02-処女喪失    <<Back  Index  Next>>

 奴の指先がグリグリと尻穴の周りで円を描く。
 その刺激に尻が妙な具合にムズムズしてきた。触られている辺りだけじゃない。穴と、その奥まで。熱を伴った痛いほどの痒みに苛まれ、その場所に指を突っ込んで掻きむしりたい衝動にかられる。
「そんな風に尻を振って誘われると我慢がきかなくなりそうだな」
「誘ってなんかっ……」
 少しでも痒さから逃れようと尻をもじつかせ無意識に体を揺すっていたらしい。奴の思う様に反応してしまう自分の体がうとましい。
「誘っているさ。尻の穴をひくひくさせて、ここに挿れてください、奥まで突いて掻き回してください、とな」
 挿れて、突いて、掻き回して……そう聞いただけで……そうしてもらえないと思っただけで……痒みが増したような気がした。
 もしも手の届く場所なら爪をたてて血まみれになるほど掻いているだろう痒みに襲われて、なんでもいいからそこに突っ込んで掻いてくれと口にしてしまいそうになる。
「挿れて欲しいんだろう? ここに?」
 指の先端が僕の中に埋まった。
 痛みも違和感も凌駕する心地良さに堪らず突き出した尻がパシリと打たれる。
「ひあっ!」
 痛みと同時に突き抜ける快感にあがる高い声。
 もうとっくに限界を超えているように思えるのに出す事ができずにいる陰茎がビクビクと悶えて解放を訴えた。
「そんなに欲しがるとはな。まったくたいした淫乱だ」
 弾みで深く埋まった指をぐりりと回されて……気持ちよくて……悔しい。
 これは肉体的に正常な反応で、睡眠薬を飲んで眠ってしまうのと同じだ、ナノマシンのせいだと繰り返し繰り返し頭の中で唱えるけれど、それで恥ずかしさや情けなさが消し飛ぶ訳じゃない。


 直腸に設置した(寄生した、と彼なら言うかもしれない)ナノマシンは肛門付近に刺激を感知すると粘膜に強烈な痒みを引き起こすようプログラムされている。
「あ…く……んんっ……あんっ」
 指を肛腔に差し入れたまま動かさずにいると、痒みをなだめてくれる動きを求めて切なげに揺れながら尻が前後する。可愛い声が漏れるのは指が肉襞を擦る度に与えられる性感帯への微弱な電気刺激のせいだ。
 望む刺激を得ようとすれば望まない刺激も同時に与えられる。両方を、むしろ後者の刺激を強く望むようになるのもそう先ではないだろうが。


 大きく円を描くように腰を動かす。奴の指に内部を押しつけるように。もっと奥まで欲しくてぐいぐいと尻を突き出して揺すりながら。
「んふ…んんっ…あっ…あんっ!」
 喉の奥から切なげに漏れる声。
 まるで奴の愛撫を望んでいるかのような自分の有様を自覚しながら、動きを止める事も声を殺す事も出来ない。
 これは痒みを止める為だ、手の届かない所を棒で掻いているのと同じだと自分に言い聞かせても、ならその甘ったるい喉声はなんだとなじる誰かがいる。
 ペニスが裏返って尻の穴になったような、尻の内側に貼りついた性器を扱かれているような何とも言えない刺激に体中が鳥肌立つほど感じてしまっているのが許せなくて。
「大分濡れてきたな」
 耳元で囁かれる声にゾクゾクする快感を覚えながらも、奴の言葉に耳を疑った。


「聞こえるだろう? おまえのいやらしい尻の穴がくちゅくちゅ音をさせているのが」
 水音を強調するようにいじってやると耳を塞ぎたいというように首をすくめる。たとえ耳が塞げたとしても、これだけ濡れていればどうしてもそのぬめりを感じてしまうだろうに。
 軽く曲げた指を抜き差しする度にナノマシンが彼の体内にある脂肪・蛋白質・水などを使って合成し直腸内に吐き出した愛液ローションが掻き出され、谷間を伝って太腿まで濡らし始めているのだから。
「もっと奥まで欲しくて、太いのを受け入れ安いようにぬるぬるした汁でけつまんこをびしょびしょにしているんだろう?」
「違うっ……そんなんじゃない!」
 強烈な媚薬を投与されているのと同じ状態なのに激しく首を横に振り、健気に喘ぎ声を堪えて言葉を絞り出す。こうでなくては面白くない。


 ケツマンコという聞き慣れない単語に体が反応した。奴の声を聞く度ナノマシンから与えられる直接的な快感にだけじゃない。
 世間知らずの代名詞のような 《 お坊ちゃん 》 という呼称で皮肉られる事も多い僕でもマンコが何かくらいは知っている。
 女のアソコ。
 男の物を受け入れてぬめぬめとぬめった女性器を想い浮かべたせいか、ケツマンコと聞いた途端自分が穴からいやらしい汁を滴らせる雌になったような理不尽な感覚に囚われて目眩がした。


「違うっ……違うっ……けつまんこなんかじゃ……ない……」
 幼い子供が泣きじゃくるような力のない啜り泣き。あまりに可愛くてもっと泣かせたくなる。
「違わないさ。おまえの穴は女のアソコが濡れるように濡れるんだからな」
「ちが……貴様の……マシンのせ……あああっ!」
 一気に三本に増やした指をグイッと突きあげて反論を絶った。もっと苛めてやりたいという気持ちは強いが、しばらく前から痛いほどズボンを押しあげている物が俺を性急にさせる。
「ふ…ぅ…んぁっ……ああっ……あうっ……」
 可能な限り奥まで押し込んで、手首を捻りながら抜く動作を繰り返し、意味のない声をあげるだけになった彼を諭すように囁きかける。
「こうされると気持ちいいだろう? でも物足りない。そうだな?
 それとも自分が何を欲しがっているかわからないか?
 まあ、無理もないと言えるかもしれないな。それがどれだけイイか知らないんだから。だからおまえが本当は何を欲しがっているのか、俺が教えてやるよ」
 べっとりと濡れた指を引き抜いてズボンの前をくつろげると、待ちきれないようにペニスが飛び出してきた。
 柄じゃないと判っているが、興奮と緊張が綯い交ぜになった震えるような陶酔感が俺を包む。
 とうとう、待ち望んでいた瞬間が訪れる。かたくなな彼を押し開き、彼と繋がり、彼とひとつになる、その瞬間が。


 出て行ってしまった指に未練を示す体を嘆く暇もなかった。
 両手で尻肉をつかまれて大きく左右に割り開かれ、それまで外気にさらされていなかった場所を撫でる空気の冷たさを感じた瞬間。熱くて固い物が尻の穴に押し当てられる。
 指じゃない!
 快感にぼんやりしていた頭に浮かんだ認識に、一瞬にして怒りよりも嫌悪感よりも大きな恐怖が僕を捉えた。
 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!
「おっ願っ、やめっ……あっああっ!」
 お願いだからそれだけはやめてくれと矜持も何もかも投げ捨てて懇願しそうになった僕の中に熱い楔の先端がめり込む。
「いやあァあ ―― っ!」


 きつい所に無理矢理突っ込むのもそれなりに好きだが、俺は無闇に彼を傷つけたくはない。だから彼の肛門括約筋は後口の周りを撫で回すという俺からの合図があればナノマシンによってゆるめられるように設定されている。
 奥からあふれてくる潤滑剤ローションをとろりとこぼしてひくつくアナルは処女とは思えないほどあっさりと俺を呑み込んでいく。
「あァっ、ああああ ―― っ!」
 熱く蠢く彼の襞に咥えられて思わず漏らしてしまった低い唸りは声高さを増した嬌声にかき消された。


 ビリリと痺れるような感覚が体を駆け抜ける。
「あっ……ああっ……ああっ……」
 進んで止まって、進んで……。裂かれるというより、押し広げられていく感じ。
 熱い塊に満たされた部分から順にどうしようもなく僕を苛んでいた痒みがひいてゆく。
 かわりに与えられたのは……信じられないような……快感!


「あっ…あぁっっっ、はっ……あんっ!」
 涎を振りこぼしてままならない体を可能な限りよじり、揺すり、髪を振り乱して狂ったように善がる。
 腹につくほどに反り返り、硬く屹立した陰茎は時折体の揺れとは連動しない引き攣るような動きで踊りながら透明な汁をポタポタとこぼし続けていた。随喜の涙に曇った瞳が見ているのは天国か?
 彼は今、挿入された事で最高ランクに近い快感を与えられている。これ以上は動きによるレベルアップと種付け、射精を残しているだけだ。
 俺のすべてを受け入れてナノマシンによる強制的なゆるみを解除されたアナルはきゅうきゅうとペニスを絞りあげるように吸いついてくる。
 もっと快楽を与えてやりたい。もっと激しく、もっと強烈に。
 けれど彼が俺に与えてくれる快感も強烈で、これまで経験した事がないほどの高みに昇り詰めた俺は不本意なほど早々と堰を切っていた。


 熱いほとばしりが体の奥を叩く。それがなんであるのか知っていた。知っていたけれど……
 体がバラバラになりそうなくらい強い快感が突き抜ける。楔を穿たれた場所から頭のてっぺんまで。
 白い閃光に包まれて、僕は天国に漂う。快楽の園、僕という存在さえ溶けてしまって痺れる陶酔感だけが支配する場所に。


 絶叫し、床に縫い止められた腕を極限まで伸ばして背骨が折れるのではないかと思えるほど反り返った体から唐突に力が抜ける。
 その身体を背中からそっと抱きしめて、台床にぺったりと片頬をつけてくずおれている顔を覗き込んだ。
 うっとりと微笑むような表情と半眼のまま焦点を失ってしまった瞳。俺の精を受けて快感のあまり飛んでしまったようだ。
 それでも彼の肛腔は苦しいほどに俺を揉みたてている。間違いなくイッてしまっているのに精を吐く事を許されなかった屹立の脈打つような震えに呼応して。

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