﻿氷の主治医は運命を診断しない
〜運命じゃないなら、この熱はなに〜

齋藤あいり

※これは体験版です。本編の冒頭のみを収録しています。

・本作品には成人向けの性的表現が含まれます。18歳未満の方の閲覧はできません。
・無断転載・無断複製を禁じます。


＃１　八十五回目

「触れます。よろしいですね」

　返事を待つ形をして、返事を待っていない声。
　わたしが頷くより先に、髪が持ち上げられ、指はもう、うなじにある。

　ラテックスの手袋。その薄さ一枚ぶんだけ遠い体温。
　親指の腹が髪の生え際を押さえ、もう一方の指が、番の腺の輪郭を右、左、と順番に辿る。触れ方は正確で、一度も迷わない。迷わないからこそ、どこに触れられているのかが、かえって鮮明になる。

　八十五回目だ。
　月に一度、年に十二回、七年。この診察室で、この指に触れられるのは、今日で八十五回目になる。
　数えるのを、やめられない。

「腫れは引いています。周期は」
「……二十八日と、四十一日でした」
「相変わらずですね」

　カルテにペンが走る。

　わたしのヒートは、周期が読めない。
　二十八日で来ることもあれば、四十日黙っていることもある。教科書に載らない体質だと、七年前に言われた。抑制剤の量も、市販の周期アプリも、わたしには当てにならない。
　だから月に一度、ここへ来る。数値を測って、処方を調整して、腺の状態を診てもらう。

　来られるのは、正直、都合がよかった。

　――何にとって、とは考えない。

　　　◇

　如月医院の待合室を、わたしは目を閉じても歩ける。

　長椅子は三つ。観葉植物はひとつ。受付の看護師さんは七年前から同じ人で、わたしを呼ぶとき、フルネームを使わない。「春野さん、どうぞ」の言い方が、毎回すこしだけ柔らかい。
　待合室で、患者同士の噂話を聞いたことがある。
「先生、笑わないわよねえ」
「でも夜中に電話したら、出てくれたのよ。あの先生」
「わかる。だからやめられないのよ、ここ」
　みんな、長い。この医院の患者は、みんな通院歴が長い。
　氷の主治医のくせに、誰も、溶けて逃げていかない。

　　　◇

　春野灯、二十六歳、Ω。
　カルテの一行目には、たぶんそう書いてある。

　七年前の春、大学の階段で、初めてのヒートに襲われた。

　予兆なんて、なかった。
　三限の教室に向かう途中、視界が白く濁って、膝から崩れた。三段落ちた。躰の芯が勝手に熱を持って、自分の匂いが自分で分かって、通りかかった男子学生の目の色が変わるのが見えて――そこから先は、覚えていない。

　目が覚めたら、白い天井だった。
　腕に点滴。うなじに保護パッド。カーテンの向こうに、白衣の背中。

　怖くて、声も出せずにいたわたしに、その人は振り向きもせずに言った。

「もう大丈夫です。数値は全部、私が管理します」

　全部、という言葉を、わたしはたぶん、一生忘れない。
　それが、如月冴だった。

　　　◇

　如月冴、三十四歳。バース専門医。
　患者たちは陰で「氷の主治医」と呼ぶ。笑ったところを、誰も見たことがないからだ。

　顎に、うっすら無精髭。目の下に、夜勤の色。白衣はいつも少し着崩れていて、袖のボタンが片方だけ留まっていない日もある。
　それなのに、指だけは何も疲れていない。

　この人の声は、体温計だ。
　三十六度五分、と読み上げるのと、春野さん、と呼ぶのとで、高さが変わらない。
　七年間、変わったのを聞いたことがない。

「抑制剤は現行のままで続けます。ただ」

　ペンが、止まった。

「先月の数値に揺れがあります。強いストレスの心当たりは」
「…………」
「春野さん」
「――お見合いを、しろって」

　言うつもりは、なかった。
　なかったのに、口が勝手に続けた。

「母が。二十六でしょう、Ωでしょう、って。相手も、もう探してあるみたいで」

　診察室が、静かになった。
　空調の低い音の上に、ペンの音だけが載っている。書いて、止まって、また書いた。

「……先生?」
「聞いています」

　カルテから、顔を上げない。

「婚姻は、バース学的には数値の安定に寄与します。相性の良いαとの生活は、Ωの周期を整える。統計上は」
「統計上は」
「事実です」

　定規で引いた線みたいな声だった。
　線の内側に患者のわたしがいて、外側に医師のこの人がいる。
　七年間、その線が動いたことは一度もない。

「本日の診察は以上です。次回、四週後に」

　手袋が外れる。ゴムが手首を打つ、短い音。
　わたしは毎回、この音で診察の終わりを知る。

　ドアに手をかけたところで、
「春野さん」
　呼び止められた。

　振り向く。白衣の背中は、洗面台を向いたままだった。

「数値の揺れは、放置しないでください。眠れない夜が続くようなら――時間外でも、構いませんから」

　水が流れ始めて、言葉の残りを消した。

　時間外でも。
　その四文字を、鞄の中の診察券と一緒に持って帰る。使ったことは、七年で一度もない。
　使わない権利を持っていることだけで、眠れる夜が、たぶん幾つもあった。

　廊下は、消毒液の匂いがする。
　この匂いを嗅ぐと、息が少しだけ深くなる。七年前からずっとだ。

　理由は、考えないことにしている。


＃２　九七・四

　母からの電話は、週に三度になっていた。

『灯、あんた、いつまで一人でいるつもりなの』
『Ωが二十六よ。分かってるの』
『お母さんはね、あんたが心配なだけなの』

　心配、という言葉を、母は鍵みたいに使う。
　どの扉にも合う鍵。差し込まれたら、こちらは開くしかない。

　その週の土曜、実家に呼ばれた。

　　　◇

　封筒は、仏壇の前に置かれていた。

「開けてみなさいよ。あんたのなんだから」

　母の声が、弾んでいる。
　白い封筒。上等な紙。差出人――一般社団法人バース適合支援機構。

　封を切る。三つ折りの紙。

　――適合検査結果通知書。
　――春野灯様のバース因子適合率が「運命適合」の基準値を超過した対象者が確認されましたので、通知いたします。
　――対象者:篠宮悠様(α)。
　――適合率、九七・四パーセント。

「九十七よ、九十七!」

　母は数字を二度読んだ。仏壇の父の写真に、聞こえよがしに。

「篠宮さんって、あの篠宮製薬の御曹司よ。ね、灯。運命の番よ。検査に出しておいて、本当によかった」

　検査に出した覚えは、わたしにはない。
　二年前の健診の同意書、その小さな文字のどこかに、あったらしい。わたしの唾液か、血の一滴かが、知らないうちに誰かの検体と照合されて、九七・四という数字になって、この居間まで帰ってきた。

「篠宮製薬よ、灯。お父さんが生きてたら、どれだけ喜んだか」

　母は仏壇のほうへ半分だけ声を投げた。
「あんたのその躰でね、お母さん、ずっと心配だったの。周期も読めない、いつ倒れるかわからない。運命の番ができれば、全部落ち着くのよ。お医者さんも、そう言うでしょう」

　言う。
　言うだろう。あの人なら、統計上は、と前置きをつけて。

　母が、釣書を差し出してくる。
　篠宮悠、二十九歳。写真の男は、癖のない黒髪で、癖のない笑い方をしていた。
　顎に髭はない。目の下に、影もない。
　清潔で、正しくて、非の打ちどころのない顔。

「素敵な方でしょう」
「……うん」

　紙の中の「運命」という活字を、指でなぞる。
　インクは、少しも滲まなかった。

　　　◇

　次の診察日。
　手袋がゴムの音を立てたあと、わたしは丸椅子から立たずに、鞄から通知書を出した。

「先生。これ、見てもらえますか」

　如月先生は受け取って、広げた。
　目が、上から下まで一度だけ動く。

「――適合通知ですね」
「当たるものなんですか。九十七パーセントって」
「統計上、適合率九五を超えた番の婚姻継続率は九九パーセントを超えます」

　即答だった。数字に、迷いがない。

「そもそも、運命の番って……何なんですか。雑誌とかだと、運命の相手、みたいに書いてありますけど」
「フェロモン受容体の型が一致する組み合わせ、というだけです。ロマンチックな仕組みではありません。型が合えば、互いのフェロモンが最も深く作用する。発情周期は安定し、抑制剤の使用量は平均で六割減ります。Ωの平均寿命に対しても、有意な延伸が報告されています」

　体温計の声で、先生は続けた。

「拒否も、できます。適合通知に法的な拘束力はありません。ただ」
「ただ?」
「――医学的には、これ以上の相手はいません」

　一拍あって、その一言だけ、ゆっくり置かれた。

「先生も、そう思いますか」
「事実を述べています」

　通知書が、わたしの手に戻ってくる。
　受け取るとき、指は触れなかった。
　七年間で八十五回、うなじに触れた指が、紙の上では触れない。

「篠宮製薬のご子息なら、当院にも試薬の納入があります。誠実な方だと聞いています」
「会ったこともないのに」
「会えば分かります。ああいう経歴に、悪い人間は残れません」

　――この人が、他人を褒めた。
　七年で、初めて聞く種類の言葉だった。
　なのに声は、体温計のままだった。三十六度五分と同じ高さで、この人はわたしの運命の男を読み上げた。

　カルテに向き直る。ペンが走る。
　一度だけ、ペン先が紙を強く突く音がした。

　一度だけだ。

「……次回の診察ですが」

　カルテを閉じて、先生は初めてこちらを向いた。
　蛍光灯の下で、目の色が、いつもより薄く見えた。

「婚姻が整えば、主治医は篠宮家の指定医に引き継ぐのが通例です。紹介状は、いつでも書きます。ご安心を」

　紹介状。引き継ぐ。通例。
　言葉は全部、正しい順番で並んでいた。

　わたしは通知書を鞄にしまった。
　しまってから、鞄の口を閉め損ねて、もう一度閉めた。

「おめでとうございます、春野さん」

　立ち上がったわたしの背中に、声が届く。
　振り向いたときには、白衣はもう洗面台の前にあった。

　水の音がした。
　いつもより、長く流れていた。

　　　◇

　医院を出ると、日が傾いていた。

　駅までの道を、ゆっくり歩く。
　九七・四パーセント。婚姻継続率、九九パーセント。抑制剤、六割減。寿命の延伸。
　数字は、何ひとつ間違っていない。

　間違っていないのに、胸の真ん中に、細い針を一本だけ置き忘れたような場所がある。

　篠宮悠の、癖のない笑顔を思い出す。
　清潔で、正しくて、非の打ちどころがなくて――消毒液の匂いが、しない。

　――触れます。よろしいですね。

　あの声を、あと何回聞けるのだろう。
　八十五から先を数えかけて、やめた。

　数える理由が、わたしには、ないはずだった。


＃３　百十二

　顔合わせは、駅前のホテルのラウンジだった。

　母はわたしに、生成りのワンピースを着せた。派手じゃなく、地味じゃなく、清潔で、正しい服。釣書の男に釣り合う服。

「先方のご希望でね、如月先生にも同席していただくことになったの」

　エレベーターの中で、母がさらりと言った。

「……なんで」
「篠宮さんのお家は製薬でしょう。あんたの体質のこと、主治医の先生から直接伺いたいんですって。誠実よねえ」

　誠実。
　その言葉が、胸のどこにも引っかからずに、するりと落ちた。

　　　◇

　篠宮悠は、写真のままの男だった。

　癖のない黒髪。癖のない笑い方。立ち上がって、わたしの椅子を引いて、母に先に水が来るよう給仕に目配せをして、それから名乗った。

「篠宮悠です。春野さん、お会いできて光栄です」

　声まで、正しかった。

　如月先生は、五分遅れて来た。
　白衣じゃない先生を、わたしは初めて見た。濃紺のジャケット。顎の無精髭は、今日は剃られていた。剃られていると、知らない人みたいだった。

「主治医の如月です」
「お噂はかねがね。バース専門医としてのご高名は、うちの研究所まで届いています」
「仕事をしているだけです」

　名刺の交換。着席。
　先生は鞄から書類を出して、わたしの七年を、十分で読み上げた。

　周期の不安定。二十八日から四十一日の揺れ。抑制剤の種類と量の変遷。腺の状態。数値、数値、数値。
　体温計の声だった。わたしの躰のことなのに、天気予報みたいに聞こえた。

「……七年間、これほど精密な管理をしていただいていたとは」

　篠宮さんが、頭を下げた。

「感謝します。先生」
「仕事です」
「うちで開発中の徐放剤が、春野さんの体質に合うかもしれません。周期不安定型への治験データが――いえ、失礼。主治医の先生の前で」
「有効だと私が判断すれば、私が処方します」

　声の高さは、変わらなかった。
　変わらなかったのに、テーブルの上の空気が、一度だけ硬くなった。
　篠宮さんは笑って、話題を変えた。正しい人は、引き際も正しい。

　歓談のあいだ、如月先生はコーヒーに一度も口をつけなかった。
　書類の角を、テーブルの縁と平行に、二度直した。それだけだった。

　帰り支度の頃、篠宮さんが、ふいに先生へ向き直った。

「如月先生。主治医として――僕は、春野さんの相手として、合格ですか」

　まっすぐな訊き方だった。この人は、こういうことを、まっすぐ訊ける人だった。

　先生は、書類を鞄に入れる手を止めなかった。

「……所見は、書面で」

　それが、答えだった。
　篠宮さんは「厳しいな」と笑って、わたしの母は「まあまあ、先生ったら」と笑って、笑わなかったのは、二人だけだった。

　　　◇

　篠宮さんは、いい人だった。

　わたしの好きな映画を訊いて、ちゃんと観たことがあって、感想が的確だった。
　番の話を急がなかった。「春野さんのペースで」と言った。
　Ωの働き方に理解があった。「結婚しても、辞める必要はまったくないと僕は思います」と言った。

　減点が、ひとつもない。

　わたしはテーブルの下で、左手首に右手の指を当てていた。
　癖だ。不安定な躰と七年付き合っていると、自分の脈を数える癖がつく。

　六十八。

　運命の番。適合率九七・四パーセント。この国でわたしに一番合うはずの男の前で、わたしの脈は、六十八だった。
　落ち着いている。完璧に。

　――そうか。運命って、こういう静かなものなのか。

　そう思うことに、した。

　　　◇

　帰り際、ロビーで。

　母と篠宮さんが車寄せの話をしている間、わたしは柱の横に立っていた。
　視界の端に、濃紺のジャケットが来た。

「春野さん」
「先生。今日は、ありがとうございました」
「……顔色が優れません。失礼」

　手首を、取られた。

　素手だった。

　七年間、八十五回。この人がわたしに触れるときは、いつもラテックスの一枚があった。
　それが今、ない。人差し指と中指が、手首のいちばん皮膚の薄いところに、直接置かれている。親指は手の甲を支えているだけなのに、逃げ道まで塞がれたように感じた。

　脈が、跳ねた。

　一度。すぐに、もう一度。
　自分でも分かるほど強くなり、速くなり、その変化を、指の腹に一拍ずつ読まれていく。先生の視線は腕時計に落ちている。わたしを見ていない。そのことが、かえって恥ずかしかった。

　十五秒。
　そのあいだじゅう、素手の温度は動かなかった。

「……百十二」

　低く、読み上げた。

「先生、あの、これは」
「緊張でしょう。顔合わせでしたから」

　指が、離れた。
　離れても、脈だけが速いままだった。

「帰って、休んでください。次回の診察で、数値を見ます」

　先生は先にロビーを出て行った。自動ドアが開いて、閉まった。

　六十八と、百十二。

　運命の前で、六十八。
　あなたの指で、百十二。

　この数字は、どのカルテにも載らない。
　載らないまま、わたしの中にだけ、書き込まれた。


＃４　時間外

　三日後の夜中に、それは来た。

　午前二時十四分。
　目が覚めたときには、もう始まっていた。

　熱い。
　シーツが肌に貼りつく。腰の奥で、鈍いものが脈を打っている。うなじの腺が、内側から膨らむみたいに疼く。

　――早い。まだ、周期じゃない。

　枕元の薬を、一粒。効かない。
　三十分待って、もう一粒。
　効かない。

　天井を見た。呼吸を数えた。四十まで数えて、無駄だと分かった。

　スマホの画面に、医院の番号。その下に、七年間一度も押したことのない「時間外」の文字。

　――眠れない夜が続くようなら、時間外でも、構いませんから。

　四文字を、使う夜が来た。

　　　◇

　二コールで、出た。

『如月です』
「……春野です。夜分、すみません」
『症状を』

　寝起きの声ですら、なかった。

「熱が。薬が、効かなくて。二粒、飲んだんですけど」
『腺の疼きは』
「……あります」
『発作性のヒートの前駆です。今からタクシーで来られますか。裏口を開けておきます』
「はい」
『春野さん』
「はい」
『車内では窓を少し開けて、運転手と話さないこと。マスクとマフラーを。――匂いを、外に出さないでください』

　電話の声は、最後まで体温計だった。
　その平らさに、わたしは掴まるようにして、支度をした。

　　　◇

　医院の裏口には、灯りがひとつだけ点いていた。

　白衣を羽織った先生が、ドアを開けて待っていた。私服の上に白衣。ボタンは留まっていない。顎の髭は、もう伸び始めていた。

「入って」

　敬語が、一文字ぶん短かった。

　深夜の診察室は、昼間と匂いが違った。消毒液の下に、コーヒーの匂いが薄くある。この人はまだ働いていたのだと、わかった。

「診察台へ。うつ伏せに」

　体温計が、耳で鳴った。三十八度二分。
　手袋の箱から、ラテックスが引き出される音。手首で、ゴムが鳴る。

　――いつもの音。いつもの手順。

　なのに、今夜のわたしの躰は、その音ひとつずつに反応した。

　　　◇

　指が、うなじに触れた。

　熱を持った皮膚の上で、ラテックスがかすかに擦れた。

「……っ」

　息と一緒に、声が出た。慌てて枕へ口を押しつける。

「痛みますか」
「いえ……」
「では、続けます。腫れの範囲を確認するだけです」

　確認するだけ。
　その言葉とは反対に、指先はひどく鮮明だった。腺の際を押されるたび、触れられた場所から背骨へ、細い熱が走る。

「……っ、ん……」

　漏れた声を、唇を噛んで止める。枕の布が、指の間で皺になった。

「春野さん」
「す、みません……我慢、します……」
「――しないでください」

　手は止まらなかった。
　声だけが、ほんの少し低くなった。

「声も症状のうちです。抑えられると、判断を誤る」

　医学の顔をした、とんでもない許可だった。

　我慢してはいけない、と言われた途端、躰は隠し方を忘れた。指が一センチ動くたび、息が乱れる。乱れた息の数まで、この人に測られている気がした。

「……いまのは、痛みですか」
「ちが……っ」
「では、続けます」

　違う、の続きを、この人は訊かなかった。
　訊かないくせに、指だけは、違いを知っているように動いた。

　右。左。いつもと同じ順番。いつもと同じ圧。
　けれど今夜は、触れられる前から次の場所がわかってしまう。来る、と身構えたところへ正確に指が来て、そのたびに、身構えたぶんだけ深く響いた。

　数えよう、と思った。
　一回。二回。三回。
　数えるほど、指がどこにあるかしか考えられなくなった。

「腫れは腺の全周に及んでいます。抑制剤を静脈から入れます。効くまで、二十分程度」

　声は平らだった。
　平らな声のまま、指が腺の中心に止まった。

　ひと呼吸。
　それから、もう半呼吸。

　いつもなら、ない長さだった。

　わたしの躰が先に答えた。
　うなじが、ほんの少し、指のほうへ傾いだ。

「……春野さん」

　名前の呼ばれ方が違った。
　体温を読み上げる声ではなく、喉の奥で一度止めてから出した声だった。

　振り向くと、思っていたより近くに先生の顔があった。
　触診のために屈んでいたのだ。白衣の襟の内側、剃り残した顎、コーヒーの苦い匂い。その全部が、診察室では決して知るはずのない距離にあった。

　わたしは白衣の袖を掴んだ。

　指先だけで、布をつまむつもりだった。
　けれど手は、皺が寄るほど強く握っていた。

　先生の目が、わたしを見た。
　深夜の灯りの下では、瞳の色が濃い。視線が一度、わたしの口元まで落ちて、すぐに戻った。

　空調の音が遠くなる。
　袖の下には腕があって、腕の先には、三日前に知った素手がある。
　そのことだけで、喉が渇いた。

　一秒。
　二秒。

　先生の呼吸が、わたしの頬にかすかに触れた。
　触れたのは、それだけだった。それだけなのに、うなじを押さえる指より、ずっと深いところまで届いた。

　三秒。

　先生の喉が、一度、動いた。
　目は外れなかった。外れないまま、掴まれた袖にも触れないまま、この人は、たぶん、わたしと同じものを耐えていた。

　四秒。

　あと十センチ。
　袖を引けば、その距離はなくなる。

　椅子が、鋭く鳴った。

　先生が退いた。一歩ぶん。
　白衣の布が、わたしの指からゆっくり抜けた。

「――処置は、以上です」

　体温計の声が戻っていた。
　ただ、最後の一文字だけが、わずかに掠れていた。

　針が腕に入って、薬が血管を通っていく。冷たい流れが肘から肩へ上がって、熱が、少しずつ底へ沈んでいった。

「効き始めるまで二十分。そのまま、横になっていてください」

　毛布が、肩にかかった。
　かけた手は、すぐに離れた。

　薄目を開けると、先生はデスクに戻って、カルテを書いていた。深夜の診察室に、ペンの音と、空調と、点滴の落ちる音だけがあった。
　壁の時計が、三時二分を指していた。

　白衣の背中を、わたしは薄目のまま見ていた。
　この人は、わたしが電話をした二時十四分に、まだ医局にいた。二コールで出た。コーヒーの匂いがした。
　――この人は、いつ眠っているんだろう。
　七年間、一度も考えたことのないことを、考えた。考えながら、薬の冷たさの中で、沈んでいく熱と一緒に、わたしは目を閉じた。まぶたの裏で、まだ袖の布の感触が残っていた。

　　　◇

　タクシーは、先生が呼んだ。

　裏口のドアの前で、先生は言った。

「発作性の前駆は、今後も起こり得ます。周期がさらに乱れている」

　それから、間があった。
　水の音のない、ただの間だった。

「――篠宮氏との婚姻が整えば、こういう夜は、なくなります。運命適合のαのフェロモンは、発作そのものを抑える。薬より確実に。それが」

　一拍。

「……医学的に、正しい」
「先生は」

　わたしは、タクシーのドアに手をかけたまま、言った。

「正しいことしか、言わないんですね」
「仕事ですから」

　ドアが閉まって、車が出た。

　窓の外を、夜の街が流れていく。
　わたしは手首に指を当てた。薬で鎮まったはずの脈が、まだ少し、速かった。

　――時間外。

　四文字を、使ってしまった。
　使う前のわたしには、もう戻れない気がした。


＃５　六二・八

　――ここからは、私の話だ。
　カルテに書かない話。誰にも、読ませない話。

　春野灯を帰したあと、私は診察室の灯りを消し、医局に戻って、冷めたコーヒーを流しに捨てた。
　午前三時四十分。
　眠るには遅く、働くには早い時間。この時間に開けるための抽斗が、机の一番下にある。

　鍵を、開ける。

　抽斗の中には、三つしか入っていない。
　一番下に、七年前の適合検査の通知書。封筒の角が、丸くなっている。紙の角は、触れば触るだけ丸くなる。七年ぶんの角だ。
　その上に、台帳。黒い、何の変哲もない綴り紐のファイル。背表紙に、題は書いていない。題を書けば、名前がついてしまう。
　一番上に、未開封の缶コーヒーがひとつ。いつか徹夜が明けたら飲もうと思って、四年、開けていない。

　徹夜は、明けたことがない。

　　　◇

　七年前の春、当直の夜だった。

　救急搬入。十九歳、女性、Ω。初発のヒート。大学の階段から転落、擦過傷、発情状態による頻脈と脱水。
　処置は三十分で終わった。よくある症例だった。よくある症例のはずだった。

　点滴の管を、彼女は握っていた。
　ヒートの最中だ。理性は焼き切れて、躰は熱で溶けて、大の男でも泣き喚く状態で、十九歳の彼女は点滴の管を握って、掠れた声で言った。

「……すみません。お仕事、増やして」

　脈拍百三十八。体温三十八度九分。その状態で、他人の仕事の心配をした。

　私はその夜のバイタルの数字を、七年経ったいまでも全部言える。
　医者は患者の数字を忘れる生き物だ。忘れなければ、続けられない仕事だからだ。
　彼女の数字だけが、消えなかった。

　それが何を意味するか、わかるまでに三ヶ月かかった。
　わかってから、どうするか決めるまでに、一晩しかかからなかった。

　――何も、しない。

　私は彼女の主治医だった。彼女は十九で、患者で、私を「数値を管理してくれる人」として信頼していた。その信頼の上に、別のものを載せる資格は、私にはない。

　資格がないことを、確かめたくなったのだろう。
　その年の冬、私は検査に出した。

　　　◇

　自分の検体と、彼女のバース因子データ。主治医は、両方に触れられる。
　医師倫理に反する。知っている。言い訳は、しない。

　結果は、二週間で来た。

　――適合率、六二・八パーセント。

　六二・八。
　運命適合の基準値は、九五。
　悪い数字ではない。平均的な夫婦の適合率は五十前後だ。六二・八は、上位三割に入る。

　上位三割。
　運命では、まったく、ない。

　数字は、私を選ばなかった。
　私はその通知を抽斗の底に入れて、鍵をかけて、翌朝いつも通りに彼女のうなじに触れた。手袋を、一枚挟んで。

　以来、手袋を外したことはない。
　一枚のラテックスは、六二・八と九五のあいだの、三二・二パーセントぶんの壁だった。

　三日前、ホテルのロビーで、私はその壁を破った。

　顔色が悪かった。それは事実だ。脈を確認する必要があった。それも事実だ。手袋の持ち合わせがなかった。――嘘だ。白衣を着ていなくても、私の鞄には常に手袋が入っている。

　素手で取った手首の脈は、百十二だった。

　緊張でしょう、と私は言った。
　医師が数字に嘘の名前をつけたのは、七年で、あれが初めてだった。

　　　◇

　抽斗には、台帳がある。

　彼女の縁談は、これまで十四件来た。
　Ωの縁談には、主治医の所見書が要る。周期不安定型なら、なおさらだ。母親は毎回、律儀に私へ書類を回してきた。

　一件目。二十二歳の春。地方銀行の三男。
　所見:発情周期の安定を最優先すべき時期であり、生活環境の変化は不可。

　三件目。商社勤務のα。人柄は問題がなかった。
　所見:抑制剤の調整期につき、婚姻は時期尚早。

　七件目。彼女が少しだけ乗り気に見えた、大学の先輩。
　所見:直近の数値に揺れがあり、経過観察を要する。

　九件目。二十四歳の夏。通信系の若い起業家。適合率は八八まで出ていた。
　所見:高適合率だが、当該αの海外転居予定が周期管理と両立しない。
　――八八という数字を見た夜のことは、書かない。

　十二件目。医師のα。同業だった。所見書の書き方を知っている男だった。
　所見:経過観察を要する。
　電話で「経過観察とは、いつまでですか」と訊かれた。「私が終わりと判断するまでです」と答えた。彼は二度と、かけてこなかった。

　十四件目。去年の秋。
　所見:時期尚早。

　全部、嘘ではない。
　彼女の数値は本当に不安定で、環境の変化は本当にリスクで、私の所見は医学的に、一度も間違っていない。

　間違っていないことと、正しいこととは、違う。
　十四枚の複写を几帳面に綴じて、日付順に並べて、私はそれを七年間、一度も「妨害」と呼ばずにきた。

　呼ばずにきた名前を、今夜、初めて呼ぶ。

　　　◇

　台帳の最後に、十五枚目を挟む場所がある。

　篠宮悠。二十九歳。適合率九七・四。
　周期不安定型への徐放剤を自社で開発中。番になれば、発作は薬より確実に消える。人格に瑕疵なし。経歴に瑕疵なし。

　所見の欄に、書ける言葉を探した。
　時期尚早。環境変化のリスク。経過観察。七年使ってきた言葉は、どれもあの数字の前で燃え尽きる。

　九七・四に、六二・八が書ける所見は、ない。

　私は白紙の所見書を台帳に挟まず、机の上に置いた。
　代わりに、紹介状の下書きを引き寄せた。

　――篠宮家指定医 御机下。患者、春野灯様。七年間の経過を以下に。

　ペン先が、一度、紙を突いた。

　一度だけだ。

　十四で、終わりだ。
　十五件目は、書かない。書かないことが、七年目の私にできる、最後の正しさだった。

　抽斗に鍵をかけて、私は白衣を脱いだ。
　窓の外が、白み始めていた。


＃６　正しい人

　二度目に会った日、篠宮さんは水族館を選んだ。

「人と会うのに、水族館はずるいんです」

　クラゲの水槽の前で、彼は言った。

「会話が途切れても、魚のせいにできる」

　わたしは、笑った。ちゃんと、笑えた。
　この人といると、笑うところで笑える。正しい場所に、正しい踏み石が置いてある。

　回遊水槽の前で、篠宮さんは、この間わたしが話した映画の続編が秋に来ることを教えてくれた。
「観たんですか」
「あれから配信で。……面白かったです。ラストの解釈、春野さんの言った通りでした」

　覚えていた。
　顔合わせの席の、あんな小さな話を。

　ペンギンの前では、仕事の話をした。篠宮製薬にもΩの社員が何人もいて、周期休暇の制度があること。彼が入社してから、番の有無を昇進の条件にする慣行をひとつ、廃止させたこと。
「まだ全然、足りていませんが」
　と、彼は本当に悔しそうに言った。

　いい人だ。
　何度目かわからない同じ感想が、同じ深さで、胸の同じ場所に落ちた。深くは、ならなかった。

　イルカを見て、食事をして、川沿いを歩いた。
　夜の川は黒くて、対岸の灯りだけが水面で揺れていた。

　篠宮さんが、立ち止まった。

「春野さん」

　差し出されたのは、指輪の箱ではなかった。
　クリアファイルに入った、一枚の書類だった。

　――番契約申請書。

「……順番が、違うと思ったんです」

　彼は、少しだけ困った顔で笑った。初めて見る、正しくない表情だった。正しくないぶんだけ、本物に見えた。

「運命だから番になってください、っていうのは、僕は嫌で。だからまず、結婚を申し込みます。春野灯さん。僕と、結婚してください。番の儀式は――あなたが望む日まで、何年でも待ちます。望まない間は、しません」

　しません、と言った。
　この人も、許可を取る人だった。

　わたしは、手首に指を当てなかった。
　当てなくても、わかっていた。脈は、静かだ。湖みたいに、静かだ。

「……少しだけ、考えさせてください」
「もちろんです」

　篠宮さんは、書類をわたしに持たせてくれた。
「返事は、その紙と一緒でも、紙なしでも」

　最後まで、正しかった。

　帰りの電車で、わたしは膝の上のクリアファイルを見ていた。

　番契約申請書。紙一枚。
　薄いのに、膝の上で、辞書みたいな重さがした。

　母には、まだ言っていない。言えば今夜のうちに親戚中へ電話が回る。この重さは、もう少しだけ、わたしひとりで持っていたかった。
　車窓に、夜の街が流れる。速い灯りと、遅い灯り。
　わたしは手首に、指を当てなかった。
　当てたら、何かの数字が出てしまう。出た数字に、名前をつけなければならなくなる。

　　　◇

　四週後の、診察日。

　触診が終わって、手袋がゴムの音を立てて、わたしは丸椅子の上で、鞄の中のクリアファイルの角を指でなぞっていた。

「数値は安定しています。発作の再発もない。……何か?」
「プロポーズ、されました」

　ペンの音が、止まらなかった。
　今日は、止まらなかった。

「そうですか」
「番の儀式は、わたしが望むまで待つそうです。結婚しても、仕事は続けていいそうです。……減点が、ひとつもないんです」
「結構なことです」
「先生」

　わたしは、白衣の背中に言った。

「受けるべきだと、思いますか」
「医学的には」
「医学的には、じゃなくて」

　自分の声が、尖るのがわかった。
　先生が、ペンを置いた。置いて、こちらを向いた。

　深夜の診察室で濃く見えた目の色は、昼の蛍光灯の下で、また薄い色に戻っていた。

「……私は、あなたの主治医です。主治医として言えることは、七年間、全部言ってきました」
「じゃあ、主治医じゃなかったら」
「その仮定に、意味はありません」

　定規の線だった。
　七年間動かなかった線が、今日も、動かなかった。

　わたしは、立ち上がった。
　鞄からクリアファイルを出して、胸の前で、両手で持った。

「――先生が何も言わないなら」

　声は、震えなかった。えらいと思う。

「わたし、運命に従います」

　三秒、部屋が静かだった。
　空調の音だけが、あった。

　先生の手が、デスクの上のカルテに載っていた。
　載っているだけの手の、指の付け根の骨が、白かった。ペンが、指の横で、ゆっくり一度転がって、止まった。

　それだけだった。

「……お幸せに」

　体温計の声だった。
　最後まで、体温計の声だった。

　　　◇

　診察室を出るとき、背中で水の音が流れ始めた。

　廊下の消毒液の匂いを、わたしは深く吸った。七年ぶんの深さで、吸った。

　この匂いも、あと少しで終わる。
　篠宮家の指定医の廊下は、きっと違う匂いがする。もっと新しくて、もっと綺麗で、もっと――正しい匂いが。

　胸の真ん中の針は、もう数えられない本数になっていた。
　束になって、呼吸のたびに、細く鳴った。

　それでもわたしは、エレベーターのボタンを押した。
　運命は九七・四パーセント。統計は九九パーセント。

　――数字は、何ひとつ、間違っていない。


＃７　三二・二

　その夜は、最後の診察の三日前に来た。

　午前一時七分。
　目が覚める前から、燃えていた。

　節々が疼く。シーツが重い。息を吸うたび、躰の底で何かがめくれる。うなじの腺が、内側から皮膚を押している。
　枕元の薬。三粒。
　三十分。効かない。
　四粒目。
　効かない。

　――前駆じゃない。

　本物だ。五年ぶんでも七年ぶんでもいい、とにかく全部まとめて来たみたいな、本物のヒートだった。

　スマホの画面が、汗で滑る。
　連絡先の一番上に、篠宮悠、とある。登録したばかりの名前。

　運命適合のα。九七・四パーセント。彼を呼べば、発作は治まる。薬より確実に。医学的に、正しく。
　指が、その名前の上で止まった。

　止まって、動かなくて、それから、画面を下へ滑った。

　如月医院、時間外。

　二コールで、出た。

『症状を』
「……全部、です」

　三秒、間があった。

『――今から迎えに行きます。玄関の鍵だけ開けて、動かないで』

　　　◇

　車の中のことは、半分しか覚えていない。

　毛布ごと後部座席に入れられたこと。窓が少しだけ開いていたこと。夜の匂いに混ざって、運転席から、微かに、知らない匂いがしたこと。

　αの匂いだった。
　七年間、診察室で一度も感じたことのない、如月冴の匂いだった。

　――この人、ずっと、これを消して。

　考えは、そこで熱に溶けた。
　信号で車が停まるたび、ハンドルの上の手の、指の付け根が白いのが見えた。

　　　◇

　仮眠室の簡易ベッドに下ろされて、白衣が離れて、戻ってきたときには、点滴の支度ができていた。

「最大量を入れます。肝臓に負担が出るが、この際――」

　アンプルを折る音。シリンジ。ラテックスの手袋が、手首でゴムの音を立てる。
　いつもの音。いつもの手順。三十八度を超えた頭の隅で、わたしはそれを聞いていた。

　腕に、指が触れる。血管を探す、正確な指。

　わたしは、その手首を掴んだ。

　掴んで、自分の胸元へ、引いた。

「……春野さん」
「診察じゃ、なくて」

　声が、掠れていた。熱のせいだけじゃ、なかった。

「お願い」

　先生の目が、わたしを見た。
　深夜の灯りの下の、濃い色の目。その奥で、何かが軋んでいるのが、熱に浮かされた頭でも、わかった。

「――私は、あなたの主治医だ」
「知ってます」
「三日後には、篠宮氏との」
「運命の前で、六十八でした」

　言った。
　七年ぶんの数字を、全部、この人に返す番だった。

「あなたの指で、百十二。……どっちが本当か、先生なら、わかるでしょう」

　長い沈黙が、あった。
　点滴の袋が、スタンドの上で、静かに揺れて、止まった。

　ゴムが、鳴った。

　手袋が、外される音だった。右。左。二枚のラテックスが、床に落ちた。
　七年間、一度も外れなかった一枚。六二・八と九五のあいだに挟まっていた、三二・二パーセントぶんの壁が、いま、床の上にある。

　素手が、わたしの頬に触れた。

　熱い。
　わたしの熱のせいじゃない。この人の手が、熱かった。

「――触れて、いいか」

　敬語が、死んだ。
　七年間、体温計だった声の底から、初めて、人間の声がした。

「……はい」

　答えた瞬間、視界が回った。


――体験版はここまでです。
この続きは、製品版でお楽しみください。

齋藤あいり（@NotHumanDesire）
