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ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ

包丁をまな板で打ち鳴らす音が響く。呼び声を頼りに旧校舎1階の暗い廊下を恐る恐る通り抜けたさつきと敬一郎は、一番奥の広い部屋に来ていた。大きめのテーブルがいくつも並び、古びたズンドウなど大きな調理器具がそこかしこに置かれている。かっては給食の調理と配膳をしていたであろう厨房だが、使われなくなって既に四半世紀以上になろうかというのに、なぜか今日これから給食の配膳を行うかのように、コンロが赤々と火をともし、鍋釜が湯気を上げている。この部屋でクラスメート達はさつきを待っていた。だが…

 「あやちゃん、美園、圭太くん…、み、みんなっ、どうしたの!?」

調理台に向かって包丁を打ち鳴らしていた彼らは、さつきと敬一郎が部屋に入ると無言でいっせいに振り返ったが、その様子は普段のクラスの仲間たちとは全く違っていた。虚ろな目でさつき達を見つめる彼らは、包丁を手にしたまま、一言も発することなくジリジリとさつき達に詰め寄ってくる。

 「おねぇちゃんっ、怖いよーっ!」

怯えてさつきの腰にしがみ付く敬一郎を伴って、さつきは後ずさりしていった。意思の通わないクラスメートたちの瞳からは害意すら感じる事ができなかったが、包丁を手にフラフラと近寄ってくる姿はただ事ではない。さつきは、自分がただならぬ危機の中にいる事を悟った。

 「みんな…」

呼びかける言葉もなく下がり続けるさつき。だが、部屋から抜け出すまでには下がれなかった。不意に、さつきの背後から何者かの腕が両脇の下に伸び、さつきを羽交い絞めにして捕らえたのだ。

 

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