【オープニング】



 朝目が覚めるとカレンは教会のベッドの上に寝ていた。
 前回の聖杯戦争の勝者である衛宮士郎によって、繰り返すあの四日間は消滅したはずだった。
 いや、正確にはこの世界にいたはずの彼は『衛宮士郎』本人ではなく、聖杯となったアヴェンジャー『アンリマユ』がその殻をかぶった存在だった。
 そして、今いるカレンは本体ではなく、カレン・オルテンシアという『情報』でしかない。
 ならば、ここにいるカレンという存在も消えて無くなっているべきなのに、未だ存在し尚かつ失われているはずの四日間の記憶が、確かに残っているのだ。

 では、世界をもとに戻すことは失敗したと考えるべきなのだろうか?
 残された自分という存在はなんなのだろう?
 判らないことだらけだった。
 まずは真相にもっとも近いと思われる衛宮士郎を探すことにした。
 衛宮士郎の家に行ってみた。
 屋敷は廃墟と化していた。
 それは、『あの夜』での戦いのためではなく、何年もの間全く人の出入りのない様子だった。
 結論を言うと、衛宮士郎はどこにもいなかった。
 いや、もともと衛宮士郎という人物など存在しないのだ。
 だから、誰も衛宮士郎の不在を疑問に思っていない。
 これは、カレンだけが取り残されたと考えるべきなのだろうか?
 さすがにあるがままを受け入れることを信条とするカレンでも、この状態を受け入れるのは憚られた。

 聖杯戦争の関係者を調べることにした。
 この衛宮士郎のいない世界では、聖杯戦争の勝者は遠坂凛となったようだ。
 間桐臓硯を倒し、間桐桜は間桐の呪縛から解放された。
 間桐慎二は途中で脱落、行方不明だ。
 間桐桜はその後、遠坂凛の家に足繁く通って食事を作っているそうだ。
 アーチャーは聖杯戦争後、契約を解除し姿を消した。
 セイバーは今は遠坂凛と契約を結んでいて、遠坂凛の屋敷で生活している。
 イリヤスフィールと遠坂凛は、魔術の共同研究をしている。
 衛宮士郎がいなくても、世界は滞りなく動いているようであった。
 こんな時にかぎって、カレンの二人のサーヴァントは行方不明だ。
 全く制御が出来ていないのは、本来のマスターでないためなのか。

 遠坂凛に話を聞く。
 最初は部外者であると思われて、非協力的だったが『教会』からの監督者として派遣されたことを告げると、ようやく口を開くようになった。
 この『四日間』について意見を聞いてみた。
 カレン自身、客観的に見ると頭のおかしな妄言とされてしまいそうな説明だったが、遠坂凛としてみると、興味のある事柄だったようで、しばらく考え込んだ後、仮定の話だと断定を避けて説明をはじめた。
 この繰り返す四日間をあるべき姿に戻そうとしたにも関わらず、未だに継続している理由。
 それは、なんらかの『願望』が未だに、この世界を維持し続けているからだと推測した。
 それが何者であるのかは、本来の世界の記憶をもつカレンにしか、認識出来ないであろうとも説明した。


次へ

メニュー