「────!?」 ほっそりした肩越しに、窓枠に置かれていた両手が、桟をきつく握りしめるのが見えた。は、と吐き出された吐息には、驚きと戸惑いの色が滲んでいる。黒髪に結ばれたリボンが戦くように揺れる動きは、怯えた小動物が耳を伏せるそれに似ていて、酷く男の加虐心を刺激した。 「……どうした?」 凛の動揺が何に因るものかを十分承知していながら、アーチャーはわざと意地悪く問い掛ける。その合間にも、ゆっくりと彼女をなぞり上げる掌の動きは緩めない。凛の腰と、自分の体の間に挟まれた手で、ミニスカートの裾から覗く太股の付け根を丹念に撫でてゆく。 「な、ちょっと、何の真似よ! 冗談はやめなさい──!」 少女は慌てて彼の手を払おうとするが、眼前は開かれた窓で、背後は男の長身体躯に塞がれた状態では成す術も無い。それでも、逃げ場を求めてじたばたと無駄な抵抗を繰り返す彼女の姿に、知らず口許がつり上がった。 「この──な、何考えてるのよっ、離しなさいったら──」 抗議には取り合わず、無言のまま手を進める。 片手は細い腰を抱き、逆の手でミニスカート越しのヒップを包み込む。肉付きは薄く、お世辞にも豊満とは言えないが、触れてみるとその小振りな輪郭とは対照的に、驚くほど柔らかく弾力に富んでいる。 戯れに指を食い込ませ、ぎゅっと肉を掴んでみると、凛が激しく首を振って桟に爪を立てた。 「……やめ、いや──やめなさい、ってば……」 強気で冷静だった先程の口調は、たったこれだけの動きで脆くも壊れ始めている。実際、素直に甘えられないこの少女の障壁を突き崩すには、こうやって肉体から剥いていってやるのが一番早い。 手さぐりで留め金を見つけ出し、指先で弾く。引き下ろすようにファスナーを開放すると、意味を失った黒い布地ははらりと床下に舞い落ちて、薄い手触りの下着が露になった。 「ああ、足に絡むと危ないな。凛、窓にちゃんと掴まっていろ」 そう言うと、アーチャーは彼女の体を軽く浮かせるように持ち上げて、邪魔なスカートの残骸を部屋の端に蹴り飛ばす。 「な」 凛が言葉を失い、アーチャーの腕の中で硬直する。流石に、こんな場所でここまでされるとは思っていなかったのだろう。彼女が動きを止めたのをいい事に、腰を抱いていた手をじりじりと滑らせていく。 赤い上衣を少し持ち上げて、下腹に触れた。 ──柔らかい。しっとりと水気を帯びた練絹のようだ。身を屈めて彼女の肩に顎を乗せ、耳たぶを尖らせた舌先で擽ってやると、凛は小さく体を捩って、イヤイヤと頭を揺らす。 「ん……」 唇をついて、零れ出してくる初めての艶めいた息。少女は直ぐにそれに気づいたらしく、はっと呼吸を飲み込んで、唇を固く噛みしめたようだった。く、と思わず笑い声を立てると、青い視線が悔しげに彼を睨み付けてくる。 「何がおかしいのよ……!?」 「いや、何。賢明な判断だと思ってな。今君が声を立てれば、彼らに気づかれてしまうだろう?」 「あ──」 その事を漸く思い出したように、少女の身が固くなる。先程から聞こえ続けていた遠くのはしゃぎ声が、不意に二人の意識に昇ってきて、室内の大気がぴんと緊張するのが分かった。 「こ──この……っ、それ、分かってて、アンタ……」 凛の声が屈辱に歪む。 真下から見上げれば、凛とアーチャーが揃って窓の下を眺めている和やかな光景に映るだろう。まさか、彼女の下半身が既に男の手に剥かれ、窓枠の向こうで淫らに蹂躪されているなどと、誰も想像など出来はしまい。 「ああ、別に君が本当に嫌ならば、声を上げて助けを求めても良いのだぞ? その場合、君の恰好が他の者の目に止まってしまう事になるがね。 まあ、私としては出来ればその状況は遠慮したいものだな。凛のそんな姿は、私以外の誰にも見せたくはない」 「……っ……この、バカ……っ」 手綱を緩め、油断させ、そしてまた追い込んでゆく。ほんのりと赤く染まっている耳朶に歯を立てると、凛の体がひくりと引きつり、噛み殺された啜り泣きが喉を震わせた。 「──いい子だ」 殊更に声を潜め、そう耳元に囁いてやる。これから始まる時間が文字通りの秘め事であることを、彼女に教え込むように。 そうしておいて、彼女の腹に触れていた掌を、更に下の方へとなぞり下ろしていった。下着の縁に指先が触れる。繊細な感触のレースを一撫でして、そのまま指を割り込ませようとすると、凛が体を固くしてふるふるとかぶりを振った。 「やだ……こんな、ところじゃ……せめて、ベッドに……」 「ふむ、君の方から求めてくるとは珍しいな。 だがまだ日も高い。そう焦らずとも、それは後でもいいだろう?」 「後、って……あ、ま、待ってアーチャー……っ!」 精一杯の少女の譲歩を、にべも無く一蹴する。庭で遊ぶ皆に気づかれまいと、必死で嬌声をこらえる彼女の姿があまりに可愛らしく、もっと苛め泣かせてしまいたくて仕方がない。皆に気づかれてはならないと分かっていて、でも声を上げさせてやりたくなる。捩れた願望。そんな欲求が、何もかも枯れ果てたと思っていた己の中から沸いてくるのが嘘のようだった。 片腕でがっちりと腰を抱き抱え、背後から彼女の肢体を自分に縛りつけた上で、太股の合わせ目にゆっくりと手を差し込んだ。 「ひ、あ──だめ、」 「……熱い、な」 内腿の間には、湿っぽい熱が溜まっている。柔らかな脂肪を包み込んで張りのある表皮には、じんわりと汗が浮かんでいた。押しつけた掌に吸いつくような、その手触りが酷く心地良い。 流れる髪をかき分け、その黒絹に唇を落とす。あ、とため息を漏らして凛が身を竦めた。彼女の意識が、髪をまさぐる唇に逸れたその隙に、指先をクロッチの中央に滑り込ませる。 真ん中の筋を辿るように、下から上へと指で撫でる。薄い布地は圧力に負けて縒れ、肉の隙間にぬるりと食い込んでいく。 「あ……い、いや……っ」 「我慢しろ。皆に気づかれたくはないのだろう? そんな声を出せば、誰かに気取られてしまうかも知れんぞ。 特にサーヴァントは普通の人間より五感が鋭いからな。君の異変を感じれば、セイバーやライダーが様子を見に来ないとも限らん」 「く……っ、こ、この……アンタ、覚えてなさいよ……っ!」 「そうだな。君のこんな恰好は、忘れようとしてもそう簡単に忘れられるものではあるまい」 くっと喉を鳴らして笑うと、首筋まで赤く染めた凛が俯く。身長差があるので、自然後ろから覗き込む形になると、彼女の長い睫毛から零れた涙が、眼鏡の硝子にぽたりと雫を落とすのが見えた。 「……く、あ、ああ……」 外から見上げれば、窓枠に覆い隠された部分は目に入らない。だからその影では、何をしても誰に咎められる事も無い。開けられた窓の向こうは爽やかな青空なのに、室内には体温と熱い呼吸の音が満ちている。まるで、灼けつく陽炎の中に閉じ込められたよう。 「凛」 名前を呼びながら、熱っぽい肉を布地ごとこね回す。ぐにぐにと指先を突き入れるたびに、与えられる快感に耐えかねて、少女の腰がひくりと蠢く。 「ふぁ、あ……」 いつもよりも随分と微かな嬌声。だがその体は、熱病に浮かされたように小刻みに震えており、彼女が声を押さえつけるのにどれ程の意志を要しているのか、容易く知れるほど強張っていた。 「ん、ん……」 「ああ、もう濡れているな」 軽く指で掻き上げながらそう囁くと、やだ、やだ──と凛が小さく首を振る。 「ちが、う……わたし、わたし……っ、」 「何が違うんだ? ほら、君にも聞こえるだろう──?」 亀裂に指を食い込ませ、蜜を絡め取りながら肉襞をかき混ぜてやると、じゅぷじゅぷと淫らな水音が少女の足の間から聞こえてきた。外から聞こえるはしゃぎ声にもかき消される事無く、二人の耳にだけ届く濡れた旋律。 「これは邪魔だな」 「あ、やだ……っ!」 下着の縁に指を引っかけて、容赦なく太股の半ばまで引き下ろした。それで、両足を包むニーソックス以外、彼女の腰から下を守るものは何も無くなってしまう。開け放たれた窓の元で、濡れた下半身を暴かれ震えるマスターの姿は、いっそ全裸よりも煽情的なものだった。 黒髪をかき上げ、耳たぶを丹念に舌で舐め上げる。戯れに眼鏡の蔓を軽く噛むと、びくり、と凛の両肩が竦められる。 「……んん……あ、あ……!」 「声が大きいぞ、マスター。聞かれたくない、と言ったのは君だろう? 精々頑張って耐えてみる事だな。 まあ、何処まで持ちこたえられるかは分からんがね」 「くっ……こ、の──!」 アーチャーの挑発に、酷く悔しげに唸るものの、凛はそれ以上言い返す事無く唇を噛みしめた。下手に言葉を口に出せば、男の指先によってそれを喘ぎに変えられてしまう恐れがあるし、またそれがアーチャーの目的だと、正しく理解した為でもあるのだろう。聡明に過ぎるこの少女の在り方を愛おしく思う反面、どうしようも無い程に苛立ちをもかき立てられる。 「覚えておけ、凛。 そうやって我慢されると、男としては、何としても目茶苦茶に乱してやりたくなるものだとな」 唇を触れさせていた耳朶に、く、と冷たい笑い声を注ぎ込んだ。と同時に、布地を奪われて剥き出しになったクレバスへと、ずぶりと指先を突き入れる。 「………ひぁっ!?」 「ああ──もうこんなにしていたのか。はしたないな、マスター?」 不意を突かれて跳ね上がった凛の腰を抱き、自分の体を彼女の背中に押しつけて、くちゃくちゃと肉の割れ目を蹂躪した。 「やぁ……や、だ、アーチャー……」 「何が嫌なんだ? こんなにどろどろに溢れさせている癖に、嘘はいけないな。 ほら、手首の方まで流れてくるぞ。そんなに気持ちいいのかね?」 「う、うう……」 凛の腰が、アーチャーの指を嫌がって逃れようとくねる。だが、ぴったり押しつけられた男の体と、窓下の壁とに挟まれた恰好では、その挙措は却って彼の指を奥まで招き入れる結果しか生まない。くちゃり、と花びらを割って取り込まれていく指先が、火照ったぬめりをかき分け、小さな肉の芽に到達する。 「あ……っ!」 その瞬間、電流を流されたように凛の体が痙攣した。 |