この日、世界は、眠りについた・・・


何ら代わり映えしない日常は、全く予想だにしなかった終焉を迎えた
それは、とある環境団体が引き起こしたテロ行為
環境団体といっても半ばカルト教団的な狂信の過激な組織だったらしい
「緑の旅団」を名乗るその組織は環境保護を訴え
全世界にその支部を置き過激な活動をしていた
農薬の製造工場の爆破などの破壊工作から始まり
環境保護の名のもと、誘拐、、脅迫、殺人、強盗等あらゆる行為を行っていた
人の欲望を環境保護という名の正義にすり替え
その暴挙はとどまることを知らなかった
加熱しすぎた組織はいつしか先導者の意志を離れ
破滅への暴走を始める
いったい誰の意志なのか、それとも人類の無意識がそうさせたのか
人類粛正という結論が下される
大きくなりすぎたうねりはもはやそれを作り出した本人にすら止めることはできなかった
狂気の果てに作り出された計画
「Project of Sleeping Beauty」
元々は長期宇宙飛行や医療目的のために研究されていた人工冬眠技術を
人類を強制的に休眠状態にするために転用
研究者を拉致、脅迫、洗脳等様々な手を使い
自己増殖、自己修復、自己進化の可能なタンパク質型ナノマシン「Maleficent」を開発
「Maleficent」は人類の休眠を目的に作られたという
空気中に漂い生物の口内や鼻腔などの粘膜から体内に侵入
その生物の代謝レベルを数十分の一から数百分の一にまで下げ
人工的な冬眠(厳密には違うが)状態にする
その後、ナノマシンにあらかじめ設定した寿命100年が経過した際に
ナノマシンは活動を停止し、再び冬眠から目覚める
これを全世界の人間に感染させ
人類が寝ている100年間という期間に地球の環境を回復させるという
何ともいいようのない計画が
「Project of Sleeping Beauty」だった
誰も殺すわけではない
ただ100年間寝てもらうだけ
100年たてば元通りになり地球環境も回復する
そんな言葉に踊らされ
計画は実行された
大量生産された「Maleficent」は飛行船や簡易気球、はたまた風船などありとあらゆるものを利用し運ばれ
人工密集地帯を中心に散布された
都市部は一夜にして壊滅し、爆発的な勢いで増殖、拡散した「Maleficent」は
第一次散布では届かなかった地域をも数日で飲み込んだ
そして、世界は眠りについた

そんな中で、何故か僕には何ら影響がなかった
どんな細菌やウイルスにも先天的に抗体を持った人間が希にいる
もしかすると僕はそんな人間の一人だったのかもしれない
だが・・・これが幸運だったかといえるだろうか・・・
誰も彼もみな眠ってしまった世界で
僕一人で起きていてどうしろというのだろう
みんなといっしょに寝てしまったほうが良かったのではないだろうか・・・
だが、どうしようもない

初めのうちは誰か起きている人間がいないか探した
その最中に両親が緑の旅団の団員だったことを知る
そして僕は事実を知った
だが、とい詰めるべき両親もすでに眠りについていた

一ヶ月が過ぎて探索をあきらめた
もしかしたらもっと遠くには起きている人間がいるのかもしれない
外国などでは無事な国もあるのかもしれない
だが連絡手段もなく
何の知識もない僕に海を渡ることは出来ない
遭難したって誰も助けは来ない
無駄な危険は犯すべきではない
いつしか僕は
この静寂の世界の中に染まっていった

二ヶ月が過ぎた
やはり誰一人起きてくる気配はない
本当に100年後に起きるのかすら妖しい
だが確かめようもない
どうせ100年後には僕は死んでいる

三ヶ月が過ぎた
もう、好きなように生きていこう

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