『後は痛いことも、苦しいこともしないから心配しなくていわよ』 遠野先輩に尻尾の生えたお尻から、無毛の縦筋までをすべて見られていることが、今更ながら恥ずかしかった。 『そこの隅にある台車を、持ってきて』 見ると確かに部屋の隅に台車が置いてあり、その上には大きなダンボールが載っていた。 言われるまま、その台車を押していった。 『そのダンボール箱が気になる?』 「う…………」 わたしはうなずいた。 『まずは、中から部品を取りだして』 遠野先輩の指示に従って、ダンボール箱を開け、部屋の中央に部品を並べてゆく。 一瞬、わたしの動きが止まる。 部品を見ただけで、それが何なのか誰の目にも明らかだ。 それは、小型の鋼鉄製の檻だった。 『わかってるんでしょう? 自分が入れられるってことは』 「……………」 どう反応してよいのかわからず、うつむいてしまった。 『ダンボールの側面に、組立方が書いてあるから、その通りに組み立てなさい』 わたしは、かなり重量のある檻の部品を、無言で組み立ててゆく。 全裸で、お尻に尻尾を挿入されて肉体労働する様子を、遠野先輩に見られている。 しかも組み立てているのは、自分が入る檻だ。 それにしても、全裸で作業させられるということは、こんなにも惨めなものなのか。 ほどなく檻が完成した。 大きさは、人が膝を抱えてようやく入れるほどで、背の低い小さな檻である。 檻はわたしが手足を曲げてやっと入れるほどの大きさで、その中で身体を伸ばしたり、起きあがったりすることは出来そうになかった。 わたしはぶるっと身震いする。 『ごくろうさま。 あれが檻の鍵よ』 遠野先輩が、最後に大きな別の南京錠を視線で指し示す。 テーブルの上にそれがあった。 南京錠は今までで最大の大きさで、わたしの掌ぐらいある。 ずしりとする重量感のある南京錠を手に取ると、わたしは檻の方に戻っていった。 『四つん這いになりなさい』 無言のまま、わたしは手足を突いて四つん這いになる。 そして遠野先輩の言葉を待たずに、南京錠を持ったまま自ら檻の中に入った。 入るといっても、まず頭を突っ込み、中で体を曲げて足を引き込む。 周りを見回すと、どちらを向いても鉄格子だった。 中では、横向きに寝て膝を抱えるか、身をかがめた四つん這いかのどちらかの姿勢しかとれない。 仰向けで足を抱える姿勢は、尻尾が邪魔して出来そうにない。 わたしは横向きの姿勢で入る。 底板の鉄板が冷たかった。 『入ったら、自分で鍵をかけなさい』 遠野先輩の命令に、わたしは檻の中から手を伸ばして、扉に当たる部分の穴に南京錠を通した。 檻の中から手を伸ばし、檻の外の掛け金を掛け、開いてる南京錠のU字の部分を通し、くるりと元の位置へ戻す。 あと、このまま上下に押し付ければ、鍵が掛かる。 すでに、わたしは正常な神経を麻痺させていた。 檻の隙間から両腕を出して、両手でガッシリ掴み、思い切り閉じた。 ━━━━━ガッチャン! すごい音がして南京錠がロックされる。 自分自身を檻の中に閉じこめるために、わたしは鍵をかけてしまった。 『疲れたでしょう、ゆっくり休んでいいからね。 それじゃ、おやすみ』 そんな残酷な挨拶を残して、にっこりと笑うと遠野先輩は、すっとわたしから離れた。 戸が閉められると、部屋は真っ暗闇になった。 すぐにわたしは、疲れから不自然な姿勢のまま眠ってしまった。 |
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