試し読み版収録内容

導入
第一章　初めての屈服と３P
第四章　再訪と自らメス堕ち
第五・六章　サブパートナーたちとの情事　（孤独な帰還兵　大崎・冷徹医師　氷室）


　七月の陽射しが、アスファルトを焼いていた。

　照り返しで歪む空気の中、俺は軽トラックの荷台から最後の段ボールを降ろす。脇腹に力を込め、太ももで踏ん張る。腕の血管が浮き、肩から二の腕にかけての筋肉が、汗に濡れて鈍く光った。

「お疲れ、今日も暑いな」

　営業所に戻ると、先輩ドライバーがペットボトルの水を投げてよこす。俺は礼を言い、一息に飲み干した。喉仏が上下する。首筋を汗の筋が伝い、開いた襟元から覗く鎖骨の窪みに溜まった雫が、胸板の谷へと滑り落ちていく。熱を含んだ空気が、汗の匂いと男の体臭を混ぜて立ちのぼる。年中、男ばかりの営業所の匂いだ。

「相変わらず、いい体してるなあ。お前みたいな男が来ると、所の女社員が色めき立つわけだ」

　からかうような声に、俺は「勘弁してくださいよ」と笑って返す。こうやって、俺は「男の中の男」を演じてきた。筋肉質な体躯、汗にまみれた男の仕事、女に色目を使われる男の立場。どれも、二十八年間かけて築き上げた、分厚い鎧だ。

　それは、誰にも破らせない。誰にも気づかせない。この身体の中心。硬い腹筋のずっと下。男たちと同じ作業ズボンの、ベルトの、その奥に隠し続けている、たった一つの真実。

　この身体の中心に、誰にも言えない秘密がある。誰にも触れさせたことがない場所がある。股間の奥深くに、熱を帯びて、今日もひっそりと――俺の知らないところで、湿り始めているような場所が。

「――おい、聞いてるか。明日のシフト、変わってくれないか」

　先輩の声で、我に返る。

「ええ、いいですよ。どうせ予定もないんで」

「助かるわ。じゃあ明日、俺のルート回っといてくれ。高級マンションばっかだから、気持ちいいぞ。エアコン効いたエントランスで涼める」

　そう言って先輩が差し出した伝票の束を、俺は深く考えもせず受け取った。

　その伝票の、一番上の送り状に書かれた住所と名前。

　――あのマンションと、あの男の名前を見たのは、それが最初だった。

　翌日の午後、俺は先輩から引き継いだルートを回っていた。

　高級マンションが立ち並ぶエリアは、街路樹の緑が濃く、陽射しさえどこか上品に感じられた。路上に停めた軽トラックの中で、送り状の束を確認する。最後の一個が、どうにも妙だった。宛先に書かれた「桐生恭介」という名前。伝票は確かにこのマンションの最上階を示している。だが、荷物の分類ラベルは「オフィス」になっていた。

「……まあ、いいか。届ければ済む」

　そう独りごちて、汗で湿った作業服の袖をまくり直す。エントランスのオートロックに向かうと、管理人がすぐに扉を開けてくれた。配達員の顔と、積み荷の伝票を見比べられ、信用されたらしい。この仕事をしていてよかったと思う瞬間は、こういう時だ。がっしりした肩幅、日に焼けた首筋、そして作業着の下で厚みを主張する胸板。見た目が「真面目な肉体労働者」であれば、高級住宅街でも怪しまれない。

　エレベーターは静かに最上階へ上った。扉が開くと、ひやりと冷たい空気が肌を撫でる。廊下は絨毯敷きで、足音が吸い込まれるように消えた。どの部屋からも物音ひとつ聞こえない。防音設備が整った重厚な建物。むしろ、この静けさの中に「人の気配」を探すほど、ここは異質だった。

　表示プレートを確かめ、インターホンを押す。応答はない。しかし、配達指定は「置き配」だった。管理会社には連絡済みだ。俺は合鍵で玄関を開け、「失礼します、お届け物です」と声をかけ、重い段ボールを抱えたまま靴を脱いだ。

　リビングの空気が、ふわりと肌に冷たい。

　天井の高い、開放的な部屋。壁一面のガラス窓から、夏の陽射しが遠慮なく差し込んでいる。革張りのソファ。磨き込まれた黒いテーブル。壁には一面の本棚。暮らしの匂いより、執務室めいた清潔な沈黙が漂う。運び込んだ荷物を、指定された棚の横に下ろす。床に膝をつき、伝票にサインを入れようとした、その時だった。

「……おや」

　背後から、声がした。

　心臓が、ぎゅっと握りつぶされる。

「見慣れない顔だ」

　慌てて振り返る。そこに立っていたのは、スーツ姿の大柄な男だった。百九十はあろうかという長身。上質な布地の下から、鍛え抜かれた肉体の輪郭が、いやでも分かる。肩の厚み、胸板の張り、スーツの上からでも男の「強さ」を主張する、格闘家めいた肢体。彫りの深い顔。鋭い目。薄い唇が、ほんの少しだけ笑みを形作っている。

「す、すみません。誤配で……。すぐに出て行きます」

「誤配？」

　男――桐生恭介は、俺の言葉を反芻するように呟いた。視線が、上から下へ、俺の身体をゆっくりと這う。検分するような、品定めするような、そんな目。違う。もっと別の、生温かいもの。視線が、肌を舐めている。

「……いい身体だな。配送員にしては、鍛え方が本格的だ」

「……ジムに通ってるだけです」

「そうか。仕事とジム。他の時間は何をしている」

「……普通に、寝て、食って、また仕事です」

「嘘が下手だな」

　桐生は笑った。笑いながら、一歩、距離を詰める。俺の半歩後ろに下がった背中が、壁に触れた。冷たい。心臓が、もう痛い。

「お前のような男は、普通じゃない。普通に見えるように振る舞うことだけが、上手いんだ」

「なんの、話ですか……？」

「話すより先に、確認させろ」

　桐生の右手が、何の躊躇いもなく、俺の胸に置かれた。

　大きく、厚い掌。指が、作業服の上から胸筋の膨らみをそっと掴む。その触り方は、ただの男が筋肉を確かめる仕草とは、明らかに違っていた。掌全体で「味わう」ように押し、指先で「探る」ように筋の流れをなぞる。制服の下で、乳首が、こわばるのを感じた。ぞわ、と背筋に走る寒気にも似た感覚。それなのに――腹の奥が、熱い。

「ぁ……っ、やめ……っ」

「いい身体だ。実にいい。……ずいぶんと、この身体を守ってきたんだろうな」

　桐生の声が、耳のすぐ横で響く。低く、甘いのに、どこか冷たい。その目が、一瞬、ほんの一瞬だけ揺れた。鋭さの奥に、何かが過る。哀しみと似ている。それとも、渇きか。言葉にできない何かが、彼の瞳の底にたゆたっている。それがわかった瞬間、なぜか俺の胸の内側が、きゅうと窄まった。

　この人は、俺と同じだ。

　理屈じゃなく、そう思った。この人は、俺と同じ「孤独」を知っている。隠して、守って、鎧の内側で息を潜めてきた男の目。だとすれば。そう思った瞬間、桐生は俺の胸から手を離し、肩越しに奥へ向かって声をかけた。

「おい、客人だ」

　奥の部屋から、一人、また一人と、男が現れる。短髪で無表情な大男――大崎。眼鏡をかけた長身の男――氷室。二人の視線が、一斉に俺に突き刺さった。獲物を見る目。だが、その奥に、桐生と同じ「渇き」のようなものが、揺らめいている。

「面白いのが来たな」

「いい体してるじゃないか」

　逃げ道は、ない。二人が左右に立ち、桐生が正面で笑みを深くした。壁際に追い詰められた俺の手首を、大崎の手が、あっけないほど容易く絡めとる。骨の上から締めつける力に、抵抗することすら許されない。男としての力で、これほど一方的に。

「離してください……！」

「怖がるな。お前が何者か、確かめるだけだ」

　桐生の指が、俺の顎を捉える。逃げられない。その目を、間近で見つめながら――俺は、自分の胸の内に、恐怖とは別の何かが生まれ始めているのを、自覚していた。会ったばかりの男に、暴かれたい。この人たちなら、この鎧の奥に、触れてくれるのかもしれない。

　……なんてことを。そう思うのに。身体の中心が、じん、と甘く疼いた。

「……いい目だ。その目が、どんな顔で泣くのか、見てみたい」

　桐生の声が、冷房の効いた部屋に、ひどく艶めいて響いた。

---

　大崎の手が、後ろから俺の両腕を拘束した。

　万力のような力だった。ジムで重い鉄を扱い、仕事で荷物を運び続けてきたこの腕が、子供のように捻り上げられる。大崎の指は俺の手首を片手でまとめて捉え、そのまま壁に押しつけた。額の脇、鼻先、開いた唇——すべてが冷たい壁面に密着する。背中に、別の男の体温が近づく気配。逃げられない。男として、力で、完全に敗北していた。

「……嫌なら、本気で暴れろ」

　大崎の声には、感情がない。まるで事実を突きつけるだけのような、低い声。暴れろと言われても、指一本動かない。大崎の体幹が、背中に当たる。厚く、硬い、壁のような筋肉。俺の脊柱が、彼の腹筋に押し潰される。股間が、作業ズボンの粗い布に擦れて、ひくりと反応した。

「見えてきたな。身体は正直だ。……この身体の秘密が、なんなのか、知りたい」

　桐生が、俺の正面に立つ。指先が、俺の顎を捉え、顔を上げさせた。目の前にある桐生の顔は、逆光で影が落ち、目だけが、ぎら、と光っている。

「脱がすぞ」

　その一言で、氷室が隣に回り、俺のベルトのバックルに手をかけた。制止する声すら出ない。金属の外れる音、ジッパーが下りる音、自分の心臓の音、三人の息遣い。全部が頭の中で反響する。氷室の手が、腰骨の上から作業ズボンをずらし、太腿の半ばまで引き下ろした。外気が、素肌に冷たい。いや、冷たいのは空気だけじゃない。三人の視線が、狙い澄ましたように、俺の下着の上から浮き出る「それ」に注がれている。

「……ああ」

　桐生が、短く、深い吐息をこぼした。

「下着も下ろせ。大崎、そいつの足を」

　大崎が片膝で俺の両脚を割り、膝裏を蹴るようにして崩させる。床に落とされた。カーペットの上に、四つん這いのような格好で転がり、逃げようとした腰を、大崎の手が押さえ込む。氷室が静かにしゃがみ込み、俺のボクサーパンツの脇に指をかけた。そのまま、下ろされる。ゆっくりと、見せつけるように。最後に膝から抜き取られるまで、俺は、自分の呼吸が浅くなっていくのを自覚していた。

　照明の下に、俺の秘密が晒された。

　それは、男の身体の中心に、ぽつんと咲いた、異物だった。ぷっくりと膨らんだ、真珠色の突起。男性器と呼ぶには、あまりに小さく、しかし女性器のそれとしては、どこか雄々しい。勃起しかけて赤く染まった先端が、薄い皮を押し上げて、とろりと光を弾く。そのすぐ下、窄まりきった媚肉の裂け目。熱を孕み、淡く湿り、しっとりと粘膜の色を覗かせている。男の太い足の付け根、黒い体毛の繁みの中央で、そこだけが、女の匂いを放っていた。

「…………」

　三人の沈黙が、一秒、二秒、三秒。その長さが、何よりも深く、俺を責めた。

「こ、……これが」

　氷室が、最初に口を開いた。眼鏡の奥の瞳が、学者の冷静さと、欲望の隠し切れない熱を同時に宿している。指先が、俺の肉に触れる寸前で止まる。

「見事だ。小陰唇の癒合がなく、膣口も完全に開存している。クリトリスの肥大、膣前庭の充血、すでに分泌が始まっている。胎生期のホルモンバランス異常によるものだ。おそらく、子宮と膣も、機能を持つ形で存在している」

　氷室は、俺の反応を観察しながら、その薄い唇で「雌」の器官を解説した。恥辱で頭が沸騰しそうだった。男の身体。男の仕事。男の人生。その中心にあるものを、今、他人に言葉で描写され、観察されている。視界がにじむ。声にならない声が、喉の奥で潰える。

「……男なのに、ここが女なんだな」

　大崎の低い声が、耳の真後ろから降ってくる。太い手が、俺の腰から尻へ、尻から内腿へ、ゆっくりと下りてくる。その手のひらの、硬く、熱く、無骨なこと。男の手、それも、人を殺してきたかもしれない手。その手が、俺の隠してきた「割れ目」を、上から下まで指一本でなぞった。

「っ、や、やめろ……！」

「やめると思うか？」

　桐生が、しゃがみ込んだ。目線を、俺の股間に合わせる。無遠慮に、まじまじと。俺は顔を背けた。背けた顔を、大崎が片手で固定する。見ていろ、とでも言うように。無理やり、自分の股間を見下ろす格好にされた。桐生の指が、クリトリスの先端に触れる。触れるだけ。それだけで、俺の腰が、ぶるっと震えた。

「……いい。最高だ」

　桐生が呟いた。声は、うわごとのように甘く、掠れている。彼は、俺の肉を傷つけないよう、雄々しい手つきを、あえて優しく這わせた。

「お前は、この身体を、誰にも見せず、誰にも触らせず、男として生きてきたのか。この、ちいさな割れ目を、ひとりで、何年も、隠して」

「うるさ……い。同情なんか、いらな……」

「同情じゃない。……俺は、これを、綺麗だと言っている」

　桐生の言葉に、俺の抵抗が、一瞬、止まった。

「見ろ。男の腹筋と、男の太腿の真ん中で、ここだけが、こんなに赤く、柔らかく、濡れている。美しいと言わずに、なんと言う」

　桐生の指が、ゆっくりと、クリトリスの皮を上に剥いた。敏感な肉芽が、空気に触れて、ぴくぴくと震える。指先で、先端を優しく、すくい上げるように、下から上へ。

「ひ……ぁ……っ」

　声が、出た。男の声。自分の声。それが、ひどく淫らに、部屋に響く。涙が、眦から滑り落ちた。男のまま、男の声で、女の場所を触られて、啼いている。恥ずかしくて、苦しくて、でも、それと同じくらい……この人に見つけられたことが、嬉しい。二〇年間、一度も見つけてくれなかった両親にも、医者にも、誰にも。この人は、初めて、そこを「綺麗」と呼んだ。

「……隠す必要はない。お前は、この身体のまま、ここにいたらいい」

　桐生の指先が、膣口のくぼみに、つ、と沈む。恐怖より先に、熱が、こみ上げた。二十年分の孤独が、この指の温もりで、溶かされていく。

「……ぁ、や……そこ、やめ……っ」

「やめるな。やめなくていい。お前のここが、俺の指を欲しがって、ひくついてる。ほら、見えているだろう。お前の割れ目が、食いしばって、泣いている」

　桐生の指が、入口の縁を、くにくにと圧し広げる。ぬち、と水音がして、指先が、熱い内側に吸い込まれていった。

「あ……っ、ああ……！」

　目の前が白む。足の先から、背筋を、快感とも苦痛ともつかない電流が走り抜けた。大崎の腕に支えられ、仰け反る身体。氷室は、食い入るように、繋がった部分を覗き込んでいる。

「……挿入一指。膣口の抵抗は軽微。内壁が、指を……ぎゅう、と締めますね。今、彼の身体は、異物を受け入れようと蠕動しています。ご覧なさい、この入り口の締まり。処女のそれです。なのに、これだけの愛液。桐生さん、この身体は……まさに、抱かれるために仕上がっています」

　氷室の声が、検査器具のように、俺の羞恥を掻き乱す。抱かれるために、仕上がっている。男として、この身体は、男に抱かれるために。その言葉が、抗えない真実のように、胎の奥へ沈んでいく。

　桐生の指が、ゆるく曲がり、内壁をこする。クリトリスを、もう一方の親指が、円を描いて、潰す。

「や、ぁ、……っ、それ、だめ……！ い、く……何か……！」

「感じるな。そのまま、声を出せ。大崎、乳首を責めてやれ」

　大崎が、俺のTシャツを首まで捲り上げ、胸板を露出させる。日焼けした厚い胸筋。その頂点の、男の乳首を、彼の指先が、むに、と捏ねた。

「んぅ……っ！」

　三つの場所から、同時に。男の身体の、快楽を拾う場所すべてが、彼らの手の中にある。太い首がのけぞり、汗が、腹部の溝を、流れ落ちる。

「お前の一番、きもちいいところを、探してやる。ここか。……それとも、奥か」

　桐生の長い指が、ぬちゃ、ぬちゃと中を掻き回す。ある一点に触れた瞬間、全身が、跳ねた。

「……ここだな」

「や、や、そこ、そこ……っ！ そこ、だめ、だめ、おかしくなる……！」

「おかしくなれ。今まで、女の快楽なんて、知らなかったんだろう。男の身体の、雄の形をした部分だけで、自分を殺して生きてきたんだろう。……これは、そのご褒美だ。男のまま、女の悦びを、お前に教えてやる」

　ぐ、と。桐生の指が、内壁の浅い場所、ざらついた肉を、腹側へ向かって、何度も何度も、意地悪に圧し上げる。氷室が、呆れたように、うっとりと言った。

「Gスポットを……的確に。さすがですね。ほら、下腹が痙攣している。子宮の入り口が、お腹の外からでもわかりますよ」

　大崎の指が、乳首を、肉の中で転がす。男の胸筋が、ぶるりと震える。涙で滲む視界。桐生の指が、膣の中で、俺を暴く。暴かれているのに、心の奥底では、ずっと待っていた。こんな日を。この身体の、ここを、誰かに見つけられる日を。

「きりゅ……せん、せ……っ、俺、俺……もう……」

「泣くな。だが、感じるな。逃げるな。俺の指で、お前のままで、イけ」

「あ……ああぁ……っ！」

　腹の底から、声が溢れた。自分のものとは思えない、男の、低いのに甘ったるい、媚びた絶叫。秘所を三人の男に見下ろされ、指を咥えたまま、クリトリスを擦られ、乳首を捏ねられ、俺は、生まれて初めて「女のように」達した。

　びくん、びくんと、太腿が跳ねる。膣口から、ぷしゃ、と潮を吹く。桐生の手を、だらしなく濡らして、俺の全身が、快楽に沈んでいく。それを見下ろしながら、桐生は、静かに笑った。

「……帰しはしない。今日から、お前のこの身体は、俺たちのものだ。いいな」

　息も絶え絶えの俺の額に、桐生が、やがて、ひやりと冷たい唇を押し当てた。

---

　冷たい床の上で、作業ズボンと下着が引き抜かれた。

「やめ……見るな……っ」

　三人の視線が、一斉に俺の股間に落ちる。羞恥で頭が焼けそうだった。腰を引こうとしても、大崎が片腕で両手首を頭上に縫いつけている。身動きができない。膝を閉じようとすれば、氷室の手が太腿を割って広げた。

「……これは」

　氷室の声が、静かな部屋に異様なほどはっきりと響いた。

「男性器は痕跡的だ。陰核海綿体が著しく発達して、外見上は小さなペニスに見えるが、これはクリトリスだ。しかも、ここまで勃起している」

「勃起、してるのか」

　桐生が低く笑う。その視線が、むき出しにされた俺の中心を貫いた。見られている。男として生きてきたこの身体の、誰にも見せたことのない場所を。心臓が耳の奥で暴れている。それなのに、氷室の言った通り、クリトリスは痛いほどに充血し、ぷくりと膨らんでいた。自分でも感じたことのない、硬いまでの昂奮。腹の底が、じゅくじゅくと音を立てているようだ。

「こっちは、膣口も完全に形成されている。……濡れ始めてますね」

「見世物じゃねえ……っ」

「見世物だろう」

　桐生がしゃがみ込み、低い声でそう言った。

「男の身体に、女の器官。こんな身体で、よく今まで隠してきたな。……感心するよ。だが、もう隠さなくていい」

「やめろ……触るな……！」

「触るな、ではないだろう。触ってほしいんだろう」

　桐生の指が、ゆっくりと伸びてくる。太い指だ。節くれだった、男の指。それが、膨れ上がったクリトリスの、その先端に――触れた。

「ひ、あ……っ！」

　全身に、雷が落ちた。

　背中が跳ね、腰が浮いた。大崎に拘束された手首をガチャリと震わせ、喉がのけぞる。生まれて初めて他人に触れられた性感。自分で触るのとは、何もかもが違う。熱くて、硬くて、それでいて恐ろしいほど繊細な指先。桐生は、俺の反応を楽しむように、ゆっくりと、執拗に、クリトリスの先端を円を描くようになぞった。

「あっ、あっ、や……！ なに、これ……！」

「何、じゃない。お前の女の部分が、感じてるんだよ」

「ちが……！ おれ、男だ……！ こんな、の……！」

「だったら、なんでこんなに濡れてる？」

　氷室の指が、ぬるりと膣口をなぞった。くち、と音が立つ。冷たく長い指が、窄まりに沈み込む。

「ぁあっ……！」

「抵抗がない。入り口からして、もう解れてる。指が、吸い込まれるようだ」

　氷室の声は、まるで術式の報告のように静かだった。指が一本、ゆっくりと奥へ進む。内壁を擦る感覚に、腹の底から痺れがこみ上げる。

「や、抜い……っ、て……！」

「抜く？ 嘘をつくな。締め付けて、離さないのはそっちだろう」

「ちが……！」

「Gスポット、確認します。……ここだ」

　氷室の指が、内壁の一点を押し上げた。刹那、視界が白く弾ける。

「あああっ!?」

　腹の底から、自分でも聞いたことのない声が溢れた。腰が大きく浮き、内腿がわななく。その反応を見た氷室が、眼鏡の奥で目を細める。

「ここですね。少しザラついた面。押し上げると、膣壁が痙攣する。……感度は良好どころか、極上です。桐生さん、この身体、とんでもないですよ」

「だろうな。見た瞬間にわかった」

　桐生が笑う。その間も、指はクリトリスの上で動き続けている。潰すように。擦り上げるように。先端を捏ね、根元を掴み、皮の上から亀頭めいた部分をゆっくりと転がす。ねっとりした愛液が、彼の指を濡らしていた。

「あ、や……！ それ……！ それ、だめ……！」

「ダメ？ ちゃんと、ここも――」

　不意に、大崎が動いた。無言のまま、俺のシャツを首元まで押し上げる。鍛え上げた胸板が、冷えた空気に晒された。その胸の先端、尖りきった乳首を、大崎のゴツゴツした指が摘まむ。

「んんっ……！」

「男の乳首にしては、ずいぶん敏感だな」

　氷室が興味深そうに呟いた。大崎は何も言わない。ただ、無表情のまま、まるで機械のように――いや、機械よりも正確に、容赦なく、乳首を摘み、押し、潰した。指の腹で、執拗に転がされる。そのたびに、胸から腹へ、腹から股間へ、電流のようなものが走り抜ける。

　三人同時。クリトリスと、膣の中と、乳首。男の身体の、感じるはずのない場所を、三方向から責め立てられる。

「あっ、あっ、や、やめ……！ 同時は、むり……！」

「無理、か？ だが、お前の身体は、ちゃんと受け止めてるぞ」

　桐生の指が、クリトリスの先端を強く摘まみ上げた。瞬間、氷室が内壁のGスポットを、ぐっ、と押し込む。大崎が乳首を、きつく捻った。

「――ああああああっ!?」

　頭の中が、真っ白に弾けた。

　身体が、自分のものじゃなくなる。腹の底から全身を突き破るような快楽が、何か熱い奔流になって溢れてくる。膣が、指をぎゅうぎゅうと締め付けている。内腿が、腹筋が、胸が、全部が痙攣して、止まらない。視界がチカチカと明滅する。

「イったな」と桐生が言った。

「初めての絶頂ですね。膣の痙攣が、はっきりと確認できました」と氷室が言った。

　大崎は、まだ乳首を摘まんでいる。その指が、絶頂後の余韻を引き延ばすように、ゆるゆると先端を転がす。そのたび、痙攣が走る。

「は……、はぁ……っ、あ……！」

「ほら、まだ感じてる。初めてで、よくイった。立派だ」

　桐生の声が、遠くで聞こえる。涙が、こめかみを伝っていた。自分が泣いていることに、少し遅れて気づく。悔しさでも、悲しさでもない。ただ、身体の奥に溜まっていた何かが、決壊してしまった。そんな感覚だった。

「……もう、やめ、て……ください……」

「まだ始まったばかりだ。俺が、お前の初めてを貰う」

　桐生が立ち上がるのが見えた。ベルトの金具が外れる音。ジッパーが下ろされる音。目の前に、彼の陰茎が露わになる。太く、長く、怒張した男根。それが、俺の中で一番「女」の場所に、ゆっくりと近づいてくる。

「怖いか」と桐生が言った。

「……こわい、です」

「だろうな。……だが、お前の身体は、これを待ってたんだ」

　桐生が、俺の腰を抱えた。亀頭が、濡れそぼった膣口に触れる。ぞくぞくと、全身が総毛立つ。挿入される。男のものが、男の身体の俺の中へ。それだけで、頭がおかしくなりそうだった。

「逃げるな。俺を見ろ」

　桐生の声が、真っ直ぐに俺の意識を貫いた。その目を見る。恐ろしいほど深い、黒い瞳だった。逃がさない、という意志。しかし、それだけじゃない。乱暴に突き入れることなく、ぐずぐずになった入り口に、亀頭をあてがったまま、俺の反応を見つめている。壊さないように。暴かないように。見られているというのに、その視線には、不思議なほどの――

「いくぞ」

　ずぶ、ぶぶぶ……っ。

　熱い楔が、身体の真ん中をこじ開けるように、奥へ沈んできた。

「あ……、ああああっ……！」

「っ、……締まる……。まだ、半分も入ってないぞ」

　内壁を、男の陰茎が擦り上げていく。この世のものとは思えない圧迫感。痛みと快楽が、境界を失って全身を駆け巡る。腹を裂かれるかと思った。だが、裂けない。私の身体は、いや、俺の身体は、桐生の形に合わせて、ぐちゅぐちゅと音を立てながら、それを受け入れていく。

「……全部、入ったぞ」

　桐生が、深く息を吐いた。腹の奥に、ずっしりとした質量がある。繋がっている。男の陰茎が、俺の子宮の入り口を、先端でこつんと突いている。ぞくぞくする。指どころじゃない。これが、男に抱かれるということ。

「動くぞ」

「ま、待っ……あああっ!?」

　待ってほしいと、思った。思ったのに、桐生が腰を引いた瞬間、内壁を擦り上げる快感が、待ってという言葉を、女みたいな喘ぎ声に変えた。

「あっ、あっ、や……！ ん、う、あ……！」

「すごい顔で感じるな。男らしいツラで、中は女だ。最高だ」

　桐生の腰の動きが、少しずつ激しくなる。ぬちぬちと、結合部から愛液が溢れ、二人の腿を濡らした。氷室が何か呟いている。大崎が、まだ乳首を弄っている。わからない。もう、何も。桐生の陰茎が、俺の中を、一番感じる場所を、ごりごりと抉る。あのGスポットを、先端で押し潰すように。

「あっ、あっ、そこ……！ そこ、だめ……！ イく……！ また、イく……！」

「イけよ。俺の中で、お前の中に、刻み込め。お前の身体が、誰のものかを」

「あ……あああ……っ！」

　二度目の絶頂が、今度はさらに深く、膣の奥から全身を貫いた。内壁が、桐生の陰茎をきつく締め上げる。

「……っ、出すぞ」

　桐生が、最奥まで一気に突き入れた。子宮口を亀頭で押し開かれるような、とんでもない深さ。その瞬間、熱い奔流が腹の奥に放たれる。

「ああああ……っ！」

　射精。生まれて初めて、誰かの精液が、俺の身体の、いちばん深い場所を満たしていく。熱い。腹の中が、桐生のもので、いっぱいになる。それが、恐ろしいほど、満たされる感覚だった。

　桐生が、ゆっくりと陰茎を引き抜いた。結合部から、白濁した液が、どろりと溢れ出る。俺の太腿を伝って、床に落ちていく。それを、三人が見ていた。見られている。そう思うのに、身体は、まだ、びくびくと痙攣していた。

「……は、……ぁ……」

　うまく、息ができない。天井が、ぐるぐる回っている。

　しばらくして、冷たいタオルで、桐生が俺の汗を拭いた。

「よく、耐えたな。というより、よく、感じてくれた」

　そう言って、ペットボトルの水を、口元に添えてくれる。まだ息の乱れた俺の口に、水が流れ込む。飲み込むたび、冷たさが身体の熱を、少しだけ鎮めていく。

「……お前は、帰らないのか」

「……帰れるなら、帰ってます」

　掠れた声で、そう答えると、桐生が、小さく笑った。

「そうか。……今日は、帰さない。いや、もう、いつまでも、帰さないかもしれないな」

　その声に、しかし、本気の「逃がさない」という色は薄く、かわりに、妙に優しい響きがあった。

　まるで、帰る場所がない同士が、ようやく見つけた安住の温度のように。


第四章：再訪と屈服

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　インターホンを押す指が、震えていた。

　あの夜から、何日が過ぎただろう。仕事中も、飯を食っている時も、ベッドの中で目を閉じた時も、俺の身体はあの部屋を覚えていた。汗と、革の匂い。冷房の効いた空気。三人の視線。桐生の手。

　自分でもわかっていた。ここに来るのは、身体の疼きのせいだけじゃない。心が、あの人に触れてほしいと叫んでいる。もう、ごまかせなかった。

　オートロックが、静かに開く。

　エレベーターで最上階へ。心臓が、喉の奥で鳴っている。扉の前に立つ。息を整えて、手を上げかけた、その瞬間——ドアが、内側から開いた。

「……逃げなかったな」

　桐生だった。スーツでも部屋着でもない、黒いシャツを一枚。袖をまくった前腕の筋肉が、照明の下で浮き上がっている。彼は、俺の全身を、あの値踏みするような目で、ゆっくりと眺めた。

「……来て、しまいました」

「そうか。入れ」

　広いリビング。あの夜と同じ、冷たい空気。だが、テーブルの上には、ボトルワインと、グラスが二つ。用意されていたように。氷室と大崎の姿は、なかった。

「今日は、俺だけだ」

　桐生が、ソファに座る。向かい側に立ったままの俺を見上げて、笑う。

「立てるか。それとも、もう膝が笑ってるか？」

「……立ってられます」

「強がるな。座れ」

　言われるままに、向かいのソファに腰を下ろす。脚を閉じて、拳を太腿の上に置いた。桐生は手酌でワインを注ぎ、グラスをこちらに押した。

「飲むか」

「……仕事終わりに、酒は」

「もう仕事は終わってる。それとも、何か後ろめたいことでもあるのか」

　そう言われて、俺は何も言えず、グラスに口をつけた。渇いた喉に、赤ワインの渋みが染みる。桐生は自分のグラスを傾けながら、じっと俺を見ていた。その視線に、腹の奥が、また疼く。

「あの夜から、どうしてた」

「……別に、普通に仕事してました」

「ふうん。普通に、な。普通の男が、夜中に一人で、俺の名前を呼びながら抜いてたのか？」

　心臓が、止まるかと思った。

「……なっ、なんで……」

「声、聞こえたんだよ。あの夜の後、お前の部屋の前にいた。薄い壁だったからな。俺の名前、呼んでたな」

　顔に、一気に血が上る。見られていた。聞かれていた。夜のアパートで、桐生の名前を呼びながら、自分の指で、あそこを。あの腫れた突起を捏ねて、割れ目を濡らして、腰を振っていたのを。

「お前、自分で触ったんだろう。どんな風に？ 俺の指を、思い出しながらか？」

「……ちが……っ」

「じゃあ、ここに来た理由はなんだ」

　桐生が立ち上がり、俺の前まで歩いてくる。見下ろすその目が、あの夜の冷たさと、微かな熱を帯びている。彼はしゃがみ込み、俺の顎を掴んで、上向かせた。

「言え。お前の口で」

「……触れて、ほしくて」

「どこに」

「……身体に」

「身体のどこだ」

「……あの、夜に、触ってもらった……場所です」

　声が震える。恥ずかしさで、死にそうだ。男が、男の前で、こんな。なのに、桐生は満足そうに、薄く笑った。

「上着を脱げ。下も脱げ。お前の身体を、見せろ」

　言われるがままに、作業服のファスナーを下ろす。肌に張り付いたシャツを脱ぐと、冷たい空気が汗ばんだ胸に触れた。続けて、ズボンと下着を下ろす。裸になった俺の中心を、桐生の目が、まっすぐに見つめている。

「もう、濡れてるな」

「……っ」

「触って見せろ。俺の前で。お前がしてるように」

「……できません」

「できる。お前は、そのためにここに来たんだろう」

　桐生が、床に膝をつく俺の前に、椅子を引いて座った。脚を開き、背もたれに肘をついて、観客のように、俺を見る。

「ほら。自分で触れ」

　観念した。

　俺は、震える指を、自分の股間に伸ばした。まずは、太腿の内側を、指の背でなぞる。生温い汗と、蕾の先から滲んだ蜜で、そこはもう、ぐっしょりと湿っていた。カーテンの向こう、窓の外は、まだ夕方の明るさが残っている。

「あ……っ」

　中指が、ぷっくりと膨らんだ突起に触れた。触れただけで、腰がびくりと跳ねる。桐生の前で、自分で、触っている。その事実だけで、割れ目の奥が、きゅう、と収縮して、蜜を溢れさせる。

「指、止めるな。俺の前で、お前の一番感じるところを見せろ」

　桐生の声が、ねっとりと耳に絡みつく。俺は、目を閉じたいのを堪えて、自分のクリトリスに指を這わせた。あの夜、桐生がしたように。円を描くように、先端を、優しく、何度も、何度も。強すぎず、弱すぎず。

「んぁ……っ、ふ……ぅ」

「その顔だ。感じてる顔を、よく見せろ」

　指先が、あの腫れた芽の根元を、くにくにと押し潰す。腰が浮く。反る。閉じた太腿が、がくがくと震える。視界の端に、桐生が、脚を組み替えるのが見えた。彼も、昂っている。スラックスの前を、わずかに、膨らませながら。

「……もっと、中に指を入れたいか」

「……はい……」

「なら、自分で入れろ。二本だ」

　言われるままに、中指と薬指を、溢れた蜜で濡らし、窄まりに当てる。自分で、自分の割れ目を、押し開く。異物が、ぬるりと、内側へ吸い込まれていく。

「あぁ……っ、ん……、ぁあ……」

「奥まで。全部」

　指が、根元まで沈んでいく。内壁が、指に絡みついて、きゅうきゅうと締め付ける。指を曲げると、あの夜、氷室に教えられた場所——ざらついた、奥の、斜め上——に、爪の先が当たって、甘い痺れが、尾てい骨を突き抜けた。

「あっ……！ そこ……っ」

「そこが、お前の弱点か。自分で擦ってみろ」

　言われた通りに、指を抜き差しして、内側の膨らみを、ぐちゅぐちゅと音を立てて擦り上げる。恥ずかしい音。水音が、部屋に、やけに大きく響く。桐生の前で。見られながら。人差し指で、同時にクリトリスを潰すと、視界が白く弾けた。

「あ……！ や……、イく……！ 桐生さ……っ！」

「勝手にイくな。許可するまで、我慢しろ」

「むり……！ もう……！」

「我慢しろ。できないなら、その手を離せ」

　指を、咥えたまま、内壁が何度も痙攣して、イきそうになるのを、必死にこらえる。涙が浮かぶ。涎が、口の端から垂れる。それでも、俺は、桐生の命令に従って、指を咥えたまま、快楽のぎりぎりで、震えていた。

「いい子だ」

　その言葉に、ぞくぞくと背中が震えた。褒められた。この人に、褒められた。その事実が、身体をさらに熱くする。

「その指を抜いて、こちらに来い」

　言われて、俺は指を抜いた。溢れた蜜が、太腿を伝って、床にまで垂れた。四つん這いで、桐生の足元まで這う。靴に、口付けそうな距離で、桐生が言った。

「俺のものを、咥えるか？ それとも、直接、お前の望みを言うか」

「……桐生さんの、……桐生さんの、熱いのを、俺の中に、ください」

　自分で言った。言ってしまった。顔が焼けるように熱い。桐生は、スラックスの前を自分で寛げながら、俺の頭を撫でた。

「よく言えた。なら、咥えろ。男の味を、覚えろ」

　顔の前に、そそり立つ陰茎。あの夜、俺の中に挿入ったもの。雄の匂いが、鼻腔を突く。おそるおそる、舌を出して、先端に触れた。しょっぱい。熱い。脈打っている。喉の奥まで、ずぶずぶと、自分から咥えていく。

「……んぐ……っ、ぅ……んん……っ」

「そうだ。もっと、奥まで。お前の喉、きつくて、いい」

　頭を抑えられ、最奥まで突かれる。それでも、苦しさの中に、陶然とするような快感がある。俺の口は、いま、桐生を咥えている。男のものを、啜っている。涎を垂らしながら。情けない顔で。それが、嬉しい。

「もういい。……ベッドに行くぞ」

　桐生に腕を引かれ、奥の寝室へ。シーツの上に、仰向けに寝かされる。脚を、大きく開かされ、露わになった割れ目に、桐生の陰茎の先端が、とん、と当てられた。

「自分で、入れろ」

「……え」

「俺は動かない。欲しいなら、お前が自分で咥え込め」

　彼は、両手を俺の腰の横につき、貫入を待つ。焦らすように、先端が、ぬるぬると窄まりを滑る。入れたい。もっと、奥に。欲しい。身体の奥が、飢えたみたいに、広がって、熱い。俺は、自分の手で桐生の陰茎を支えて、泣きそうになりながら、腰を下ろす。

「ん……、あ……、あぁぁ……っ」

　ずぶ、と音を立てて、亀頭が入り込む。次いで、太い幹が、内壁を拡張しながら沈んでいく。途中で、怖くなって止まる。

「全部入ってないぞ。自分で、動け」

「……むり、です……っ」

「できる。ほら、泣いてないで、腰を振れ。お前の好きな奥まで、自分で」

　俺は、震える太腿で、ゆっくりと腰を沈めた。内臓を押し上げられるような圧迫。それなのに、奥が、子宮の入り口が、先端と口づけて、甘い。涙が、目の端から、こぼれた。

「桐生さん……きもち、い……っ」

「だろうな。お前のそこ、俺を咥えて、離さないから」

　一番奥まで入った。腹の上から、自分の中の形がわかるくらい。は、と息を吐けば、絡みつく内壁が、いやらしく蠢いた。

「自分で動けるか」

「……はい……っ」

「いい子だ。動いて、見せて」

　自分から、腰を持ち上げる。抜けかけて、また、落とす。ぱちゅん、と、濡れた肌がぶつかる音。恥ずかしい。でも、やめられない。桐生の陰茎を、自分で、奥まで。一番、感じる角度を探して、腰をくねらせる。

「あっ、あっ、そこ……！ 桐生さん……！ 桐生さん……っ！」

「お前、男だろ。なのに、なんで、そんな女みたいな声が出るんだ」

「や……！ 言わないで……！ んぁ……っ！」

「言ってほしいんだろ。お前、そうされるの、好きだろう」

「ちが……！ ちがう……っ」

「なら、なんで、そんなに、俺を、締め付ける」

　クリトリスを、桐生の親指が、ぐり、と潰した。

「ひぁ……っ！ あぁぁ……！ イく……！ イきそう……っ！」

「まだ、勝手にイくな。俺の許可がいるだろう」

「おねがい……！ イかせて……！ 桐生さんの、おちんぽで、奥で、イかせて……っ！」

「お前は、男か？ 女か？」

「……お、男、です……っ」

「なら、なぜ、ここが、こんなに濡れてる？」

　桐生が、結合部を指でなぞり、溢れた蜜を、ぐちゅ、と擦り合わせる。その感覚に、内壁がさらに収縮した。桐生が、笑う。

「男の身体で、男に開かれて、ここを濡らして。……それが、お前の真実だ」

「……あぁ……っ、そう、です……。俺……っ、男、だけど……桐生さんに、開かれて……っ、きもち、いい……っ」

「いい子だ。自分の口で言えたな」

　桐生が、その時、初めて、下から腰を突き上げた。

「ひぁ……っ！？」

「なら、もっと、気持ちよくしてやる。自分で動くな。今度は、俺が、お前を堕とす」

「あぁっ！ あっ！ あっ！ そこ……！ おく……！」

　体位を、押し倒すように変えられ、深く、重い抽送が始まった。最奥を、こじ開けるような、腰の動き。声が、抑えられない。自分の声なのに、女のように高く、甘く、尾を引く。桐生の背中に、手を回す。太い背筋が、汗で濡れている。俺は、確かに、男の身体に、しがみついている。

「……んっ、あぁ……！ や……、また、イく……！」

「一緒に、イけ。俺も、もう、もたない」

「桐生さ……っ！ 桐生さん……！」

　瞬間、彼が、俺の左手を握った。強く。縫い付けるように。俺は、その手を、夢中で握り返した。硬い掌。指の間に、指を絡める。桐生の動きが、一瞬、止まった。

　彼の目が、揺れる。

　いつもの、支配者の目じゃなかった。戸惑いと、驚きと、そして――泣き出しそうな、弱さ。俺は、その顔を、まっすぐに見た。桐生は、何かを言いかけて、やめた。喉が、上下する。握られた手に、力がこもる。指が、震えている。

　彼は、何も、言わなかった。

　代わりに、繋いだ手を、自分の口元に、持っていった。俺の指先に、唇が、触れる。男の、硬い、薄い唇。そのまま、指の腹を、噛むように、食むように。彼の舌が、俺の指の間を、ゆっくりと舐めた。俺の、クリトリスを触り、膣を抉り、精液を拭った指。その、一本ずつを、彼の唾液が、なぞっていく。

　俺は、その顔を、見た。桐生は、目を閉じている。支配者が、獲物の指を、祈るように、口に含んでいる。

「……ぁ」

　声が、出た。桐生が、目を開けた。その瞳は、濡れていた。

「……行くな」

　彼の声は、掠れて、消え入りそうだった。

「どこにも、行くな」


第五章：大崎との時間

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　マンションでの生活は、奇妙なほど静かに始まった。

　桐生からは「好きに使え」と個室を与えられ、大崎は無言でタオルや着替えを用意してくれた。氷室は「栄養バランスを考えろ」と献立表を冷蔵庫に貼ってきた。三人はそれぞれの方法で、俺を受け入れていた。性的な関係はもちろん、日常のすべてが、彼らとの距離を少しずつ変えていく。

　特に大崎との時間は、言葉がなかった。

　夕方、仕事から帰ると、大崎がリビングでトレーニングをしていた。黒いTシャツの上からでもわかる、異様なほど発達した大胸筋。腕を曲げるたびに、血管が浮き上がる。俺が通るのにも気づかず、無心でダンベルを上げ下ろしている。汗が床に落ちる。男の匂いが、部屋に満ちていた。

「……おかえり」

　大崎は、俺の方を向かずに言った。

「た、ただいまです」

　それだけ。会話は終わり。でも、なぜか嫌な沈黙ではなかった。大崎の背中は、いつもより少しだけ、こちらを意識しているように見えた。

　その夜、風呂を済ませて部屋に戻ると、大崎が立っていた。

「……桐生さんが、今日はお前に付き合えって」

「付き合えって……？」

「身体を、解せ」

　そう言うと、大崎は俺の腕を掴んで、無言で別室に連れて行った。トレーニングルームの隣にある、畳敷きの和室。照明は落としてあって、障子越しの月明かりだけが、ぼんやりと二人の影を浮かべている。

「座れ」

　言われるままに座る。大崎は俺の後ろに回り、肩を掴んだ。

「……痛かったら言え」

　それだけで、大崎の指が、俺の肩を揉み始めた。力は強いのに、的確だった。凝っている場所を見つけ出し、指の腹でじっくりと揉み解していく。俺は思わず、小さく息を吐いた。

「……気持ちいいです」

　大崎は何も言わない。でも、肩を揉む手の力が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。

　どれくらい経っただろう。いつの間にか、大崎の手は肩から首筋へ、首筋から胸の上へと、ゆっくりと移動していた。Tシャツの上から、両手で胸板を包むように掴まれる。そのまま、大崎の手が、ゆっくりと下りてくる。

「……大崎、さん？」

「……お前を、解す」

　低い声。背中に、大崎の胸板が密着する。硬い筋肉の感触。心臓の音が、背中越しに伝わってくる。大崎の手が、俺のTシャツの裾から中に入ってきた。厚い指が、汗ばんだ腹筋をなぞる。その手のひらが、ゆっくりと上へ這い上がり、俺の胸筋を掴んだ。

「っ……ぁ」

　乳首を、指先で押し潰される。びくん、と腰が跳ねた。あの夜から、俺の身体はもう、他人の指に反応することを覚えてしまっている。大崎の指が乳首を転がすたび、下腹部の奥がきゅうと締まって、太腿の間が熱くなっていく。

「……声を我慢するな」

　大崎が耳元で囁く。低い声が、背筋を震わせた。彼の手は、もう俺の身体を知っている。感じる場所を、反応を、すべて見透かしたように、焦らすように触れてくる。乳首を捏ね、腹筋をなぞり、腰骨のくびれを指でくすぐる。それだけで、俺の身体はじんじんと熱を持って、下着の中が、濡れ始めていた。

「……ゃ、待っ……まだ、心の準備が……」

「必要ない」

　大崎はそう言って、俺の身体を抱え上げた。片手で腰を、片手で背中を。軽々と、俺の身体が浮かぶ。そのまま、大崎の太ももの上に座らされる。向かい合う体勢。目の前には、大崎の無表情な顔。月明かりに照らされた、無骨で男らしい顔。なのに、その目は、熱を持って俺をまっすぐに見ていた。

「手首を、出せ」

「……え？」

「手首を出せ」

　有無を言わせぬ声。俺は観念して、両手を差し出した。大崎は自分の片手で、俺の両手首をまとめて拘束した。骨が鳴りそうなほどではない。でも、どんなに力を込めても抜けない、絶対的な力。男として、これほど力の差を見せつけられるのは、屈辱だった。なのに。

「……あっ」

　大崎の空いた方の手が、俺のスウェットの上から、股間をまさぐった。指先が、腫れ上がったクリトリスの位置を探り当てる。布の上から、ぐり、と押し潰された瞬間、目の前が白んだ。

「ひぁっ……！」

「……ここだな。お前が、一番感じる場所」

　大崎の指が、布越しにクリトリスを摘まんで、こね回す。強すぎるほどなのに、快感だけが身体を突き抜ける。腰が浮き、太ももが震える。逃げようにも、手首は拘束され、腰は大崎の太ももが支えている。身動きできない。いや、身動きするたび、クリトリスが大崎の指に擦り付けられるようなものだった。

「や……っ、それ、だめ……！ あっ、あっ、そこ、すごい……！」

「……逃げるな」

　大崎の指が、俺のスウェットと下着を一気に下ろした。露わになった股間。月明かりの下で、しっとりと濡れたクリトリスが、大崎の指の間で、つやつやと光っているのが見えた。恥ずかしい。なのに、目が離せない。大崎の指が、俺の一番敏感な場所を、無言で、正確に責め続ける。

「んあぁっ……！ 大崎さん……！ 指、すごい……！」

「……ここか」

　大崎の指が、クリトリスから下へ滑り、割れ目をなぞって、入り口に触れる。もう、そこは、とろとろに溶けた蜜であふれていた。大崎の中指が、何の抵抗もなく、奥まで沈み込んでくる。

「あああっ……！」

　内壁を、大崎の指が広げる。二本目が入り、中で指を開かれる。ひくひくと蠢く膣内を、大崎は無言で探り続けた。やがて、指先が、ざらついた前壁の、ある一点を押し上げた。

「ひぃっ……！ そこ……！」

「……ここだな」

　大崎の指が、Gスポットを、ぐ、と押し潰した。内側から、腹の奥を突き上げられるような感覚。尿意にも似た切ない疼きが、腰の奥で爆発する。太ももが開き、背中がのけ反る。大崎の太ももの上で、俺は、だらしなく腰を揺らしていた。

「あっ！ あっ！ あっ！ だめ、そこ、だめ！ イく……！ イっちゃう……！」

「……イけ」

　大崎の指が、Gスポットを、ぐちゅぐちゅと音を立てて擦り続ける。手首を拘束されたまま、太ももの上で、俺は、大崎の指だけで、あっけなく絶頂した。

「ああああっ……！！」

　膣が大崎の指を絞めつける。溢れた蜜が、大崎の手を汚して、太ももを伝って畳に落ちていく。身体が痙攣して、止まらない。涙が視界を滲ませた。

「は……っ、ぁ……、大崎、さん……」

　大崎は、まだ指を抜かない。絶頂の余韻で敏感になった内壁を、ゆっくりと撫で回す。そのたび、身体が、ひく、ひく、と跳ねる。大崎の胸板に、私は……いや、俺は、頭を預けたまま、荒く息をした。

「……力を抜け」

　大崎が、俺のスウェットと下着を完全に脱がせた。全裸になった俺を、大崎は両腕で抱えるようにして、自分の腰の上に乗せる。ごつ、と、大崎のズボンの上から、硬く勃ち上がった陰茎が、俺の濡れた割れ目に触れた。あまりの熱さと硬さに、身体が竦む。

「……挿れるぞ」

「……はい」

　無言のまま、大崎が自分のズボンを下ろした。現れた陰茎は、桐生のそれよりも、さらに太い。先端が、ぬるぬるの入り口に当てられる。大崎の手が、俺の腰を支えて、ゆっくりと下ろしていく。

「ああああ……っ！ 太い……！ 入って……る……！」

「……全部、入れるぞ」

　大崎の陰茎が、俺の中を、奥へ奥へと押し広げていく。痛いはずなのに、熱いはずなのに、それを上回る満たされ感。大崎の大きな手が、俺の尻を掴んで、ぐ、と引き寄せた。最奥まで一気に突き入れられ、視界が真っ白になる。

「ひぅっ……！ あああっ……！」

「……動くぞ」

　大崎が、下から突き上げる。無言で、ただ、力強く。俺の身体が、大崎の腕の中で跳ねる。腰を掴まれ、上下に揺さぶられる。奥の奥まで、大崎の形を刻み込まれるような快感。手首はもう、拘束されていない。でも、逃げようと思わなかった。この力に、この無言の圧力に、身体ごと包まれることが、どうしようもなく心地よかった。

「あっ！ あっ！ すごい……！ 大崎さん、んぅ……！」

「……声が、大きい」

「だって……っ、あ、奥、当たって……！ んああっ……！」

　大崎の陰茎が、子宮口のすぐ手前を、ごりゅ、ごりゅ、と擦る。そのたび、甘い痺れが全身に走って、目の奥がチカチカした。大崎の胸板にしがみつく。汗の匂い。男の匂い。力で敵わない男に、女の部分を、いいようにされている。それなのに、怖くない。怖いはずなのに、この人の腕は、なぜか、檻のように思えなかった。むしろ、壁のように、俺を護ってくれているような、錯覚すらあった。

「……大崎さん……あの……もっと、強く……」

「……ん」

　大崎の腰が、速くなる。滅多に感情を見せない男が、少しだけ、息を乱している。それだけで、胸の奥が熱くなった。

「俺……大崎さんの力、いやなのに…… 気持ちいい……」

「……俺もだ」

　ぼそり、と大崎が呟いた。その瞬間、大崎の陰茎が、最奥まで突き入れられた。

「ああああっ……！！ イく……！ またイく……！」

「……俺も、出すぞ」

「中に……！ 奥に……！」

　大崎の低い唸り声。それから、腹の奥で、熱いものが爆ぜた。精液が、子宮の入り口を叩く。俺も同時に絶頂した。全身が震えて、大崎の首に縋りつく。涙が止まらなかった。男に抱かれて、男の精を注がれて、それで、どうしようもなく安心している自分がいた。

　しばらく、二人とも動けなかった。

　大崎の陰茎が、まだ中に入ったまま、ゆっくりと萎えていく。その過程すら、愛おしいと思ってしまう。俺は、大崎の胸に額を押し付けたまま、小さく言った。

「……大崎さん、ありがとう」

　大崎は答えない。その代わり、俺の汗で張り付いた前髪を、そっと指で払ってくれた。それから、俺の身体を抱えたまま立ち上がり、浴室まで運んでくれた。湯船に浸からせ、俺の髪を洗ってくれる。その手つきが、あの行為の時と同じくらい、いや、それ以上に丁寧だった。

「……また、来る」

　体を洗い終え、バスタオルを俺に巻きつけた後、大崎はそう言った。無骨な背中が、浴室の出口に向かう。

「待って、大崎さん」

　呼び止めると、大崎が、こちらを向かずに立ち止まった。

「大崎さんは、どうして俺に触れるんですか」

　静かな浴室に、俺の声が響いた。大崎は、長い沈黙の後、ゆっくりと振り返った。その顔は、相変わらず無表情だった。でも、目の奥に、何かが揺れているのが見えた。

「……わからない」

　ぽつり、と大崎が言った。

「でも、お前に触れると、ここが温かい」

　そう言って、大崎は、自分の厚い胸板の、心臓の上に手のひらを置いた。無骨で、大きな、戦場でたくさんのものを失ってきた男の手。その手が、自分の心臓の位置を、そっと押さえていた。

「……お前は、俺を、温かくする」

　それは、彼が生まれて初めて、自分の感情に付けた、不器用な名前だった。

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第六章：氷室との１か月

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「今日から、お前の身体の変化を、継続的に記録する」

　氷室にそう告げられたのは、マンションでの生活が、ようやく日常に馴染み始めた頃だった。

「記録、ですか」

「そうだ。お前の身体は、性的刺激に対する反応が特殊だ。時間をかけて、その変化を追う必要がある。拒否はできる。ただし、拒否した場合、この先、俺がお前の身体に触れることはない」

　拒否できる、と彼は言った。だが、その声は、拒否など最初から存在しないとわかっているような、静かな断定だった。俺は診察台の上に、仰向けに寝かされた。脚を、二つのステップに分けて固定される。革の感触が、ひやりと背中に冷たい。

「今日は、お前の身体が、どの順番で、どこを、どれくらいの圧で感じるかを、最初から測り直す」

　氷室は、白い指先にゴム手袋をはめた。眼鏡の奥の目が、俺の身体を、顔から胸へ、胸から腹へ、腹から股間へと、ゆっくりと下りていく。値踏みするようでいて、値踏みですらない。これは、ただの観察だ。空気の温度を測るのと同じ、無機質な視線。

「まず、乳首からだ」

　氷室の人差し指が、俺の左の乳首に触れた。軽く、押す。摘まない。擦らない。ただ、指の腹で、押し潰すように、一定の圧をかける。

「……っ」

「反応。乳頭の勃起、乳輪の収縮。圧に対する感受性は、前回と変わらない。次、右」

　同じことを、右の乳首にも。今度は、指を、一ミリだけ、ずらす。圧の角度を変えて、反応の違いを見る。俺の呼吸が、少しだけ、浅くなる。彼の指が、あまりに正確で、あまりに冷たくて、身体が、勝手に、感じてしまう。

「乳首の感度は、左右差がほとんどない。次、腹部」

　指が、鎖骨から、胸の谷を通って、腹筋の上へと下りてくる。なぞる。腹筋の、一番上の割れ目から、ゆっくりと、臍の下まで。くすぐったいはずなのに、ぞわぞわと、背筋に何かが走る。彼の指は、性感帯を責めているわけではない。ただ、皮膚の反応を、確かめている。それなのに、俺の下腹部は、じわり、と熱を持ち始める。

「皮膚の過敏反応が見られる。触覚が、性感と結びつき始めている。予想通りだ」

　予想通り。その言葉が、妙に胸に刺さった。俺の身体は、この人にとって、予想の範囲内の、ただのデータなのだ。それでいい。その方が、気楽だった。

「股間を広げる」

　氷室の手が、俺の両膝を開かせる。露わになった割れ目。もう、とろりと蜜が滲んでいた。見られている。測定されている。その事実だけで、奥が、きゅう、と締まる。氷室の指が、膨らみかけたクリトリスに、触れた。

「ひ、ぅ……っ」

「クリトリスの勃起。血流の増加を確認。触覚刺激を開始する」

　氷室の指が、ゆっくりと、突起の根本から、先端へ向かって、なぞり上げる。一回。二回。三回。同じ速度で、同じ圧で。俺の腰が、浮きかけるのを、彼の左手が、下腹部を軽く押さえて、止めた。

「動くな。これから、お前がどこで、どんな風に感じるかを、正確に測る」

「……っ、むり……、動くなって……、そんなの……」

「動くな」

　有無を言わせない声。俺は、唇を噛んで、必死に腰を固定した。氷室の指が、容赦なく、一定のリズムで、クリトリスを扱く。ぐちゅ、ぐちゅ、と、愛液の音が、静かな診察室に、やけに大きく響く。彼の指は、俺を悦ばせようとしているのでは、ない。反応を、引き出そうとしている。その差が、逆に、俺の身体を、おかしくさせる。

「……あっ、あ、だめ、それ、イ……っ」

「まだだ。今、どの段階だ。声で、説明しろ」

「な、にを……っ」

「お前が、今、どれくらい感じているかだ。俺は、お前の身体の、外側から見える反応しか、わからない。お前の口で、中で起きていることを、言え」

「……っ、クリトリスが、熱くて……おくの、ほうが……きゅう、って……っ」

「奥。膣の奥か。子宮が、下がってきているのか」

「わか、んない……！ でも、あつくて、はやく、いか、せて……っ」

「だめだ。許可するまで、イくな。……なるほど、クリトリスへの単独刺激でも、膣の収縮が始まるのか。前回より、明らかに感度が上がっている。覚えたな、この身体は」

　氷室の声には、感心が混じっていた。医者が、症例の経過を、面白がる時の、あの声。俺は、その声を聞きながら、歯を食いしばった。こんな、実験台みたいな扱い。なのに、身体は、彼の指から、目が離せない。イかせてほしい、と、心のどこかが、叫んでいる。

「……っ、もう、むり……！ イく……！ イっちゃう……！」

「あと十秒、我慢しろ。……八、七、六……」

「や、かぞえ、ないで……っ！ ひぁ、あ、あ……！」

「三、二、一。……よし、イけ」

　許可が下りた瞬間、全身が、がくん、と跳ねた。腹の底から、快楽が、津波のように押し寄せる。膣が、何も咥えていないのに、きゅうきゅうと痙攣して、愛液が、太腿を伝って、診察台の革を、ぐっしょりと濡らした。

「は……っ、はぁ……っ、あ……」

「一回目の絶頂。膣の痙攣、三十二秒。内腿の震え、継続中。愛液の分泌量、多い。……次は、膣内の測定に入る」
