙を流すばかりだった。一体、彼はどんな経験をしたのだろうか……。ケントの精神的ケアの必要性を感じた宮本医師は、監察部に調査結果の報告を催促した。

　宮本医師の元に届いた調査結果の第一報は信じ難いものだった。

　ケントが所属する陸軍管轄の訓練所の所長は、ケントが配属される以前からケントに関する資料を入手していた。ケントの高校時代の教師が、ケントの美貌に目を付け、その情報を訓練所所長に流したのである。ケントを気に入った所長は、本部の人事課に手を回し――まるで気に入った風俗嬢を指名するように――ケントを徴兵したのである。
　大学に入学したばかりのケントは、令状を握りしめて訓練所を訪れる。そして、配属の当日から、性処理係として働かされたのである。資料によれば、柏原の性奴隷化は段階的だった。一方、ケントは、配属の初日から、その残酷なシステムに組み込まれたのである。夢と希望に溢れる大学新一年生が、そこで味わった絶望はどれほどの重さだろうか……。
　そんなケントは、同期の訓練兵らから執拗に虐められた。ケントの任務を知った同期訓練兵らは、寄宿舎でケントを取り囲み、ケントを徹底的に侮辱して嘲笑ったのだ。
　訓練兵らは、教官と結託してケントを虐めた。ケントは運動場で服を脱がされ、大勢の男に視姦され、全裸のままで一日を過ごしたこともある。
　上官らはケントの落ち度をでっち上げ、懲罰室でケントに何度も折檻を加えた。そして、許しを求めて泣き叫ぶケントを何度も犯したのである。
　所長は訓練所にゲストを招き、ケントに「接待」までさせた。政府高官、政治家、友軍の関係者など、様々な権力者にケントの肉体を提供したわけである。
　やがて最下層の兵卒たちもケントを犯すことを許可され、彼らはケントを執拗に虐めながら、ケントを犯すようになったのである。
　訓練所の職員らは調査の当初、証言を拒んだが、大量の動かぬ証拠があった。彼らは――実に忌まわしいことであるが――ケントを凌辱し、虐待しながら、その一部始終を映像に収めていたのである。その映像は幹部らに共有され、幹部らはその映像を娯楽として楽しんだ。ケントは、徹底的に性搾取され、消費され続けたのである。
　宮本医師は幾つかの証拠映像を確認しながら吐き気を覚えた。映像の中でケントは羞恥に顔を赤らめ、涙を流し、あるいは苦痛に悶えている。そして、そんなケントを取り囲む男たちは、一様に薄気味悪い笑顔を浮かべて、苦しむケントを眺めているのである。ケントの絶叫と、男たちの笑い声。その異常なコントラストが全てを物語っている。その期間、約二年。ケントが生きていることが奇跡のように思われた。

　宮本医師は、ケントの精神的ケアに悩んだ。ケントが受けた苦痛は医師の理解を超えている。どれほど想像力を働かせても、その苦しみは、やはり、同じ苦しみを味わった者でなくては理解できないだろう。痛みの共有と共感。孤独だったケントを救うにはそれ以外にない。
　そこで宮本医師は、ケントを柏原に引き合わせることにした。同じ苦しみを味わいながら、トラウマと決別し、前を向いて生きようとしている柏原。彼の強靭な精神力がケントを絶望の淵から救い上げるかもしれない……。

　柏原は二人用の病室を一人で使用している。空きベッドが一つあるわけだ。一人きりの入院生活に退屈を感じていた柏原は、隣のベッドに患者が来ると聞き、話し相手ができると無邪気に喜んだ。
　歩行器と看護師に支えられながら病室に入ってきたケントを一目見て、柏原は戦慄に近い衝撃を感じた。俳優養成所には数多くの美男美女がいたが、ケントほどの美貌の持ち主を柏原は知らなかった。極度に衰弱し、疲れている様子であるが、それでもなお、ケントは神々しいほどに美しかった。そして、柏原は、ケントがこの病院にいる理由を一瞬で理解した。彼もまた、国防軍のどこかの組織で、性搾取の餌食となり、傷ついてここに送られてきたのだろう……。
　ケントもまた、柏原と目を合わせた瞬間、柏原が自分と同じ性的虐待の被害者であることを直感した。中性的でありながら凛々しく整った柏原の美貌。彼のような美青年が男社会の中でどのように扱われるか。ケントは身をもって知っている。
　ケントは歩行器を手でつかみながら、ベッドにゆっくりと腰を下ろした。ケントの尻がベッドに載った瞬間、ケントは「うっ」と声を出し、苦痛に表情を歪ませる。ケントの尻が酷く傷ついていることは明らかだ。そして、その理由もまた、想像に難くなかった。
　柏原とケントは軽い自己紹介を交わした。柏原は海軍所属。ケントは陸軍所属である。海軍と陸軍では階級の呼称に違いがある。海軍における二等兵は、陸軍における訓練兵と実質的に同等である。柏原は学年で言えばケントの一つ上である。
「よろしくね」
　柏原はケントのベッドに進み、ケントに握手を求めた。柏原が握ったケントの手は小刻みに震えていた。柏原は思わずケントの右手を両手で包み込み、ケントをいたわるように「辛かったな」と声を掛けた。愁いを帯びたケントの大きな瞳から、ボロボロと涙が零れ落ちた。
　宮本医師はその光景を見て確信した――やはり、ケントを救えるのは柏原しかいないと。

　柏原とケントの対面の後、宮本医師は診察室に柏原を呼び出した。宮本医師は、自らの計画――ケントの傷ついた心を柏原が癒すという計画を柏原に伝えたのである。
　宮本医師は、ケントが陸軍訓練所でどのような扱いを受けてきたかを柏原に説明した。ケントが配属初日から職員たちの性処理係として働かされ、ゲストの相手まで強要されていたこと。同期の訓練兵が執拗にケントを虐めたこと。訓練所ぐるみでケントを虐待し続け、そんな日々が二年近くも続いていたこと……。
「に……二年ですか……」
　柏原の瞳孔が開いた。柏原は宮本医師を心配させないために明るく振る舞っているが、今もまだそのトラウマを抱えている。大勢の男たちに凌辱される苦しみは柏原自身が身をもって知っている。あの毒島駐屯地で柏原の精神は何度も壊れかけた。柏原にとっては、地獄のような一年だった。あの生活が、さらにもう一年続いていたら、柏原も正気を保っていられなかったろう。あの天使のようなケントは、二年耐え抜いたのだ。柏原は、ケントの美貌を思い浮かべ、畏敬の念すら感じた。
「柏原君にとっても、辛い役割になるだろうが……ケント君の心の傷を癒すことができるのは、柏原君しかいないと、私は考えているのだが……」
「はい。できる限り先生に協力します。ケント君のためにも」
「ありがとう。ケント君がどんな酷い扱いを受けてきたか……君にも知ってもらう必要がある。もし、辛くなったらすぐにやめろと言ってくれ」
　宮本医師はそう言って、ケント虐待の証拠映像の幾つかを柏原に見せた。
　全裸で両手を縛られ天井から吊るされているケント。何人かの兵卒がケントを取り囲み、執拗にケントの体を鞭打っている。ケントは「わかりません！　おゆるしください！」と泣き叫んでいる。その周りを取り囲むようにパイプ椅子が並べられ、多くの兵士がケントの姿を眺めながら罵声を飛ばしたり、笑ったりしている。ケントへの拷問が娯楽として消費されていることは明らかだった。
　次の映像では、ケントは、五名の坊主頭の兵卒たちに輪姦されていた。仰向けに寝かされたケントの左右の脚を二人の男が強引に開く。露わになったケントの尻をもう一人の男が犯す。別の男は、ケントの胸に尻を下ろし、ケントの後頭部を押さえながらケントの口を犯す。男たちは執拗にケントを犯しながら、聞くに堪えない言葉でケントを罵倒し、ケントの顔面に唾を吐きつけてケントを侮辱する。
　柏原はその映像を見ながら毒島での日々を思い出した。興奮する男たちの目の奥の不気味な輝き。幾つもの勃起した陰茎に取り囲まれる恐怖。乱暴に尻を犯される痛み。口の中に不潔な陰茎を突っ込まれる苦しさ。男たちの性欲の捌け口として徹底的に消費される肉体……。
「これは……許されないことです」
　柏原の瞳には怒りの色が浮かんでいる。宮本医師は、柏原が憤慨する表情を初めて見た。かつて、柏原は毒島の隊員たちに復讐などは望まないと言った。それは、自分自身が被害者だったからだろう。しかし、柏原は、ケントを犯す男たちに激しい憎悪の感情を抱いている。自分のためではなく、他人のために。いかにも柏原らしいと宮本医師は思った。
　更に映像が切り換わる。共用便所の映像である。床に茶色い大便が横たわっている。ケントはその大便に顔面を向けて土下座をするような姿勢を強要されている。男たちがケントの手を後ろに捻り、背中を踏みつけている。「舐めろ！」「食え！」という罵声が飛ぶ。頭を下に押されたケントは、その大便にぼたぼたと涙を落としながら口を開き、大便の中に舌を差し込む。その瞬間、ケントは目を見開き、体を震わせながら嘔吐した。
「うっ」
　その映像に柏原も思わず手で口を覆った。蒼ざめた柏原の顔面を見て、宮本医師は慌てて映像を止めた。
「すまん……柏原君。不快なものを見せてしまった……。しかし、彼――ケント君が、これまでどんな目に遭ってきたか、君にも理解して貰う必要がある」
「……はい」
　柏原が見たのは僅かな映像だけである。しかし、それらの映像は、ケントが二年間味わった途轍もない苦痛を雄弁に物語っている。
「ケント君の精神は今、暗く深い闇を彷徨っている。これほどの虐待を受け続けてきたのだ。私には、彼の苦痛を想像はできても理解はできない。私が彼の痛みに共感して見せても、それは嘘になるだろう。彼を救えるのは君しかいない。重い仕事になるかもしれんが、是非、協力してほしい」
「はい。もちろんです」
　柏原は宮本医師に全幅の信頼を置いている。毒島から助け出された柏原の気力と体力がここまで回復したのは、この宮本医師の献身的な治療のおかげだ。宮本医師に協力し、自分と同様に――いや、それ以上に――傷ついた同志を助けられるなら、柏原にとってそれ以上の喜びはない。
　こうして、柏原はケントの精神的なケアを任された。


　二人は、毎日、長い時間を共に過ごした。
　柏原はケントに自らの体験を話した。毒島駐屯地で先輩たちにレイプされ、上官たちの慰み者として働かされたことを打ち明けた。
　ケントにとって、柏原の体験談は、トラウマのトリガーにもなった。しかし、それ以上に、ケントにとっては自分の痛みを理解してくれる相手がいるという安心感が大きかった。訓練所の虐待の中で、ケントが最も苦しんだのは、同期たちからの嘲笑である。上官やゲストたちに犯され、深く傷ついて寄宿舎に戻るケント。他の訓練兵たちは、そんなケントを取り囲み、実に楽しげにケントを侮辱したのである。自分の痛みや苦しみが誰にも理解されず、娯楽として消費されることほど辛いことはない。体を震わせて涙を流すケントの顔を覗き込む悪魔のような笑顔。ケントは心が凍り付く思いだった。
　しかし、柏原は違う。柏原はケントと同じ苦しみを知っている。ケントが心から求めているのは理解と共感だった。ケントの苦しい体験を聞き、その思いを共有してくれる相手を、ケントはずっと求めていたのだ。
　柏原の告白に続いて、ケントも少しずつ、訓練所での体験を柏原に話すようになった。
　訓練兵の腕時計がなくなったと騒ぎが起きる。ケントは窃盗の濡れ衣を着せられ、公開尋問という名の拷問にかけられる。ケントが罪を認めるまで拷問は終わらない。ケントは、全く身に覚えのない罪を自白させられる。すると、その時計はどこにある、と再び拷問が始まる。ケントが知るはずはない。結局、地獄のような拷問は、ケントが完全に失神するまで続けられた。
　なんという陰湿な虐待だろう。柏原はケントの話を聞いて胸が苦しくなる。無実の罪で大勢から泥棒と呼ばれ、執拗に責め苛まれる。その悔しさはどれほどだろうか。答えようのない問いを与えられ、次第に拷問の強度を高められる。その絶望はどれほどだろうか……。
　ケントは当時の苦痛を思い出し、ボロボロと涙を流しながら震え出す。柏原は、ベッドに腰かけるケントの隣に移り、ケントの肩を抱きしめる。「辛かったな。よく耐えたな。ケントが泥棒なんてするはずがない。ケントは何も悪くないよ」と柏原は泣きじゃくるケントの背中を優しく摩る。
　ケントは、こんな話もした。教官がケントに便所掃除を言い渡す。雑巾一つでケントが便所の床や便器を磨いている横で、訓練兵たちは、わざと便器の外に糞尿を垂れて床を汚す。やがて教官が現れ、便所の掃除ができていないとケントを叱る。そして、ケントは、忌まわしい汚物を舌で舐め取れと命じられる……。
　この下劣な虐めには残酷な続きがあった。便所掃除ができなかった罰として、ケントは、運動場で裸にされ、後ろ手に縛られ、炎天下のグラウンドに置かれたドラム缶に閉じ込められ、放置された。真っ暗な灼熱地獄の中で、ケントは強烈な渇きに苦しめられた……。

　ケント虐めの中心人物は蛇田という男だ。ケントと同期の訓練兵として入隊したが、彼は二年目に指導官となった。蛇田は軍の主流派を牛耳る蛇田大佐の甥なのだ。蛇田大佐と言えば、国防軍の誰もが恐れる圧倒的な実力者だ。蛇田は、そんな叔父の威光によって訓練所を支配しながら、ケントを虐め続けたのである。
　蛇田大佐が訓練所を訪れた日、ケントは大佐に訓練所の過酷な実情を直訴し、助けを求めた。大佐はケントを助けるどころか、ケントを懲罰室に連行した。全裸にされ、股を開いて天井から吊るされたケント。大佐は、「教育棒」と呼ばれる電熱棒でケントの体のあちこちにヤキを入れながら、ケントの尻を犯した。そして、大佐が去った後、蛇田が懲罰室に現れ、吊るされたままのケントを犯したのである。蛇田はケントの口内に射精し、ケントに精液を飲ませた。ケントがその精液に「感謝」しなかった――ただそれだけの理由で、蛇田は高温に熱せられた教育棒をケントの尻に差し込んだのである。ケントにその後の記憶はない。ケントが意識を取り戻したのは、この病院の集中治療室である。

　ケントが語る体験はどれも強烈だった。この天使のような美少年が、なぜ、そんな目に遭わなければいけなかったのか。ケントの話を聞けば聞くほど、ケントを救いたい、守りたいという強い感情が柏原の胸の内に湧き上がる。
　夜、ケントは何度か悪夢にうなされる。柏原はケントの異変に気付くと静かにケントのベッドに近寄り、汗でぐっしょり濡れたケントの背中を優しく摩る。目を覚ましたケントが上体を起こす。柏原は「もう、大丈夫だよ」とケントの肩を抱き寄せる。ケントは震えながら柏原に抱きつき、柏原の胸に顔を埋め「ごめんなさい」と言って泣く。
　ケントは柏原を頼もしい兄のように感じていた。自分と同じように、毒島で苛酷な日々を過ごしながら、今は前向きに生きようとしている柏原。自分もこの柏原さんのように強くなりたい。ケントはいつしかそう思うようになった。
　清潔な病室。優しい宮本医師。頼もしい柏原。この安心できる環境の中で、ケントは少しずつ、自分を取り戻していった。ケントの食欲も徐々に回復し、食事を美味しいと感じられるようになった。
　もちろん、直腸と肛門の火傷は完全には癒えていない。病室のトイレに入ったケントは、数十分も出てこない。トイレの中でケントは、痛みのあまり声を上げてしまうことがある。柏原はその声を聞くたび、ケントを傷つけた連中に怒りを感じた。
　ケントにとって、肛門周りの治療と診察は苦痛だった。宮本医師を尊敬するほど、宮本医師に生尻を向けることにためらいを感じる。宮本医師にとってそれが仕事であることはケントもわかっている。それでも、ケントは、どうしても訓練所の日々を思い出してしまう。多くの男たちに尻を覗きこまれる恐怖と屈辱が胸の内に蘇るのである。
　宮本医師もその診察がケントにとって大きな負担であることを理解していた。宮本医師は、看護師たちを病室から出し、ケントと二人きりで診察を行う。ケントの尻以外の部分を布で隠し、決してケントの表情などは見ないように配慮した。
　医療用グローブをはめた手の指先に軟膏を塗りケントの肛門の中に指を入れる。その刺激で、ケントの尻がギュッと締まる。ここに多くの男たちが……。宮本医師は――けしからぬことだと思いながらも――どうしても想像してしまう。この美しい若者の白い尻。たとえ男同士であっても、ここに自らの欲情を植え付けたいという衝動にかられるのは、無理からぬことだ……。否、宮本医師はそんなおぞましい考えを抱いた自分を恥じた。

###絶望の足音
###犠牲
###代車
###調教マニュアル
###味見大会
###調教の成果
###感謝祭
###四つの穴
###誕生日

続きは本編で
