第2話　革命の子と運命の書記（1769〜1793）

第2話　Part1　
コルシカの少年
コルシカ島の朝は、海の匂いと湿った風で始まる。
だが、その日の霧には、少年ナポレオンの胸をざわつかせる“異物”が混じっていた。
霧の粒子が揺れ、
その中に 0と1のような光の列が走る。
「……まただ」
九歳のナポレオンは、誰にも言えない秘密を抱えていた。
世界が時々、壊れて見えるのだ。
家の壁が一瞬だけ透け、
母の影が二重にぶれ、
海の波が逆再生のように引き戻る。
そして――
霧の奥に“影”が現れた。
黒い影。
だが、普通の影ではない。
輪郭がノイズのように崩れ、
羽のような粒子を散らしながら近づいてくる。
ナポレオンは息を呑んだ。
「……また、あれだ」
影は少年の前で止まり、
霧の中に溶けるように消えた。
兄ジョゼフには何も見えていない。
「どうした？ 顔色が悪いぞ」
「……何でもない」
だが、胸の奥では別の感覚が膨らんでいた。
――あの黒い影。
――何かが俺を“消そう”としている。
言葉にはできない。
理解もできない。
ただ、本能だけが警告を鳴らしていた。
ナポレオンは拳を握った。
（俺は……あれに負けない）
その瞬間、霧がざわりと揺れ、
海の波が一拍遅れて砕けた。
世界が、少年の挑発に反応したのだ。
ナポレオンは笑った。
幼い顔に似合わない、鋭い笑み。
「俺は……消えない」
その言葉は、
未来の“黒い島”へ向かう運命の序章だった。
霧の奥で、
青い光が一瞬だけ点滅する。
観測者――
まだ名も知らぬ“彼女”が、
遠い未来から少年を見つめていた。
