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「キャーッ!」

心臓を鷲づかみにされたような驚き。羽交い絞めにされたさつきは、さらに足が宙に浮くまでに軽々と持ち上げられていた。

 「い、イヤっ、離してーっ!」

 「宮ノ下ぁ〜、捕まえたぞ、ふふふ…大人しくしな。言う事を聞けば殺しはしないんだからな…」

聞き覚えのある声。しかし…まさか…

 「さ、坂田先生っ!?」

声の主は、さつきのクラスの担任教師の坂田だった。激しくもがき続けるさつきを両手で吊るしながら、まったく動じずニンマリとした笑みを浮かべている。

「お、おねぇちゃんを離せっ!離せ!」

敬一郎が坂田の脚に掴みかかるが、どうにもなるものではない。

 「おい、誰かコイツを引っ剥がしてそっちへ連れてってくれ。ジャマだ」

坂田が部屋の中の生徒に命じると、男子が2人歩み出て敬一郎を引き離した。

 「やだ、離せっ。おねぇちゃーんっ!」

 「け、敬一郎…っ!先生、…みんな、やめてっ、どうしちゃったのっ」

 「…宮ノ下…へへへ…」

なおも脚をバタつかせて逃れようとするさつきを抱きかかえながら、坂田がさつきのスカートに手をかけ、捲り上げた。

 「きゃあっ」

スっと下半身を寒気が襲い、さつきは声を上げた。捲り上げたスカートを、さつきの胴と一緒に左腕で抑え、坂田は右手でむき出しになったさつきの太腿をさすり始めた。外から内股へ、そして股間付近へと動かしながら、くすぐるような刺激を与えてくる。

「おぉ、宮ノ下、スベスベしていて気持ちいいぞ…。どうだ、男子みんなの前でスカート捲られてる気分は?ん?」

「い、いやっ…見ないで…先生、どうしてこんな事を…っ」

周りを取り囲むクラスメート達は相変わらず無表情だが、みな一様に坂田によって晒されたさつきの下半身を見つめている。皆の視線があられもない姿の自分に注いでいるのを知り、さつきは激しい羞恥心に顔が火照るほどだった。

(…宮ノ下…さつき…。神山の血を引く娘が…他愛無いものよな…フフフフフ…)

 「な、なにっ?この…声っ!?」

突然、ゾっと震え上がるような声が室内に響いた。いや、あるいはそれは声ではなかったかもしれない。しかしそれをさつきが意識している余裕はなかった。つい先刻の激しい羞恥が一気に消し飛んでしまうくらい、邪悪に満ちた意思がさつきに伝わり、その全身を凍えあがらせたのである。

 「あっ…!?」

さつきは気が付いた。あまり自由にならない首を動かして声の出所を探そうと周囲を見回すと、暗い天井の空気がざわつき、何かの形をかたどっていくのが見えたのだ。それはやがて、巨大な人のような…しかし人ではない何者かの姿を現していく。

 「な、なに…?これ…」

さつきは一瞬、坂田に捉まえられている事もクラスメート達の視線に晒されている事も忘れた。幻影かと思われたそれは、いまや異形をハッキリと認識できるまでになっている。人のようであるが、身体はまるで岩のようにゴツゴツとして温かみがない。巨大な尾、頭から背にかけて無数の角を生やし、顔は般若の面を思わせるような鬼の形相。これでコウモリの翼でもあれば、いつかホラー映画で見た、西洋の魔物のガーゴイルを思わせるような怪物だった。

 『神山の血を引く者が、かくも霊力を感じさせないとは…。もったいぶる必要もなかったか、グググッ』

 「うぁ…あ…」

あまりの異様さに、さつきと敬一郎は声もない。だが、坂田も他の生徒たちもまったく動じる様子はない。皆がこの怪物に操られているのはもはや明らかだった。

 『よみがえる度に霊眠させられてきた積年の恨み、今こそ晴らしてくれよう…。神山佳耶子の娘、オマエの身体でな…』

 「え…ママ…?どうして…ママのこと…!?」

 化け物の口から思わず母の名が出た事ににさつきは戸惑った。

 『なんだ、知らないのか。我とキサマたち一族の因縁を!』

無理もない。まだ幼くして母に先立たれたさつきに残された物は、母が霊眠させたお化けの記録を綴った、おばけ日記だけだった。旧校舎の裏山の開発によって霊眠場所を穢れさせられた妖怪が復活してさつき達を脅かす度に、日記に書かれた霊眠方法で再度封じてきたのだが、そこに書かれた妖怪たちの全容も、代々の母の一族と、目の前のひときわ邪悪な怨霊・逢魔との宿縁も、何もハッキリと教えられてはいない。母を失って以来のさつきは、家事や弟の面倒など、家庭での母としての役割を佳耶子に代わって果たす事に懸命だったのだ。妖魔や悪霊との闘いに耐える力や知識を得るいとまなど無かった。

 『…まぁよい、オマエがまだ霊力に目覚めてさえいないというのなら、余計に都合が良い…。我のために利用させてもらおうではないか、まだ秘められた神山の力を…我の妖力と混ぜ合わせてな、クックッ』

 「い、いや…どうしようっていうの…っ」

体中を震わせるような、低く邪悪な呟き。逢魔の言葉に、すでにさつきは歯の根が合わないほどの恐怖を感じさせられていたが、逢魔の言葉の真意を解してはいなかった。だが、逢魔の言葉を引き継ぐように発せられた坂田の言葉に、さつきはさらなる衝撃を受けた。

 「ようし、みんないいか、今日は保健の特別授業をするぞ。宮ノ下を使って、男と女がどうやって赤ちゃんを作るのか、実習するからな!」

 「…えっ、な、なにっ、それっ」

あまりに突飛な物言いに、さつきには言葉の意味をそのまま解する余裕も無い。ただ、かって経験した事の無い生理的な嫌悪感が胸を苛む。そのさつきの脚を床につかせると、それまでさつきを抱き抱えていた左手を、今度はさつきの上着の中に差し入れてインナーのシミーズごと上にたくし上げた。そしてそのまま、その手でまだひそやかな胸をまさぐり始める。

 「ひっ、やっ、いやっ!先生、やめて!」

 「おお、まだブラジャーはしていないのかぁ?まぁ、こんなペッタンコじゃぁなぁ、へへ」

手の平でひとしきり、お腹と胸を撫でまわすと、今度は小さな乳首のあたりを軽く摘み上げるように弄ぶ。

 「いつもオマエの短いスカートがフリフリ揺れてよ…可愛い太ももがチラチラするのを見るたびに、こうしたくて堪らなかったんだよ、宮ノ下。だが今日こそ夢が叶うんだ。これからたっぷりと大人の楽しみを教え込んでやるぜ…」

その言葉は悪霊に操られているがゆえなのか、あるいは坂田の秘められた欲望だったのか。指導熱心で心遣いのある担任の豹変ぶりにさつきは絶句する。そんなさつきの姿を残忍な笑みを浮かべて見つめながら、逢魔はその姿を再び闇の中に溶け込ませていった。

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