﻿一晩だけの後輩くん
〜「一晩だけ」のつもりが、翌朝、年下後輩に土下座で「一生ご奉仕させてください」と乞われて、毎晩クンニでイカされ続けた話〜

齋藤あいり

※これは体験版です。本編の冒頭のみを収録しています。

・本作品には成人向けの性的表現が含まれます。18歳未満の方の閲覧はできません。
・無断転載・無断複製を禁じます。


＃１　一晩だけのはずだった

　朝、目が覚めたら、隣に後輩がいた。

　しかも、こっちを見ていた。

「おはようございます、先輩」

　声が、やたらと機嫌がいい。

　蒼井陽。二十四歳。うちの部署の後輩で、わたしより四つ下。愛想がよくて誰にでも好かれる、いわゆる可愛い系の男の子――のはずだった。

　昨夜の記憶が、順番に戻ってくる。歓送迎会の二次会。終電を逃した。タクシーで送ると言われた。部屋の前で、「先輩、俺、ずっと」と言いかけた口を、わたしが塞いだ。

　……わたしが。

「あの、蒼井くん」

「はい」

「昨日のは、一晩だけね」

　言った。言い切った。二十八歳、恋愛経験の少なさを仕事の忙しさのせいにして生きてきた女の、精一杯の予防線だった。

　四つ下の男の子が、酒の勢いで年上に手を出して、朝になって後悔する。そういう話は、いくらでもある。逃げ道を先に用意しておいてあげるのが、大人の女の仕事だ。

　わたしはそう思っていた。

　蒼井くんは、しばらく黙って、それから、布団の上に正座した。

「……えっ、なに」

　そして、額を、シーツにつけた。

「一生、ご奉仕させてください」

　朝の六時半だった。


＃２　蒼井陽という後輩

　念のため書いておくと、この子は仕事ができる。

　配属二年目にして企画を一本任されているし、上司にも取引先にも可愛がられる。飲み会では気づけば全員のグラスの残量を把握しているタイプで、要するに、よく見ている。

　そして――たぶん、経験も、ある。

　昨夜、それがよくわかった。慣れていた。手も、口も、順番も。二十四歳の男の子が、どこでどうやって覚えたのかは知らないけれど、少なくとも、初めての相手がわたしではないことだけは、確実だった。

　なのに。

　その慣れた手が、わたしに触れるときだけ、少し震えていた。

「……先輩、痛くないですか」
「息、止めないでください」
「あの、ここ……触っても、いいですか」

　やたらと、聞いてくるのだ。

　主導権を、全部こちらに渡してくる。技術はあるのに、判断だけは一つも自分でしない。まるで、間違えたら死ぬみたいな顔で。

　あの様子を思い出すたび、わたしの中で結論はひとつになる。

　――若い子の、一時の気の迷い。

　二十八歳の、仕事しかしてこなかった女に、年下の男の子が本気になるわけがない。


＃３　ご奉仕させてください

　その日の午後、会社の給湯室で、蒼井くんが横に立った。

「先輩」

「……蒼井くん。仕事中だから」

「今日、何時に上がれますか」

「なんで」

「ご奉仕に伺いたくて」

　持っていたマグカップを落としかけた。

「あのね、朝も言ったけど、昨日のは一晩だけ」

「はい。昨日の分は、一晩で終わりました」

　にこ、と笑う。

「なので、今日は今日の分をお願いします」

　理屈が通っているようで、まったく通っていない。

「……蒼井くん。あのね、わたし、二十八なの」

「知ってます」

「あなたより四つも上で、」

「四つ下です、俺が」

「……そういうことじゃなくて」

　わたしは声を落とした。給湯室の外で、誰かが通り過ぎる。

「若い子が、酔った勢いで年上に手を出して、翌朝後悔するって、よくある話でしょう。……わたし、その後始末で気まずくなるの、嫌なの」

　蒼井くんの笑顔が、そこで初めて、消えた。

「――先輩、それ、本気で言ってます?」

「本気だけど」

「そうですか」

　彼はマグカップをわたしの手から取って、給湯台に置いた。それから、一歩詰めた。

　わたしより、頭ひとつ高い。可愛い系だと思っていた顔が、この距離だと、まったく可愛くない。

「じゃあ、証明させてください」

「証明って」

「一晩じゃ足りないって、体で」

　――この子、こんな声、出せたのか。

「二十時に、部屋に伺います。断るなら、いま断ってください。……断られたら、俺、ちゃんと引きます。仕事にも出しません」

　断ればよかった。断れば、全部、なかったことにできた。

　わたしは、二十八年生きてきて初めて、その場で何も言えなかった。

　沈黙は、肯定と同じだ。それを知っていて、彼は待っていた。

「――二十時に、伺いますね」

　笑った顔は、また、可愛い系に戻っていた。


＃４　ご奉仕の作法

　二十時ちょうどに、インターホンが鳴った。

　彼はコンビニの袋を提げていた。中身は、わたしが飲み会でよく頼む炭酸水と、二日酔いに効くゼリーと、なぜか三種類の入浴剤。

「……なにこれ」

「昨日、先輩、腰が痛いって言ってたので。……あ、これは俺のせいですけど」

　しれっと言う。

　部屋に上げると、彼はコートを畳んで、手を洗って、それから、床に膝をついた。ソファに座らせたわたしの、足元に。

「先輩」

　見上げてくる顔が、真面目だった。

「ルールを決めさせてください」

「ルール?」

「今日から、俺がすることは全部『ご奉仕』です。だから、指示は先輩が出してください。やめてほしいときは、やめてって言ってください。……俺、たぶん、自分では止まれないので」

　喉が、鳴った。

「それと、もう一つ」

　彼は、わたしの膝に額を寄せた。

「イッた回数は、俺が数えます。……先輩は、数えなくていいです」


――体験版はここまでです。
この続きは、製品版でお楽しみください。

齋藤あいり（@NotHumanDesire）
