﻿契約違反
〜「手を出さない」契約の仮婚約者に、零時、焦らしクリ責めで何度もイカされて、半年分の我慢ごと中出しされちゃった話〜

齋藤あいり

※これは体験版です。本編の冒頭のみを収録しています。

・本作品には成人向けの性的表現が含まれます。18歳未満の方の閲覧はできません。
・無断転載・無断複製を禁じます。


＃１　第七条

　契約書は、全部で九条ある。

　わたしが暗記しているのは、ひとつだけだ。

　――第七条。婚姻成立まで、甲および乙は、互いに身体的接触を行わない。

　周防樹（すおう・いつき）。周防グループの御曹司、二十九歳。祖父同士が勝手に決めた政略の仮婚約で、世間体のために同居して、半年になる。

　この人は、第七条を、一ミリも破らない。

　廊下ですれ違うとき、彼は必ず壁側に避ける。ドアノブに手が重なりかけたら、三歩下がって順番を譲る。傘は二本。買い物袋は「別々に持ちましょう」。この半年、指先すら、掠ったことがない。

　完璧すぎて、笑ってしまう。

　……そんなに、触りたくないか。

　政略で押しつけられた女に義理立てする気もない、というのが彼の本音なのだと、わたしは解釈していた。条項は、彼にとって都合のいい壁なのだと。

　その解釈が間違っていたと知るのは、契約から百八十二日目。
　日付の変わる、三分前のことになる。


＃２　観察

　ただ、時々、視線を感じることはあった。

　朝、寝癖のままキッチンに立つと、コーヒーを淹れる手が一瞬止まる。夏、部屋着の肩が出ていた日は、エアコンの温度を黙って一度上げられた。生理前で顔色が悪い日は、なぜか夕食に鉄分の多い献立が並ぶ。

「……樹さんって、わたしのこと、よく見てますよね」

　一度だけ、聞いたことがある。彼はワイングラスから顔も上げずに答えた。

「同居人の体調管理は、契約者の義務です」

「第何条ですか、それ」

「……九条の二。誠実義務の、拡大解釈です」

　嘘だ。九条にそんな細目はない。暗記しているから、わかる。

　でも、それ以上は聞かなかった。拡大解釈の中身を知るのが、少しだけ、怖かったからだ。


＃３　百八十二日目

　その夜、わたしは元・見合い相手と会っていた。

　断った相手から「書類を返したい」と連絡があって、駅前の喫茶店で三十分。それだけの用事だった。

　帰宅すると、リビングの照明が、ついていた。

　周防樹が、ソファに座っていた。ネクタイを緩めもせず、グラスの中の氷を、溶けるまで見ていたような顔で。

「……おかえりなさい」

「ただいま、です。……起きてたんですか」

「誰と、会っていましたか」

　声が、いつもと違った。低く、平らで、抑えた分だけ重い。

「元のお見合いの……書類を返すだけって」

「そうですか」

　彼は立ち上がって、壁の時計を見た。二十三時五十七分。

「芹沢さん。……三分だけ、そこにいてください」

「え?」

「日付が変わるまで、私はまだ、第七条を守っている男です」

　意味が、わからなかった。わからないまま、彼の目から、逸らせなかった。半年間、一度も見たことのない目だった。氷が、内側から割れていくような。

　秒針の音だけが、部屋に響いた。

　零時。

　柱時計が鳴り終わる前に、契約書がテーブルに置かれた。第七条のページが、開いて。

「第七条」

　彼が、言った。

「――今夜、私はこれを破る。違約金は、一生かけて払う」

「……破るって、何を」

「第七条を」

　彼は、契約書の上に手を置いた。二十三時五十七分から、一ミリも動かさなかった手を。

「破られるのは、お嫌ですか」

　訊かれて、わたしは答えた。半年間、廊下で避けられ、傘を二本持たされ、指先ひとつ掠らせてもらえなかった、その半年分の答えを。

「……遅い、です」

「はい」

「半年も、待ったんですけど」

「――申し訳ありません」

　謝罪の形をして、彼の手が、わたしの頬に触れた。

　熱かった。氷みたいな顔をした人の、手が。

　次の瞬間、唇を塞がれていた。丁寧なのは最初の一秒だけで、二秒目には舌が入ってきて、口の中を全部奪われた。三歩の距離を守り続けた男のキスが、こんなに飢えているとは思わなかった。

「ん……っ、ふ、」

「息は、鼻で」

　教えながら、また塞ぐ。ソファに押し倒されて、ブラウスのボタンが外されていく。こんなときでも、彼の指は几帳面に、一個も飛ばさなかった。

「芹沢さん」

「……心春、です。契約はもう、破ったんでしょう」

「――心春さん」

　名前を呼んだ声が、半音、低くなった。

　ブラのホックが外れて、乳房がこぼれる。彼の目が、そこに落ちた。視線を感じたことは半年間、何度もある。でも、こんな目で見られたことは一度もない。

「朝、寝癖のままキッチンに立つでしょう」

　彼が言った。

「部屋着の襟が、いつも左に寄っています。そこから、この輪郭が見えるんです。……コーヒーの手が止まるのは、毎回、それが理由でした」

「……知らな、」

「今、答え合わせをしています」

　素手が、乳房を包んだ。大きな手のひらの中で、柔らかく形が変わる。指の腹が乳首をかすめただけで、体が跳ねた。

「あ……っ」

「夏、肩が出ていた日。エアコンを一度上げたのは、あなたの体温を下げたかったからではありません。……上げれば、上着を着ると思ったからです」

「なんで、そんな……っ」

「見続けると、こうしたくなるからです」

　尖った乳首を摘まれ、転がされる。もう片方は口に含まれた。舌で押し潰され、吸われ、軽く歯を立てられて、腰の奥が勝手に疼く。声が、抑えられない。

「や、っ、樹さん……っ」

「声は、抑えないでください。半年、聞けなかった分です」

　スカートのファスナーが下ろされ、ストッキングごと下着が抜かれた。脚の間に空気が触れて、恥ずかしさに膝を閉じかけたら、その膝をやんわりと割られた。

「……見ないで」

「見ます。第七条は、もうありません」


――体験版はここまでです。
この続きは、製品版でお楽しみください。

齋藤あいり（@NotHumanDesire）
