第2話「先輩、ジュース奢って♡」


夕暮れの住宅街を、三人は並んで歩いていた。
正確には、結衣と早紀が並び修一が少し後ろをついていく形だった。
「ねえ早紀、さっきの動画めっちゃ盛れてない？」
「うん、あれよかった。結衣の最後のポーズ可愛かったし」
「でしょー？　あれ投稿しよっかな」
二人はスマートフォンを覗き込みながら、楽しそうに笑っている。
修一は会話に入るきっかけをつかめず、黙って歩いていた。
つい数時間前に出会った二人。それが今では、一緒に帰っている。
しかも、校内でも目立つ可愛い後輩たちだ。
（……僕、今、可愛い後輩と一緒に帰ってるんだよな）
修一は、少しだけ背筋を伸ばした。
すると、早紀がふいに振り返った。
「喉渇かない？」
「うん、あ、ちょうど自販機ある！」
早紀は道の先にある自動販売機を指さした。
結衣も顔を上げる。
二人は自然な足取りで自動販売機へ向かった。
修一も何となく後をついていく。
「何にしよっかなー」
結衣が商品のボタンを眺める。
「私、ミルクティー！」
「じゃあ私、レモンティーにしよ」
早紀がそう言ってから、隣の修一を見た。
「せんぱぁ～い♡」
「……な、何？」
「ジュース、奢ってください」
あまりにも自然な口調だった。
まるで、最初からそうすることが決まっていたかのように。
「……え？」
「え、じゃなくて。ジュースです」
早紀はにっこり笑った。
「今日、撮影頑張ったから喉渇いちゃって」
「……あ、うん」
修一は思わず頷きかけた。
しかし、すぐに引っかかった。
二人は楽しんで撮影していて
むしろ、自分はゲームを中断して二時間近く手伝いを付き合ったのだ。
普通なら、逆ではないだろうか。
「あの……」
「ん？」
「いや、その……」
早紀が首をかしげる。
「どうしました？」
その表情には断られるかもしれないという不安など、少しも見えなかった。
むしろ、断られるはずがないという確信に満ちていた。
修一は言葉を飲み込んだ。
結衣が横から笑いながら口を挟んだ。
「えー、早紀。先輩に奢ってもらうの？」
「うん。だって先輩だし」
「そっかぁ。先輩だもんね！」
二人は顔を見合わせて笑った。
その笑顔の裏に隠された意味を、修一は読み取れない。
修一は少し考えた。
確かに、たった一本百数十円だ。
こんな可愛い後輩に喜んでもらえるなら、安いものかもしれない。
（……まあ、いいか）
修一は財布を取り出した。
「……これでいいの？」
「やったー！」
早紀が嬉しそうに手を叩いた。
「レモンティーお願いします」
「私ミルクティー！」
結衣も当然のように注文した。
「……あ、結衣さんも？」
「え？」
結衣が不思議そうな顔をした。
「早紀だけなんですか？」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「えー、ひいきだぁ」
結衣が口を尖らせる。そして、すぐに笑った。
「じゃあ、私にも奢ってくれますよね？」
「……う、うん」
「やったー」
結局、修一は二人分のジュースを買った。
ガコン。
ガコン。
取り出し口からペットボトルを拾い上げ、二人に手渡す。
「……はい」
「ありがとうございまーす♡」
「先輩、優しいですね！」
二人は笑顔で受け取った。
その笑顔を見て、修一の胸が少しだけ高鳴った。
（……まあ、喜んでくれたならいいか）
財布は少し軽くなったが、悪い気はしなかった。
「ねえ、先輩」
早紀がレモンティーのキャップを開けながら言った。
「先輩って、女の子に奢ったことあります？」
「……え？」
「ジュースとか、ご飯とか。女の子に奢るのは初めて？」
「……まあ、そうかな」
「ふーん」
早紀が意味ありげに微笑んだ。
「じゃあ、私たちが初めてなんですね」
「……うん」
「よかったですね、先輩」
「……何が？」
「可愛い後輩に奢れて」
「えっ……」
修一は返答に詰まった。
結衣が声を上げて笑う。
「早紀、自分で可愛いって言ってる！」
「えー、だって先輩、私のことタイプなんでしょ？」
早紀が修一に顔を向けた。
「ね、先輩？」
「……え、あ……うん」
「ほら！」
「先輩、何でもうんって言うじゃん！」
二人はまた笑った。
修一も曖昧に笑った。
その笑顔を見て、早紀と結衣は再び目を合わせる。
すると早紀がふと思い出したように言った。
「……あれ？」
「……何？」
「先輩『はい』じゃないの？」
「……え？」
「さっきから私が何か言うと『はい』って返事してたじゃないですか」
「……あ、はい……」
「あはは！　そうそうそれ！」
二人は一段と大きな声で笑った。
「先輩、自分の分は？」
結衣がミルクティーを一口飲んでから尋ねた。
「先輩は何も飲まないんですか？」
「……ああ、僕はいいよ」
「えー、何で？」
「いや……別に喉渇いてないし」
本当は少し喉が渇いていた。
けれど、三人分を買うのは少しもったいない。
修一はアルバイトをしていたが、自由に使えるお金が多いわけではなかった。
（……家に帰ってから飲めばいいか）
そう考えていた。
すると、結衣がスマートフォンを見て声を上げた。
「あ、やばっ！」
「どうしたの？」
早紀が尋ねる。
「友達と待ち合わせしてたんだった！」
結衣は慌ててバッグを持ち直した。
「ごめん、私こっちから行くね！」
「え、そうなの？」
「うん！　じゃあ先輩、今日はありがとうございましたー！」
「……あ、うん。お疲れ」
「また撮影お願いしまーす」
結衣は早紀に手を振った。
その際、二人の間で素早く目配せが交わされる。
「早紀、また明日ねー！」
「うん、また明日！」
結衣は軽い足取りで歩いていった。
残されたのは、修一と早紀の二人だった。
「……」
「……」
急に静かになった。
さっきまで賑やかだった帰り道。
今は、早紀と二人きりだ。
修一は何を話せばいいのか分からず、視線を落とした。
こんな可愛い子と、二人きり。
何か、気の利いたことを言わなければ。
そう思えば思うほど、言葉が出てこない。
早紀はそんな修一を横目で見ていた。
その目には、わずかに面白がるような色が浮かんでいる。
「先輩」
「は、はい」
「ふふっ」
早紀が笑った。
「なんでそんな緊張してるんですか？」
「えっ……いや、別に……」
「ふーん」
早紀は手に持っていたレモンティーを一口飲んだ。
それから、修一の顔を見上げた。
上目遣いで。
「先輩、本当は喉渇いてないんですか？」
「……え？」
「さっき二人分奢ったから、我慢してるんじゃないですか？」
「……うん……まあ……」
修一は少し恥ずかしくなった。
見抜かれていた。
早紀は小さく笑った。
「やっぱり」
「……」
「先輩、分かりやすいですね」
「……そうかな」
「うん。すごく」
早紀は少し考えるような顔をしてから、手に持っていたペットボトルを差し出した。
「じゃあ、これ飲みます？」
「……え？」
「レモンティー。まだ残ってますよ」
修一は差し出されたペットボトルを見つめた。
早紀がさっきまで口をつけていたものだった。
修一の顔が一気に赤くなった。
「はい、どうぞ♡」
「……あ、いや……」
「喉渇いてるんですよね？」
「……うん」
「じゃあ、飲めばいいじゃないですか」
早紀は当然のように言った。
「……じゃ、じゃあ、少しだけ」
「どうぞー」
修一はおそるおそるペットボトルを受け取った。
キャップはすでに開いている。
飲み口を見た瞬間、また心臓が跳ねた。
（……ここに、さっき早紀さんが……）
「先輩？」
「は、はい！？」
「何見てるんですか？　飲まないんですか？」
「の、飲むよ……」
修一は意を決してペットボトルに口をつけた。
ごくっ。
レモンティーの甘酸っぱい味が口に広がった。
普段飲むものと何も変わらないはずなのに、味などほとんど分からなかった。
ただ、早紀の唇が触れていた場所に、自分の唇が触れている。
その事実だけで、頭が真っ白になった。
早紀はペットに餌を与えて、食べるのを観察するような表情で修一の顔をじっと見つめていた。
「……ふふっ」
「な、何？」
「先輩、顔真っ赤ですよ？」
「い、いや……暑いから……」
「今日、全然暑くないですけど」
「……」
修一は返す言葉を失った。
早紀は楽しそうに笑いながら、ペットボトルのキャップを渡した。
「おいしかったですか？」
「……うん」
「はい、じゃないの？」
「……は、はい。おいしかったです」
早紀は吹き出した。
「あはは！　全部敬語になってる！」
修一は恥ずかしくなって俯いた。
「だ、だって……」
自分のほうが二学年上なのに、すっかり早紀のペースに乗せられている。
けれど、嫌ではなかった。
むしろ、もっと話していたいと思ってしまう。
こんなに可愛い子が、自分にこんなに親しくしてくれるなんて。
早紀はそんな修一の顔を覗き込んだ。
「ねえ、先輩」
「……うん？」
「そんなに嬉しかったんですか？」
「……何が？」
「私の飲みかけ、飲めて♡」
「……っ！」
修一は何も答えられなかった。
しかし、その反応が答えになっていた。
早紀は満足そうに微笑んだ。
「ふふっ。先輩って、ほんと面白いですね」
そして、何事もなかったように歩き始めた。
修一は慌ててその後を追った。
さっき飲んだレモンティーの甘さが、いつまでも口の中に残っているような気がした。
早紀の唇を、間接的に感じてしまった感触が、消えない。
しばらく歩いた頃。
早紀がふと思い出したように言った。
「そういえば、先輩」
「……何？」
「明日も部室行こうかな」
修一は思わず顔を上げた。
「……本当？」
「はい。あそこ静かだし、結構居心地いいんですよね」
「……そっか」
「いい場所見つけちゃった」
早紀は楽しそうに笑った。
そして、何気ない調子で付け加えた。
「先輩もいるし」
「……えっ」
修一の足が一瞬止まった。
早紀が振り返る。
「どうしました？」
「い、いや……」
「ふふっ。もしかして嬉しい？」
修一は小さく頷いた。
「……はい」
「ふふっ。そっか」
早紀は満足そうに笑った。
「じゃあ、明日も行きますね♡」
修一の胸が高鳴った。
（……明日も、早紀さんに会えるんだ）
「あ、そうだ」
早紀が何かを思いついたように言った。
「先輩、私たち、ちょっと距離縮まりましたよね？」
「……え？」
「今日、一緒に帰ったし。ジュースも奢ってもらったし」
「……まあ、そうかな」
「だから、いつまでも敬語だと距離感じません？」
早紀はにっこり笑った。
「私、先輩にタメ口で話してもいいですか？」
修一は少し驚いた。
「……え？」
「そのほうが仲良くなれそうじゃん」
最後の言葉だけ、早紀はわざとタメ口にした。
「どう？」
そう言いながら、早紀は少しだけ距離を詰めてくる。
その近さに、修一の心臓は早鐘を打つ。
女の子の匂いがした。シャンプーだろうか。甘い香りが鼻腔をくすぐる。
修一は緊張しながら頷いた。
「……わ、分かった。タメ口でいいよ」
「やったぁ♡」
早紀は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これからよろしくね。先輩」
「……うん」
すると、早紀が首をかしげた。
「あれ？」
「……何？」
「先輩は敬語じゃないの？」
「……え？」
「さっきみたいに『はい』って言ってよ」
「……いや、それは……」
「だめ？」
早紀はいたずらっぽく笑った。上目遣いで、少し首をかしげ、顔を近づける
「先輩が敬語で話すの、なんか面白いんだもん」
目を合わせられずに床に落とし、再びその瞳に視線が吸い込まれる
早紀はずっと楽しそうにこちらを見ている。
「……分かりまし……た」
「ふふっ！イイ感じ！似合ってるよ」
「……そ、そうですか」
「うん。なんか先輩らしくないところが、先輩らしい」
「……どういう意味ですか？」
「あはは！　そういうところ！」
早紀は楽しそうに笑った。
修一は苦笑いした。
（……何だろう、この感じ）
二学年も下の後輩に、敬語を使わされている。
普通ならおかしいはずなのに。
早紀が嬉しそうにしていると、どうしても断れなかった。
それどころか
（……仲良くなれたってこと、なのかな）
そんな期待まで抱いてしまう。
「じゃあ、また明日ね♡」
やがて、駅に着いた。
改札を通り、二人が乗る電車のホームへ向かう分かれ道で、早紀が立ち止まった。
「じゃあ先輩、私こっちだから」
「……あ、はい」
「今日はありがとね」
「……いえ」
「ジュースもごちそうさま♡」
「……はい」
早紀は少し笑った。
「先輩、最後まで敬語だね」
「……あ」
「ふふっ。いいじゃん、そのままで」
修一は照れくさそうに笑った。
早紀は手を振った。
「じゃあ先輩、また明日ね！」
「……はい。また明日」
早紀は改札内の通路を歩いていった。
修一は、その後ろ姿が見えなくなるまで立っていた。
（……明日も来るんだ）
自然と頬が緩んだ。
今まで誰も来なかった部室。
一人でゲームをするだけだった放課後。
そこに、あんなに可愛い後輩が二人も来るようになった。
しかも、早紀は自分がいるから部室に来ると言ってくれた。
（……もしかして、少しは好かれてるのかな）
そんな期待が頭をよぎる。
修一は慌てて首を振った。
（いやいや、そんなわけないだろ）
それでも、嬉しさは消えなかった。
今日、修一が失ったもの。
ゲームの勝利と、ジュース二本分のお金。
そして、先輩らしい話し方。
代わりに得たものは、早紀と二人きりで帰った時間と、忘れられないレモンティーの思い出だった。
修一にとっては、十分すぎるほどの収穫だった。
その夜、修一の部屋
帰宅して夕食を済ませた修一は、ベッドに横になり天井を見上げた。
部屋の明かりは消してある。スマートフォンの画面だけが、ぼんやりと顔を照らしていた。
（……早紀さん）
ふと、帰り道の出来事が蘇る。
『じゃあ、これ飲みます？』
差し出されたレモンティー。
細い指が、ペットボトルを差し出す仕草。
自分を見つめる早紀の瞳。
少し潤んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。
『先輩、顔真っ赤ですよ？』
からかうような笑顔。
少し首をかしげて、上目遣いでこちらを見る仕草。
『私の飲みかけ、飲めて嬉しかった？』
あの言葉。
思い出すだけで、体が熱くなる。
「……あー、もう」
修一は両手で顔を覆った。
思い出すたびに恥ずかしくなる。
それなのに、何度も思い出してしまう。
頭の中で、早紀の声が何度も再生される。
（……可愛かったな）
自動販売機の前で、振り返った早紀。
「先輩♡」
少し甘えたような声。
上目遣いに見上げる視線。
ほんの少しだけ近づいた距離。
甘いシャンプーの香り。
（……あんな可愛い子に、あんな風に言われて）
修一は目を閉じる。
瞼の裏に、早紀の姿が浮かぶ。
『先輩、ジュース奢ってください』
お願いする時の、少しだけ首をかしげる仕草。
断られるはずがないという確信に満ちた、小悪魔的な笑み。
修一は、その表情に気づかなかったわけではない。
ただ、そんな表情すらも可愛いと思ってしまった。
『先輩もいるし』
部室に来る理由。
自分がいるから。
そう言われた時の、胸の高鳴り。
（……もしかして、本当に少しは……）
期待が膨らむ。
そして、それと同時に体の奥底から込み上げてくるものがある。
（……ごめん）
修一は無意識に、ズボンの上から自分の中心に手を当てていた。
すでに硬くなっている。
（……早紀さん）
誰に謝っているのか自分でも分からなかった。ただ、罪悪感のようなものが胸の奥にあった。それでも、手は止まらなかった。
ズボンを下ろすと、下着の上からすでに反応している自分に気づく。修一は少しだけ恥ずかしくなって、目を閉じた。そして下着の中に手を入れる。
（……あ）
冷たい手のひらが熱を持ったそこに触れる。その感触だけで、背筋が震えた。
ゆっくりと、上下に手を動かす。回数を重ねるごとに、自然と息が荒くなる。
目を閉じれば、暗闇の中に、今日の風景が浮かんでくる。
『先輩、しゃがんで撮ってください』
結衣の声。低い位置から見上げた、あの角度。スカートの裾がふわりと揺れる。白い脚のライン。
『これ、いい感じ？』
裾を摘まむ指。あらわになっていく、白い肌。
（……結衣さん）
手の動きが、少しだけ速くなる。
そして、隣には早紀がいる。肩が触れそうな距離。甘い匂い。『こうやって持ってここを押して』と、耳元で囁くような声。
『私の飲みかけ飲めて、そんなに嬉しかったんですか？』
目を閉じる。と浮かぶのは教室での撮影。
「先輩、こっち向いてください」
その声。
部室での会話。
「先輩って、どんな子がタイプなんですか？」
興味ありげに覗き込んでくる瞳。
帰り道。
「じゃあ、これ飲みます？」
差し出されたペットボトル。
修一の手が、ゆっくりと動き始める。
（……早紀さんの、唇が触れてたところに……）
間接キス。
そんな言葉が頭をよぎる。
実際にはただのペットボトルの飲み口だ。
それなのに、早紀の唇を想像してしまう。
どんな感触なんだろう。
柔らかいんだろうか。
「……っ」
修一は手の動きを早めた。
頭の中で、早紀が笑っている。
『先輩、顔真っ赤ですよ？』
からかうような声。
でも、その目は優しくて。
『先輩って、ほんと面白いですね』
そう言って笑う早紀。
その笑顔が、どんどん近づいてくる気がして。
（……好きになっちゃうだろ、あんなの）
誰にも聞こえない声で呟いた。
手の動きが、さらに速くなる。
（……明日も、会えるんだよな）
その事実だけで、体の芯が熱くなる。
明日、早紀は部室に来る。
もしかしたら、また二人きりになれるかもしれない。
もしかしたら、もっと仲良くなれるかもしれない。
（……はやく、明日にならないかな）
そんなことを考えながら修一は一人、暗い部屋の中で高みを目指していた。
手の動きはどんどん速くなる。
息が荒くなる。
早紀の笑顔。声。香り。近づいた距離。
すべてが頭の中で渦巻いて。
「……っ、は……」
やがて、修一の体が小さく震えた。
ティッシュに手を伸ばしながら、彼は天井を見つめる。
（……俺、何やってるんだろう）
少しだけ冷静になった頭で、そう思う。
相手は二学年も下の後輩だ。
それなのに、こんなことを考えてしまうなんて。
（……でも）
ティッシュで手を拭きながら、修一は考える。
（……明日も、会えるんだ）


その夜、修一が布団に入って眠ろうとすると、瞼の裏に写る早紀の笑顔
暗い部屋で開いたスマートフォンの画面には、結衣のSNSに投稿された今日の写真。
最新のストーリーは修一が買ったレモンティーがハートの絵文字1文字だけで投稿されていた。
これは、自分にしかわからない自分だけに向けたものか。
ハートの意味を考え出すと思考が止まらない。
明日の部室。何を話すか。どんな顔で笑えばいいか。
レモンティーをまた買うべきか。買ったとして、それを「今日のお礼」と言うのは重いか。
そもそも、今日のお礼って何か……手伝ってレモンティーを渡したのは自分の方で。


早紀の唇が触れた飲み口。
その感触を、まだ覚えている気がした。
（……早紀さん）
その名前を心の中で呟いて、またズボンの中に手が侵入していく


――第2話・終わり。