幻想郷淫靡崩壊式
原案:カナリア紳士 著:邪恋


幻想郷のどこかにある八雲紫の屋敷。
不思議と発見されない屋敷は、恐らく紫の妖術であろう結界が巡らされていた。
そんな静かな屋敷の一室で、今日も紫は惰眠を貪っていた。
麗らかな朝には、小鳥が囀り、二度寝三度寝を繰り返すのには絶好のコンディションとなっている。

「ん……んぁ……」

だが、寝ている紫の口から甘い吐息が漏れる。
それと同時にモゾモゾと布団が動いた。
頬を紅潮し、眉根はキュっと寄らす。

「んっ」

ピクン、と背中が震える。
紫は、布団の中で自慰行為に耽っていた。
眠りには落ちておらず、不意に伸びた指が秘所に触れたのが切欠といえば切欠だった。
服はすでに全部脱いでおり、ときおり触れる布団の冷たい部分が気持ちいい。
スルリと指先を割れ目へと伸ばす。
そこはすでに、粘り気を含んだ液体で満たされていた。
布団の中からでは聞こえないが、恐らくは卑猥な音を奏でただろう。

「あ……ん、ん〜」

屋敷には紫の式である八雲藍がいる。
いくら自分の式といえど、こんな姿は見られたくない。
紫は必死に声を押し殺してオナニーを続ける。

「あ、あ、ん、気持ち、いい……」

吐息が部屋に漏れていく。
左手で乳首を摘み、右手はスリットを激しく擦りつけた。

「ん、ん、あ、あぁ、ん!」

ちゅくちゅくという音が布団の外まで漏れ出してくる。
太ももから液体が滴っていくのが分かる。
布団のシーツは、もうグショグショだろうが、昇り詰めていく紫には関係なかった。
今はただただ快楽を味わうだけ。

「あ、あ、いっちゃう、いっちゃう……っ!!!」

頭の中を突き抜けていく様な感覚に、紫は弓なりに仰け反る。
それでも襲い掛かってくる快楽に身体は自然とビクビクと震えた。

「はぁ、はぁ……いっちゃっ―――」

ようやく快楽から解放され、息を吐こうとした瞬間。
目の前に唖然とする式がいた。
フサフサな立派な尻尾を一本も動かす事なく硬直している式。
「……藍、いつから……」
「いえ、その、あの」

藍の様子からすると、おそらく随分とまぁ永い時間を見られていたようだ。
紫はどうしようかと周りを見渡すが、そもそも助けてくれるような人物などいない。
結局のところ、みるみる顔は真っ赤になり、あわわわと布団に潜り込んだ。
そして何か手はないか、と考える。
スキマを使って逃げようか。
いやいや、意味がないし、藍に見られた記憶は消せない。
藍をスキマ送りにしようか。
それだと、ただの八つ当たりだ。
どうしようか、どうしようか。

「ゆ、紫様、大丈夫です、誰にも言いませんよ〜」

布団の外側では藍が微妙な感じで紫を慰めている。
そもそも自分の親にも似た存在が自慰行為をしているのだ。
なんとも言えない気分になるのは、無理もない。

「ほ、ほら、きっと皆もする事ですから。紫様だけじゃないですよ」

そういう藍本人はオナニーなどした事がなかったが。
その点にツッコミを入れようかと思ったが、紫はハッと思いつく。
皆もする。
つまり、皆にもさせればいいのだ。

「『常識』と『淫靡』の境界を無くせばいいのよ」
「はい?」

布団に包まっているせいだろうか、藍には言葉が届かなかった。
紫は臆する事なく、意識を集中させる。
幻想郷を作ったのは、紫自身だ。
だから、こういう行為も許されるだろう。
境界を操る程度の能力。

「常識と淫靡の境界を、無きものとする」

呟き、そしてパチリと指を鳴らした。
刹那に変わる世界。
世界が一瞬だけブルリと拒絶する様に震えた気がした。
これで、常識と淫靡の境界はなくなったはず。
もちろん、紫自身の常識は守られたままだ。

「こ、これで大丈夫よね」

紫はおっかなびっくりと布団から顔を出した。
そこにいる藍はちょっとぼ〜っとしてたみたいな感じで、ふと紫の方を見た。

「あ、紫様、一人でですか。私を呼んでくれれば良かったのに」
「そ、そうね。次はそうするわ」

紫は苦笑しながら答えた。
どうやら上手くいったようだ。
いまこの幻想郷では、淫靡と常識が混ざり合った世界となっている。
外で自慰行為に耽っていても、誰も奇異の目で見る事はないだろう。
むしろそれが常識となっている。
それはそれは淫靡な幻想郷。
紫は、ニヤリと笑った。

「ちょっと、外へ行ってくるわ」
「珍しいですね、紫様が昼間から」
「外の様子を見たいのよ」

ハテナマークを浮かべる藍を後目に、紫はスキマに消えた。