01.
 彼岸と此岸――そして境界。
 荘厳な意匠の施された鋼鉄の扉に細長い指を這わせながら、楓はそんな言葉を思い浮かべる。
 冷たい扉を押し開けば、僅かな隙間から漏れ出すのは嬌声と(かぐわ)しい恥臭。生物の本質を思い起こさせる甘い哭き声と獣臭である。
 躊躇無く踏み出した楓の裸足がずぶりと床の中に埋まった。柔らかく生暖かい、甘美な異臭を放つ物質が世界を覆い尽くしている。