『ごっ、ごっ、ごっ、ごっ』
500mlの缶ビールが15秒で空になる。
第三新東京市のマンション。
マンションの住人はネルフの戦術作戦部に所属する女性と彼女の部下にあたるパイロットの少年の2名だけである。
つい先日まで赤の他人であった二人もいくらかの葛藤と紆余曲折を経て、
一緒に暮らすことへの抵抗はほとんどないと言ってよいまでになっている。
台所でシンジが料理の支度をする傍ら、ミサトは既に3本目のビールを飲み干そうとしている。
いつもと変わらない夕餉の風景ではあったが、ミサトの晩酌のペースはいつになく早い。
しかしビールの喉ゴシを楽しんでいる様子ではない。
むしろ飲むほどに不機嫌になっていく。
シンジはエヴァの運用でリツコとやりあったのかと暴飲の原因を想像するが、実際のところは分からない。
『大人には子供には分からない世界がある』
シンジは同居の早い段階でそのことに気がついていた。
ミサトはイラついている。
ここのところずっとイライラしている。
普段感じる旨みなど微塵もなかったが、とにかくビールを自分の腹に流し込んでいる。
原因はリツコではなく、ゲンドウでもない。
日向である。
日向とは2月ほど前から身体の関係を持つようになっていた。
戦術課の上司と部下、ミーティングの延長、より深い意思疎通のための手段…
後付の理由はいくらでも出てくるが、
セックスができれば誰でも良かったというのがミサトの本心だった。
手っ取り早く自分の欲求不満を解消するために身近にいる男を誘惑したというだけのことだった。
肉の疼きを癒す手段を得たはずだったが、ミサトのイライラは収まらなかった。
日向はミサトを満足させることはできなかったのだ。
「短小、単発、おまけに早漏!ほんっと使えない!」
ミサトが思わずぼやく。
「はい?何ですか、ミサトさん」
ご飯をよそった茶碗をミサトの前に置いたシンジが尋ねる。
「ん?なんでもないのよ」
ミサトは笑顔を作って返す。
大人には子供の分からない世界がある。
シンジが席に着く。
「頂きます。」
黙々と箸を進めるシンジの姿をミサトは凝視する。
同居を始めて早々、ミサトはあることに気がついた。
シンジは夜の9時頃に自分の部屋でオナニーをする。
薄い扉を通して微かな息遣いとそれに続くうめき声、ティッシュを取り出す音が聞こえてきたのだ。
以来、ミサトはシンジのオナニーをこっそり覗くのを楽しみにしていた。
健康な男子中学生にとってオナニーは日課である。
続けざまに5発抜いた一部始終をふすまの隙間から見続けたこともあった。
ミサトの欲求不満の原因はシンジとの同居も大きかったのかもしれない。
日向をホテルに誘ったのもシンジのオナニーを初めて目撃した数日後のことだった。
「何ですかミサトさん。」
「!?」
ミサトは我に返る。
「そんなにジロジロ見られると食べづらいです」
どんな表情をしていただろうか?
へらへらとだらしない表情をしてはいなかったか?
…いつものことか。
「あ、ごめーん」
ミサトは箸をとることで淫らな回想に区切りをつけ、食事を始めようとする。
だが
ふと動きが止まる。
「…」
ミサトは手に持っていた箸を落とす。
床をからからと転がり、シンジの足元でとまる。
シンジはミサトを見やり机の下を軽く覗く。
「お箸落としちゃったぁ、あははは。しんちゃん取ってくれるぅ?」
「はいはい」
シンジは酔いのせいなのか、もともとのガサツな性格のせいか判断に迷いながら腰をかがめて
床に転がる箸を取ろうとする。
シンジは何かが動く音に気がつく。
身体を屈めたまま軽く目線をあげる。
ミサトはだらしなく足を広げている。
ミサトは大きく開脚している。
女性にはあるまじき姿だ。
しかしホットパンツにあぐらがミサトのノーマルポジションである。
中学生には刺激的であることには変わりはないが、大またを開いて座っていてもいまさら驚くことではない。
シンジは赤面しながらも、いつものことだと箸に視線を戻そうとするが違和感を感じる。